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車両修理費の賠償は、必要かつ相当な範囲で認められ、基本的には板金修理費と部分塗装費用が相当とされます。部品交換や全面塗装の費用が認められるのは、合理的な理由があるときのみです。
どんな場合に、部品交換や全面塗装の費用まで認められるのか、裁判例から見ていきましょう。
板金修理が相当か、部品交換まで認められるかは、板金修理が不可能ないし不適当かを考慮し、社会常識的に見た部品交換の必要性・相当性から判断されます。
板金修理とは、車体の損傷部分の金属板を加工する修理方法です。板金修理が可能であれば、修理は損傷した車体の一部のみで済み、部品交換に要する費用は修理費として過分となります。
部品交換の必要性・相当性について争われた裁判例には、次のようなものあります。
部品交換の必要性を否定し、板金修理が相当とした裁判例には、次のようなものがあります。
被害車両に認められるべき修理の程度は、「社会常識的に見て、車両の異常が除去され、事故前の状態に復したと認められる程度」であるとし、部品交換の方が経済的である等の理由がない以上、板金修理によるべきとしました。
(岡山地裁判決・平成6年9月6日)
左フロントフェンダーと左フロントドアパネルの損傷につき、板金塗装による不具合の恐れを抽象的可能性に過ぎないとし、板金による修理に比して部品代が相当に高額であるとして、部品交換の必要性を認めませんでした。
(東京地裁判決・平成27年2月23日)
部品交換を認めた裁判例としては、次のようなものがあります。
樹脂製のリヤバンパーについて、金属部品と異なり、板金修理・塗装は困難として、同部分の交換の相当性を認めました。
(名古屋地裁判決・平成28年9月5日)
交換が相当であるリヤバンパーの着脱に付随して、変形及び損傷が余儀なくされる部品の取替えの必要性を損害額の認定に際して考慮しました。
(東京地裁判決・平成28年2月4日)
ボディ交換の必要性については、モノコック構造(エンジンやサスペンションが取り付けられている車台としてのフレーム部分が独立していない構造)の車両の損傷の場合に、争点となることがあります。
モノコックボディというだけで、ボディ全部を交換する必要があるとは認められず、修理見積書・報告書・意見書等に基づいて、ボディ交換の必要性を判断します。
(名古屋地裁判決・平成23年6月17日、名古屋地裁判決・平成12年2月28日、大阪地裁判決・平成6年9月20日)
塗装は修理の一環として行われ、塗装費用は、修理費用と同様、必要かつ相当な範囲で認められます。基本的には、車両全体を全面塗装しなければならない合理的理由がない限り、部分塗装が相当とされます。
全塗装費用の請求が認められるのは、次の3つの場合です。
これは、札幌地裁室蘭支部判決(昭和51年11月26日)が指摘したものです。この3つ場合に限り、全塗装費用が認められるとして、当該事件については全塗装費用を否認しました。
全塗装費用が認められた裁判例として、次のものがあります。
バッテリー液により汚損された事案につき、汚損された範囲が明確にできず、広範囲な部位にわたって飛散したため、車体の保護等のため全塗装が選択されたことに合理性があるとして、全塗装費用を損害として認めました。
(東京地裁判決・平成元年7月11日)
外観の損傷が著しく、全塗装しても部分塗装しても金額が変わらないことから、全塗装が認められました。
(京都地裁判決・平成5年10月27日)
ベンツの中でも特に高級車とされるメルセデスベンツ500SLのオープンカーにつき、特殊塗装のため、部分塗装では色合わせが困難であり、事故車であることが時とともに一目瞭然となり、車両価値がそれだけ低下するとして、全塗装の必要性を認めました。
(神戸地裁判決・平成13年3月21日)
部分塗装費用を損害賠償の対象とした裁判例として、次のものがあります。
新車購入後約2年のキャデラックにつき、塗装部分と非塗装部分との差異は、外観に重大な影響を与えるものとは言い難く、光沢の差異は被害車両に既に色あせ等が生じていたためであること、全塗装費用は部分塗装費用の2倍以上に及ぶことから、全塗装では過大な費用をかけて原状回復以上の利益を得させることになるとして、部分塗装費用のみを損害賠償の対象としました。
