過失割合と過失相殺率の違い

交通事故の過失相殺では、「過失割合」「過失相殺率」という、よく似た2つの言葉があります。「過失割合」と「過失相殺率」は、どう違うのでしょうか?

 

目次
  1. 過失相殺率と過失割合は概念が異なる
  2. 『過失相殺率認定基準』は過失相殺率であって過失割合ではない
  3. 過失割合と過失相殺率の違いを深く知るための3つのこと
  4. まとめ

 

 

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過失相殺率と過失割合は概念が異なる

過失相殺率と過失割合は、同じような意味合いで使われることが多いのですが、そもそも概念が異なります。

 

過失相殺率とは

過失相殺は「被害者の過失を考慮して、損害賠償額をどれだけ減額するか」の話で、過失相殺する割合を過失相殺率といいます。

 

過失相殺率は、損害賠償額の減額率に着目した概念です。

 

例えば、過失相殺率が3割であれば、損害額から被害者の過失3割分を減額した額が、賠償金額として被害者に支払われます。

 

過失割合とは

一方、過失割合は、被害者と加害者の過失の割合です。被害者と加害者の過失を対比して、被害者と加害者の双方に過失を割り付けたのが過失割合です。

 

例えば、「被害者3:加害者7」といったように、被害者と加害者に損害の過失責任を割り付けます。この場合、過失相殺にあたっての過失相殺率は3割ということになります。

「過失相殺率認定基準」は過失相殺率であって過失割合ではない

過失相殺率を判断するときには、通常、『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』(別冊判例タイムズ38)を参考にします。

 

その際、注意すべきことがあります。『過失相殺率認定基準』で示しているのは、交通弱者の側が被害者になったとき(人身損害が生じたとき)の過失相殺率であって、過失割合ではないということです。

 

つまり、「歩行者と四輪車・単車・自転車との事故」「単車と四輪車との事故」「自転車と四輪車・単車との事故」で示されている基準は、それぞれ、歩行者、単車、自転車が被害者となった場合の過失相殺率を示しています。

 

「四輪車同士の事故」の場合も、基本的に被害者の側の過失相殺率を示すものですが、対等者間の事故であるため、過失相殺率と過失割合が一致すると解して差し支えありません。

 

少々ややこしい話なので、おもな事故の類型について具体的に考えてみましょう。

 

 

「歩行者が被害者となった事故」の過失相殺率と過失割合

歩行者が被害者の場合、『過失相殺率認定基準』は、過失相殺率のみを表示し、相手の過失割合は表示していません。

 

歩行者と四輪車・単車との事故における過失相殺率の例

例えば、歩行者と四輪車・単車との事故で、歩行者が黄信号で横断を開始し、車両が赤信号で進入した場合の過失相殺率の基準は次のようになっています。

 

基本

10

修正要素 児童・高齢者

-5

幼児・身体障害者等

-5

集団横断

-5

車両の著しい過失

-5

車両の重過失

-10

※修正要素は一部のみ抜粋。

 

このような事故の場合、被害者(歩行者)が損害賠償請求する場合の基本の過失相殺率は 10%ということです。修正要素を加味して、実際の過失相殺率を決めます。

 

歩行者は、黄信号の場合に道路の横断を始めてはならず(道路交通法施行令2条1項)、左右の安全確認を怠っているので、歩行者の過失が問題となります。

 

しかし、赤信号に違反した車両の過失の方がはるかに大きいので、基準では「原則として10%以上の過失相殺をしない」とされています。

 

過失相殺率は、被害者保護・交通弱者保護などを考慮

『過失相殺率認定基準』には、次のような解説があります。

 

歩行者が被害者となる場合のみを取り上げることとし、被害者保護、危険責任の原則、優者危険負担の原則、自賠責保険の実務等を考慮して、歩行者に生じた損害のうちどの程度を減額するのが社会通念や公平の理念に合致するのかという観点から過失相殺率を基準化した。

 

歩行者が加害者となる場合、例えば、歩行者が路上に急に飛び出したため、急停止をした四輪車・単車の運転者・同乗者が負傷したり、歩行者との衝突を避けようとしてハンドルを切り、対向車と衝突した四輪車・単車の運転者・同乗者が負傷した場合等に、歩行者が不法行為責任を負うか、負うとしてその負担割合がどの程度かなどは、本章の基準の対象外である。

