交通事故で健康保険や国保を使うメリット・デメリット

健康保険

 

交通事故の治療は、自由診療が原則ですが、患者本人(交通事故の被害者)が希望すれば、健康保険や国民健康保険を使えます。

 

ただし、健康保険や国民健康保険を使うメリットのあるケースは限られ、多くの場合、デメリットしかありません

 

どんな場合でも健康保険や国民健康保険を使う方が良い、というわけではありませんから、健康保険や国民健康保険を使うメリット・デメリットを検討した上で、使用を判断することが大切です。

 

それでは、交通事故に健康保険や国民健康保険を使うメリット・デメリットについて、具体的に見ていきましょう。なお、ここでは健康保険について説明していますが、国民健康保険等も同じです。

 

 

交通事故の治療に健康保険を使うメリット

交通事故で健康保険を使うメリットは、次の3つです。

 

  • 医療点数単価が低く、治療費の総額を低く抑えられる。
  • 治療費の自己負担が少なくなる。
  • 健康保険給付額は、過失相殺の対象とならない。

 

このため、健康保険を使うと、最終的に受け取れる損害賠償額が多くなる場合があるのです。

 

ただし、このメリットが現実のものとなるのは、特定の場合に限られます。

 

健康保険は医療点数単価と自己負担が低い

健康保険を使うと、治療費の総額と自己負担額が、自由診療に比べて少なくなります。

 

自由診療は、診療単価が高いため治療費が高額となるうえ、全額自己負担です。それに対し、健康保険診療は、診療単価が低いため治療費が低く抑えられ、しかも、その3割の自己負担で済みます。

 

診療単価と自己負担を比べると、こうです。

 

自由診療 健康保険診療
診療単価 20円 10円
自己負担 全額 3割
  • 健康保険診療の診療単価は10円です。自由診療の場合、診療単価は、医師と患者との間で自由に決めることができ、1点25円とか30円という場合もありますが、1点20円程度が一般的です。
  • 交通事故の診療費については、自賠責診療費算定基準があります。

 

もっとも、治療費は、加害者(相手方保険会社)に損害賠償請求できますから、加害者から治療費が支払われる場合には、基本的に、健康保険を使用する経済的メリットは生じません。

 

例外として、加害者から治療費が支払われる場合でも、被害者の過失割合が大きいときは、健康保険を使用する経済的メリットはあります。

 

では、健康保険を使う経済的メリットが生じるのは、どんな場合なのでしょうか?

 

健康保険を使う経済的メリットが生じるケースとは?

健康保険を使う経済的メリットが生じるのは、ひき逃げや未保険などで加害者から治療費が支払われない場合と、被害者の過失割合が大きい場合です。

 

具体的に見ていきましょう。

 

ひき逃げの場合

ひき逃げの場合は、加害者が不明のため、損害賠償請求も、自賠責保険への直接請求もできません。

 

このような場合は、政府保障事業に損害の填補を請求できますが、これには、健康保険等を使って治療することが前提になっています。

 

つまり、ひき逃げ事故に遭った場合は、健康保険を使って治療することで、治療費の負担を抑えるとともに、国に損害の填補金を請求できるのです。

 

加害者が任意保険に未加入の場合

加害者が任意保険に加入していない場合は、たいてい、自賠責保険の範囲でしか損害賠償を受けることができません。

 

自賠責保険金は、治療費・休業補償・入通院慰謝料を合わせて120万円が上限です(⇒自賠責保険の支払い基準はこちら

 

自由診療だと、治療費の全額が自己負担ですから、治療費だけで120万円を超えることもあり得ます。そうなると、休業補償や慰謝料は、全く受け取れなくなってしまいます。

 

こういう場合、健康保険を使うと、治療費の負担額が低くなり、その分、休業補償や慰謝料を確保できるのです。

 

もちろん、自賠責保険から支払われる上限額は、健康保険を使った場合でも、120万円で変わりません。治療費に充当する額が少なくなれば、それだけ休業補償や慰謝料などに充てられる賠償金額が増える、というわけです。

 

被害者の過失が大きい場合

被害者の過失が大きい場合は、過失相殺により損害賠償額が大きく減額されます。

 

過失相殺の対象となるのは、自由診療だと治療費の全額ですが、健康保険診療の場合には、治療費のうち3割の自己負担分だけです。健康保険からの給付額は過失相殺の対象となりません。

 

その結果、健康保険を使う方が、受け取れる賠償額が多くなるのです。詳しくはこちらをご覧ください。

 

治療費を抑えることで、保険会社との示談交渉で有利に

これは、健康保険を使う直接的な経済的メリットではありませんが、こんな効果も期待できます。

 

健康保険を使って治療すると、自由診療の場合よりも、治療費の総額が少なくなりますから、相手方保険会社としても、支払う保険金(賠償金)の額を低く抑えられるメリットがあります。

 

そのため、健康保険を使うと「治療費の減額に協力した」ということで、慰謝料の増額交渉で有利に作用する可能性があるのです。

 

