事故車両の買替えが認められるのは?物理的全損・経済的全損の違い

被害車両の買替えが認められる場合とは? 物理的全損・経済的全損の違い

交通事故による車両損害は、適正修理費の賠償が原則。新車だからという理由だけで買替えは認められません。被害車両の買替えが認められるのは、物理的全損、経済的全損、社会的全損の3つの場合があります。

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交通事故による車両損害は、修理が可能であれば、修理費用の賠償が原則です。たとえ新車であっても、「新車だから」という理由だけで、新車買替えが認められるわけではありません。例えば、新車引渡し20分後の事故ですら、新車購入費用の請求を認めなかった裁判例もあります(東京地裁判決・平成12年3月29日)

 

どんな場合に車両の買替えが認められるのか、詳しく見ていきましょう。

 

車両の買替えが認められるのは全損の場合

車両損害は、修理が可能かどうかで全損と分損に区分されます。修理不能の場合は全損、修理可能な場合は分損となります。車両の買替えが認められるのは、全損の場合です。

 

全損 修理不能なので買替が認められる
分損 修理可能なので修理が相当

 

買替えでも賠償額は被害車両の時価額の範囲

買替えが認められるといっても、自動車を新しく買い替えるための費用が全額認められるわけではなく、損害として賠償を受けられるのは、事故時の被害車両の時価額の範囲です。

 

そもそも、物損の損害賠償は、財産上の損害を事故前の状態に回復させることなので、被害車両の時価額を超える損害賠償は、被害者に利得をもたらすことになり、公平でないという考え方です。

 

分損でも買替えが認められる場合がある

技術的には修理が可能でも、修理費が車両時価額(事故時の車両価額)より高くなる場合は、買替えが認められます。修理をするよりも、買い替える方が経済的合理性があるからです。

 

つまり、車両の損害は、修理費か車両時価額のいずれか低い方を賠償すればよい、ということなのです。

買替えが相当と認められる3つのケース

買替えが認められるのは全損の場合ですが、全損には次の3つのタイプがあります。

 

  1. 物理的に修理不能(物理的全損)のとき
  2. 経済的に修理不能(経済的全損)のとき
  3. 社会通念上相当(社会的全損)と認められるとき

 

①物理的全損

車両の損傷が激しく、技術的・物理的に修理が不可能な状態を「物理的全損」といいます。本来の意味の全損ですから、買替えが認められます。

 

②経済的全損

技術的には修理可能でも、修理費が車両時価額を上回る場合は、修理をするより買い替える方が経済的合理性があると判断されます。このように「経済的に修理不能」な状態を「経済的全損」といい、車両の買替えが認められます。

 

こういう場合は、修理をしても、車両時価額を超える修理費は、損害賠償を受けられません。

 

③社会的全損

技術的に修理不能ではないものの、車体の本質的構造部分に重大な損傷を受け、買替えをすることが社会通念上相当とされるときは、「社会的全損」という場合があります。

 

損傷が車両の安全性に関わる部分に生じ、車両性能の著しい減損を伴うため、事実上、物理的全損ともいえます。

 

「社会的全損」という呼称は、北河隆之氏が『交通事故損害賠償法第2版』弘文堂337~338ページで使用しています。

「社会通念上相当と認められるとき」とは?

物理的全損・経済的全損のほか、「買替えをすることが社会通念上相当と認められるとき」も、買替差額を請求できるというのは、最高裁判決で示されました。

 

次のような判決です。

 

最高裁第二小法廷判決(昭和49年4月15日)

交通事故により自動車が損傷を被った場合において、被害車両の所有者が、これを売却し、事故当時におけるその価格と売却代金との差額を損害として請求しうるのは、被害車両が事故によって物理的または経済的に修理不能と認められる状態になったときのほか、フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められ、被害車両の所有者においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるときをも含むと解すべきである。

 

ただし、このケースに該当することを肯定した裁判例は極めて少ないのが実情です。肯定例として、札幌高裁判決・昭和60年2月18日があります。

 

なぜ、該当例が少ないかというと、「買替えをすることが社会通念上相当と認められるとき」とは、どのような場合が該当するのか、その判断が容易ではないこと、さらに「重大な損傷の生じたことが客観的に認められ」ることが必要で、主観的に車両の安全性に不安を感じるというだけでは該当しないこと、などが理由として挙げられます。

 

なお、車体の本質的構造部分とは、フレームのほか、クロスメンバー、フロントインサイドパネル、ピラー、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロアパネル、トランクフロアパネル、エンジン、車軸などを指します。

まとめ

車両の損害は、修理費の賠償が原則です。車両の損害は、大きくは全損と分損に区分されます。

 

全損(物理的全損・経済的全損・社会的全損)の場合は、買替えが認められ、買替差額を損害賠償請求請求できます。分損の場合は、適正修理費用(必要かつ相当な修理費用)を損害賠償請求できます。

 

なお、ローン返済中の所有権留保車両の場合、使用者(購入者)は、車両の所有権がないため、買替差額を請求することはできません。所有権留保車両やリース車両の損害賠償請求権について詳しくはこちらをご覧ください。

 

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【参考文献】
・『別冊判例タイムズ38』 17ページ
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 206~210ページ
・『交通関係訴訟の実務』商事法務 427~431ページ
・『要約 交通事故判例140』学陽書房 278~282ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 337~338ページ
・『交通事故事件の実務』新日本法規 100~103ページ
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 239~241ページ
・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 227~231ページ
・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 271~287ページ
・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 169~170ページ

公開日 2021-09-11 更新日 2023/03/18 13:28:15