交通事故トラブル解決ガイド|損害賠償請求・示談交渉の悩みを解決!

検索結果

「 自賠法 」の検索結果
  • 政府保障事業と自賠責保険の違い
    政府の自動車損害賠償保障事業と自賠責保険・自賠責共済との違い
    政府保障事業によって被害者に支払われる限度額は、自賠責保険(自賠責共済を含む)と同じですが、政府保障事業は、自賠責保険制度を補完し、各種の保険制度によっても救済しきれない被害者を最終的に救済する措置であるため、自賠責保険と一部運用が異なる部分があります。ここでは、政府保障事業と自賠責保険制度の違いについて、見ていきましょう。政府保障事業の基本的な保障内容は自賠責保険と同じ政府保障事業の損害の填補限度額や、被害者に過失がある場合の減額の仕方(重過失減額)については、自賠責保険の保険金の支払基準と同じです。損害の填補の限度額政府保障事業の填補限度額は、自賠責保険の支払限度額と同じです。限度額死亡1人につき 3,000万円傷害1人につき 120万円後遺障害等級に応じ 75万円~4,000万円政府保障事業の損害の填補の限度額について、自賠法施行令20条で次のように定めています。自賠法施行令20条(自動車損害賠償保障事業が行う損害のてん補の限度額)法第72条第1項の政令で定める金額は、死亡した者又は傷害を受けた者一人につき、それぞれ第2条に定める金額とする。第3条の2の規定は、法第72条第1項の規定により政府が行なう損害のてん補について準用する。条文中の自賠法第72条第1項は、政府保障事業の業務について定めた条項です。「政令で定める金額」の限度において損害を填補する旨を規定しています。この「政令で定める金額」について、施行令20条1項は、被害者1人につき「第2条に定める金額とする」と定めています。施行令2条は、自賠責保険の保険金額を定めた条項ですから、政府保障事業の填補限度額は、自賠責保険の保険金額と同一となります。さらに、政府保障事業の填補限度額は、被害者1名単位で定められていること(1事故あたりの限度額は設定されていないこと)も、自賠責保険と同じです。また、施行令20条2項は、同第3条の2(休業損害日額の限度額を1日あたり1万9千円とする)を保障事業でも準用すると定めていますから、休業損害に関する填補額も、自賠責保険と同一ということになります。被害者に過失がある場合の減額被害者に過失がある場合、損害賠償金は、過失相殺率・過失割合に応じて過失相殺されますが、自賠責保険では、被害者を保護・救済するため、被害者に重大な過失がある場合のみ一定割合で減額する仕組みになっています。政府保障事業も、現在は自賠責保険と同じです。政府保障事業は、2007年(平成19年)3月31日までは一般の損害賠償と同じ過失相殺基準が適用されていましたが、被害者救済を重視した法改正により、「自動車損害賠償保障事業が行う損害のてん補の基準」を告示として制定し、2007年4月1日以降に発生した事故については、自賠責保険と同様の「重過失減額」が採用されました。自動車損害賠償保障事業が行う損害のてん補の基準(平成19年 国土交通省 告示第415号)(国土交通省のWebサイトにリンクしています)政府保障事業に対する請求権の消滅時効政府保障事業に対する被害者の填補請求権は、自賠責保険の被害者請求権(直接請求権)と同じく、3年で時効により消滅します(自賠法75条)。時効の起算日についても同様に、傷害に関する損害は事故日から、後遺障害に関する損害は症状固定日から、死亡に関する損害は死亡日から進行する、と運用されています。ただし、政府保障事業に対する請求権は、時効の更新はできません。また、加害車両の保有者と疑われる者がいて、自賠法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合には、その損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から、時効が進行するとされています。さらに詳しくは、政府保障事業に対する請求手続と消滅時効をご覧ください。政府保障事業と自賠責保険の相違点政府保障事業が自賠責保険と異なるのは、次の点です。被害者しか請求できず、加害者請求はできません。健康保険や労災保険など他の法令による給付を受けられる額については、支払われません。加害者と被害者が同一生計の親族間事故は、原則として支払われません。複数の加害車両が関わる事故の場合、保障されるのは1台分です。自賠責保険の仮渡金に相当する制度はありません。被害者しか請求できない自賠責保険は、加害者による保険金の請求も被害者による損害賠償額の請求もできますが、政府保障事業は、被害者による損害の填補の請求しかできません。そもそも政府保障事業は、加害者不明や無保険などの理由で、加害者側から損害賠償を受けられない場合に、被害者の損害を填補し救済する制度だからです。他の法令により受けられる給付額は支払わない政府保障事業は、自賠責保険その他の方法によって救済されない被害者に、最終的救済措置として必要最小限度の救済を保障する制度です。そのため、健康保険や労災保険など他の法令による給付を受けられるときは、その額は支払われません(自賠法第73条1項)。自賠法では、「他の法令による給付との調整等」について、次のように定めています。自賠法第73条1項被害者が、健康保険法、労働者災害補償保険法その他政令で定める法令に基づいて前条第1項の規定による損害のてん補に相当する給付を受けるべき場合には、政府は、その給付に相当する金額の限度において、同項の規定による損害のてん補をしない。条文中の「前条第1項」とは、簡単にいうと「政府は、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、損害をてん補する」という規定です。ここで、健康保険法や労災保険法などから「給付を受けるべき場合」となっていることに注意してください。「給付を受けた場合」ではなく「受けるべき場合」です。政府保障事業は、他に救済の方法がない被害者に最低限の救済を確保しようとするものですから、被害者に健康保険や労災保険などの社会保険に対する給付の請求権がある場合には、必ずこれらの社会保険を使用することが前提となっているのです。つまり政府保障事業は、まず健康保険や労災保険から給付を受けて、それでも損害を填補しきれない場合に、填補限度額の範囲内で損害の填補をする仕組みなのです。国土交通省自動車局保障制度参事官室監修の『新版 逐条解説 自動車損害保障法』(ぎょうせい)では、「本項は、…まず社会保険による給付を受けるべきこと、他の給付を受けたときは保障金の支払いをしないことを定めたのである」(229ページ)と説明されています。親族間事故については支払われない自賠責保険は、加害者と被害者が同一生計の家族であっても保険金が支払われますが、政府保障事業では、同一生計の親族間事故については、原則として填補しない運用がされています。政府が保障事業による損害の填補をしたとき、最終的に本来の賠償責任者に求償することになります(自賠法第76条1項)。同一生計の親族間事故の場合、同一生計の家族に対し、損害を填補して、後から求償することになり、実質的に意味がないからです。ただし例外として、加害者(損害賠償責任者)が死亡し、法定相続人である被害者(請求権者)が相続の放棄または限定承認をした場合は填補金が支払われます。複数の加害車両が関わる事故加害車両が複数の場合、自賠責保険では、それぞれの自動車の自賠責保険に損害賠償請求でき、支払限度額は合算した額となります。つまり、加害車両数に応じて限度額が増えます。政府保障事業は、無保険車による事故の損害を填補しますが、無保険車が複数の場合、その台数分、填補限度額が増えるかというと、そうはなりません。自賠責保険に加入している自動車と無保険車がある場合、自賠責保険に加入している自動車については、自賠責保険から車両数分を合算した額を限度額として賠償金を受けることができるだけで、無保険車に対する政府保障はありません。保障事業による填補は行われません。加害車両のすべてが無保険車だった場合は、1台分だけ政府保障事業から填補されます。つまり、複数の無保険車が関わる事故であっても、保障事業からの填補金の限度額は、無保険車 1台分です。これは、政府保障事業が、損害賠償でなく、被害者に必要最小限度の救済を保障する制度だからです。仮渡金の制度はない政府保障事業は、他の手段によって救済を受けることができない被害者に最小限の救済を確保する制度であり、被害者の損害を填補するものです。政府保障事業への請求は、被害者に損害賠償請求権が存在することが前提です。そのため、加害者の損害賠償責任の有無を問わない仮渡金の制度はありません。保障事業の填補額(保障金額)の算定方法政府保障事業は、自賠責保険の支払基準と同様の「損害のてん補の基準」にもとづき算定されます。この填補基準により算定された損害額(填補対象額)が、法定限度額(政令で定める填補限度額)を超えない場合は損害額から、超える場合は限度額から、他の法令による給付額と損害賠償責任者からの支払額を控除した額が、被害者に支払われることになります。他の法令による給付との調整被害者が、他の法令による給付を受けた場合は、その限度において、保障事業による損害の填補はされません。他の法令による給付は「損害の填補に相当する給付」(自賠法第73条1項)であり、損害の填補を目的としない給付(出産手当金や退職共済年金など)は該当しません。政府保障事業の填補より先に受けるべきとされている法令による給付は、自賠法73条1項と同施行令21条に限定列挙されています。法73条健康保険法労働者災害補償保険法令21条船員保険法労働基準法船員法四災害救助法消防組織法消防法水防法国家公務員災害補償法警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律海上保安官に協力援助した者等の災害給付に関する法律公立学校の学校医、学校歯科医及び学校薬剤師の公務災害補償に関する法律証人等の被害についての給付に関する法律国家公務員共済組合法国民健康保険法災害対策基本法地方公務員等共済組合法河川法地方公務員災害補償法高齢者の医療の確保に関する法律介護保険法武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律これらの法律で救済され得る場合は、まずその給付を受け、その給付では損害の全部を補填することができない場合には、保障事業に請求できます。将来にわたって給付される他法令給付分他の法令による給付額には、支給を受けることが確定したものだけでなく、将来にわたって給付される分も含みます。例えば、労災給付のうち年金部分については、すでに支給を受けた額と支給を受けることが確定した額だけでなく、確定していない将来給付分も控除されます。最高裁第1小法廷判決(平成21年12月17日)最高裁は、「被害者が他法令給付に当たる年金の受給権を有する場合、政府が填補すべき損害額は、支給を受けることが確定した年金の額を控除するのではなく、当該受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分も含めた年金の額を控除して、算定すべきである」とする判断を示しています。ただし、この判決には、「労災保険法による障害年金給付の将来分を控除すべきでない」とする反対意見も付されています。損害賠償との調整被害者が、無保険車を運行させていた者等から、損害賠償を受けた場合は、本来の賠償責任者から損害賠償を受けたことになるので、その限度で保障事業から損害の填補は行われません。すなわち、その額が控除されます。