あまり知られていない健康保険を使うデメリット

Point
  • 交通事故の治療で、健康保険を使うことに全く問題がないわけではありません。健康保険を使うかどうかは、そのデメリットも知った上で判断することが大切です。

 

交通事故の治療に健康保険を使うと「賠償金の受取額が多くなる」「示談交渉に有利」といったメリットがありますが、交通事故の治療に健康保険を使用することにはデメリットもあることは、あまり知られていません。

 

交通事故の治療に健康保険を使う場合には、そのデメリットも知ったうえで、利用することが大切です。

 

ここでは、健康保険を使って治療する場合のデメリットについて、まとめています。

 

健康保険を使って治療する3つのデメリット

健康保険は、国民が応分の支出をする相互扶助の保険で、法律によって診療に一定の制限を設けています。

 

そのため、交通事故の治療に健康保険を使うことには、次のようなデメリットがあります。

 

交通事故の治療に健康保険を使う3つのデメリット
  1. 自賠責様式の診断書・後遺障害診断書等を書いてもらえないことがある。
  2. 診療内容が制限される。
  3. 求償が適確にされなければ健保財政を圧迫する。

 

なお、こうしたデメリットは、主に医療提供サイドから「交通事故診療における健康保険の使用問題」として提起されています(日本医師会「労災・自賠責委員会 答申」平成24年2月2日)

 

3つのデメリットについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

自賠責様式の診断書等を医師に書いてもらえない

自動車保険会社(任意保険会社・自賠責保険会社)から損害賠償を受けるには、損保会社所定の診断書やレセプト(診療報酬明細書)を提出する必要があります。自由診療の場合は、それを前提に診療契約がなされますから、特に問題となることはありません。

 

ところが、健康保険診療の場合は、医療機関は健康保険法等の規程に従うことになり、その一方で、自賠責様式の書類を作成する義務がなくなります。

 

その結果、後遺障害の認定申請や損害賠償請求に必要となる損保会社所定の診断書・後遺障害診断書、レセプトを医師に書いてもらえないという事態が発生することがあるのです。

 

とはいえ、たいていは医師の協力により書いてもらえます。しかし、中には書類の作成を拒否する医療機関もあります。特に、後遺障害の申請を被害者請求で行う場合、医師に後遺障害診断書を書いてもらえないと、後遺障害の申請すらできない事態になってしまいます。

 

【参考】⇒ 交通事故で健康保険を使うと医師が後遺障害診断書を書いてくれない?

 

診療内容が制限される

健康保険診療にすると診療内容が制限され、十分な治療ができなくなることがあります。ただし、この影響を受けるケースは、ごく一部に限られるでしょう。

 

健康保険診療の場合は、保険適用外の診療を受けられないほか、法律により使用できる薬の種類や量、リハビリの回数などに制限があります。

 

これは、よく医療機関側から指摘されることです。日本医師会の次のような意見があります。

 

交通事故診療を担う医療の現場では、医療機関に搬送直後から患者の全身状態を素早く確認するとともに、あらゆる可能性を考慮しながら、早期に集中的な治療を行う必要がある。

 

こうした患者の治療に対し、法律、療担規則などの縛りの多い、いわゆる制限診療につながる現行の健康保険を適用するということは、結果的に十分な治療を提供できず、被害者の不利益につながる可能性がある。

 

(日本医師会 労災・自賠責委員会 答申(平成24年2月2日)より抜粋)

 

このような医療機関側の主張は、重症事案に対する急性期治療を前提とすれば、その通りかもしれません。しかし、交通事故の治療は、頸椎捻挫など軽度の傷害(傷害度1)が85%と大半です(損害保険料算出機構『自動車保険の概況』2017年3月)

 

特別な先進的療法による治療が必要な場合や救急の場合は別として、診療内容の制限が問題となるケースは、ほとんどないでしょう。

 

裁判でも、次のような判断が示されています。

 

保険診療においては診療内容につき法及び規則に基づく制約が存在するために、保険診療によっては交通事故による傷害に対して十分な診療を施すことができないとは速断しえない。

 

現在では健康保険で施すことができない治療方法はなく、…医師が自由診療を選択しているのは、医学的な理由によるのではなく、経営上の判断に基づくものと考えていることが認められ、…公的医療機関に比較して私的医療機関において自由診療の割合が高いことは、右の見解を裏付けるものである。

 

(東京地裁判決(平成元年3月14日)より抜粋)

 

健康保険財政を圧迫する

これは大きな話なので「直接関係ない」と思うかもしれませんが、健康保険組合等の保険者から自動車保険に対する求償が適確に行われないと、健保や国保等の財政を脅かし、保険料引き上げに繋がりかねない深刻な問題もはらんでいます。

 

本来、自動車事故による損害の填補は自動車保険からなされるべきものですから、安易な健康保険の使用は控えるべきかもしれません。ただ、これはどちらかと言えば、求償実務を担う医療保険者側の問題です。

 

現行の自動車保険や公的医療保険制度の下では、「第三者行為による疾病届」を提出したうえで健康保険を使って治療を受けるのであれば、被害者が責めを負うものではないでしょう。

まとめ

交通事故で健康保険を使用することについて、3つのデメリットをあげました。

 

中でも多くの方に直接影響するのが、健康保険を使うと、医療機関には損保会社所定の診断書やレセプトを作成する義務がなくなり、損害賠償請求に必要な書類を医師に作成してもらえなくなることがある点です。

 

たいていは医師の協力により、書類の交付を受けることができますが、場合によっては書類を作成してもらえないことがありますから、注意してください。

 

お困りのことがあったら、交通事故の損害賠償問題に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。

 

弁護士法人・響

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