示談の「やり直し」ができる場合とは?

Point
  • いったん示談すると、原則として示談のやり直しはできませんが、例外として、予想外の後遺症が発生した場合は、示談のやり直し(追加請求)が認められます。
  • 示談の内容が公序良俗に反する場合や、虚偽・錯誤・詐欺・強迫による示談の場合は、示談は無効・取り消しとなります。

 

示談のやり直し・無効・取り消しが認められる場合がある

いったん示談すると、原則として「やり直し」はできません。ただし、次のような場合は、例外として、追加請求や示談の無効・取り消しが認められます。

 

  1. 予想外の後遺症が発生した場合は、損害賠償金の追加請求が認められます。
  2. 示談が、公序良俗に反する場合や虚偽、錯誤による場合は無効となります。
  3. 詐欺・強迫による場合は示談を取り消すことができます。
  4. 示談内容が履行されない場合は、示談契約を解除し、適正な損害賠償金額を請求できます。

 

それぞれ詳しく見てみましょう。

 

目次
  1. 示談のやり直し(追加請求)が認められるケース
  2. 示談を無効・取り消しにできるケース
  3. 示談契約を解除できるケース
  4. まとめ

 

弁護士法人・響

予想外の後遺症が発生したときは、示談のやり直しができる

示談成立後に予想外の後遺障害が発生した場合、被害者は、示談金とは別に後遺障害による損害を賠償請求できます。

 

最高裁は、「示談当時予想できなかった後遺症等については、被害者は、後日その損害の賠償を請求することができる」とする判決を出しています。

 

この判決は、事故直後には比較的軽微な傷害とみられ、少額の賠償額で示談したものの、あとになって予期せぬ重傷であることが判明して手術し、結果的に機能障害が残った事案です。

 

最高裁の判決要旨は次の通りです。

 

予期せぬ後遺症について追加の損害賠償請求を認めた最高裁判決

全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもって示談がされた場合においては、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって、その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。

 

最高裁判決(昭和43年3月15日)の詳細はこちら
 ※最高裁のWebサイトにリンクしています。

 

示談後の追加請求は、理由をどう主張するかがポイント

示談後に後遺障害が発生したからといっても、いったん示談が成立している以上、簡単に追加の損害賠償請求が認められるわけではありません

 

「損害賠償は既に解決している」と思っている相手に対し、再度の損害賠償を求め、示談交渉を申し入れるのですから、トラブルは避けられません。新たに発生した後遺障害と事故との因果関係の証明も必要となり、被害者の負担は非常に大きくなります。

 

再交渉には、相手を納得させられる理由が必要です。どう主張すればいいのか、法的に認められる可能性のある方法を2つ紹介します。

 

新しい事態の発生に「示談の効力は及ばない」ことを主張

示談当時に予想できなかった損害が後から発生した場合は、新たな損害に示談の効力(権利放棄条項の効力)が及ばないことを主張する方法です。

 

重要な事実関係に錯誤があったとして「示談の無効」を主張

重要な事実関係に錯誤があったとき、示談は無効にできます。平たく言えば、「こんな事態が生じるなら、あのような示談はしなかった」「こんな事態になるとは思わなかったから、あのとき示談に応じた」と主張する方法です。

 

加齢にともなう後遺障害の悪化では再示談は難しい

認定された後遺障害等級にもとづき示談したものの、加齢とともに症状が悪化することがあります。

 

こういうケースでは、加齢による悪化は予測できたと判断され、通常の加齢にともなう症状の悪化をはるかに超えるような予想外の悪化でない限り、再示談は難しいようです。

 

示談書には留保条項を入れておくことが大切

示談するときには軽傷と思っていても、後遺症が発生することはあります。念のため、示談書に後遺障害に関する留保条項を入れておくことが大切です。

示談の無効・取り消しができるケース

次のような場合は、示談の無効・取り消しが認められます。

 

 

公序良俗に反する示談は無効

示談の内容が公序良俗に反する場合は無効とされます(民法90条)。公序良俗とは、公の秩序や社会の道徳的観念ということです。

 

民法90条(公序良俗)