被害者が、損害賠償責任者から人身損害に関する支払いを受けたときは、名目が何であれ(例えば見舞金)、その限度で保障事業による損害の填補は受けられません。ただし、政府保障事業は、人身損害についての填補ですから、物損について支払われた金額は、保障事業からの填補額に影響しません。損害賠償の支払いを受ける場合は、その趣旨を明確にしておくことが必要があります。まとめ政府保障事業により被害者に支払う損害の填補限度額は、自賠責保険の支払限度額と同じです。被害者に過失がある場合の減額も、自賠責保険と同様の重過失減額です。請求権の消滅時効も、自賠責保険と同じ3年です。ただし、政府保障事業は、自賠責保険と異なる運用がされている点もあります。特に注意が必要なのは、次の点です。社会保険給付等を受けられる場合には、そちらを先に必ず受け、それでも損害が填補されない場合にのみ、政府保障事業に対し保障金の請求ができる。複数車両が関係する事故の場合、1台でも自賠責保険から損害の填補を受けられれば、政府保障事業に保障金の請求はできず、すべて無保険車だったとしても保障金を請求できるのは1台分のみ。親族間の事故の場合には、政府保障事業による損害の填補は行われない。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『自賠責保険のすべて 13訂版』保険毎日新聞 社176~180ページ・『新版 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 223~233ページ・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 228~237ページ・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 322~324ページ・『交通事故損害賠償保障法 第3版』弘文堂 400~402ページ・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 359~365ページ・『交通事故事件の実務―裁判官の視点―』新日本法規 139~140ページ、152~154ページ、162~163ページ
    Read More
  • 運行供用者・保有者・運転者・被保険者
    自賠法が規定する運行供用者・保有者・運転者・被保険者の違い
    自賠法(自動車損害賠償保障法)において、損害賠償の責任主体は運行供用者で、自賠責保険の被保険者は自動車の保有者と運転者です。ここでは、自賠法における運行供用者・保有者・運転者・被保険者の関係と違いを見ていきましょう。自賠法では、運行供用者に損害賠償責任がある自賠法は、人身事故の損害賠償責任について、次のように定めています。自賠法3条自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。「自己のために自動車を運行の用に供する者」を運行供用者といいます。自賠法では、運行供用者が、損害賠償の責任主体です。事故を起こした運転者でなく、運行供用者に損害賠償責任があります。もっとも、運転者が運行供用者という場合もあり、マイカーの事故は、たいてい運転者と運行供用者が同一です。この場合、運転者が運行供用者として、自賠法3条の損害賠償責任を負います。「自己のために」とは、自動車の使用についての支配権と、その使用により享受する利益とが、自己に帰属することを意味します。運行供用者の判断基準についてはこちらをご覧ください。自賠法の定める運転者は、通常の運転者の概念と異なる運転者については、自賠法で次のように定義しています。自賠法2条4項この法律で「運転者」とは、他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者をいう。自賠法の運転者は、他人のために運転や運転補助する人一般的には、自動車のハンドルを操作する者を運転者と呼びますが、自賠法では「他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者」を運転者と定義しています。自賠法の定める運転者は、他人のために運転する者ですから、自己のために自動車を運行の用に供する運行供用者には当たりません。したがって、自賠法3条の運行供用者責任を負いません。ただし、事故を起こした当事者として過失があれば、民法709条の不法行為による損害賠償責任を負います。なお、自己のために運転する一般的な意味での運転者は、自賠法では運行供用者に分類されます。自分の車を自分で運転する場合はもちろん、人の車を借りて運転する場合も、無断運転や泥棒運転であっても、自己のために運転する運転者は、運行供用者です。つまり、自賠法における運転者とは、通常の運転者の概念から、運行供用者を除外し、運転補助者を加えたものといえます。運転者・運転補助者とは自賠法でいう運転者・運転補助者とは、次のような人です。運転者自動車の所有者との雇用関係にもとづき運転している者、委任関係にもとづき運転している者など。運転補助者クレーン車の玉掛作業者、車掌、工事車両の誘導者など。例えば、運送会社の従業員が、配送業務のため会社所有のトラックを運転中に事故を起こした場合、運送会社は運行供用者として自賠法3条の運行供用者責任を負い、従業員は運転者として民法709条の不法行為責任を負います。保有者は、正当な使用権限を有する運行供用者保有者については、自賠法で次のように定義しています。自賠法2条3項この法律で「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。保有者としての要件は、①自動車を使用する権利を有する者、②自己のために自動車を運行の用に供するものです。この2つの要件を両方とも満たすのが保有者です。自動車を使用する権利を有する者使用する権利とは、法律上の正当な権限に基づく使用権を意味します。所有権に基づくもの、使用貸借契約や賃貸借契約に基づくもの、委任契約に基づくものなどがあります。したがって、所有者や所有者の許諾を得て使用する者など、正当な権限に基づき使用する者が保有者に該当し、所有者の許諾なく不正に使用する者(無断運転者・泥棒運転者)は保有者に該当しません。自己のために自動車を運行の用に供するもの「自己のために」とは、自動車の使用についての支配権と、その使用により享受する利益とが、自己に帰属することを意味します。これは自賠法3条の運行供用者と同義ですから、運行供用者であることが、保有者のもう1つの要件ということになります。自賠法の定める運転者は「他人のために」運転しますから、保有者に該当しません。つまり、保有者とは、運行供用者のうち、自動車を使用する正当な権限を有する者といえます。保有者に運行供用者責任が生じると、自賠責保険金が支払われる保有者は、自賠責保険の被保険者の範囲を定めるものとして重要です。自賠法11条1項責任保険の契約は、第3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生した場合において、これによる保有者の損害及び運転者もその被害者に対して損害賠償の責任を負うべきときのこれによる運転者の損害を保険会社がてん補することを約し、保険契約者が保険会社に保険料を支払うことを約することによつて、その効力を生ずる。(※自賠責共済については、第2項で同様に規定されています。)自賠責保険から保険金が支払われるのは、保有者に運行供用者責任(自賠法3条による損害賠償責任)が生じた場合です。自賠責保険の被保険者は、保有者と運転者自賠法の定める自賠責保険の被保険者は、保有者と運転者です。保有者は、運行供用者責任を負うことが一般的であるため、被保険者として法定されています。運転者は、運行供用者ではないため、自賠法3条の運行供用者責任を負うことはありませんが、直接の加害者として不法行為責任(民法709条)を負うことが想定されるため、被保険者として法定されています。なお、運転者は、保有者が運行供用者責任を負う場合に被保険者となるのであって、運転者が単独で被保険者となることはありません。自賠責保険金が支払われないケース保有者でない運行供用者、すなわち、自動車を不正に使用した者に損害賠償責任が生じても、自賠責保険から保険金は支払われません。この場合、被害者は政府保障事業に損害の填補を請求することになります。運行供用者・保有者・運転者・被保険者の関係自賠法における運行供用者・保有者・運転者・被保険者の関係をまとめると、次のようになります。運転者他人のために自動車の運転・運転補助をする者。自賠責保険の被保険者運行供用者自己のために自動車を運行の用に供する者。保有者自動車を正当に使用する権利を有する者。所有者、所有者の承諾を得て使用する者など。自動車を不正に使用した者無断運転者、泥棒運転者など。自己のために自動車を運行の用に供する運行供用者と、他人のために自動車を運転または運転補助する運転者に、大きく分かれます。運行供用者は、自動車を正当に使用する権利を有する者(=保有者)と、不正に使用した者に分かれます。保有者に運行供用者責任(運行供用者としての損害賠償責任)が発生したときに、自賠責保険金が支払われます。自賠責保険の被保険者は、保有者と運転者です。人身事故を起こした相手が自動車を不正に使用していた場合、相手は「運行供用者」ではありますが「保有者」ではないため、自賠責保険から保険金(損害賠償額)は支払われません。こういう場合は、被害者は政府保障事業に損害の填補を請求することができます。まとめ自賠法では、運行供用者が損害賠償責任を負い、自動車の保有者に損害賠償責任が発生したときに、自賠責保険から保険金が支払われます。自賠責保険の被保険者は、保有者と運転者です。自賠法に定める運転者は、通常の運転者の概念と異なり、他人のために運転または運転補助に従事する者のことで、運行供用者には当たりません。保有者でない運行供用者に賠償責任が発生しても、自賠責保険から保険金は支払われません。この場合、被害者が、政府保障事業に損害の填補を請求することになります。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 10~13ページ・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 63~66ページ・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 41~44ページ・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 29ページ・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 3~12ページ・『新版 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 57~59ページ、71ページ・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 16~19ページ、126~128ページ・『交通事故事件対応のための保険の基本と実務』学陽書房 83~87ページ
    Read More
  • 運行供用者
    運行供用者とは?運行供用者の判断基準(運行支配・運行利益)