(東京地裁判決・平成7年2月14日)
この東京地裁判決(平成7年2月14日)は、もう1つ別の注目すべき部分があります。
全面塗装か部分塗装かについて、被害者と加害者側保険会社で話し合いがまとまらず、修理されないまま放置された結果、車両に劣化が生じて、新たな修理費用が必要となったとしても、部分塗装を前提とすべきである等の理由から、新たに必要となった修理費用は、本件事故と相当因果関係を有する損害とは言えないと判示しました。
修理した後で、修理費が一部しか賠償されないといったリスクを避けるには、修理・塗装を実施する前に、保険会社と修理費協定しておくことが大切です。
しかし、協議がまとまらず訴訟を提起するような場合は、修理しないまま放置しておくと、車両は劣化が進み、新たな修理費が必要となります。それについては損害賠償を受けられませんから、注意が必要です。
現在の塗装の精度は飛躍的に向上し、部分塗装であることによって修復歴が認められるほどの色むらが発生することはありませんが、色むらが不可避的に生じるような場合には、評価損を請求することになります。
全面塗装は否定されても、評価損が認められる場合があります。この場合の評価損は、取引上の評価損でなく、技術上の評価損です。
製造から40年経過のビンテージカーのフロント部分が損傷した事案につき、ボディ全体の交換と全塗装の費用を請求しましたが、板金修理・部分塗装が可能であるとして、板金修理と部分塗装の費用が事故と相当因果関係を有する損害であると認定。別途、評価損を認定しました。
(大阪地裁判決・平成20年3月27日)
全塗装費用についての賠償請求が認められるか否かの問題は、結局のところ、修理の相当性の問題につきます。したがって、相当な修理の範囲として、どのような塗装が必要とされるのか、という観点から検討する必要があります。
その参考になるのが、東京高裁判決(平成26年1月29日)です。キャンディ・フレーク塗装が施されていた車両について、車両の塗色、塗装後の見え方をふまえて、全塗装までは不要とされた事例です。
キャンディ・フレーク塗装とは、フレーク塗装(光を反射するフレークを塗料に混入して塗布)を下塗りした後に、キャンディ・カラー塗装(有色透明のキャンディ・カラー塗料とクリアコート剤とを混ぜたもの塗布)を施して、独特の光沢を出す塗装方法です。
この裁判例は、結論としては、キャンディ・フレークという特殊な塗装方法でも、それだけでは全面塗装が必要とは認められなかったものの、損害箇所のみの部分塗装でなく、損傷個所の周辺部分までの塗装を認めました。損害箇所のみの部分塗装では足りないとしたのです。
このように、損害箇所のみの部分塗装か、全面塗装か、の二者択一でなく、相当な修理がどの範囲かという観点で検討すれば、合理的な落としどころもあるのです。
金メッキを施したバンパーや、デコレーション「飾り」などは、走行等の車両の機能にプラスの影響を及ぼすものではなく、むしろ修理費を増大させ、無用に損害を拡大させているとして、修理費を減額した裁判例があります。
車両修理費の賠償は、基本的に、板金修理と部分塗装の費用です。部品交換や全面塗装の費用が認められるのは、合理的な理由があるときのみです。全塗装費用が認められなくても、評価損が認められる場合があります。
保険会社と修理費について合意できないからと、修理に着手せず放置していると、車両の劣化が進み、不要な修理費がかかってしまうことになりかねませんから、注意が必要です。
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【参考文献】
・『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 195ページ
・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 200~205ページ
・『物損交通事故の実務』学陽書房 32~33ページ、44~47ページ
・『Q&Aと事例 物損交通事故解決の実務 58~63ページ、173~178ページ