専業主婦・主夫の逸失利益・休業損害の基礎収入の算定方法

休業損害・逸失利益の基礎収入の算定と証明【主婦・主夫の場合】

専業主婦・有職主婦、男性の家事労働従事者(主夫)の逸失利益・休業損害を算定する際に必要となる基礎収入額の計算・証明の方法について解説しています。

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家事従事者(専業主婦・専業主夫)も、交通事故で家事労働ができなくなった場合は、休業損害や逸失利益を請求できます。

 

その場合の基礎収入は、賃金センサスの女性労働者平均賃金が用いられます。主婦も主夫も、つまり「女性の家事従事者」も「男性の家事従事者」も同じです。

 

有職者で家事労働に従事している場合(兼業の主婦・主夫)は、現実の収入額と平均賃金の多い方を基礎収入とします。

 

専業主婦・専業主夫も休業損害や逸失利益が認められる

専業主婦・専業主夫は、現実に収入を得ているわけではありませんが、家事労働という労務を提供しています。

 

家事労働は、他で労務提供すれば、金銭的に評価され、相当の収入を得ることができるものです。つまり、報酬相当の利益を家族のために確保しているといえます。

 

そのため、主婦や主夫が交通事故で従前のように家事労働ができなくなった場合は、休業損害や逸失利益が認められます。

 

専業主婦の逸失利益を認めた最高裁判決(昭和49年7月19日)

結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によって現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。

 

ただ、具体的事案において金銭的に評価することが困難な場合が少くないことは予想されうるところであるが、かかる場合には、現在の社会情勢等にかんがみ、家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年令に達するまで、女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である。

 

専業主婦(女性の家事従事者)の基礎収入の算定方法

専業主婦の基礎収入は、原則として、賃金センサスの「女性労働者の全年齢平均賃金」を用います。

 

ただし、被害者の年齢、家族構成、身体状況、家事労働の内容に照らし、女性労働者の全年齢平均賃金に相当する労働を行いうる蓋然性が認められない場合は、女性年齢別の平均賃金を用いたり、一定程度減額して用いることがあります。

 

例えば、高齢の場合(おおむね65歳から70歳程度以上)、家事労働の内容が壮年期とは異なっているとして、年齢別平均賃金を基礎とするなど減額する裁判例があります。

 

その一方で、家事労働における基礎収入は学歴や年齢によって差異が生じるものではないとして減額をみとめない裁判例もあります。

 

家族構成や実際に従事していた家事の具体的状況についての立証が大切です。

 

東京地裁・大阪地裁・名古屋地裁の各交通部による「三庁共同提言」では、原則として全年齢平均賃金を用いることとしています。

 

専業主夫(男性の家事従事者)の基礎収入の算定方法

男性の家事従事者(専業主夫)の場合も、主婦の場合と同様に、賃金センサスの「女性労働者の全年齢平均賃金」を基礎収入とするのが通例です。

 

「男性」労働者の平均賃金でなく、「女性」労働者の平均賃金である点に注意してください。

 

交通事故の損害賠償額算定において、家事従事者とは「性別・年齢を問わず、現に家族のために家事労働に従事する者をいう」と定義されています(青本26訂版)

 

男性の家事労働に限って、その金銭的評価を男性平均賃金に引き上げるべきとする根拠に乏しいことから、男性の家事従事者についても、女性平均賃金を用いるのが通例とされています。

 

男性の家事従事者の基礎収入の算定に、女性の平均賃金を用いることには、違和感を感じますよね。

 

そうかといって、男性の家事従事者に男性の平均賃金を用いると、同じ家事労働で男女の格差が生じ、おかしな話になります。

 

そもそも、男女間に賃金格差があり、家事労働が女性の仕事とされてきたのが問題です。

 

家事従事者の基礎収入の算定に、女性の平均賃金を用いるのは、上で紹介した昭和49年(1974年)の最高裁判決の重みが大きいようです。

 

最高裁判決をもう一度ご覧になってみてください。こう指摘しています。

 

現在の社会情勢等にかんがみ、家事労働に専念する妻は、…女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である」

 

この判決から半世紀が経ち、「現在の社会情勢等」はずいぶん変わっています。現在の社会情勢にあった算定方法が求められています。

 

なお、女性の場合には、配偶者等が存在すれば家事労働者性が問題とされることは通常ありませんが、男性の場合には、家事従事者への該当性やその程度が問題とされ、従事していた家事労働の具体的内容について立証が必要となるのが通常です。

兼業主婦・兼業主夫の基礎収入の算定方法

兼業の家事従事者の基礎収入は、原則として、現実収入額と女性労働者全年齢平均賃金のいずれか高い方によります。

 

現実収入分と家事労働分を加算するわけではありません。

 

ですから、現実収入が平均賃金より高い場合は、家事労働分は「ゼロ査定」ということになります。

代替労働力を利用した場合

家事労働に従事できない期間に、家事代行サービス等を利用した場合は、支出した家事代行サービスの費用が損害(積極損害)となります。

 

この場合、家事代行サービスの費用支出は、家事従事者が行う家事に代わるものですから、これと重ねて休業損害は発生しません。

まとめ

専業主婦や専業主夫など家事労働従事者の場合、実際に収入がなくても、家事労働を提供していることに対して休業損害や逸失利益が認められます。基礎収入の算定には、一般に賃金センサスの「女性労働者の全年齢平均賃金」が用いられます。

 

パートなどで働きに出ている場合は、現実の収入額と平均賃金の高い方を基礎に収入を算定します。

 

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公開日 2021-04-12 更新日 2023/03/27 05:57:10