交通事故の損害賠償に関する紛争解決方法
交通事故の損害賠償問題について当事者間の話し合いで示談が成立しないとき、大きくは、次の2つの解決方法があります。
- 交通事故の紛争解決機関(ADR機関)に相談や示談の斡旋を依頼する。
- 裁判所に調停や訴訟を申し立てる。
それぞれの手続きの特徴、メリット・デメリットについて、示談交渉の場合と比較しながらご紹介します。
示談 | ADR | 調停 | 訴訟 | |
---|---|---|---|---|
手続 | 当事者同士の話し合い | ADR機関に示談斡旋を申請 | 裁判所に調停を申立て | 裁判所に訴えを提起 |
弁護士に示談交渉を頼むと有利に解決 | 本人が申請可能 | 本人が申立て可能 | 弁護士への委任が不可欠 | |
特徴 | 多くは保険会社の担当者が交渉相手となるため、保険の知識や交渉力に差が生じる | 審査に持ち込むと保険会社や共済組合は審査結果に従う義務がある | 訴訟に比べ利用しやすいが、譲歩を迫られる | 終局的な解決ができる |
交通事故の損害賠償に精通した弁護士に頼むと、裁判所基準で示談交渉してもらえる | 基本的に交通事故の損害賠償に詳しい弁護士が担当 | 担当する調停委員は必ずしも交通事故に詳しくない | 多くは裁判上の和解で解決し、判決にまで至るのはわずか | |
賠償額 | 本人が交渉すると自賠責規準から任意保険基準の範囲 | 裁判所基準の8割程度で示談可能 | 双方が主張する額の折衷額程度 | 裁判所基準 |
遅延損害金や弁護士費用は請求できない | 遅延損害金や弁護士費用は請求できない | 遅延損害金や弁護士費用は請求できない | 判決の場合は遅延損害金・弁護士費用・訴訟費用も請求できるが、和解の場合は調整金程度が認められる | |
費用 | 本人が示談交渉すると不要だが、弁護士に依頼すると弁護士費用が必要 | 多くは無料だが、有料のADR機関もある | 調停申立て費用は訴訟費用の半分 | 訴訟費用と弁護士費用が必要 |
解決の期間 | 迅速・柔軟な解決が可能 | 比較的早い | 比較的早い | 和解の場合は比較的早いが、判決を求めると時間がかかる |
時効 中断効 |
交渉が長引く場合は時効中断手続が必要 | 申請するADR機関により異なる | 調停申立に時効中断効があるが、不調の場合は1ヵ月以内に訴訟の提起が必要 | 時効中断効あり |
適する事案 | 事実関係に争いがない場合 | 事実関係に争いがなく争点が賠償額のみで、相手が任意保険に加入している場合 | 事実関係に争いがなく争点が賠償額のみで、相手が任意保険に未加入の場合 | 事実関係に争いがある場合 |
適さない事案 | 事実関係に争いがある場合や主張する損害額が極端に違う場合 | 事実関係に争いがある場合や相手が任意保険未加入の場合 | 事実関係に争いがある場合 | ― |
それぞれの手続のメリット・デメリットをふまえて選択する
当事者間で示談が成立しないとき、最終的な解決方法は、民事訴訟(損害賠償請求訴訟)の提起になります。
しかし、裁判は費用も時間もかかるため、賠償責任の有無や後遺障害等級などに争いがない場合は、ADR(裁判外紛争解決)機関に相談すれば、それほど時間も費用もかからず、示談・和解の斡旋を受けることができます。
交通事故の被害者が利用できるADR機関としては、「交通事故紛争処理センター」と「日弁連交通事故相談センター」が広く利用されています。いずれも利用は無料で、それぞれ、損保会社・共済組合に対する片面的拘束力(審査結果に従う義務)があるので有利です。
なお、賠償責任の有無や過失割合、後遺障害の存否や等級に関して争いがある場合は、自賠責の判断に関することになるので、自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理(調停)を申立てます。
交通調停や民事調停は、調停委員が必ずしも交通事故の損害賠償に詳しくないのが最大のデメリットです。調停の申立ては、相手が任意保険に加入していない場合など限定的に考えるのがよいでしょう。
終局的な解決方法は損害賠償請求訴訟ですが、判決に至るのは、わずか2割程度。多くは裁判上の和解で解決しています。
ADR、調停、訴訟、それぞれメリット・デメリットがあり、適する事案・適さない事案がありますから、どの手続を利用するのがよいのか、慎重に考える必要があります。
ADRと裁判のどちらを利用すべきか
調停の申立ては、交通事故の損害賠償事件の場合、ごく限られたケースしか利用するメリットはありません。そのため、多くの場合、ADRと裁判の選択になります。
もちろん、ADRを利用しても、審査結果に被害者側が不服なら訴訟の提起ということになります。ですから、まずADRを利用して、それでダメなら訴訟という流れでもよいのですが、そもそもADRは、利用できないケースや馴染まないケースが最初から分かっています。
当事者間の対立が激しく合意の見込みがほとんどないような場合は、結局は裁判を起こすことになり、ADRを利用した期間が無駄になってしまいます。解決まで長引くと、時効の問題も出てきます。
ADRと訴訟の特徴を理解して、適切な方法を選択することが大切です。そこで、ADRと訴訟のどちらを利用するとよいのか、判断の目安をご紹介しておきましょう。
ADRを利用した方がよいケース | 訴訟を提起した方がよいケース |
---|---|
|
|
「1」~「3」の事故態様・賠償責任・後遺障害等級に争いがある場合は、そもそもADRに馴染みません。弁護士に示談交渉を頼むか、弁護士が介入しても示談が成立しない場合は、訴訟の検討が必要になります。いずれにしても、弁護士に相談してみることが大切です。
ご紹介している内容は一般論です。交通事故は個別事情を考慮することが大切です。あなたの場合、どの解決方法がよいかは、交通事故の損害賠償問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。