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交通事故が原因で、寝たきりになったり、自分で食事や移動ができなくなった場合は、将来にわたって必要となる介護費を損害賠償請求できます。
ここでは、どんな場合に将来介護費が認められるのか、将来介護費の算定方法、将来介護費を認めた裁判例について、見ていきます。
将来介護費が認められるのは、基本的には、自賠法(自動車損害賠償保障法)施行令の[別表第1]に明示されている、「介護を要する後遺障害」の第1級と第2級に該当する場合です。第1級が常時介護を要する後遺障害、第2級が随時介護を要する後遺障害です。
等級 | 介護を要する後遺障害 |
---|---|
第1級 |
一 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
第2級 |
一 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
しかし、裁判では、これ以外の後遺障害であっても、具体的に後遺障害の内容・程度を検討し、介護の必要性が認められる場合は、将来介護費を認めています。
等級3級以下の後遺障害でも、高次脳機能障害、脊髄損傷、下肢欠損、下肢機能障害に関する場合は、将来介護費が認められる傾向にあるようです。
特に、高次脳機能障害の場合は、身体介護の必要性に乏しくても、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、判断力低下などの症状があり、介護として「見守り」や「声かけ」の必要性が認められるときは、将来介護費が認められています。
将来介護費の基準額は、「近親者による介護」か「職業付添人による介護」かによって異なります。
近親者による介護の場合の基準額は、常時介護を要するときは、1日あたり 8,000円(赤い本)、8,000~9,000円(青本)となっています。
随時介護を要するとき、すなわち、入浴、食事、更衣、排泄、外出など一部の行動について介護を必要とする状態のときは、具体的な介護の内容や必要な時間に応じて、基準額から減額します。
職業付添人による介護の場合の介護費は、実費が認められます。
認定される介護費には幅があり、後遺障害等級1級の場合で、日額1万5,000円~2万円の範囲で認めることが多いようです。
24時間態勢での看視が必要な場合や数時間ごとの体位交換が必要な場合など、複数の職業付添人が必要で介護の負担が特に思いケースでは、日額2万円を超える金額が認められています。
将来介護費は、次のように計算します。
[日額]×[365日]×[介護期間に対応するライプニッツ係数]
一般的には、一時金賠償のため、ライプニッツ方式で中間利息を控除します。
近親者による介護と職業付添人による介護を併用したり、将来的に近親者介護から職業付添人による介護に変わる場合は、近親者による介護費と職業付添人による介護費をそれぞれ計算して合計します。
将来介護費の日額は、介護の主体、介護の内容や時間、両親など近親者が介護する場合は肉体的・精神的な負担の程度、などを考慮して判断します。
被害者が植物状態にあって若年者であるなど、介護する近親者の肉体的・精神的負担が著しく重いと認められる場合には、近親者介護の基準額より増額されます。
また、被害者の体格や介護の内容により、複数の付添人による介護が必要と認められるような場合には、職業付添人による介護費が高めに認められることもあります。
近親者が就労している場合は、休日は近親者による介護、平日は職業付添人による介護というように、近親者による介護と職業付添人による介護の併用が認められます。
介護する近親者が被害者より高齢の場合は、近親者が就労可能な終期である67歳に達するまでは近親者による介護、その後は職業付添人による介護が認められます。
将来介護費が認められる介護の期間は、原則として、被害者の生存する期間です。
被害者の生存可能期間は、厚生労働省の簡易生命表の平均余命にもとづき、症状固定時からの余命年数とします。
重度後遺障害者は、平均余命よりも生存期間が短いといわれますが、被害者が平均余命よりも短いと認定するに足りるだけの根拠が提出されない限り、平均余命までの介護費を認めるのが普通です。
遷延性意識障害(植物状態)にある被害者についても、近時の裁判例は、平均余命まで生存する蓋然性が否定される特別な事情(例えば、被害者の健康状態が重度の合併症の存在等によって思わしくない状況にあるなどの事情)が認められない限り、生存可能期間を平均余命の年数をもって認める傾向にあります。
余命期間の認定が困難であることから、一時金賠償でなく、定期金賠償を認めた裁判例もあります。
被害者は、症状固定時20歳の男性で、常時介護が必要。
母親(50歳)の稼働可能年齢(67歳)までは近親者介護(1日あたり8,000円)、それ以降は職業付添人による介護(1日1万5,000円)とします。
この場合の将来介護費は、次のように計算します。