ただし、あくまでも可能性の話です。また、交渉材料として使えるとしても、このことをもって、そんなに慰謝料がアップするわけではありません。

 

交通事故の治療に健康保険を使うのは、デメリットの方がはるかに大きいので、そのデメリットを超えるメリットがあるか、慎重に判断することが必要です。

 

交通事故の治療に健康保険を使う5つのデメリット

健康保険を使うと、健康保険法等の規制が適用され、医療機関も患者(被害者)も健康保険診療のルールに従わなければなりません。他方で、医療機関と保険会社との間で、治療費の請求・支払いの関係はなくなります。

 

このことから、被害者に様々なデメリットが生じるのです。主なデメリットとしては、次のようなものがあります。

 

交通事故の治療に健康保険を使うデメリット
  • 自分の加入している健康保険組合に「第三者行為の届出」をし、健康保険を使う了承を得る必要がある。
  • 医療機関には自賠責様式の書類作成の義務がなくなり、診断書は医療機関所定のものを交付され、診療報酬明細書は自分で健康保険組合に開示請求することになる。
  • 保険適用の治療に制限され、十分な治療を受けられない場合がある。
  • 治療の都度、医療費の一部負担金を病院の窓口で支払わないといけない。
  • 健康保険診療には症状固定や後遺障害の概念がなく、後遺障害診断書を作成できないので、後遺障害等級の認定請求が困難になることがある。

 

簡単にいえば、交通事故で健康保険を使うデメリットとは、①健康保険の使用と治療費の請求に手間がかかる、②治療費の立替払いが必要、③後遺障害等級の認定で不利になるリスクがある、ということです。

 

詳しく見ていきましょう。

 

【1】「第三者行為による傷病届」の提出が必要

1つ目のデメリットは、健康保険を使用するにあたっての手続き上の問題です。

 

健康保険を使って治療するには、健康保険組合に「第三者行為による傷病届」を提出し、健康保険を使用することについて了承を得る必要があります。

 

これは、後で健康保険組合から加害者(または加害者加入の保険会社)に治療費(保険給付額)を請求するためです。

 

【2】自賠責様式の診断書・診療報酬明細書を発行してもらえない

2つ目のデメリットは、健康保険を使うと、医療機関から自賠責様式の診断書や診療報酬明細書を発行してもらえないことです。

 

患者が健康保険を使うと、医療機関は、健康保険法の規定に従い、健康保険診療報酬明細(健保レセプト)を作成し、健康保険の保険者に診療費を請求します。

 

したがって、健康保険診療報酬明細書と自賠責診療報酬明細を二重に発行することはできない、というのが理由です。自賠責診断書についても、作成義務はありません。

 

そうはいっても、治療費のうち3割の自己負担部分は、あとで被害者が、加害者(相手方保険会社)に請求します。その際には、診断書や診療明細書が必要です。どうすればよいのでしょうか?

 

医療機関所定の診断書や領収書・診療明細書で代用

病院の窓口で治療費の一部負担金を支払うと、病院から領収書と診療明細書が交付されます。自賠責診療報酬明細書を発行してもらえないときは、この領収書と診療明細書を代用できます。

 

紛失したときは、病院に領収書の再発行をお願いし(領収書の再発行をしてくれない場合は、領収額証明書等の治療費の額が分かるものを発行してもらいます)、診療明細書は、保険者(健康保険は健康保険組合等、国民健康保険は市区町村)に個人情報開示請求して開示してもらいます。

 

診断書は、医療機関所定の診断書を発行してもらい、代用します。

 

損害保険料率算出機構は、「各医療機関所定の診断書でも必要事項の記載があれば、自賠責保険の支払手続(後遺障害等級の認定も含む)を行う」としています。

 

(『Q&Aハンドブック交通事故診療・全訂新版』創耕舎 89ページ)

 

医療機関所定の診断書でも代用できますが、「必要事項の記載があれば」としていることに注意してください。適正な損害賠償を受けるためには、必要事項がもれなく記載されていることが大切です。

 

自賠責様式の診断書を書いてくれる医療機関もある

健康保険を使って治療を受けた場合でも、自賠責様式の診断書等を作成してくれる医療機関もあります。

 

日本医師会が全国の医療機関に対して行ったアンケート調査によると、「健保を使用しているにもかかわらず、損保会社所定の書類作成を求められるケースがあるか」という問に対し、「ある」と回答した医療機関が70.4%、そのうち、「患者の請求・支払い等を考え、損保会社所定の様式で作成し、患者に交付している」と回答した医療機関が63.6%となっています。

 

※参考:日本医師会「労災・自賠責委員会答申」(2012年2月)

 

治療を開始する前に、健康保険を使っても自賠責様式の診断書や診療報酬明細書を発行してもらえるかどうかを確認し、発行してくれる病院で治療を受けるという方法もあります。

 

【3】治療に制約があり、十分な治療を受けられない可能性がある

3つ目のデメリットは、治療内容に制限があることです。

 

