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被害車両が全損で買替えが相当となった場合は、車両の購入代金のほか、車両買替えに要する諸費用についても、損害賠償を受けられるものがあります。
買替諸費用のうち、損害賠償を受けられるもの、受けられないものについて、具体的に見ていきましょう。
買替諸費用とは、買い替えた車両を使用できるようにするために必要な、検査・登録に要する費用や税金です。被害車両に関する諸費用(廃車費用のほか、既払いの自動車税や自賠責保険料など)についても、通常、買替諸費用に含めて考えます。
具体的には、自動車税(環境性能割・種別割)、自動車重量税、消費税、リサイクル料金、自賠責保険料、検査・登録費用、車庫証明費用、廃車費用などです。
買替諸費用が、損害賠償の対象と認められるか、すなわち、事故と相当因果関係のある損害として認められるかは、基本的に次の観点から判断します。
車両を新たに取得するするために要する費用、事故車両を廃車にするために要する費用や無駄になる既払い費用は、損害として認められます。
それに対し、車両を保有することにより発生する費用で、事故車両を廃車するときに還付制度があり、既払い費用のうち未経過分が返金されるものは、損害として認められません。
損害として認められる買替諸費用であっても、具体的に損害賠償の対象として認められる額は、被害車両と同等の車両の取得に要する金額に限られます。
東京地裁判決は、次のように判示しています。
買替諸費用等とは、被害車両に代えて新車を購入した場合に要する諸費用ではなく、被害車両と同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得した場合に要する諸費用等をいう。
例えば、被害者が新車に買い替えたとしても、車両価格はもちろん、買替諸費用についても、事故車両と同等の中古車を購入するのに要する費用相当分しか認められません。
こんな裁判例があります。
新車への買替時に要する費用合計額が13万9,782円であると認定した上で、被害車両と同等の中古車相当分として約5割の7万円のみを損害賠償の対象として認めました。
それでは、損害として認められる費用、認められない費用、それぞれ具体的に見ていきましょう。
次の諸費用は、事故がなければ、被害者が負担することのなかったものであり、新たに車両を取得するのに要する費用なので、事故と相当因果関係のある損害として認められています。
自動車税環境性能割は、自動車を取得したときに、自動車の燃費性能等に応じて課税される税金です。軽自動車税環境性能割も同様です。旧・自動車取得税が2019年10月1日より廃止になり、自動車税環境性能割が導入されました。
自動車の取得時に課税されるので、損害として認められます。
自動車のエネルギー消費効率の基準エネルギー消費効率に対する達成の程度その他の環境への負荷の低減に資する程度に応じ、自動車に対して課する自動車税をいう。
三輪以上の軽自動車のエネルギー消費効率の基準エネルギー消費効率に対する達成の程度その他の環境への負荷の低減に資する程度に応じ、三輪以上の軽自動車に対して課する軽自動車税をいう。
自動車税・軽自動車税の納入義務者については、次のように定めています。
自動車税は、自動車に対し、当該自動車の取得者に環境性能割によって、当該自動車の所有者に種別割によって、それぞれ当該自動車の主たる定置場所在の道府県が課する。
軽自動車税は、三輪以上の軽自動車に対し、当該三輪以上の軽自動車の取得者に環境性能割によって、軽自動車等に対し、当該軽自動車等の所有者に種別割によって、それぞれ当該三輪以上の軽自動車及び当該軽自動車等の主たる定置場所在の市町村が課する。
一般的には、車両価格(車両時価額)に消費税も含めますが、車両価格に含まれていない場合は、事故車両と同程度の車両を取得した場合の消費税相当額が、損害として認められます。
リサイクル預託金とは、自動車リサイクル法(使用済自動車の再資源化等に関する法律)にもとづき、自動車購入時に納めるリサイクルのための費用です(自動車リサイクル法73条)。
自動車を新車で購入する場合には、購入者は販売店経由で公益財団法人自動車リサイクル促進センターに、リサイクル預託金を収めることになります。
中古車を購入する場合には、中古車販売店にリサイクル預託金相当額を支払います。所有車両を売却したり下取りに出したりした場合には、車両所有者は相手方からリサイクル預託金相当額を受領します。
自動車重量税は、車両の重さに応じて課される税金です。車検のタイミングで、車検証の有効期間分をまとめて支払います。自動車重量税には未経過分の還付制度がありませんから、被害車両の自動車重量税の未経過分は、損害として認められます。
自動車重量税は、自動車が車検を受けること等によって走行可能になるという法的地位あるいは利益を受けることに着目して課税される一種の権利創設税であるという考え方により、廃車した場合の還付制度は認められていません。
ただし、「使用済自動車に係る自動車重量税の廃車還付制度」により還付された分は除きます。
平成14年度税制改正において、使用済自動車の不法投棄防止・自動車リサイクルの促進の観点から、自動車リサイクル法の制定及び道路運送車両法の改正に伴い、廃車還付制度を創設し、平成17年1月から自動車リサイクル法の施行と同時にスタートしました。
自動車リサイクル法に基づき使用済自動車が適正に解体され、解体を事由とする永久抹消登録申請または解体届出と同時に還付申請が行われた場合に、車検残存期間に対応する自動車重量税額が還付されます(租税特別措置法90条の15)。
検査・登録の法定費用と、その手続きを業者に委託するときの代行費用(手数料)は、損害として認められます。