    自動車の運行による人身事故で怪我をした被害者は、加害車両の運行供用者に対して、自賠法(自動車損害賠償保障法)3条に基づき、損害賠償を請求できます。このとき問題になるのは、運行供用者はだれか、ということです。運行供用者とは?どんな人が運行供用者にあたるのか?運行供用者に該当するかの判断基準は?裁判例の動向もふまえて、詳しく見ていきましょう。運行供用者とは?自賠法は、自動車で人身事故を起こしたときの損害賠償責任について、次のように定めています。自動車損害賠償保障法 3条自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。この条文中の「自己のために自動車を運行の用に供する者」が、いわゆる「運行供用者」です。ただし、自賠法には、自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)の定義規定がなく、運行供用者がどのような者であるか、一義的には明らかでありません。そのため、損害賠償請求する相手方である運行供用者について、判例に基づいて判断することになります。では、運行供用者とは、どんな人が該当するのか?運行供用者の判断基準自賠法の立案担当者の考え方や最高裁判例をもとに、運行供用者の判断基準について、見ていきましょう。自賠法立案担当者の考え方運行供用者について、自賠法の立案担当者は、こう説明しています。「自己のために」というのは、自動車の運行についての支配権とそれによる利益が自己に帰属するということを意味する。従って、この者は、通常自動車の保有者であり、例えば、会社の業務のために自動車を運行している場合には、運行供用者は、運転していた者ではなく、会社になる。(国土交通省物流・自動車局 保障制度参事官室監修『三訂 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 35ページ)通常自動車の所有者または使用者等のように、自動車の使用について支配権を有し、かつ、その使用によって利益を受ける者を指している。(運輸省自動車局編『自動車損害賠償保障法の解説』大蔵省印刷局1955年 29ページ)最高裁判例による判断基準最高裁は、次のような判断基準を示しています。最高裁判決(昭和43年(1968年)9月24日)自賠法3条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者を意味する。この判決は、最高裁が「自己のために自動車を運行の用に供する者」について、「自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者」と明示して判断の枠組みを提示した点で、実務上重要な意義があります。運行供用者が損害の賠償責任を負う根拠は、「危険責任」と「報償責任」にあると理解されています。運行支配は「危険責任」から、運行利益は「報償責任」から導かれる要素であり、このことから、運行支配と運行利益を有する者が、運行供用者とされているのです。危険責任危険物の管理者は、危険物から発生した損害に責任を負うべきという考え方です。自動車の運行という危険性を有するものを支配している者が、損害賠償責任を負うということです。報償責任利益を上げる過程で従業員等が他人に与えた損害は、利益を得る者が負担すべきという考え方です。自動車を運行することによって利益を受ける者が、損害賠償責任を負うということです。このように、運行支配と運行利益の2つの要素から運行供用者性を判断する考え方は「二元説」と呼ばれ、その後の裁判例でも踏襲されており、自賠法の立案担当者の考えていたところにも沿うもので、現在の判例・通説となっています。ただし、運行支配と運行利益の2つの要素を運行供用者性の判断基準とするとしても、具体的にどのように判断すべきか、運行支配と運行利益の内容が問題となります。さらに最高裁判例を見ていきましょう。運行供用者は被害者保護の観点から広く認められるように運行支配と運行利益は、現実的な支配や利益である必要はなく、その内容は抽象化され、広く認められるようになってきています。運行支配の判断運行支配の内容については、当初は「直接的・現実的支配」を要するとしていましたが、被害者保護の観点から、次第に拡大して解されるように変化しています。上記の最高裁判決(昭和43年9月24日)は、子が所有する自動車を父親が借り受け、父親が自己の営業に常時使用していて事故を起こした事案について、運行支配と運行利益を判断基準として明示し、子は「自動車の運行自体について直接の支配力を及ぼしえない関係にあった」として、加害車両の所有者である子の運行供用者性を否定しました。しかし、このように支配の直接性を要求すると、被害者を救済できないことになり、被害者保護のために損害賠償責任を「加害運転者」でなく「加害車両の運行供用者」に負わせることとした意味が失われてしまいます。その後の判例では、自動車の運行を直接的・現実的に支配していなくても、間接支配・支配の可能性で足り、客観的・外形的支配、事実上の支配、自動車の運行について指示・制御をなしうべき地位にあればよい、というふうに運行支配の内容が修正されていきます。さらに、自動車の運行を事実上支配・管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視し、監督すべき立場にある場合や、第三者による運転を容認していた場合にも、客観的外形的に運行支配に当たると解して、運行供用者に該当すると判断しています。おもな最高裁判例を挙げておきましょう。最高裁第二小法廷判決(昭和43年10月18日)貸金の担保として自動車を預かった者(A)の従業員(B)が無断でその車を運転し、事故を起こした事案です。(A)は「事実上本件自動車の運行を支配管理し得る地位にあった」といえ、従業員(B)が無断で私用運転して事故を起こした場合でも、「客観的には(A)による運行支配可能な範囲に属し、(A)は右運行により起こった事故につき保有者としての賠償責任を免れない」としました。最高裁第二小法廷判決( 昭和44年9月12日)自動車修理業者が修理のため預かっていた自動車を、その従業員が私用のため無断で運転して事故を起こした事案です。「自動車修理業者が修理のため自動車を預かつた場合には、少なくとも修理や試運転に必要な範囲での運転行為を委ねられ、営業上自己の支配下に置いているものと解すべきであり」、その被用者による運行は「客観的には使用者たる修理業者の支配関係に基づき、その者のためにされたものと認めるのが相当であるから」、修理業者は「本件事故につき、自動車損害賠償保障法3条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者としての損害賠償責任を免れない」としました。最高裁第一小法廷判決(昭和45年7月16日)父と子(兄・妹)が同居し、家族で雑貨店とガソリンスタンドを営業。妹が、近所の怪我人を病院へ運ぶため、兄所有・家業にも使用している自動車を独断で運転し、事故を起こした事案です。自動車の所有者である兄はもとより、一家の責任者として家業を総括していた父も、「自動車の運行について指示・制御をなしうべき地位にあり、かつ、その運行による利益を享受していたものということができる」として、父および兄の両名が運行供用者に当たるとしました。最高裁第三小法廷判決(昭和46年11月9日)レンタカーを借りた者が事故を起こした事案です。レンタカー業者が、利用申込者につき、運転免許その他一定の利用資格の有無を審査し、契約において、使用時間や方法の定め、料金額の定め、走行区域や制限走行距離の遵守などの義務づけがあるときは、レンタカー業者は「本件自動車に対する運行支配および運行利益を有していたということができ、自賠法3条所定の運行供用者としての責任を免れない」としました。最高裁第三小法廷判決(昭和50年11月28日)「自動車の所有者から依頼されて自動車の所有者登録名義人となつた者が、登録名義人となつた経緯、所有者との身分関係、自動車の保管場所その他諸般の事情に照らし、自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上自動車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にある場合には、右登録名義人は、自動車損害賠償補償法3条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者にあたると解すべきである」と、判断の枠組みを示しました。そのうえで、父と同居して家業である農業に従事する20歳の子が所有し、父の居宅の庭に保管されている自動車につき、子が父の了解を得ることなく父を所有者登録名義人とし、その後了承を得ていたところ、子が事故を起こしたという事案につき、父は「本件自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあったのであって、右自動車の運行供用者に当たると解するのを相当とする」としました。最高裁第二小法廷判決(平成20年9月12日)Aが、父親B所有の自動車に友人Cを乗せて深夜バーに赴き、Cと共に飲酒。Aが泥酔して寝込んでしまったので、Cがバーのカウンター上に置かれていたキーを使用してAを同自動車に乗せて運転し、事故を起こした事案です。Aによる「運行はBの容認するところであったと解することができ」、飲酒したAが「友人等に本件自動車の運転を委ねることも、その容認の範囲内であったと見られてもやむを得ないというべきである」として、所有者Bは「客観的外形的に見て、本件運行について、運行供用者に当たると解するのが相当である」としました。最高裁第一小法廷判決(平成30年12月17日)Aは、生活保護を受けていたため、自動車を購入する際、自己の名義で所有すると生活保護を受けられなくなるおそれがあると考え、弟Bに名義貸与を依頼。Bの承諾のもと、Aは自動車を購入し、所有者および使用者の名義をBとしました。その自動車をBが運転中に、事故を起こした事案です。AとBは、住居・生計を別にし、疎遠で、Bは、本件自動車を使用したことはなく、その保管場所も知らず、本件自動車の売買代金、維持費等を負担したこともありませんでした。このような事実関係のもと、BのAに対する「名義貸与は、事実上困難であったAによる本件自動車の所有及び使用を可能にし,自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる。また、BがAの依頼を拒むことができなかったなどの事情もうかがわれない。そうすると、…… BとAとが住居及び生計を別にしていたなどの事情があったとしても、Bは、Aによる本件自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあったというべきである。したがって、Bは、本件自動車の運行について、運行供用者に当たると解するのが相当である」としました。運行利益の判断運行利益の内容についても、現実的・具体的に運行による利益を享受するかどうかでなく、客観化・抽象化されています。また、運行供用者に該当するかについては、運行支配と運行利益の2つの要素を判断基準としつつも、実際には、運行支配を中心に運行供用者性を判断しているといえます。重要な判例として、昭和46年7月1日の最高裁判決がよく挙げられます。無断私用運転中の事故でも、所有者に運行利益があるとした事例です。運行利益について、運行を全体として客観的に観察して、所有者のためにされていれば足りるとし、二元説でも、運行支配が重要であることを明らかにしたのです。最高裁第一小法廷判決(昭和46年7月1日) 小規模の信用協同組合の常務理事Aが、長期出張に際し、同組合営業部長Bに、A所有の自動車を修理に出すよう委託し、修理工場への往復にはBの指示により組合従業員が運転にあたることを予想しつつ、不在中の自動車の管理をBに一任。