健康保険診療だと、保険適用外の診療を受けられず、使用できる薬の種類や量、リハビリの回数などにも制限があります。診療内容が制限され、十分な治療を受けられないことがあります。

 

この点について、日本医師会は次のように指摘しています。

 

交通事故診療を担う医療の現場では、医療機関に搬送直後から患者の全身状態を素早く確認するとともに、あらゆる可能性を考慮しながら、早期に集中的な治療を行う必要がある。

 

こうした患者の治療に対し、法律、療担規則などの縛りの多い、いわゆる制限診療につながる現行の健康保険を適用するということは、結果的に十分な治療を提供できず、被害者の不利益につながる可能性がある。

 

(日本医師会 労災・自賠責委員会 答申(平成24年2月2日)より抜粋)

 

ただし、診療内容が問題となるのは、特に救急搬送された重症患者の場合でしょう。ですが、交通事故の治療は、比較的軽度の傷害(傷害度1)が84%と大半です(損害保険料算出機構『自動車保険の概況』2020年5月発行)

 

裁判例でも、次のような指摘があります。

 

保険診療においては診療内容につき法及び規則に基づく制約が存在するために、保険診療によっては交通事故による傷害に対して十分な診療を施すことができないとは速断しえない。

 

現在では健康保険で施すことができない治療方法はなく、…医師が自由診療を選択しているのは、医学的な理由によるのではなく、経営上の判断に基づくものと考えていることが認められ、…公的医療機関に比較して私的医療機関において自由診療の割合が高いことは、右の見解を裏付けるものである。

 

(東京地裁判決(平成元年3月14日)より抜粋)

 

つまり、診療内容の制約が現実に問題となるケースは、ごく一部に限られます。とはいえ、保険診療では必要な治療を受けることができない場合は、自由診療を選択する必要があります。

 

【4】治療の都度、医療費の窓口負担の支払いが必要

4つ目のデメリットは、治療の都度、病院の窓口で治療費の自己負担分を支払わなければならず、経済的負担が生じることです。

 

自由診療であれば、治療費は、相手方の任意保険会社が病院に直接支払う「一括対応」ができますが、健康保険診療の場合は、それができなくなってしまいます。

 

健康保険を使うと、健康保険法上の規制がかかるからです。

 

健康保険法は、医療費の自己負担金(一部負担金)は患者が医療機関の窓口で支払うよう義務付けています。この原則は、交通事故による怪我の治療に健康保険を使う場合にも適用されます。

 

したがって、普段、病院にかかるときと同じように、通院のたびに、窓口で自己負担分を支払わなければなりません

 

損保会社から「窓口負担分は、あとでウチが一括して支払うので、治療のたびに支払う必要はありません」などと説明されることがありますが、これは、健康保険を使うよう誘導するのが目的です。

 

この手法を保険会社は「健保一括払い」と呼んでいますが、患者自身が、治療のたびに窓口で支払わないと、本来は違法です。

 

健康保険法第74条(一部負担金)
…保険医療機関または保険薬局から療養の給付を受ける者は、その給付を受ける際…、一部負担金として、当該保険医療機関または保険薬局に支払わなければならない。

 

【5】後遺障害等級の認定が不利になるリスクがある

5つ目のデメリットは、健康保険を使うと、医師に後遺障害診断書を作成してもらえず、後遺障害に対する損害賠償を受ける上で不利になるリスクがあることです。

 

交通事故の治療費の損害賠償は、治療の効果が見えなくなった時点で症状固定と判断し、完治していなくても治療費の支払いは終了します。後遺症が残った場合は、後遺障害等級を認定し、後遺障害等級に応じて逸失利益や慰謝料を支払います。

 

ところが、健康保険診療には、症状固定や後遺障害といった概念がありません。治療の必要があれば、治療を継続するからです。

 

したがって、健康保険診療の場合は、症状固定の診断ができず、後遺障害診断書の作成ができません。そうすると、後遺障害等級の認定を受けられず、後遺障害に対する損害賠償請求ができなくなるリスクがあるのです。

 

詳しくは、「交通事故で健康保険を使うと医師が後遺障害診断書を書いてくれない?」をご覧ください。

 

まとめ

健康保険や国民健康保険を使って治療を受けることのメリットがあるのは、加害者の側から治療費が支払われない場合、または、被害者の過失割合が大きい場合です。

 

相手方任意保険から十分な損害賠償を受けられる場合は、健康保険や国民健康保険を使うメリットはなく、デメリットしかありません。

 

健康保険や国民健康保険を使うことによるメリットとデメリットの両面を考慮して、判断することが大切です。健康保険を使うべきケースはこちらにまとめていますから、参考にしてみてください。

 

交通事故での健康保険や国民健康保険の使用について、お困りのことがあれば、交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

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【参考文献】
・『別冊判例タイムズ38』4ページ
・日本医師会 労災・自賠責委員会 答申(平成24年2月2日)
・損害保険料算出機構『自動車保険の概況』2020年5月発行
・『Q&Aハンドブック交通事故診療全訂新版』創耕舎 88~93ページ

 

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