次の費用が該当します。
ディーラー(販売業者)の手続代行費用については、法定費用と異なり、本人自ら行い得る手続きを業者に代行してもらうことに対する報酬であるため、かつては事故との相当因果関係を否定する見解も有力でした。
現在の裁判例では、車両を購入した際、これらをディーラーに依頼しているのが実情であることに照らし、相当な範囲で損害と認めるのが一般的です。
次の諸費用は、車両を取得するためでなく、保有するために要するものであり、廃車したときには未経過分について還付制度があること等から、損害として認められません。
自動車税種別割・軽自動車税種別割は、毎年4月1日現在の自動車の所有者に対し、用途や排気量に応じて課税されます。2019年10月1日より、自動車税から自動車税種別割に、軽自動車税から軽自動車税種別割に、名称が変わりました。
自動車の種別、用途、総排気量、最大積載量、乗車定員その他の諸元の区分に応じ、自動車に対して課する自動車税をいう。
軽自動車等の種別、用途、総排気量、定格出力その他の諸元の区分に応じ、軽自動車等に対して課する軽自動車税をいう。
自動車税種別割は、賦課期日(4月1日)後に新規登録または廃車した場合、月割課税となります(地方税法177条の10)。
すなわち、賦課期日後に新規登録した場合は、登録月の翌月から年度末までの月数による課税となり、賦課期日後に廃車した場合は、抹消登録の翌月から年度末までの未経過分が還付されます。
車両を売却し、所有者が変更となる場合は、4月1日現在の所有者にその年度分が全額課税され、未経過分の還付はありません。この場合は、車検付きの車両として、その分、車両価格が高めに評価されます。
したがって、自動車税種別割は、自動車の買替えにともない、損害として認められません。
軽自動車税種別割は、自動車税種別割のような月割課税の制度はありません。4月1日現在の所有者にその年度分が全額課税されます。
年度の途中で廃車や譲渡をした場合に、月割での税金の還付はありませんが、年度の途中で取得した場合は、翌年度4月1日現在で所有の時点まで税金はかからない仕組みです。
このため、軽自動車税種別割は、廃車にともなう未経過分の還付はありませんが、その未経過分を損害とは認められません。
自賠責保険料は、車両購入時と車検時に、車検有効期間分をまとめて支払います。
自動車を廃車し、抹消登録を受けた場合には、自賠責保険を解約できます(自賠法20条の2、同法施行規則5条の2第1号、自賠責保険普通保険約款10条1項)。
自賠責保険を解約した場合には、保険料の返還を受けることができます(自賠責保険普通保険約款13条2項)。
したがって、自賠責保険料は、車両買替えにともない、損害として認められません。
被害者が、自身の車両保険を利用すると保険料が上がることから、増額した保険料差額を損害として賠償請求が認められるか否かが問題となる場合があります。
車両保険は、被害者のリスク回避のために締結されたもので、車両保険を利用するか否かは、被害者の自由な判断にゆだねられていることを理由に、事故と相当因果関係を否定され、保険料差額については損害として認められません。
車両買替えのために必要となる諸費用のうち、自動車税環境性能割、検査登録費用、車庫証明費用、廃車費用などは、損害として認められます。
他方、被害車両の自動車税種別割、自賠責保険料については、廃車により抹消登録や保険解約すれば、未経過分が還付または返金されるので、損害とは認められません。軽自動車税種別割については、未経過分の還付はありませんが、損害として認められません。
自動車重量税は、自動車リサイクル法に定める要件を満たす場合には、廃車還付制度があるので損害として認められませんが、それ以外の場合に未経過分が損害として認められます。
弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。
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※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
【参考文献】
・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 231ページ
・『交通関係訴訟の実務』商事法務 433ページ
・『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 196ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 344~345ページ
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 248~249ページ
・『交通事故事件の実務-裁判官の視点-』新日本法規 102~103ページ
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 213~214ページ
・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 173~175ページ
・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規 262~264ページ
・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 284~286ページ
・『Q&Aと事例 物損交通事故解決の実務』新日本法規 82~88ページ
・『物損交通事故の実務』学陽書房 70~71ページ
・『交通事故損害賠償の手引』企業開発センター 59~62ページ