Bから指示を受けた組合従業員Cが、組合の見習で自動車運転の業務にも従事していたDと相談のうえ、自動車を無断使用したのち組合事務所に届けておくこととし、Dが、修理の終わった自動車を修理工場から受け取り、Cを同乗させ運転して私用に赴いたのち、翌朝組合事務所への帰途に事故を起こしたという事案です。「運行を全体として客観的に観察するとき、本件自動車の運行がAのためになされていたものと認めることができる」とし、無断私用運転中の事故でも、所有者Aに運行利益があるとされました。「原判決が運行利益の帰属の有無について判断をしていないことを違法」とする主張に対し、最高裁は、「原判決も、このような趣旨において、前示事実関係を判示することにより、とくにAへの運行利益の帰属につき説示することがないとしても、おのずから、これを肯定したものと解することができる」としました。運行支配と運行利益の関係については、次のような指摘があります。自動車事故による損害に対する責任として重視されるべきは、自動車という危険物の利用に係る危険責任であり、自動車の運行を支配し、または支配し得べき立場にある者は、通常、その自動車の運行により何らかの利益を得ているはずであるから、運行支配に重点を置き、運行利益は補完的なもとの捉えることができる。(佐久間邦夫=八木一洋編『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院45ページ、森冨義明=村主隆行編著『交通関係訴訟の実務』商事法務88ページ)運行供用者に当たるか否かが問題となる主なケース運行供用者に該当するかが問題となる主なケースについて、判例がどのような判断を示しているか、まとめておきます。レンタカー業者レンタカー業者は、一般的に運行供用者に当たります(最高裁昭和46年11月9日判決、最高裁昭和50年5月29日判決)。この場合、レンタカー利用者も運行供用者に当たるので、運行供用者は複数いることになります。ただし、利用者が返却期限を大幅に超えて自動車を返却せず、レンタカー業者の支配管理可能性が失われたと認められる場合には、レンタカー業者の運行供用者性が否定されることもあります。リース会社リース会社は、基本的に運行供用者に当たりません。自動車の所有権はリース会社にありますが、単に割賦金の支払いを担保するためであり、ユーザーが自動車の管理支配権を全面的に有していると考えられるからです。ただし、契約にリース会社が自動車の運行を管理し得るような条項が含まれていたり、リース会社とユーザーとが一体のものと評価し得るような事情が存在するような場合は、リース会社も運行供用者に当たり得ます。自動車修理業者自動車が修理のために自動車修理業者に預けられている間は、修理業者がその運行を支配すると解され、修理を終えた自動車が修理業者から注文者に返還されたときには、特段の事情のないかぎり、その引渡の時以後の運行は注文者の支配下にあるものと解されます。したがって、自動車修理業者が修理のため預かった自動車を、その従業員が運転して事故を起こした場合には、それが従業員による無断私用運転であったとしても、修理業者が運行供用者責任を負います(最高裁昭和44年9月12日判決)。割賦販売における留保所有権者所有権留保特約付割賦販売契約によって売買された自動車が事故を起こした場合、所有権留保権者である自動車販売会社や信販会社の運行供用者性は、原則として否定されます(最高裁昭和46年1月26日判決)。所有権を留保した割賦販売業者(留保所有権者)は、代金債権の確保のために所有権を留保しているに過ぎず、自動車を引き渡して以降は、自動車に対する運行支配をしていないし、運行により利益を得ているわけでもないからです。使用貸借における貸主車の所有者から無償で車を借り受けたものが事故を起こした場合、原則として貸主(所有者)は運行供用者となります。貸与期間が比較的短期間で、その間に事故を起こした場合には、貸主(所有者)の運行供用者性が肯定されています(最高裁昭和46年1月26日判決)。他方、予定された貸与期間を著しく経過し、所有者が返還を求めて具体的な行動を起こしていたような場合には、貸主の運行支配は失われ、運行供用者ではなくなると考えられます(最高裁平成9年11月27日判決)。自動車を無償で貸与し、借主が事故を起こした場合の貸主の運行供用者責任については、貸主と借主との関係、貸与の目的、貸与期間の長短、返還期限の到来の有無、到来後の経過期間等の諸事情を総合考慮し、貸主の運行支配がどの程度及んでいるか、という観点から判断されます。借主のさらに友人が運転して事故を起こした場合にも、その運行が貸主(所有者)の容認の範囲内にあったと認められる場合には、貸主(所有者)の運行供用者性が肯定されています(最高裁平成20年9月12日判決)。なお、借主は運行供用者となるので、貸主も運行供用者となる場合には、運行供用者は複数いることになります。さらに詳しくは、次をご覧ください。自動車の借主が起こした事故で貸主の運行供用者責任を問えるか?無断運転された所有者無断運転者が、自動車の所有者と雇用関係や親族関係にある場合、客観的・外形的に所有者の権限に基づく支配内での運行といえ、所有者のための運転といえることから、特段の事情がない限り、運行供用者責任を免れないとする傾向にあります。無断私用運転というだけでは、特段の事情に当たらないとされています(最高裁昭和44年9月12日判決)。また、所有者に客観的容認があったと評価されてもやむを得ないような事情があれば、運行供用者性が肯定されます(最高裁平成20年9月12日判決)。容認の内容については、所有者が自動車を他人に使用させる意思を有していた場合(=主観的容認)だけではなく、客観的・外形的に容認していたと評価されてもやむを得ない事情がある場合(=客観的容認)も含まれると解されており、容認は、客観化・抽象化されています。なお、無断運転者も、運行供用者となります。さらに詳しくは、次をご覧ください。会社の車を従業員が無断運転して交通事故を起こしたときの会社の責任泥棒運転された所有者第三者による泥棒運転の場合、盗難被害にあった車両の所有者は、盗難被害車の運行を指示制御すべき立場になく、運行利益も帰属していないため、原則として、運行供用者責任を負わないとされていました(最高裁昭和48年12月20日判決)。現在は、盗難場所(第三者が容易に立ち入れる場所であるかなど)、車両管理状態(ドアロックやエンジンキーの状況など)、事故の状況(盗難から事故発生までの時間的・場所的関係など)、盗難発覚後の被害者の行動(警察への被害届の提出など)により判断し、所有者の運行供用者性が肯定されることがあります(最高裁昭和57年4月2日判決)。駐車場所、車両の管理状況、泥棒運転の経緯・態様などを総合的に考慮し、客観的に見て、所有者において第三者が車両を運転するのを「容認」したのと同視し得るような状況がある場合には、所有者の運行供用者性が肯定されます。なお、車を盗んで運転した泥棒運転者は、運行供用者に当たります。さらに詳しくは、次をご覧ください。盗難車・泥棒運転で交通事故を起こした場合の自動車所有者の責任名義貸与者名義貸与の依頼を承諾して、自動車の名義上の所有者兼使用者となった者(名義貸与者)は、「自動車の運行を事実上支配管理することができ、社会通念上自動車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視監督すべき立場」にある場合には、運行供用者責任が肯定されます(最高裁昭和50年11月28日判決、最高裁平成30年12月17日判決)。従来、購入資金等の関係で名義を貸しているだけの者は、運行供用者責任を負わないとする裁判例がありましたが、現在は、名義貸与者が運行供用者責任を免れるのは難しくなっています。なお、すでに自動車を売却して引き渡しも終えている、単なる名義残り(名義書換未了)の場合は、名義人の運行支配・運行利益は認められず、運行供用者責任は否定されます。運転代行業者運転代行業者は、自動車の使用権を有する者の依頼を受けて、その者を同乗させ、自動車を同人の自宅まで運転する業務を有償で引き受け、代行運転者を派遣して業務を行わせるものですから、運行供用者として認められます(最高裁平成9年10月31日判決)。従業員がマイカーで事故を起こしたときの雇用主従業員のマイカーの使用は、基本的には雇用主が関与しないところですから、従業員がマイカーで仕事中や通勤途中に事故を起こした場合、雇用主の運行供用者責任は、原則として否定されます。ただし、その車両が日常的に会社の業務に利用され、雇用主もこれを容認していたような事情がある場合には、雇用主の運行供用者責任が肯定される傾向にあります(最高裁昭和52年12月22日判決、最高裁平成元年6月6日判決)。まとめ運行供用者とは、自動車の運行について運行支配と運行利益が帰属する者とされています。自動車の運行を支配し、運行によって利益を享受する者が、運行供用者です。ポイントとなるのは運行支配・運行利益の内容ですが、現実的な支配や利益である必要はなく、かなり抽象化されています。運行支配については、直接的・現実的な支配が認められなくても、客観的・外形的に見て、事故車両を事実上支配ないし管理制御できる地位、あるいは規範的に見て間接的な支配ないしその可能性があれば足り、運行利益についても、何らかの社会的な利益があれば足りるとし、被害者の保護を厚くする方向で判断されています。運行供用者であるか否かが争点となることは、現在では多くはありません。自動車の所有者を相手に賠償請求すれば、運行供用者責任が否定されることは、まずないからです。運行供用者に該当するか否かが問題となる場合は、裁判例に基づき検討する必要がありますから、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『実務精選100 交通事故判例解説』第一法規 2~25ページ・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 254~261ページ・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 66~69ページ・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 44~51ページ・『交通事故判例140』学陽書房 8~13ページ・『交通事故損害賠償法 第3版』弘文堂 28~69ページ・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 10~13ページ、39~68ページ・『判例タイムズ№228』115ページ・『交通関係訴訟の実務』商事法務 87~98ページ・『三訂 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 35~36ページ、83~95ページ・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第3版』光文堂 20~40ページ・『交通事故実務入門』司法協会 36~38ページ・『改訂版 交通事故事件の実務―裁判官の視点―』新日本法規 11~26ページ・『実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集―交通事故編―』第一法規 63~65ページ・『交通事故紛争解決法理の到達点』第一法規 206~252ページ
    Read More
  • 運行によって
    自動車の「運行によって」とは?運行起因性が認められる要件
