自賠責保険と任意自動車保険の違い
自動車保険には、法律で保険契約の締結が義務づけられている強制保険(自賠責保険・自賠責共済)と、加入が自由な任意保険があります。
ここでは、自賠責保険(自賠責共済を含む)と任意自動車保険の違いについて説明します。自賠責保険も自賠責共済も制度は同じです。自賠責保険と自賠責共済の違いはこちらをご覧ください。
自賠責保険と任意自動車保険の比較
まず、自賠責保険と任意自動車保険の特徴と違いについて、概要をまとめておきます。
自賠責保険 | 任意自動車保険 | |
---|---|---|
加入 | 法律で加入を義務づけ | 加入は任意 |
目的 | 自動車の運行によって人の生命・身体が害された場合の損害賠償を補償する | 自賠責保険で不足する損害賠償額を補う |
補償範囲 | 自動車の運行に起因する人的損害のみ | 契約により、人損・物損の両方を補償 |
保険金 | 支払基準・上限額を法令で規定 | 上限額は契約により自由に選択 |
免責 | 免責事由が限定 | 免責事由が多い |
過失相殺 | 被害者に重大な過失がある場合にのみ過失相殺 | 過失割合に応じて過失相殺 |
支払い | 示談成立前でも、被害者による直接請求や仮渡金の制度あり | 自賠責保険分を含め、任意保険会社による一括払い制度あり |
自賠責保険と任意自動車保険の違いについて、詳しく見ていきましょう。
自賠責保険は法律で加入を義務づけ
自賠責保険は、自動車損害賠償保障法(自賠法)で保険契約が義務づけられています。
自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険又は自動車損害賠償責任共済の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。
この自動車損害賠償責任保険・自動車損害賠償責任共済が、通称、自賠責保険・自賠責共済と呼ばれているものです。
自賠責保険に加入していない自動車を公道で運転することはできません。違反すると、罰則があります。
- 自賠責保険に未加入、あるいは有効期限切れで運転すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金を科されます(自賠法86条の3)。
- 加入していても、自賠責保険証明書を自動車に備え付けていなかったり、保険標章を車体に貼っていないと、30万円以下の罰金を科されます(自賠法88条)。
これが、自賠責保険が「強制保険」と呼ばれる所以です。
なぜ、自賠責保険の加入を法律で義務づけているのか?
自賠責保険の加入を法律で義務づけているのは、自動車による人身事故の被害者を救済するためです。
被害者とは、事故により死傷した人のことをいいます。事故の責任割合が小さい「被害者」を指すものではありません。
交通事故の被害に遭うと、治療費が必要になります。治療・入院で仕事ができないと、収入が途絶えます。後遺症が残ると、事故前と同じように仕事ができなくなることもあります。精神的な苦しみも伴います。
そんな被害者の経済的損失や精神的苦痛に対し、加害者は、法的に損害賠償の責任を負います。加害者に賠償資力がなければ、被害者は損害の賠償を受けられません。
そこで、法律で自賠責保険の契約締結を義務づけ、損害賠償のための最低限の資力を確保しているのです。
なぜ、任意自動車保険にも加入する必要があるのか?
自賠責保険は、保険金の支払金額も、支払対象となる保険事故も、限定されています。自賠責保険だけでは、相手の損害を賠償しきれないことがあります。
損害賠償額が高額化してきていることもあり、自賠責保険の支払いだけでは不足する部分をカバーする任意保険への加入が不可欠なのです。
被害者の立場からすると、相手が任意保険に加入していないと、十分な損害賠償を受けられないことがあるということです。加害者が任意保険に加入しているかどうかは、被害者にとって重要です。
補償範囲の違い
自賠責保険は、保険金を支払う保険事故の対象が制限されています。自賠責保険と任意保険の補償範囲の違いを簡単にまとめると、こうです。
補償範囲 | 自賠責保険 | 任意保険 | |
---|---|---|---|
相手方への補償 | ケガ・死亡 | 〇 | 〇 |
車・物 | × | 〇 | |
自分への補償 | ケガ・死亡 | × | 〇 |
車・物 | × | 〇 | |
その他 | ロードサービス | × | 〇 |
弁護士費用 | × | 〇 |
〇:支払い対象 ×:支払われない
自賠責保険の補償範囲
自賠責保険の支払い対象となるのは、自動車の運行によって他人を死傷させる人身事故を起こした場合の人身損害に対する賠償です。
対人賠償以外の、相手の車両損害など物的損害の賠償や、自分のケガの治療費、自分の車両の修理代は、自賠責保険の対象外です。
「自動車の運行によって」という要件があることに注意してください。自動車の運行によらない事故での死傷は、自賠責保険は適用対象外です。
任意自動車保険の補償範囲
