健康保険から労災保険に途中で変更できる

Point
  • 交通事故が業務災害・通勤災害の場合は、労災保険を使うことができます。労災保険の適用があるなら、一般的には労災保険を使う方が有利です。
  • 健康保険を使って治療していて、途中で労災保険に切り替えることはできますが、手続きは少々面倒です。

 

労災保険は、健康保険に比べて治療費の自己負担がないとか、休業補償給付や障害補償給付が受けられるなど、交通事故の被害者にとってメリットの多い公的保険です。

 

健康保険を使って治療を受けていても、途中で労災保険が適用されることが分かった場合、健康保険から労災保険に変更することができます。

 

なお、労災保険と健康保険の併用はできません。労災保険が適用される交通事故の場合には労災保険を使うのが原則です。

 

ここでは、健康保険と比べた労災保険のメリット、健康保険から労災保険に変更する場合の手続きについてまとめています。

 

目次
  1. 健康保険より労災保険を使うメリット
  2. 健康保険より労災保険がどれくらい有利か
  3. 健康保険から労災保険に変更するための手続き
  4. まとめ

 

弁護士法人・響

健康保険より労災保険を使うメリット

健康保険は治療費の自己負担分が発生しますが、労災保険は自己負担がありません。さらに、休業補償給付や障害補償給付などに対しても補償が受けられます。

 

労災保険は治療費の自己負担がない

交通事故の治療で労災保険を使う最大のメリットは、治療費の自己負担がないことです。健康保険は、3割の自己負担が発生します。

 

もちろん、加害者が任意保険に加入していれば、通常、治療費は任意保険会社が病院に直接支払ってくれますから、治療費の自己負担を心配することはありません。

 

しかし、加害者が任意保険に加入していない場合や、被害者にも過失がある場合は、保険診療にしないと損です。その場合、健康保険診療とするか、労災保険診療とするかによって、最終的に受け取る賠償金額に差が出ることがあります。

 

労災保険は消極損害に対する補償も受けられる

交通事故の被害者が賠償を受けられる損害には、大きく積極損害・消極損害・慰謝料の3つがあります。

 

治療費は積極損害に含まれます。休業補償給付や障害補償給付などは積極損害に含まれます。つまり、労災保険は、積極損害だけでなく消極損害に対する補償もあるのです。

 

詳しくは、労災保険から受けられる給付をご覧ください。

 

ただし、消極損害の部分は、全額補償されるわけではありません。基本的に6割、特別支給金が加算されると8割が支給されます。また、慰謝料は支給されません。損害が填補されない部分については、あとで任意保険や自賠責保険に賠償請求することになります。

健康保険より労災保険がどれくらい有利か

「加害者が任意保険に加入していない場合」や「被害者の過失が大きい場合」は、健康保険よりも労災保険を使った方が、最終的に受け取る賠償金額が多くなることがあります。

 

相手が任意保険に加入していない場合

相手が任意保険に加入していない場合は、基本的に自賠責保険の範囲でしか賠償を受けられません。加害者に賠償資力があれば別ですが、そういうケースはほとんどないでしょう。

 

自賠責保険の支払い限度額は、傷害事故の場合120万円が上限です。治療費・休業補償・慰謝料を全て合計して120万円までしか支払われません。

 

治療費は、自己負担額が被害者の損害となり、自賠責保険に請求できます。自由診療なら治療費全額が自己負担となりますから、治療費を自賠責に請求すると、それだけで支払上限に達することがあり、休業補償や慰謝料は受け取れなくなってしまいます。

 

健康保険診療なら自己負担は3割です。3割分だけ治療費を請求すれば済みますから、休業補償や慰謝料を受け取れる可能性が高くなります。

 

労災保険なら治療費の自己負担がありませんから、120万円は全て休業補償と慰謝料として請求できます。しかも、休業補償については最大8割まで労災保険から給付を受けられますから、不足分を自賠責保険に請求すればよいのです。

 

被害者の過失が大きい場合

被害者にも過失がある場合に、健康保険より労災保険がどれくらい有利かについては、過失相殺と損益相殺が絡んできます。

 

保険診療の場合、健康保険や労災保険から支払われた保険給付部分は、被害者に代わって保険者(事業主体)が損害賠償請求権を代位取得します。あとで加害者(損保会社)に、その金額を求償する仕組みです。

 

保険者が代位取得し、被害者が賠償請求権を失った金額については、損害賠償額から控除されます。その際、健康保険給付は控除後に過失相殺しますが、労災保険給付は過失相殺後に控除します。少々、計算が面倒です。