    自賠法(自動車損害賠償保障法)における損害賠償責任の発生要件は、自動車の「運行によって」人身事故が発生することです。したがって、自賠法にもとづく損害賠償請求を行う場合は、その事故が「自動車の運行によって」生じたと認められなければなりません。つまり、「自動車の運行によって」をどう解釈するか、が問題となります。「運行によって」(運行起因性)については、「運行」と「によって」に分けて論じられることが多いので、ここでも分けて整理します。「運行によって」の「運行」とは?まず「運行」についてです。自賠法は、「運行」を次のように定義しています。自賠法2条2項この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。運行に当たるかどうかを判断する際、人や物を運送するかどうかは関係ありません。人や物を運送しない運行もあります。例えば、広報宣伝活動やパトロール活動などのために自動車を走行させる場合です。また、走行中でなくても、運行に当たる場合があります。運行に当たるかどうかが問題となるのは、多くは駐停車中の事故です。運行に当たるかどうかの判断は、「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」の解釈によります。実は、これには様々な解釈があります。「当該装置」とは?ここでいう「当該装置」とは、自動車のエンジンその他の走行装置に限らず、クレーン車のクレーンのような固有装置も含むとされています。当該装置の「用い方に従い用いる」とは、当該装置を本来の目的に従って使用することです。これを「固有装置説」といい、現在の通説・判例とされています。「当該装置」の解釈には、固有装置説のほかに、原動機説、走行装置説、車自体説などがあります。各学説については、あとで詳しく説明します。自賠法の「運行」は、道路以外の場所も含む自賠法における「運行」の定義は、道路運送車両法における「運行」の定義と比べると、適用範囲が広くなっています。道路運送車両法では「運行」を次のように定義しています。道路運送車両法2条5項この法律で「運行」とは、人又は物品を運送するとしないとにかかわらず、道路運送車両を当該装置の用い方に従い用いること(道路以外の場所のみにおいて用いることを除く。)をいう。道路運送車両法では「道路以外の場所のみにおいて用いることを除く」のに対し、自賠法では場所的限定はありません。自賠法では、自動車を道路以外の場所で用いることも運行に当たります。例えば、工場の敷地等のみで自動車を用いる場合は、道路運送車両法の運行には当たりませんが、自賠法では運行に当たります。したがって、道路以外の場所での自動車の運行による人身事故も、自賠法3条による損害賠償責任が発生します。「自賠法の運行」は「道路運送車両法の運行」より範囲が広い(自賠法)2条2項にいう運行とは、道路運送車両法2条5項にいう運行よりも範囲が広く、工場敷地内や公園等道路以外の場所のみで自動車を当該装置の用法に従い用いる場合をも含むものと解すべきである…(最高裁第二小法廷判決・昭和48年7月6日)「運行によって」の「によって」とは?次に、「運行によって」の「によって」についてです。運行「によって」の解釈「によって」の解釈をめぐっては、大別して次の3つの見解があります。相当因果関係説運行と事故との間に相当因果関係が必要とする見解事実的因果関係説運行と事故との間に事実的な因果関係(その運行がなければ、その事故は発生しなかったであろうという関係)があれば足りるとする見解運行に際して説「運行によって」を「運行に際して」と解し、運行に際して事故が発生したものであればよいとする見解通説・判例は、相当因果関係説をとっています。民法709条(不法行為責任)の「故意または過失によって」と同じく相当因果関係を意味していると解されています。最高裁第三小法廷判決・昭和43年10月8日自動車損害賠償保障法3条は、自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる旨を定めているところ、右にいう「運行によって」とは運行と被害との間に因果関係があることを要するものと解すべきである。最高裁第三小法廷判決・昭和54年7月24日バスの右折と本件衝突事故との間に相当因果関係があるとした原審の判断は、正当として是認することができる。運行起因性が認められるケース・認められないケース自動車の運行と事故の間に相当因果関係が認められるということは、「運行起因性」が認められるということです。走行中の積荷の落下、油漏れによる後継者のスリップ事故、石をはじき歩行者を受傷させた場合などは、運行との因果関係が認められます。走行中に運転者または乗客が車外に物を投棄したことによる事故は、自賠責保険実務では、運行による事故とは認めていません。(参考:損害保険料率算出機構編『自賠責保険のすべて13訂版』保険毎日新聞社 92ページ)運行・運行起因性の解釈の変遷先にも紹介したように、自賠法2条2項は、運行とは「自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」と定義しています。「当該装置」の解釈には、①原動機説、②走行装置説、③固有装置説、④車自体説があります。判例・通説は、原動機説、走行装置説を経て、現在は固有装置説に立っているとされます。近時は、「当該装置」の解釈にとらわれず、自賠法の趣旨・目的から運行起因性が認められるか否かを判断しようとする⑤危険性説、⑥固有危険性具体化説が有力です。今では「過去の見解」となっているものもありますが、現在の考え方を知るうえで重要ですので、各見解を簡単に紹介しておきます。原動機説自賠法2条1項、道路運送車両法2条2項において、「自動車とは、原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具」と定義していることから、「当該装置」は原動機装置(エンジンなど)を意味すると捉え、運行は、自動車を原動機の作用により移動させること、とする見解が「原動機説」です。原動機説によると、原動機によらない走行や、駐停車している状態は、運行に当たりません。原動機説は、運行供用者責任の成立範囲が狭く、被害者救済の観点から問題があるとされ、現在では、過去の見解とされています。走行装置説「当該装置」には原動機装置のほか、操向装置(ハンドル)や制動装置(ブレーキ)など走行と不可分の装置も含まれると捉え、運行は、走行装置を操作しながら走行すること、とする見解が「走行装置説」です。走行装置説によると、エンジンが故障して他の車にロープで牽引されている状態(原動機の作用によらない走行)であっても、ハンドルやブレーキ等を操作して走行していれば運行に当たります。しかし、走行装置説では、車両を駐停車した状態で、クレーン車のクレーンを操作したり、積荷の積み降ろしをすることなどは、運行に当たりません。走行装置説は、原動機説を一歩進めたものといえますが、原動機説と同様、運行供用者責任の成立範囲が狭くなるため、現在では、過去の見解とされています。「当該装置」には原動機だけでなく他の走行装置も含むとした裁判例運行の定義として定められた「当該装置」とは、エンジン装置、即ち原動機装置に重点をおくものではあるが、必ずしも右装置にのみ限定する趣旨ではなく、ハンドル装置、ブレーキ装置などの走行装置もこれに含まれる。(最高裁第三小法廷判決・昭和43年10月8日)固有装置説「当該装置」は、当該自動車に固有の装置を意味し、原動機装置や走行装置、ドア等の自動車の構造上設備されている各装置や、クレーン車のクレーン等も含まれると捉え、運行は、これらの装置の全部または一部をその目的に従って使用すること、とする見解が「固有装置説」です。固有装置説によると、走行中に限らず駐停車中であっても、ドアの開閉、クレーン車のクレーン操作、積荷の積み降ろし等も、固有装置の使用と捉えることができれば、運行に当たります。しかし、固有装置を使用していない単なる駐停車の状態の場合には、運行と解することは困難です。走行停止の状態で、クレーン車のクレーン操作が運行に当たるとされた事例自動車損害賠償保障法2条2項にいう「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」には、自動車をエンジンその他の走行装置により位置の移動を伴う走行状態におく場合だけでなく、特殊自動車であるクレーン車を走行停止の状態におき、操縦者において、固有の装置であるクレーンをその目的に従って操作する場合をも含む。(最高裁第一小法廷判決・昭和52年11月24日)荷降ろし作業が運行に当たるとされた事例右事実関係のもとにおいては、右枕木が装置されている荷台は、本件車両(普通貨物自動車)の固有の装置というに妨げなく、また、本件荷降ろし作業は、直接的にはフォークリフトを用いてされたものであるにせよ、併せて右荷台をその目的に従って使用することによって行われたものというべきであるから、本件事故は、本件車両を「当該装置の用い方に従い用いること」によって生じたものということができる。(最高裁第一小法廷判決・昭和63年6月16日)昭和52年判決は、クレーン車を走行停止の状態におき、固有の装置であるクレーンを「その目的に従って操作する場合」も運行に含むと判示しました。この判決は、最高裁が固有装置説を採ったリーディングケースとして、重要な位置を占めています。昭和63年判決では、枕木が設置された荷台が当該車両の固有の装置に当たるとしたうえで、荷台を「その目的に従って使用すること」によって生じた事故につき、運行起因性を肯定しました。つまり、当該自動車の固有装置の操作・操縦でなくても、固有装置が本来的用法に従って使用されていれば、運行起因性を肯定し得ると、解釈が拡張されました。車自体説・車庫出入説「車自体説」「車庫出入説(車庫から車庫説)」は、「当該装置」を自動車それ自体と捉え、自動車が車庫を出て車庫に戻るまでの間が運行に当たるとする見解です。車庫を出て車庫に戻るまでは、途中で駐停車により路上にとどまる状態にある場合でも、自動車の使用は継続しているとして、運行に当たります。車自体説は、運行の概念を固有装置説より広く捉える見解です。もっとも、固有装置説は、固有の装置の意義・範囲が明確でないため、固有の装置を広く捉えれば、車自体説と異ならない結論にもなり得ます。上記の昭和63年判決は、「枕木が装置されている荷台」と限定的に貨物自動車の荷台を固有の装置と認めていますが、荷台を固有装置と認めるうえで、枕木の設置がどの程度重要なファクターであるのかは疑わしいとして、判例は「実質的には車自体説に近づいたものとなっているように思われる」との指摘もあります。(参考:北河隆之『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 69ページ)危険性説「危険性説」とは、「当該装置」の解釈にとらわれることなく、自動車そのものに内在する危険性を現実化すること(他人の生命・身体に害を加える危険性を持つ状態に自動車を置く行為)を運行と考える見解です。そもそも自賠法の趣旨・目的は、自動車に内在する「人の生命・身体を害する危険性」が現実化した場合に、被害者を保護することです(自賠法1条)。自賠法の趣旨・目的に立ち返って、運行起因性を実質的に考えよう、とするものです。現在の有力な考え方とは?判例・通説は「固有装置説」とされていますが、近時は「固有危険性具体化説」が有力です。固有装置説と危険性説を合わせたようなものです。固有危険性具体化説固有危険性具体化説とは、自動車に設備された装置を本来的用法に従って使用し、自動車固有の危険性(自動車に内在する人の生命・身体を害する危険性)を具体化させる行為を運行と考える見解です。