業務中・通勤途中の交通事故には労災保険が使える

Point
  • 業務中(業務災害)や通勤途中(通勤災害)に交通事故に遭った場合は、労災保険を利用できます。
  • 労災保険は、治療費の自己負担がなく、治療費以外にも様々な補償を受けられます。

 

労災保険が適用できるケース・適用できないケース

交通事故が、業務災害か通勤災害に該当すれば、労災保険給付を受けることができます。

 

業務災害 労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡(労災保険法第7条1項1号)
通勤災害 労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡(労災保険法第7条1項2号)

 

業務災害・通勤災害とは、業務中または通勤中に発生した事故で、業務外の場合や通勤経路を外れた場合は、対象外となります。

 

仕事で会社の車を運転していた場合の事故、取引先に送金するため銀行に行く途中の事故、通勤途中や帰宅途中の事故などが、労災事故となります。

 

一方、昼の休憩時間に昼食を食べに行く途中の事故や、帰宅途中に使用で通常のルートを外れたときに遭った事故などは、労災事故と認められません。

 

また、被害者が故意に事故を起こした場合や酒酔い運転の場合などは、保険給付を受けることができません(労災保険法第12条の2の2)

 

なお、労災保険は、仮に勤務する会社が労災保険に未加入であっても、労災に遭ったら、労働基準監督署へ労災保険の給付を請求することができます。

 

労災保険を使える場合は、健康保険は使えません(健康保険法第55条1項)。労災保険は、健康保険に比べて治療費の自己負担がないだけでなく、休業損害や後遺障害に対する補償もあるので、労災保険の方が断然有利です。

 

労災保険給付を受けるには「第三者行為災害届」の提出が必要

労災保険給付を受けるには、労働基準監督署へ「第三者行為災害届」の提出が必要です。

 

第三者とは、労災保険関係にある当事者(政府・事業主・労災保険の受給権者)以外の人のことです。第三者による不法行為などにより、労働者が業務災害・通勤災害に遭った場合の災害を「第三者行為災害」といいます。

 

交通事故の加害者は通常、第三者にあたり、第三者行為災害となります。

 

労災保険指定医療機関なら治療費の自己負担なし

労災保険指定医療機関なら、治療費を自分で立て替えずに、無料で治療を受けられます。労災病院や指定医療機関の場合は、現物給付の「療養の給付」となります。

 

労災保険指定医療機関でない場合は、いったん治療費を立て替えて支払い、後日、労働基準監督署に治療費を請求することになります。療養にかかった費用を支給するもので「療養の費用の支給」といいます。

労災保険で受けられる補償

労災保険から受けられる給付には次のようなものがあります。

 

損害項目 労災保険給付 内容
治療費

療養補償給付
(療養給付)

治療費、入院費用など。診療を無料で受けられる。

休業損害

休業補償給付
(休業給付)

療養等で欠勤して給料を得られなかった場合に、給料の一部に相当する金額を給付。
休業4日目から1日につき給付基礎日額の60%相当額。

休業特別支給金 休業4日目から1日につき給付基礎日額の20%相当額を支給。

疾病補償年金
(疾病年金)

療養開始から1年6ヵ月が経過しても治癒(症状固定)せず、疾病による障害の程度が疾病等級に該当するとき、その状態が継続している間、障害の程度に応じ年金を支給。

疾病特別支給金 障害の程度により100万円~114万円の一時金を支給。
後遺障害
逸失利益

障害補償給付
(障害給付)

障害等級に応じて年金や一時金を支給。自賠責保険の後遺障害等級と同様に1級から14級に分類。将来の賃金喪失分を補償するもの。
※障害等級7級以上は年金、8級以下は一時金。

障害特別支給金 障害等級により8万円~342万円の一時金を支給。
将来介護費

介護補償給付
(介護給付)

障害補償年金(障害年金)や疾病補償年金(疾病年金)の受給者が介護を必要とする場合に支給。
死亡
逸失利益

遺族補償給付
(遺族給付)

死亡した場合には、年金・一時金を支給。死亡による将来の賃金喪失分を補償するもの。
※扶養家族ありは年金、扶養家族なしは一時金。

遺族特別支給金 遺族の数に関わらず一律300万円を支給。
葬儀費用

葬祭料
(葬祭給付)

原則、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額。
慰謝料 なし

(参考:厚生労働省「労災保険給付の概要」)

 

(補足)
  1. 「補償」の2文字が付くのは業務災害の場合で、付かないのが通勤災害の場合です。( )内が通勤災害の場合です。
  2. 特別支給金は、社会復帰促進等事業(労災保険法第29条1項・労災保険特別支給金支給規則)からの支給で、損害賠償額から控除されません。
  3. 給付基礎日額とは、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。平均賃金とは、事故発生前3ヵ月間の賃金総額をその期間の歴日数で割った1日あたりの賃金額です。
  4. 疾病補償年金(疾病年金)が支給される場合には、療養補償給付(療養給付)は引き続き支給されますが、休業補償給付(休業給付)は支給されません。疾病が治れば打ち切りとなり、障害が残ればその程度に応じて、傷害補償給付(障害給付)がなされます。

まとめ

業務上の事故や通勤途中の事故の場合、労災保険が使えます。

 

労災保険を使って治療すると、自己負担なしで治療を受けることができます。健康保険が3割負担であることと比べても有利です。そのほか、休業損害や後遺障害に対する補償もあります。

 

被害者にも過失がある場合などは、労災保険を使うと最終的な賠償金の受取額が増えます。労災保険が適用される場合は、ぜひ労災保険の使用を考えてみてください。

 

労災保険の適用で疑問やお困りのことがある方は、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

弁護士法人・響

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