遺族年金は誰の損害賠償額から控除するのか?

遺族年金など遺族給付の損益相殺的調整は、遺族給付の法律上の受給権者の損害賠償債権額が対象です。

 

ポイントは、遺族給付の法律上の受給権者であるかどうかです。受給権者でない遺族は、たとえ生計を同じくし遺族給付による利益を享受するとしても、相続した損害賠償債権額から遺族給付額を控除されません。

 

最高裁判例をもとに、遺族年金など遺族給付を受けたときの損益相殺的調整について、誰の損害賠償債権額から遺族給付額を控除するのか、詳しく見ていきましょう。

 

遺族年金の損益相殺的調整は、遺族年金の受給権者のみ対象

交通事故で死亡した被害者の損害賠償債権を相続する人と、遺族年金の給付を受ける人(法律上の受給権者)が一致しない場合があります。

 

例えば、被害者の損害賠償請求権の相続人が配偶者と子で、遺族年金の給付を受けるのが配偶者である場合です。

 

損害賠償債権の相続人と遺族給付の受給権者が一致しない場合があるのは、「損害賠償債権の相続人の法定順位」と「遺族給付の受給権者の法定順位」が異なるからです。

 

「損害賠償債権の相続人の法定順位」と「遺族給付の受給権者の法定順位」

損害賠償債権の相続人の法定順位は、第1順位が子(子がいないときは孫)、第2順位は父母(父母がいないときは祖父母)、第3順位は兄弟姉妹(兄弟姉妹がいないときは甥・姪)で、配偶者は常に相続人となります。

 

 

一方、遺族給付の受給権者の法定順位は、例えば労災保険の遺族補償年金であれば、配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹の順序です(労災保険法16条の2第3項)

 

法定順位をまとめて比較すると、次のようになります。

 

法定順位 損害賠償債権の相続人 遺族補償年金の受給権者
第1順位

配偶者と子
(子がいないときは孫)

配偶者
第2順位

配偶者と父母
(父母がいないときは祖父母)

第3順位

配偶者と兄弟姉妹
(兄弟姉妹がいないときは甥・姪)

父母
第4順位
第5順位 祖父母
第6順位 兄弟姉妹

※上位の順位者がいなければ、次順位者となります。例えば、第1順位の者がいなければ、第2順位の者となります。
※配偶者は相続人の順位に関係なく、常に相続人となります。

 

遺族給付額は、誰の損害賠償額から控除するのか

遺族給付の損益相殺では、法定受給権者の損害賠償債権額の範囲で控除するのか、それとも、遺族給付により利益を受ける遺族各人について、それぞれ損害賠償債権額から享受する利益に応じて控除するのか、が問題になります。

 

すなわち、損害賠償債権額から遺族給付を控除するのは、法律上の受給権者だけなのか、遺族給付により利益を受ける遺族全員か、ということです。

 

これについて最高裁判決は、遺族給付の受給権を有する遺族の損害賠償債権額からだけ控除すべきであり、他の遺族の損害賠償債権額から控除することはできないとする判断を示しています(昭和50年10月24日)

 

和解の場合は異なることもある

判決の場合は、最高裁判例にもとづき、遺族給付は受給権者の損害からだけ控除することで実務上は決着済みです。

 

ただし、和解の場合は、総損害額から遺族給付額を控除した額を加害者側が遺族側に支払うことで和解を成立させ、遺族側の配分は遺族内部で処理してもらうとするケースもあるようです。

 

(『実務精選100 交通事故判例解説』第一法規 137ページ)

遺族給付控除の人的範囲についての最高裁判決

控除の人的範囲(主観的範囲ともいわれます)について判示した最高裁判決(昭和50年10月24日)について、詳しく見てみましょう。

 

国家公務員が、職務中に交通事故で死亡した事案です。死亡した被害者の損害賠償債権を相続したのは妻と子で、遺族には遺族給付(退職手当、遺族年金、遺族補償金)が支給されました。遺族給付の受給権者は妻です。

 

裁判では、死亡した公務員の損害賠償債権を相続した妻や子の賠償請求額から遺族給付金を控除すべきか否か、遺族給付の受給権のない者の損害賠償債権額から給付相当額を控除できるか否か、が争われました。

 

最高裁は、次のような判断を示しました。

 

  1. 遺族給付は、死亡した被害者の逸失利益と同一同質といえるので、損害賠償債権額の算定にあたり、遺族給付相当額を控除すべきである。
  2. 控除は、法定順位による受給権者の分からのみ行い、他の遺族からは控除できない。

 

理由を含めて、判決内容を見ていきましょう。

 

遺族給付は死亡逸失利益と同一同質なので損益相殺により控除する

遺族に支給される各給付金は、公務員の生存中に給与等の収入によって生計を維持していた遺族が、公務員が死亡したことによって、受けることができた利益を失うに至ったことに対する損失補償・生活保障を目的とし、その機能を果たしています。

 

つまり、遺族給付を受けることによる利益は、公務員の生存中に給与等の収入によって受ける利益(死亡した被害者の逸失利益)と「実質的に同一同質のもの」です。

 

したがって、損害賠償債権額の算定にあたり、遺族給付金相当額を控除しなければならないというわけです。

 

受給権者でない遺族の受ける利益は法律で保障された利益でない

各遺族給付金の受給権者は、それぞれの法律で、受給資格がある遺族のうちの所定の順位にある者と定められています。

 

本事案では、死亡した国家公務員の妻と子が遺族なので、各給付の受給権者は、法律上、妻のみです。

 

したがって、損害賠償債権額の算定をするにあたって、遺族給付相当額は、妻の損害賠償債権からだけ控除すべきであり、子の損害賠償債権額から控除することはできない、との判断を示しました。

 

受給権者でない遺族(子)は、受給権者(妻)から各給付の利益を享受するとしても、それは法律上保障された利益ではないため、受給権者でない遺族の損害賠償債権額から享受する利益を控除することはできない、というのが最高裁の判断です。

 

※最高裁のWebサイトにリンクしています。

まとめ

遺族年金など遺族給付の損益相殺的調整は、支給が確定している金額の範囲で、現実に支給を受ける人(法律上の受給権者)との関係でのみ、損益相殺的調整がなされます。

 

遺族給付の受給権者以外は、給付による利益を享受しているとしても、法律により保障された利益ではないので、受給権者でない遺族の損害賠償請求権の金額から遺族給付額を控除することはできません。

 

具体的には、個別事情を考慮して対応が必要ですから、交通事故の損害賠償問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

 

弁護士法人・響

 

参考文献

・『実務精選100 交通事故判例解説』第一法規 136~137ページ
・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 206ページ
・『交通事故の法律知識 第3版』自由国民社 341~342ページ
・『要約 交通事故判例140』学陽書房 89~90ページ
・『民事交通事故訴訟の実務』ぎょうせい 239ページ
・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規 285ページ
・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 105ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 261ページ

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