事故当時の状況や事故の性質・内容等の諸般の事情(すなわち相当因果関係の有無)を考慮し、自動車に備えられた装置を本来的用法に従って使用した行為が、自動車固有の危険性を具体化させるものと言えるか否かを実質的に判断します。固有危険性具体化説による最高裁判例固有危険性具体化説によった最高裁判例として、次のものがあります。最高裁第二小法廷判決(平成28年3月4日)老人デイサービスセンターの利用者が当該センターの送迎車から降車し着地する際に負傷したという事故につき、送迎車の運転を担当したセンターの職員が降車場所として危険な場所に送迎車を停車しておらず、上記利用者が送迎車から降車した際に上記職員による介助を受けるという当該送迎車の危険が現実化しないような一般的な措置がされていたなどの事情の下においては、当該送迎車の運行が本来的に有する危険が顕在化したものであるということはできず、本件事故が当該送迎車の運行に起因するものとはいえない。本件は、任意自動車保険の搭乗者傷害特約の支払要件に関する事案です。同特約では、「被保険自動車の運行に起因する事故」を保険金の支払要件としています。この「被保険自動車の運行に起因する」は、自賠法の「自動車の運行によって」と同義と解されています。したがって、本判決は、自賠法における「自動車の運行によって」の解釈に関する最高裁の判断でもあるのです。この判決は、運行起因性の判断について、「車両の運行が本来的に有する危険が顕在化した事故であると評価されるか否か」ということが判断基準となることを最高裁が明らかにしたものと解され、固有危険性具体化説によったものと考えられています。東京地裁民事27部(交通部)は、現在この立場に立って運行起因性を解釈しているとされています。(参考:『実務精選100交通事故判例解説』第一法規 29ページ)運行起因性が認められる場合の例運行起因性が認められる可能性のある例を挙げておきます。あくまで一般論ですから、個別事案の判断は、弁護士にご相談ください。走行中車両同士の衝突、車両と歩行者・自転車などとの衝突は、自動車という危険物による事故なので、運行による事故と認められます。無接触であっても、自動車の走行が危険を与えた場合は、運行による事故と解されます。エンジンの故障によりロープ等で牽引され、自らのハンドル操作等により操縦の自由を有する場合、被牽引車両が起こした事故については、被牽引車両自体の運行行為となります。特殊自動車等の固有装置クレーン車のクレーン、ダンプカーのダンプ、ショベルカーのショベル、ミキサー車のミキサー等、これらの装置の操作に起因した事故については、運行による事故と解されます。駐停車中道路上に駐停車することによって、他の車両の円滑な走行を阻害し、他の車両、通行人に危険を生じさせるような場合には、駐停車中であっても運行に当たると解されます。停車中のドアの開閉による事故は、運行による事故と解されます。エンジンを作動させて停車中に一酸化炭素中毒により死亡した場合、運行による事故となり得る場合があります。荷物の積み降ろし貨物自動車の荷台を使用し、荷物の積み降ろし中に生じた事故は、運行起因性が認められる場合があります。運行起因性が認められない場合の例運行起因性が認められない場合の例を挙げておきます。あくまで一般論ですから、個別事案の判断は、弁護士にご相談ください。人の行為・第三の要因の介在車内でマッチをつけ火災になった場合、車内にパイプを用い排気ガスを引き込んで自殺した場合、積荷が化学反応を起こしたことによる火災や爆発などは、運行による事故には当たらないと解されます。故障修理・点検中修理工場内で修理作業や車検整備などを行っている自動車による事故については、運行に当たらないと解されます。ただし、道路上で、故障・点検修理などのため、駐停車禁止区域で駐停車中に追突事故が生じたような場合には、円滑な交通を妨げたとして運行に当たる場合があり得ます。自然現象地震、洪水、鉄砲水、落石、太陽熱、竜巻などによって生じた事故については、自動車は、当該自然現象の現れた場所に存在したにすぎず、通常運行によって発生した事故とは解されません。ただし、集中豪雨等による危険からの事故の発生が予見できるにもかかわらず、あえて運行している場合は、運行による事故と解される場合があり得ます。まとめ自賠法に基づく損害賠償責任が生じるのは、自動車の運行によって他人の生命・身体を害したときです。「運行によって」に該当するかどうかの判断は、固有装置説を採るのが判例・通説とされています。「運行」とは、「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」です。「当該装置」とは、走行装置に限定せず、クレーン車のクレーンのように特殊自動車の固有の装置も含まれます。すなわち、当該自動車の固有の装置を本来の目的に従って使用することが運行です。運行「によって」とは、当該装置を本来の目的に従って使用したことと事故との間に相当因果関係があることです。この場合、運行起因性が認められます。近時は、「運行によって」を一体で解釈し、「自動車の危険性が顕在化した」場合に運行起因性を肯定するという考え方が有力です。裁判例は「運行」の概念を広く捉えるようになってきており、駐停車中であっても運行に当たると解し、自賠法を適用できるケースが広がってきています。なお、運行起因性が否定され、自賠法3条の運行供用者責任の成立が認められない場合でも、個別具体的事情によっては、民法709条の規定に基づく不法行為責任が成立する場合があります。これらのことをふまえて、加害者や保険会社に損害賠償を請求することが大切です。お困りのことがありましたら、交通事故の損害賠償請求に強い弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『自賠責保険のすべて13訂版』保険毎日新聞社 88~92ページ・『交通関係訴訟の実務』商事法務 104~112ページ・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 19~24ページ・『交通事故損害賠償法第2版』弘文堂 64~82ページ・『Q&A新自動車保険相談』ぎょうせい 26~34ページ・『新版逐条解説自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 50~67ページ・『逐条解説自動車損害賠償保障法第2版』弘文堂 6~16ページ、40~51ページ・『損害保険の法律相談Ⅰ<自動車保険>』青林書院 20~21ページ、26~33ページ・『交通事故の損害賠償とADR』弘文堂 4~8ページ・『交通事故事件の実務-裁判官の視点-』新日本法規 24~31ページ・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 69~70ページ・『実務家が陥りやすい交通事故事件の落とし穴』新日本法規 21~29ページ・『要約交通事故判例140』学陽書房 16~19ページ・『改訂版交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 247~254ページ・『新版交通事故の法律相談』青林書院 24~25ページ・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 51~57ページ・別冊ジュリスト№152『交通事故判例百選第4版』有斐閣 30~41ページ・別冊Jurist №233『交通事故判例百選第5版』有斐閣 24~37ページ・『実務精選100交通事故判例解説』第一法規 26~35ページ・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 332~338ページ、372~377ページ
    Read More
  • 自賠法3条の他人
    自賠法3条の他人とは?自賠責保険における他人性の判断基準
    自賠責保険に保険金(損害賠償額)の支払いを請求するには、被害者が、事故を起こした車両の運行供用者との関係で「他人」に当たることが要件となります。「他人」に当たらないときは、自賠責保険の支払いを受けられません。自賠法にいう「他人」とは?「他人性」をどう判断するのか?裁判例をもとに、詳しく見ていきましょう。自賠法3条の「他人」とは?自賠法(自動車損害賠償保障法)は、運行供用者責任について、次のように定めています。自賠法3条自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。自賠法では、自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)が、その運行によって「他人」の生命・身体を害したとき、損害賠償責任が生じます。つまり、自賠法3条にもとづき運行供用者に損害賠償を請求するには、被害者が運行供用者との関係で「他人」であることが要件となるのです。運行供用者について詳しくは、次のページをご覧ください。運行供用者とは?運行供用者の判断基準自賠法における運行供用者・運転者・保有者・被保険者の違いでは、自賠法3条にいう「他人」とは?自賠法3条の「他人」とは、運行供用者と運転者以外の者自賠法に「他人」の定義規定はありません。判例により、自賠法3条にいう「他人」とは、運行供用者と運転者以外の者を指すと解されています。運行供用者とは「自己のために自動車を運行の用に供する者」(自賠法3条)であり、運転者とは「他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者」(自賠法2条4項)です。ここで「他人のために」というのは「自己のために」の反対概念であって、自動車の使用についての支配権とそれによる利益が他人に帰属することを意味します。自賠法3条にいう「他人」について、運行供用者と運転者以外の者を指す、と判示した最高裁判例は次のものです。最高裁第二小法廷判決( 昭和42年9月29日)自賠法3条本文にいう「他人」とは、自己のために自動車を運行の用に供する者および当該自動車の運転者を除くそれ以外の者をいうものと解するのが相当である。最高裁第二小法廷判決(昭和37年12月14日)自賠法3条本文にいう「他人」のうちには当該事故自動車の運転者は含まれない。最高裁第三小法廷判決(昭和57年4月27日)自賠法3条本文にいう「他人」のうちには、当該自動車の運転者及び運転補助者は含まれない。運行供用者と運転者は、自賠法の保護対象外運行供用者と運転者・運転補助者以外の者が「他人」ということは、運行供用者と運転者・運転補助者は、事故で負傷しても、自賠法により保護されない、すなわち、自賠責保険による救済を受けられない、ということです。運行供用者は「事故の発生を防止すべき立場」にあり、運転者は「事故を起こした加害者」です。運行供用者および運転者は、自動車の運行に関して注意義務を負い、事故によって生じた損害の賠償責任を負う者ですから、自賠法により保護すべき「他人」には当たらない、というわけです。ただし、裁判例では、運行供用者や運転者・運転補助者であっても、「他人性」が認められるケースがあります。それはどんな場合か? 運行供用者や運転者・運転補助者の「他人性」をどう判断するのか? 具体的に見ていきましょう。家族や知人・友人の「他人性」被害者が運転者の家族や知人・友人であるからといって、それだけで「他人」に該当しないと判断されるわけではありません。次のような裁判例があります。妻は「他人」運転者と同乗者との間に親族関係があっても、そのことのみで同乗者が「他人」に当たらないとはされません。