男性20歳の平均余命は、厚生労働省の簡易生命表(平成20年)によると、59年です。
症状固定時から母親が67歳になるまで、17年間分の介護費は、
17年のライプニッツ係数(年5%)が 11.2741ですから、
8,000円×365日×11.2741
=3,292万372円
それ以降の42年間分(59年-17年)の介護費は、
59年のライプニッツ係数(年5%)が18.8758ですから、
1万5,000円×365日×(18.8758-11.2741)
=4,161万9,307円
よって、将来介護費は、
3,292万372円+4,161万9,307円
=7,453万9,679円
介護の必要性や、必要とされる介護の内容・程度については、将来介護費を請求する被害者の側で立証しなければなりません。
少なくとも医師の診断書、後遺障害診断書のほか、自賠責の後遺障害等級の認定を受けた場合は、後遺障害等級認定票が必要です。
必要とされる介護の内容・程度については、日常生活動作に関する報告書や、介護を担っている近親者等の報告書・陳述書を提出し、被害者の生活実態、介護の内容・程度を明らかにする必要があります。
将来介護費の日額については、被害者と家族の生活実態、介護の内容・程度に関する報告書や陳述書、職業付添人による介護の場合は、介護費の領収書・見積書等により、必要な介護費を立証することが必要です。
将来介護費の算定にあたり、「介護保険給付」や「自動車事故対策機構からの介護料」が問題となることがあります。
結論をいえば、どちらも将来介護費の算定にあたり、損益相殺の対象となりません。
第三者が起こした交通事故によって要介護状態になった場合であっても、介護保険の給付がされます。
第三者が被保険者に対する損害賠償義務を履行する前に市町村が保険給付を行ったときは、市町村は、その給付の価額の限度において被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得するとされています(介護保険法21条1項)。
このように代位規定があることから、すでに給付のあった介護保険給付が損益相殺の対象となることは明らかです。
しかし、将来の介護保険給付については、現在と同じ給付の内容・水準が維持されるかどうかは不確定なため、損益相殺の対象としないのが一般的です。
裁判では、次のような理由で、被害者が未だ受領していない介護保険給付についての損益相殺を否定しています(さいたま地裁判決・平成17年2月28日)。
自動車事故対策機構(NASVA・ナスバ)からの介護料は、家族の負担を軽減するための贈与の性格を有するもので、損害から控除すべきでないとされており、損益相殺の対象となりません。
将来介護費を認めた裁判例を、いくつか挙げておきます。
8歳の男子(植物状態)
職業的介護人1名と近親者の合計3名の介護が必要として、1日当たり2万4,000円を平均余命まで、合計1億4,519万円余を認めた。
(大阪地裁・平成19年7月26日)
26歳の男性(膀胱障害を伴う四肢麻痺、1級3号)
2人分の職業付添介護費日額1万8,300円、平均余命53年分、合計1億2,302万円余を認めた。
(東京地裁八王子支部判決・平成12年11月28日)
23歳の女性(左不全麻痺、左知覚鈍麻、知能低下等、併合1級)
母親が67歳になるまでの10年間は、母親の介護費として日額8,000円、職業付添人の介護費として日額3,692円(2時間分)、その後平均余命までの52年間は職業付添人の介護費用として日額2万4,000円、合計1億3,200万円余を認めた。
(東京地裁・平成15年8月28日)
35歳の女性(右下肢のRSD、9級)
母親が67歳に達するまでは母、その後は職業介護人による介護が必要として日額1,000円、合計669万円余を認めた。
(大阪高裁・平成18年8月30日)
重度の後遺障害により、将来にわたり介護が必要となったときは、将来介護費を賠償請求できます。
近親者が介護する場合は、1日あたり8,000円が基準額です。職業付添人による介護の場合は、実費が認められます。そのほか、次の点は、知っておくとよいでしょう。
将来介護費は、一般的に高額となるため、よく争いになります。お困りのときは、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。
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※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
【参考文献】
・『交通損害関係訴訟 捕訂版』青林書院 179~191ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 124~129ページ
・『交通事故事件の実務』新日本法規 54~56ページ
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 155~158ページ