 

このように『過失相殺率認定基準』で示した過失相殺率は、「被害者保護・危険責任の原則・優者危険負担の原則」などを考慮して基準化したものです。

 

被害者である歩行者側から相手の車両の運転者等に損害賠償請求する場合、上のケースでは過失相殺率10%が適用されますが、これは、被害者の過失相殺率が10%というだけであって、被害者と加害者の双方に過失を割り付けた過失割合が10:90というわけではありません。

 

歩行者は負傷せず、車両の運転者・同乗者が負傷して、車両の運転者が歩行者側に損害賠償請求したとき、過失相殺率が90%になるわけではありません。

 

歩行者が不法行為責任(損害賠償責任)を負うか、歩行者の側に対して損害賠償請求する場合に過失相殺率をどの程度にするのが妥当かは、交通弱者保護の観点などから別個に判断する必要があるからです。

 

そういったことから、歩行者と車両との事故の類型の基準には、歩行者の過失相殺率しか示していません。

 

「四輪車同士の事故」の過失相殺率と過失割合

四輪車同士の事故の場合、『過失相殺率認定基準』は、過失割合を表示しています。1例をあげます。

 

四輪車同士の事故における過失相殺率の例

例えば、信号機のない同幅員の交差点において、A車・B車とも同程度の速度で進入し、出会い頭に衝突したケースです。A車が左方車、B車が右方車とすると、左方優先ですから、A車の過失相殺率の基準は次のようになります。

 

基本

A 40:B 60

修正要素 A車の著しい過失

+10

 


A車の重過失

+20

 


B車の著しい過失

-10

 


B車の重過失

-20

 


※修正要素は一部のみ抜粋。

 

ここで示しているのは、A車の基本の過失相殺率が40%ということですが、四輪車同士の事故の場合は、「対等者間の事故」なので、それぞれの車両の過失相殺率は、それぞれの車両の過失割合と同一と解することができます。

 

つまり、A車とB車の過失割合は「40:60」と解して差し支えないということです。

 

ですから、A車の運転者・同乗者が負傷してB車の運転者等に損害賠償請求する場合の過失相殺率は40%、逆に、B車の運転者・同乗者が負傷してA車の運転者等に損害賠償請求するときの過失相殺率は60%とすることができます。

 

「単車・自転車と四輪車との事故」の過失相殺率と過失割合

単車・自転車と四輪車との事故の場合も、『過失相殺率認定基準』は、「過失割合の形式」で表示しています。

 

しかし、この場合、四輪車同士の事故(対等者間の事故)のように、過失相殺率と過失割合が一致するわけではありません。

 

四輪車同士の事故における過失相殺率の例

例えば、信号機のない同幅員の交差点において、単車(A車)と四輪車(B車)がともに同程度の速度で進入し、出会い頭に衝突したケースです。単車(A車)が左方車、四輪車(B車)が右方車とすると、左方優先ですから、単車(A車)の過失相殺率の基準は次のようになります。

 

基本

A 30:B 70

修正要素 A車の著しい過失

+10

 


A車の重過失

+20

 


B車の著しい過失

-10

 


B車の重過失

-20

 


※修正要素は一部のみ抜粋。

 

『過失相殺率認定基準』には、次のような注意書があります。

 

一方が単車・自転車の事故の類型の基準においては、四輪車側の過失割合も示しているが、単車・自転車の過失割合は、そのまま過失相殺率として用いることを予定しているのに対し、四輪車側の過失割合は、あくまで注意的な記載であり、単車・自転車が加害者であるとして請求された場合における過失相殺率を直ちに示すものではない。

 

『過失相殺率認定基準』は、単車・自転車側に人身損害が生じた場合の過失相殺率を示しています。

 

したがって、歩行者と四輪車等との事故の場合と同じように、単車・自転車の側は負傷せず、四輪車の運転者・同乗者が負傷して相手に損害賠償請求する場合、基準に示されている過失割合の70%を過失相殺率とすることはできません。別個に判断することが必要になります。