夫が運転中事故を起こし、同乗していた妻が負傷した事案につき、最高裁は、「自賠法3条は、運行供用者および運転者以外の者を他人といっているのであって、被害者が運行供用者の配偶者等であるからといって、そのことだけで、かかる被害者が他人に当らないと解すべき論拠はなく、具体的な事実関係のもとにおいて、かかる被害者が他人に当るかどうかを判断すべきである」と指摘したうえで、次のように判示しました。最高裁第三小法廷判決(昭和47年5月30日)妻が夫の運転する自動車に同乗中、夫の運転上の過失により負傷した場合であっても、右自動車が夫の所有に属し、夫が、もっぱらその運転にあたり、またその維持費をすべて負担しており、他方、妻は、運転免許を有しておらず、事故の際に運転補助の行為をすることもなかったなど判示の事実関係のもとにおいては、妻は、自賠法3条にいう他人にあたると解すべきである。自賠責保険は家族間の事故であっても保険金請求できる自賠法3条の「他人」には同乗者も含まれる好意無償同乗者も、自賠法3条にいう「他人」に当たる、との判断を最高裁が示しています。最高裁第二小法廷判決(昭和42年9月29日)自賠法3条本文にいう「他人」とは、自己のために自動車を運行の用に供する者および当該自動車の運転者を除くそれ以外の者をいうものと解するのが相当であり、酩酊のうえ助手席に乗り込んだ者も、運転手がその乗車を認容して自動車を操縦したものである以上、「他人」に含まれる。運転者が無償で好意により同乗させた者(好意同乗者・無償同乗者)が、自賠法3条にいう「他人」に当たるか、については様々な議論がありましたが、今日ではこれを肯定し、同乗の態様に応じて同乗者に対する賠償額を減額することができるかの問題が中心となっています。(参考:佐久間邦夫=八木一洋編『交通損害関係訴訟【補訂版】』青林書院 58ページ)好意無償同乗者への自賠責保険金の支払いについて詳しくはこちら運転者・運転補助者の「他人性」運転者および運転補助者は、加害者側として、運行供用者とともに、基本的には「他人」から除外されます。しかし、被害者保護の観点から、運転者や運転補助者が、その地位(立場)から離脱していたときに事故に遭った場合には、「他人」性を認めています。運転者(狭義の運転者)の他人性運転者(狭義の運転者)とは、「他人のために自動車の運転に従事する者」ですから、タクシー会社に雇用されているタクシー運転手や、バス会社に雇用されているバス運転手などが該当します。運転者を事故時に「現実に運転行為に従事していた者」と考え、一時的にその地位から離脱していた場合は、「他人性」が認められるケースがあります。例えば、長距離トラックの運転者が、事故発生時に、同乗していた交替運転手や運転助手に運転を委ねて、助手席や車内ベッドで仮眠していたような場合には、運転者の地位から離脱していたとして、「他人」と認められる可能性があります。ただし、事故時に直接運転に従事していなかったからといって、直ちに運転者の地位を離脱するわけではなく、そういう場合には「他人性」が否定されます。次のような裁判例があります。最高裁第二小法廷判決(昭和44年3月28日)正運転手としてみずから自動車を運転すべき職責を有し、助手に運転させることを業務命令により禁止されていたにもかかわらず、他所から来てまだ地理も分らない助手に運転させ、みずからは助手席に乗車して助手に運転上の指図をしていた正運転手は、事故時に運転者であったと解すべきであり、自賠法3条にいう「他人」に当たらない。運転補助者の他人性運転補助者とは、「他人のために自動車の運転の補助に従事する者」で、例えば、バスの後退を誘導する車掌などが当たります。事故が運転補助者の職務の範囲外の事実に起因する場合には、運転補助者の地位から離脱していることなどを根拠として「他人性」が認められるケースがあります。運転補助者の「他人性」を否定した最高裁判例としては、次のものがあります。最高裁第三小法廷判決・昭和57年4月27日運転者と「共同一体的に運行に関与した者として、少なくとも運転補助者の役割を果たしたものと認められる事情が多分にうかがわれる」場合は、「他人に当たらないと解される余地がある」とし、「単に命令服従関係になかったというだけでは、自賠法3条本文にいう他人に当たるとは断じえない」としました。運転補助者の「他人性」を認めた最高裁判例としては、次のようなものがあります。トラックに積載された鋼管杭をクレーン車の装置により工事現場に荷下ろしする際に、玉掛け作業を手伝ったトラックの運転者が鋼管杭の落下により死亡した事故で、被害者はクレーン車の運転補助者ではなく「他人」に当たるとしました。最高裁第二小法廷判決(平成11年7月16日)鋼管杭は工事現場で車上に積載したままの状態で工事業者に引き渡す約定とされており、トラックの運転者Aは、クレーン車の運転者Bが行う鋼管杭の荷下ろし作業について、指示や監視をすべき立場にも、作業を手伝う義務を負う立場にもなく、また、鋼管杭が落下した原因は、Bが自らの判断で鋼管杭を安全につり上げるのには不適切な短いワイヤーロープを使用した上クレーンの補巻フックにシャックルを付けずにワイヤーロープを装着したことにあり、その後Aが好意から玉掛けを手伝って行った作業が鋼管杭落下の原因となっているものではないという事情の下においては、Aは、クレーン車の運転補助者には該当せず、自賠法3条にいう「他人」に当たる。裁判例によると、運転者を補助すべき立場・地位にあり、その補助行為が事故の原因となっている場合には、運転補助者として「他人性」が否定されます。つまり、①運転者を補助すべき立場・地位にあること、②補助作業と事故発生との因果関係の存在が、運転補助者に該当する判断基準となります。①または②のどちらかの要素が否定されれば、補助行為をした者であっても、「他人性」が認められる可能性があります。共同運行供用者の「他人性」運行供用者は、事故発生を防止すべき立場にあり、自賠法における損害賠償の責任主体です。したがって、事故で被害者となっても、原則として自賠法3条にいう「他人」には当たらず、自賠法により保護されません。しかし、現在では、このような形式的な解釈はなされず、他にも運行供用者となる者(共同運行供用者)がいる場合には、共同運行供用者相互の運行支配の程度・態様を比較し、被害者となった運行供用者より他方の運行供用者の運行支配の程度が勝るときは、「他人性」が認められる場合があります。運行供用者であっても「他人性」が認められれば、付保されている自賠責保険に対し、保険金(損害賠償額)の支払いを請求できる場合があります。共同運行供用者の「他人性」については、被害者となった運行供用者以外の運行供用者が事故車両に同乗していたかどうかによって、次のように3つに類型化して検討されます。非同乗型事故時に、他方の運行供用者が同乗していなかった場合同乗型事故時に、他方の運行供用者も同乗していた場合混合型事故時に、他の運行供用者が車外と車内にいる場合非同乗型非同乗型とは、他方の運行供用者が、事故車両に同乗していなかったケース、すなわち車外にいたケースです。非同乗型の場合、「車外の運行供用者」と「被害者となった車内の運行供用者」の運行支配の程度・態様を比較し、どちらの運行支配が、直接的・顕在的・具体的か、によって判断します。非同乗型の判例次のような最高裁判例があります。同族会社の取締役が、私用で会社所有の自動車をみずから運転して出かけ、途中、同乗していた従業員と運転を交代し、従業員が運転中にガードレールに衝突し、取締役が受傷した事案です。最高裁第三小法廷(昭和50年11月4日)取締役Aは会社の業務終了後の深夜に本件自動車を業務とは無関係の私用のためみずからが運転者となりこれに従業員Bを同乗させて数時間にわたって運転したのであり、本件事故当時の運転者はBであるが、この点も、Aが会社の従業員であるBに運転を命じたという関係ではなく、Aみずからが運転中に接触事故を起こしたために、たまたま運転を交代したというにすぎない、というのであって、この事実よりすれば、Aは、本件事故当時、本件自動車の運行をみずから支配し、これを私用に供しつつ利益をも享受していたものといわざるをえない。もっとも、会社による本件自動車の管理の態様や、Aの会社における地位・身分等を斟酌すると、Aよる本件自動車の運行は、必ずしも、その所有者たる会社による運行支配を全面的に排除してされたと解し難いが、そうであるからといって、Aの運行供用者たる地位が否定される理由はなく、かえって、会社による運行支配が間接的、潜在的、抽象的であるのに対し、Aによるそれは、はるかに直接的、顕在的、具体的であるとさえ解されるのである。それゆえ、本件事故の被害者であるAは、他面、本件事故当時において本件自動車を自己のために運行の用に供していた者であり、…会社もまたその運行供用者であるというべきものとしても、その具体的運行に対する支配の程度・態様において被害者たるAのそれが直接的、顕在的、具体的である本件においては、Aは会社に対し自賠法3条の「他人」であることを主張することは許されないというべきである。この判例の判断基準によれば、運行供用者であっても、運行支配の程度・態様が、他方の運行供用者より間接的・潜在的・抽象的であれば「他人」といえる場合があり得るということです。ただし、実際に、自動車の運行を直接的・顕在的・具体的に支配している車内の運行供用者が、車外の運行供用者との関係で「他人」となることは難しいでしょう。同乗型同乗型とは、他方の運行供用者が、事故車両に同乗・運転していたケースです。同乗型の場合、車内の運行供用者同士の運行支配の程度・態様が比較されることになります。どちらの運行支配が、より直接的・顕在的・具体的か、ということです。このとき、運行支配の比較は、「ハンドルを握っていた」など物理的な支配の程度だけではなく、「自動車の運行による危険を制御すべき立場」という規範的な支配の程度として比較・検討されます。同乗型の判例次のような最高裁判例があります。自動車の所有者Aが、友人Bに運転を委ねて同乗中、Bの起こした事故により死亡した事案です。最高裁第二小法廷判決(昭和57年11月26日)所有者Aは、友人Bとともに本件自動車の運行による利益を享受し、これを支配していたものであって、単に便乗していたものではないと解するのが相当であり、また、Aがある程度B自身の判断で運行することをも許したとしても、Aは事故の防止につき中心的な責任を負う所有者として同乗していたのであって、同人はいつでもBに対し運転の交替を命じ、あるいは、その運転につき具体的に指示することができる立場にあったのであるから、BがAの運行支配に服さず同人の指示を守らなかった等の特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、本件自動車の具体的運行に対するAの支配の程度は、運転していたBのそれに比し優るとも劣らなかったものというべきであって、かかる運行支配を有するAはその運行支配に服すべき立場にあるBに対する関係において同法3条本文の他人にあたるということはできないものといわなければならない。この最高裁判例は、同乗していた所有者(被害者となった運行共有者)が、運転していた者(他方の運行供用者)との関係において「他人」といえるか、について、「特段の事情」がない限り、事故防止の中心的責任を負う所有者である運行供用者の運行支配の程度は、運転者の運行支配の程度に比べ、優るとも劣らない(=同等)とし、「他人性」を否定しました。判決のポイントは2つです。運行支配が同等の者の間では、自賠法3条の他人であることを主張できない車の所有者は事故の防止につき中心的な責任を負い、運転していなくても同乗している以上、特段の事情がない限り、運行支配の程度は運転者と同等「特段の事情」とは?