交通事故で損害賠償請求できる法律上の根拠

交通事故(人身事故・物損事故)の損害賠償に共通して適用されるのは、民法第709条(不法行為責任)第715条(使用者責任)です。

 

特に、自動車の運行による人身事故の損害賠償責任については、自賠法(自動車損害賠償保障法)第3条(運行供用者責任)を適用できます。

 

道路など公の営造物の設置・管理の瑕疵(欠陥)により事故が発生した場合は、国家賠償法第2条(営造物責任)を適用できます。

 

ここでは、民法709条「不法行為責任」と民法715条「使用者責任」、自賠法3条「運行供用者責任」について、それぞれの特徴と民法・自賠法を適用する場合の違いを見ていきましょう。

 

民法の「不法行為責任」と「使用者責任」

交通事故は、民事上は不法行為の一種ですから、加害者側に損害賠償の義務が生じます。民法第709条(不法行為責任)と第715条(使用者責任)が適用されます。

 

民法709条(不法行為による損害賠償)

故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法715条1項(使用者責任)

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

 

民法709条は、不法行為による損害賠償の基本原則を定めたものです。この規定にもとづき、自動車事故を起こした加害車両の運転者に対して損害賠償請求できます。

 

民法715条は、会社の従業員が業務中に起こした事故について、雇用主に使用者責任があることを定めたものです。

 

業務中に会社の車で事故を起こした場合の損害賠償請求

トラック運転手が荷物を運送中に事故を起こした場合や、タクシー運転手が業務中に事故を起こした場合などは、運転者に対しては民法709条の不法行為責任により、雇用主に対しては民法715条の使用者責任により、損害賠償請求できます。

 

ただし、運転者と使用者から重ねて損害の賠償を受けることはできません。

自賠法の「運行供用者責任」

自動車損害賠償保障法(自賠法)では、運転者や使用者という文言を使わず、自動車の運行供用者が損害賠償責任を負うことを定めています。

 

自賠法の損害賠償責任の規定を見る前に、そもそも自賠法がどんな法律なのか、押さえておきましょう。

 

自賠法は、人身事故における被害者の保護が目的

自賠法(自動車損害賠償保障法)とは、自動車の運行による人身事故における「被害者の保護」を目的につくられた法律です。

 

自賠法第1条(法律の目的)

この法律は、自動車の運行によって人の生命または身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。

 

「自動車の運行によって、人の生命または身体が害された場合」という条件があることに注意してください。自賠法が適用されるのは、自動車の運行による人身事故のみです。

 

条文中の「損害賠償を保障する制度」とは、「自賠責保険(自賠責共済を含む)制度」と「政府の自動車損害賠償保障事業」です。

 

「運行供用者責任」とは

自賠法では、損害賠償責任者を加害車両の運転者に限らず、「自己のために自動車を運行の用に供する者」にまで範囲を広げています。これを運行供用者といいます。

 

自動車の運行供用者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、それによって生じた損害を賠償する責任を負うことが自賠法3条で定められています。

 

自賠法第3条(自動車損害賠償責任)

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。

 

ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。

 

運行供用者の例

運行供用者について、自賠法に定義規定はありません。「自己のために自動車を運行の用に供する者」とあるだけです。具体的にイメージできるように例をあげておきましょう。

 

オーナードライバーの場合

自分の所有する自動車を運転中に人身事故を起こしたときは、運転者が運行供用者になります。

 

タクシードライバーの場合

タクシーが人身事故を起こしたときは、タクシーを所有しているタクシー会社が運行供用者になります。タクシー運転手は、民法の不法行為責任を負います。

 

賠償責任者を運行供用者とした意義

直接の加害者である運転者に損害賠償請求しても、賠償能力が低く十分な賠償を受けられないことが大半ですが、会社などが運行供用者として賠償責任を負うと、比較的賠償資力の豊かな者に請求することによって、被害者の保護が図られるようになったのです。

民法による損害賠償請求と自賠法による損害賠償請求の違い

民法709条(不法行為責任)により損害賠償請求するか、自賠法3条(運行供用者責任)により損害賠償請求するかは、賠償請求する相手が異なるというだけではありません。

 

民法は、「相手に損害賠償責任がある」ことの立証責任が被害者側にあるのに対して、自賠法は、「自分に損害賠償責任がない」ことの立証責任が加害者側にあります

 

つまり、自賠法による損害賠償請求は、加害者が「自分に責任がない」ことを立証できない限り、賠償責任を負う仕組みになっているのです。

 

「民法の立証責任」と「自賠法の立証責任」の違いを見てみましょう。

 

民法にもとづく損害賠償請求は、被害者に立証責任がある

不法行為(民法709条)が成立するためには、次の5つの要件を全て満たす必要があり、不法行為が成立すると、その効果として、被害者に損害賠償請求権が発生します。

 

不法行為の成立要件
  1. 加害者に責任能力があること。
  2. 被害者の権利または法律上保護される利益を侵害したこと。
  3. 加害者に故意または過失があったこと。
  4. 損害が発生したこと。
  5. 加害行為と損害との間に因果関係があること。

 

民法709条(不法行為)にもとづく損害賠償請求が認められるためには、この全てを被害者側が立証しなければなりません。

 

加害者の責任能力

責任能力とは、自己の行為の責任を弁識する能力のことです。すなわち、相手に損害を与えると、それを賠償する法的責任が生じることを理解する能力のことです。

 

責任能力の有無は、加害者の年齢、疾患による心神喪失の有無などから判断します。

 

未成年者については、だいたい12歳前後の知能が基準となり、一般的には中学生になれば責任能力が認められます。刑事事件のように責任年齢を一律に14歳以上(刑法41条)と決めているわけでなく、民事では、責任能力の有無は個別に判断します。