任意自動車保険は、自動車の運行に限らず、広く「被保険自動車の所有、使用または管理に起因」した損害を、保険金の支払い対象としています。人損だけでなく、物損も支払い対象です。
自動車保険の約款では、「対人事故」「対物事故」を次のように定義しています。
対人事故 | 被保険自動車の所有、使用または管理に起因して他人の生命または身体を害することをいいます。 |
---|---|
対物事故 | 被保険自動車の所有、使用または管理に起因して他人の財物を滅失、破損または汚損することをいいます。 |
※参考:『自動車保険の解説2017』保険毎日新聞社 24ページ
ここでいう「所有、使用または管理」とは、自動車のおかれている全ての状態を包含する概念とされています。自動車が格納・陳列されている状態も含み、自動車の運行によらない事故も、保険金の支払い対象となります。
例えば、タバコの不始末による車両火災で搭乗者が負傷したような場合は、自動車の運行によって発生した事故とはいえないので自賠責保険金は支払われませんが、民法709条の不法行為責任が認められる場合は、対人賠償責任保険金の支払い対象となります。
任意自動車保険には、次のような保険・特約があり、保険会社はそれらを組み合わせて販売しています。
- 対人賠償責任保険、対物賠償責任保険
他人の身体や財物に損害を与えた場合の損害賠償を補償する保険
- 人身傷害保険、搭乗者保険
運転者自身や同乗者が被った身体の損害を補償する保険
- 車両保険
自分の自動車が被った損害を補償する保険
- 弁護士費用特約(弁護士保険)
加害者との交渉を弁護士に相談・依頼する費用を補償する保険
自賠責は免責事由や過失相殺を制限
自賠責保険は被害者の救済が目的であるため、任意自動車保険と比べて、免責事由や過失相殺を制限しています。
自賠責保険と対人賠償保険(任意保険)の免責事由と過失相殺の違いを見てみましょう。
自賠責保険と対人賠償保険の免責事由の違い
自賠責保険と対人賠償保険の免責事由(保険金を支払わない場合)については、次のような違いがあります。
自賠責保険金が支払われない場合とは?
自賠責保険の免責事由は、重複契約の場合(自賠法82条の3)と、保険契約者または被保険者の悪意によって損害が生じた場合(自賠法14条)のみに限定されています。
自賠責保険は、悪意免責により被保険者(加害者)に保険金が支払われない場合でも、被害者が、加害者の加入する自賠責保険に直接請求(被害者請求)することはできます。
対人賠償保険金が支払われない場合とは?
これに対して、対人賠償保険では、保険契約者・被保険者の故意による事故や親族間事故のほか、戦争・暴動災害による損害、自然災害による損害、原子力による損害、競技・曲技・試験による損害など、広範な免責事由を設けています。
自賠責保険と対人賠償保険の過失相殺の違い
任意自動車保険では、過失割合に応じて厳格に過失相殺されますが、自賠責保険では、過失相殺の要件や減額割合を制限する「重過失減額制度」をとっています。
自賠責保険は、被害者の過失割合が70%未満の場合は過失相殺による減額はありません。過失相殺されるのは、被害者に70%以上の重大な過失がある場合のみで、しかも、被害者の過失割合に応じて減額されるのでなく、20~50%の減額にとどまります。
自賠責保険は示談成立前に被害者が直接請求できる
自賠責保険は、被害者が、相手方の自賠責保険に対し、損害賠償額の直接請求または仮渡金請求をできる仕組みになっています(自賠法16条・17条)。
この請求は、示談成立や判決確定の前でも可能です。
早く支払いを受けたい事情があるときはもちろん、示談交渉が難航するときも直接請求権の時効を考慮し、自賠責保険に対する直接請求(被害者請求)の制度を利用するとよい場合があります。
他方、任意自動車保険は、損害賠償額が確定したときなど一定の要件の下で、被害者が相手方の任意保険に損害賠償額の支払いを請求することができます。
ただし、任意保険の場合は、保険会社が示談代行し、示談や裁判で確定した損害賠償金は基本的に支払いますから、保険会社が免責を主張しているような場合以外で、任意保険会社を相手に、被害者が直接請求権を行使する実益は通常ありません。
まとめ
自賠責保険(自賠責共済を含む)は、交通事故被害者の救済を目的とし、法律で加入が義務づけられた強制保険です。保険金が支払われるのは人身損害のみで、物損はカバーされません。支払金額には上限があります。
任意自動車保険は、加入は任意ですが、契約内容によっては幅広く交通事故全般の損害を補償します。任意保険は、自賠責保険を補完する保険です。
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【参考文献】
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 306~309ページ
・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 341~346ページ
・『損害保険の法律相談Ⅰ〈自動車保険〉』青林書院 12~17ページ、322~329ページ
・『自動車保険の解説2017』保険毎日新聞社