「特段の事情」としては、①運転者が運行供用者の指示を守らなかった場合や、②飲酒のために運転代行を依頼した場合などがあります。代行運転について、「他人性」を肯定した次のような最高裁判例があります。運転代行業者に運転を依頼して同乗中に事故により負傷した自動車の使用権者Aが、運転代行業者に対する関係において、自賠法3条の他人に当たるとされた事例です。最高裁第二小法廷判決(平成9年10月31日)Aは、会社の所有する本件自動車を貸与され、これを会社の業務や通勤のために使用するほか、私用に使うことも許されていた。自動車の所有者は、第三者に自動車の運転をゆだねて同乗している場合であっても、事故防止につき中心的な責任を負う者として、右第三者に対して運転の交代を命じ、あるいは運転につき具体的に指示することができる立場にあるのであるから、特段の事情のない限り、右第三者に対する関係において、法三条の「他人」に当たらないと解すべきところ、正当な権原に基づいて自動車を常時使用する者についても、所有者の場合と同様に解するのが相当である。そこで、本件について特段の事情の有無を検討するに、Aは、飲酒により安全に自動車を運転する能力、適性を欠くに至ったことから、自ら本件自動車を運転することによる交通事故の発生の危険を回避するために、運転代行業者であるP代行に本件自動車の運転代行を依頼したものであり、他方、P代行は、運転代行業務を引き受けることにより、Aに対して、本件自動車を安全に運行して目的地まで運送する義務を負ったものと認められる。このような両者の関係からすれば、本件事故当時においては、本件自動車の運行による事故の発生を防止する中心的な責任はP代行が負い、Aの運行支配はP代行のそれに比べて間接的、補助的なものにとどまっていたものというべきである。したがって、本件は前記特段の事情のある場合に該当し、Aは、P代行に対する関係において、自賠法3条の「他人」に当たると解するのが相当である。混合型混合型とは、被害者となった運行供用者のほかに運行供用者が2人いて、一方は被害者と同乗・運転し、他方は同乗していない場合です。使用権者が、同乗中に事故で負傷するようなケースです。車内の使用権者(=運行供用者)と車外の所有者(=運行供用者)との関係では非同乗型、車内の使用権者(=運行供用者)と車を運転していた者(=運行供用者)との関係では同乗型に該当するので、それぞれの判断基準に従って、「他人性」を判断することになります。車内の使用権者と車外の所有者との関係では、車内の使用権者による運行支配の程度は「直接的、顕在的、具体的」であるのに対し、車外の所有者による運行支配の程度は「間接的、潜在的、抽象的」であるケースが多いでしょうから、車内の使用権者は、車外の所有者との関係において「他人性」が認められることは難しいと考えられます。車内の使用権者と車を運転していた者との関係では、「特段の事情」がない限り運行支配の程度は同等と判断され、車内の使用権者は、車を運転していた者との関係において「他人性」は否定され、「特段の事情」があるときは「他人性」が肯定されると考えられます。混合型の判例混合型については、次の裁判例があります。Aが、父親B所有の自動車に友人Cを乗せて深夜バーに赴き、Cと共に飲酒。Aが泥酔して寝込んでしまったので、Cがバーのカウンター上に置かれていたキーを使用してAを同自動車に乗せて運転しているさなかに事故を起こし、Aが負傷した事案です。原審の判断原審(名古屋高裁平成19年3月22日判決)は、Aには友人Cに対して本件自動車の運転を依頼する意思がなく、Aは泥酔していて意識がなかったため、Cが本件自動車を運転するについて指示はおろか、運転していること自体認識していないことなどから、Aの本件自動車に対する運行支配はなかったというべきであり、そうすると、Aを介して存在していたBの運行支配も本件事故時には失われていたとして、Bは運行供用者に当たらないとして、Aの請求を棄却しました。最高裁の判断Aが上告したところ、最高裁は、「BはCと面識がなく、Cという人物の存在すら認識していなかったとしても、本件運行は、Bの容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきであり、Bは、客観的外形的に見て、本件運行について、運行供用者に当たると解するのが相当である」として原判決を破棄し、AがBに対する関係において自賠法3条にいう「他人」に当たるといえるかどうか等について更に審理を尽くさせるため、差し戻しました。運行供用者の判断基準についてはこちらをご覧ください。差戻控訴審の判断Aと車外の所有者Bとの関係では「非同乗型」の判断基準に従うことになり、Aと運転者Cとの関係では「同乗型」の判断基準に従うことになります。差戻控訴審判決(名古屋高裁平成21年3月19日判決)は、Aは、BおよびCのいずれに対する関係においても「他人」に当たらないと判示しました。名古屋高裁判決(平成21年3月19日)所有者である父親との関係Bによる本件運行に対する支配は、あくまでAによるCに対する本件自動車の使用の容認・許諾を介するものであって、間接的、潜在的、抽象的であると言わざるを得ない。これに対し、Aによるそれは、Cの本件自動車の運転を容認することによって同人に同車の運転をゆだねたと評価できるものであるから、Bによるそれと比較して、より直接的、顕在的、具体的であったといえる。このような本件自動車の具体的な運行に対する支配の程度・態様に照らせば、Aは、運行供用者に該当し、かつ、同じく運行供用者に該当するBよりも、運行支配の程度・態様がより直接的、顕在的、具体的であったから、Bに対する関係において自賠法3条にいう「他人」に当たらないと解するのが相当である。運転していた友人Cとの関係Aは、Cを同乗させてバーに赴き、Cが運転免許を有さず飲酒していることを知りながら、バーから帰るためにCが本件自動車を運転することを容認した上で、電車やバスが運行されていない時間帯に飲酒して泥酔して寝込んでいたのであり、このような事情に照らせば、Aの本件自動車の具体的運行に対する支配の程度は、運転行為を行ったCのそれに優るとも劣らないというべきである。また、Cの本件運行は、Aの容認下に行われていたのであるから、最高裁昭和57年11月26日判決のいう自動車運転者が事故被害者(同乗の自動車の正当な使用権者)の運行支配に服さず同人の指示を守らなかった等の「特段の事情」があるともいえない。したがって、Aは、Cに対する関係において自賠法3条の「他人」に当たるということはできない。共同運行供用者の「他人性」の判断基準被害者が共同運行供用者である場合の「他人性」の判定基準は、運行支配の程度・態様を実質的に観察するという観点(「直接的・顕在的・具体的」か「観察的・潜在的・抽象的」か)であり、修正要素として規範的観点(自動車の所有者・使用権者等の事故防止責任)を盛り込むものです。(参考:公益財団法人 交通事故紛争処理センター編集『交通事故分s峰解決法理の到達点』第一法規 251~252ページ)共同運行供用者の「他人性」、すなわち「被害者となった運行供用者」が「他方の運行供用者」との関係において「他人」といえるか、について判断基準を裁判例をもとにまとめると、次の通りです。被害者となった運行供用者の運行支配の程度・態様が、他方の運行供用者の運行支配より、直接的・顕在的・具体的である場合には、被害者は自賠法3条にいう「他人」に当たらない。被害者となった運行供用者の運行支配の程度・態様が、他方の運行供用者の運行支配と同等の場合も、被害者は自賠法3条にいう「他人」に当たらない。被害者となった運行供用者の運行支配の程度・態様が、他方の運行供用者の運行支配より、間接的・潜在的・抽象的である場合には、被害者は自賠法3条にいう「他人」に当たる。事故車に同乗していた所有者および準所有者(正当な権原にもとづいて自動車を常時使用する者)は、「特段の事情」がない限り、自賠法3条の「他人」に当たらない。事故車に同乗していた所有者および準所有者が自賠法3条の「他人」に当たる「特段の事情」としては、①運転していた運行供用者が、所有者・準所有者の運行支配に服さず指示を守らなかった場合や、②飲酒のため運転代行を依頼した場合などがある。(参考:北河隆之著『交通事故損害賠償法 第3版』弘文堂 107ページ)被害者に「他人性」が認められないとき被害者に「他人性」が認められない場合でも、自賠法3条に基づく損害賠償請求ができないということであり、要件を満たす限り民法709条に基づく損害賠償請求をすることはできます。任意自動車保険(対人賠償責任保険)における保険事故は、一般に「非保険自動車の所有、使用または管理に起因して他人の生命または身体を害することにより、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担すること」とされており、被害者が自賠法3条の「他人」に当たらず自賠責保険が適用されない場合でも、対人賠償責任保険は適用され得ます。まとめ自動車事故による被害者が、自賠法3条に基づき、運行供用者に対して損害賠償を請求するには、被害者が運行供用者との関係において「他人」であることが必要です。自賠法3条にいう「他人」とは、運行供用者と運転者以外の者を指します。運行供用者とは、自己のために自動車を運行の用に供する者(自賠法3条)、運転者とは、他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者(自賠法2条4項)です。つまり、「他人」とは、「自動車による事故を抑止すべき立場にない者」と解されます。なお、被害者が共同運行供用者の場合の「他人性」は、運行支配の程度・態様を比較し、所有者・使用権者の事故防止責任といった規範的観点を考慮して、判断します。自賠責保険の支払いにあたっては、被害者の「他人性」が厳しく審査されます。特に、同乗者については、運行供用者や運転補助者に当たらないか、厳密に審査する傾向があるようです。運行供用者や運転者・運転補助者であっても、一律に「他人性」を否定し、自賠責保険の救済から除外されることはありません。お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『交通事故損害賠償法 第3版』弘文堂 91~109ページ・『交通関係訴訟の実務』商事法務 98~103ページ・『改訂版 交通事故事件の実務ー裁判官の視点ー』新日本法規 33~38ページ・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 28~34ページ・『三訂 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 79~82ページ・『要約 交通事故判例140』学陽書房 20~29ページ・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 269~276ページ・『交通事故実務入門』司法協会 38~41ページ・『実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集ー交通事故編ー』第一法規 65~67ページ・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第3版』弘文堂尾 50~61ページ・『プラクティス 交通事故訴訟』青林書院 70~74ページ・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 57~61ページ・『交通事故判例解説』第一法規 36~49ページ・『交通事故紛争解決法理の到達点』第一法規 231~252ページ
    Read More