過失割合と過失相殺率の違いを深く知るための3つのこと

過失割合と過失相殺率の違いは、次の3つのことを知っていれば、より深く理解できます。

 

過失相殺における「相対説」と「絶対説」

過失相殺の基本的な考え方には、「相対説」と「絶対説」があります。

 

「相対説」とは、被害者と加害者の双方の過失を対比して、過失相殺率を定める考え方、「絶対説」とは、被害者の過失の大小に着目して、過失相殺率を定める考え方です。

 

「相対説」か「絶対説」かで過失相殺率が異なる

「相対説」か「絶対説」か、どちらの立場で過失相殺するかによって、過失相殺率が違ってきます。

 

「相対説」の立場で考えると、被害者の過失が小さくても、加害者の過失が同じように小さい場合は、過失相殺率は相対的に高くなります。

 

例えば、被害者も加害者も同程度の軽微な過失であった場合を考えてみてください。相対説によると、被害者の過失は軽微であるにもかかわらず、加害者の過失も同程度に軽微なものですから、過失の割合は 5:5 となり、過失相殺率が5割となって、賠償金額は損害額の半分になってしまいます。

 

一方、「絶対説」の立場で考えると、被害者の過失の大小で過失相殺率を判断しますから、被害者の過失が小さいときは、過失相殺率は小さくなります。

 

相対説が通説的見解といわれますが、「歩行者と四輪車・単車との事故」など、対等者間の事故でない場合は「相対説においても過失割合という思考をとらない」(別冊判例タイムズ38)とされています。

 

「加害者の過失」と「過失相殺における被害者の過失」は違う

「過失相殺における被害者の過失」と「加害者の過失」とは、質的に異なることに注意してください。

 

加害者の過失は、法律上の義務違反や社会生活における信義則上の義務違反で、不法行為として損害賠償責任が生じます(民法709条)。

 

それに対して、過失相殺における被害者の過失とは、そういった義務違反(不法行為)である必要はなく、損害の公平な負担という過失相殺の理念から相当と認められる不注意とされています。

 

ですから、例えば、車同士の事故なら、運転者には道路交通法で様々な注意義務が課せられていますから、被害者の過失・加害者の過失は、同じレベルの過失として考えることもできますが、歩行者と車の事故の場合などは、同質の過失ではないのです。

 

過失相殺における交通弱者保護の原則

過失相殺にあたっては、交通弱者保護の原則があります。

 

四輪車より単車、単車より自転車、自転車より歩行者、成人より幼児・児童といったように、交通弱者が保護される原則です。

 

ですから、四輪車同士の事故など(対等者間における事故)の場合は、過失割合と過失相殺率が同一のものとして機能します。

 

しかし、歩行者・自転車・単車と四輪車の事故(弱者対強者間における事故)の場合は、過失割合の考え方は適しません。被害者保護・危険責任の原則・優者危険負担の原則などを考慮して基準化された過失相殺率基準にもとづき、過失相殺することになるのです。

まとめ

過失割合と過失相殺率は、同じような意味で用いられますが、厳密には異なる概念です。

 

ただし、実際の過失相殺の場面では、被害者の過失割合がいくらか、というような使い方をしますから、この場合、過失割合と過失相殺率は同じ意味で使っていることになります。

 

また、実際の事故の過失相殺においては、『過失相殺率認定基準』を参考に過失相殺率を判断しますから、それほど過失割合と過失相殺率の違いを気にすることはありません。

 

ただし、『過失相殺率認定基準』が参考にならない事故態様の場合は、注意が必要です。交通弱者が被害者となった場合の過失相殺率については、『過失相殺率認定基準』を参考にできますが、その逆のケースは、過失相殺率の基準がないからです。

 

例えば、あなたが四輪車で相手が単車の場合、相手に怪我はなかったものの、あなたの方が負傷して被害者となったときは、過去の判例などを参考にして、過失相殺率を判断しなければなりません。

 

いずれにしても、相手方の保険会社が示す過失割合・過失相殺率について疑問に感じたり納得できないときは、交通事故の損害賠償請求や示談交渉に強い弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

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過失割合に納得できない

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