 

具体的に考えた方がイメージしやすいと思いますので、具体例で考えてみましょう。

 

被害者の過失が4割のケースの事例

健康保険を使った場合の治療費が100万円、被害者の過失割合が40%の場合を考えてみます。この場合、同じ診療内容で労災保険を使うと、治療費は120万円となります。

 

同じ診療内容でも労災保険診療の方が治療費が高くなるのは、診療報酬単価が、健康保険は1点10円であるのに対し、労災保険は1点12円だからです。

 

・被害者の過失割合40%
・健康保険診療の場合の治療費 100万円(1点=10円)
・労災保険診療の場合の治療費 120万円(1点=12円)

 

健康保険を使った場合

健康保険の場合は、保険給付分を控除後に過失相殺します。

 

治療費は100万円です。100万円から保険給付分の7割(70万円)を控除した残り30万円(自己負担分)について過失相殺します。被害者に4割の過失がありますから、賠償請求できるのは6割分で18万円となります。

 

つまり、賠償請求できない残り12万円は、被害者の負担となります。

 

労災保険を使った場合

労災保険の場合は、過失相殺後に保険給付分を控除します。

 

治療費は120万円です。加害者側に賠償請求できるのは、120万円の6割ですから72万円です。ここから労災保険から給付を受けた120万円を控除します。

 

つまり、48万円が余分に支払われたことになります。

 

なお、労災保険では費目流用が禁止されていますから、治療費で余分に支払われたからといって、その分が休業損害や慰謝料から控除されることはありません。

 

このように、労災保険を使った方が健康保険を使うより有利な結果となるのです。

 

休業損害・慰謝料も含めた計算例についてはこちらを参考にしてください。

健康保険から労災保険に変更するための手続き

労災保険が適用される交通事故なのに、健康保険を使って治療を受けていた場合は、健康保険から労災保険に変更できます。

 

健康保険から労災保険に変更すると、それまで健康保険で自己負担していた治療費を受け取ることができます。

 

病院で切り替えができる場合

病院で健康保険から労災保険への切り替えができる場合がありますから、まずは病院の窓口で確認してみてください。

 

この場合、病院の窓口で支払った金額が返還されます。

 

労災保険の「療養補償給付たる療養の給付請求書・業務災害用」(様式第5号)または「療養給付たる療養の給付請求書・通勤災害用」(様式第16号の3)を病院に提出します。

 

病院で切り替えができない場合

病院で変更手続きができない場合は、いったん医療費の全額を自己負担した上で、労災保険に請求するようになります。

 

  1. 加入している健康保険組合等へ、労災(業務災害または通勤災害)だった旨を申し出ます。
  2. 健康保険組合等から医療費返還の通知を納付書が送られてくるので、返納金を支払います。
  3. 返納金の領収書と医療機関で支払った窓口一部負担の領収書を添えて、労災保険の「療養補償給付たる療養の費用請求書・業務災害用」(様式第7号)または「療養給付たる療養の費用請求書・通勤災害用」(様式第16号の5)を労働基準監督署へ提出します。

労災請求の際にレセプトの写しが必要になる場合がありますから、請求の際に労働基準監督署にご確認ください。

 

「療養の給付」と「療養の費用」の違い

「様式第5号、第16号の3」は「療養の給付」の請求、「様式第7号、第16号の5」は「療養の費用」の請求となっています。

 

「療養の給付」は、現物給付で自己負担がありません。労災保険指定医療機関の場合は、療養の給付を受けられます。

 

「療養の費用」は、療養の費用を支給するもので、いったん治療費を立て替えて支払い、あとで労働基準監督署に請求します。指定医療機関でない場合は、療養の費用の支給となります。

まとめ

健康保険を使って治療していて、後で労災保険が適用されることが分かった場合、健康保険から労災保険に変更することができます。

 

労災保険が適用される業務災害・通勤災害は、労災保険を使うのが原則です。仮に、会社が労災保険に未加入であっても、労災保険の請求はできます。

 

しかも、労災保険の方が、健康保険に比べて、被害者にとって有利です。労災保険が適用されるのに健康保険を使って治療しているのであれば、健康保険から労災保険への切り替えをおすすめします。

 

健康保険から労災保険への切り替えで、疑問や困ったことがあれば、弁護士に相談するとよいでしょう。

 

弁護士に相談すれば、労災保険に切り替えると「どれくらい有利になるか」試算してもらうことができ、変更手続きだけでなく、その後の示談交渉まで全て任せることができます。

 

弁護士法人・響

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