 

被害者の権利または法律上保護される利益の侵害

例えば、加害者が自動車を運転して被害者をはねたことが、被害者の権利または法律上保護される利益の侵害に当たります。

 

被害者の権利・利益を侵害する行為(違法性のある加害行為)であるかどうかは、侵害された権利・利益の種類と侵害行為の態様との相関関係で判断されます。

 

交通事故の場合は、負傷すれば身体権の侵害、死亡すれば生命権の侵害、物損は財産権の侵害という重要な権利・利益の侵害に当たるので、侵害行為の態様(悪質性)を問題とする余地はないでしょう。

 

加害者の故意または過失

故意とは、わざと事故を起こすことです。過失とは、運転者として当然払うべき注意義務を怠ったことです。

 

民法は過失責任の原則(過失責任主義)を採っており、過失は、不法行為の成立要件の中でも最も重要な要件です。ただし、相手の故意・過失を証明することは、簡単ではありません。

 

交通事故発生原因の大半は過失ですから、ここでは過失について見ておきましょう。

 

過失は、「うっかり」といった精神的緊張の欠如(主観的過失論)としてではなく、「結果発生の予見可能性を前提とした結果回避義務違反」として解されています(客観的過失論)

 

交通事故における「結果」とは、事故のことです。すなわち、事故の発生を予見する可能性があったか、予見できた場合に事故を回避する可能性があったか、が問題になります。

 

事故の発生を予見することができ、かつ、事故の発生を回避することができたのに回避するための行為を行わなかった場合に過失が認められます。

 

事故の発生を全く予見できない態様だった場合や事故を避けようがなかった場合は、過失は認められません。

 

損害の発生と額

例えば、被害者が怪我をし、○○万円の損害を被ったということです。

 

不法行為があっても、被害者に損害が発生しなければ、不法行為にもとづく損害賠償請求権は発生しません。

 

加害行為と損害との因果関係

例えば、加害者が被害者をはねた結果、被害者が怪我をしたということです。

 

加害者が損害賠償責任を負うのは、社会通念に照らし妥当と認められる因果関係(相当因果関係)の範囲内の損害に限定されます。

 

あとになって症状が現れた場合など、事故と損害の因果関係の立証が難しい場合があります。事故の数日後に死亡したのに「死因は持病によるもの」とされ、保険会社から支払いを拒否される例もあります。

 

自賠法にもとづく損害賠償請求は、加害者に立証責任がある

被害者の側が加害者の故意・過失を立証するのは、容易なことでありません。そのため、被害者救済の見地から、自賠法において、立証責任を加害者側に転換するなどした運行供用者責任が設けられました。

 

そのため、自賠法にもとづき、被害者が損害賠償請求する場合は、ただ自動車の運行によって損害が発生したという事実のみを主張立証すればよいのです。

 

自賠法に定める運行供用者は、次の3つの要件(無責3条件)すべてを立証しなければ、損害賠償責任を免れることはできません(自賠法3条ただし書)

 

運行供用者の無責3条件
  1. 運行供用者と運転者に過失がなかったこと。
  2. 被害者または運転者以外の第三者に、故意または過失があったこと。
  3. 自動車に構造上の欠陥または障害がなかったこと。

 

これを全て立証することは難しく、自賠法の運行供用者責任は、事実上の無過失責任(過失がなくても賠償責任を負う)に近く、ほとんどの場合、損害賠償責任を負うことになります。

 

ただし、運行供用者責任が「無過失責任に近い」とはいえ、完全な無過失責任を認めたものではありません。場合によっては被害者に一方的な過失があったとして、加害者無責(責任なし)とされることがあります。

まとめ

交通事故の損害賠償請求は、基本的には民法によりますが、人身事故の場合は、自賠法3条(運行供用者責任)にもとづいて賠償請求することもできます。

 

どちらの法律による損害賠償請求をしてもよいのですが、自賠法を適用できるときは、自賠法による方が立証が容易です。

 

自賠法による損害賠償請求は、民法のように被害者側が相手の故意・過失を立証する必要はなく、加害者側(運行供用者)が「自分に過失がなかった」ことを立証できない限り、損害賠償責任を免れることはできません。被害者側は、事故により損害が発生し、損害額がいくらかを主張・立証すればよいのです。

 

なお、物的損害については、基本的に自賠法の適用がなく、民法による損害賠償請求となります。メガネや補聴器など身体に密着し、身体の一部の機能を代行している物に、自賠法が適用される程度です。また、自転車による人身事故には、自賠法は適用されません。

 

自動車事故で、人損と物損の両方に及ぶ場合は、人損は自賠法、物損は民法と「二本立て」で損害賠償請求することになります。

 

交通事故の賠償責任で納得がいかないときは、交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。

 

交通事故の相談は 弁護士法人 響 へ

 

交通事故の被害に遭ってお困りの方は、お気軽に何でもご相談ください。


弁護士法人・響は、月間相談実績1,000件超。当サイトで最も無料相談の申込みの多い弁護士事務所です。テレビの報道番組で法律問題を解説するなど知名度もあり安心です。弁護士保険も使えます。


相談無料・着手金0円・全国対応


交通事故の被害者専用フリーダイヤル

0120-690-048(24時間受付中)
相談をお急ぎの方は、こちらのフリーダイヤルにかけると、優先して対応してもらえます。メールでの無料相談のお申込み、お問合せは、公式ページからどうぞ。


 

参考文献

・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 45~49ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 6~14ページ
・『交通事故と保険の基礎知識』自由国民社 62~71ページ
・『口語民法』自由国民社 関係条文の解説

ページの先頭へ戻る