公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

 

例えば、被害者の無知や窮状に付け込んで、被害の程度に比べ著しく低い賠償額で示談したような場合です。

 

心裡留保・虚偽表示の示談は無効

示談内容について、当事者がお互いにそれが真意でないことを知りながら意思表示した場合は、心裡留保(しんりりゅうほ)といって無効になります(民法93条ただし書)

 

心裡(心裏)とは、心の中という意味で、意思表示する人の真意のことです。真意と違うことを意思表示するのが心裡留保です。

 

ウソや冗談を言った場合であっても、その意思表示が無効になることはなく、自分の言ったことについて責任を負うというのが民法の原則です。

 

ただし、相手がウソだということを知っていた場合や知ることができた場合は、その意思表示は無効になります。

 

(参考:『口語民法』自由国民社)

 

また、相手方と共謀して虚偽の意思表示をした場合も、その意思表示は無効となります(民法94条1項)。虚偽表示あるいは通謀虚偽表示といいます。

 

民法93条(心裡留保)

意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、または知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 

民法94条1項(虚偽表示)

相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。

 

例えば、加害者の刑事裁判において、被害者側と示談が成立していれば情状酌量されるので、加害者側が頼み込んで、そのためだけに示談をしたような場合です。

 

ただし、心裡留保などの主張を退け、示談の有効性を認めた判例もありますから、注意が必要です。

 

刑事裁判に提出し、情状酌量を求めるだけの示談書だといっても、保険会社などに渡ると、取り返しのつかないことになってしまいます。いったん示談書にサインしてしまうと、その金額以上は請求権を放棄してしまうことになるからです。

 

加害者が知り合いで、刑事裁判については何とかしてあげたいと思うときは、情状酌量を求める嘆願書を書けばよいのです。嘆願書は刑事裁判専用のものですから、損害賠償請求権を放棄することにはなりません。

 

錯誤による示談は無効

示談の前提となった重要な事実関係について、「要素の錯誤」があった場合は無効となります(民法95条)。「要素の錯誤」とは、重要な部分に関する思い違いのことです。

 

意思表示した人に思い違い(錯誤)があっても、その意思表示は無効にならないというのが民法の原則です。

 

しかし、その錯誤が、法律行為の重要な部分に関するもので、もし錯誤がなければ、誰でもそのような法律行為をすることはあり得ないと認められる場合は、その意思表示は無効となります。

 

民法95条(錯誤)

意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 

例えば、当事者双方が「被害者の傷害は軽いので全治する」との認識で示談した後で、後遺障害が発生したとき、その示談は「要素の錯誤があった」として、示談を無効にできることがあります。

 

詐欺・強迫による示談は取り消しできる

相手に騙されて示談したとか、脅されて示談に応じたという場合は、示談を取り消すことができます。(民法96条1項)

 

民法96条(詐欺または強迫)

詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる。

 

この場合は、無効ではないので、取り消さない限り有効なものとして扱われますから注意してください。

示談契約の解除ができるケース

加害者が任意保険に加入していれば問題ないのですが、そうでない場合は、示談が成立しても、その通りに履行されないことがあります。

 

示談内容に不履行があれば、被害者は、債務不履行を原因とする解除(民法541条)により、示談契約を解除し、別途、適正な賠償金額を請求することができます(民法415条)

 

民法541条(履行遅延等による解除権)

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

 

民法415条(債務不履行による損害賠償)

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

まとめ

いったん示談すると、原則として示談のやり直しや追加請求はできません。示談する際には十分注意が必要です。

 

ただし、例外的に、示談のやり直し、追加請求が認められる場合があります。

 

公序良俗に反する示談や心裡留保・虚偽・錯誤による示談は無効となり、詐欺・強迫による示談は取り消しできます。また、予期せぬ後遺障害が発生したときは、追加請求を認められることがあります。

 

これら以外は、たとえ弁護士に相談しても、示談のやり直しはできませんから、示談するときには十分注意してください。

 

これらの条件に該当する場合で示談のやり直しや追加請求を考えている方は、交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

弁護士法人・響

 

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