示談成立前に損害の全額が保険会社から支払われる

Point
  • 人身傷害補償保険は、加害者の有無や過失割合に関係なく、契約した保険金額を限度として損害額全額の補償を受けられます。
  • 示談が成立していなくても、保険金を受け取ることができます。
  • ただし、裁判所が認定する総損害額より低額になります。

 

過失相殺なしで損害全額を補償・示談交渉が不要

人身傷害補償保険は、自動車事故により被保険自動車の搭乗者が死傷したとき、過失割合に関係なく、治療費・休業補償・慰謝料など損害の全額が、契約した保険金額を限度に補償される保険です。

 

人身傷害補償保険は、被害者に有利な2つの大きな特徴があります。

 

人身傷害補償保険2大メリット
  1. 過失相殺せず、損害の全額を補償してくれる。
  2. 加害者との示談交渉が不要で、示談が成立していなくても支払われる。

 

過失相殺せず損害全額を補償

人身傷害補償保険の最大のメリットは、過失相殺せず、被害者の被った損害を全額補償してくれる点です。自身に過失があった場合でも、過失部分も含めて補償されます。

 

例えば、こんなケースを考えてみてください。

  • 自身の損害額の総額が 5千万円
  • 自分と相手の過失割合が 40:60(被害者に40%の過失があったと判断されたケース)

 

この場合、被害者が受け取れる損害賠償額は、40%分は過失相殺で減額され、3千万円(5千万円×60%)です。残り 2千万円(40%分)は賠償を受けられず、自己負担となります。

 

しかし、人身傷害補償保険に加入していれば、過失割合に関係なく、自分の契約している任意保険から、損害の全額が補償され、5千万円を受け取ることができます。

 

人身傷害補償保険は、被害者の過失分を含めて「損害の全額」を補償しますが、算定される損害額は裁判で認定される損害額よりも低額になります。

 

示談成立前でも支払われる

人身傷害補償保険のもう1つの大きなメリットは、賠償額をめぐり加害者側との交渉が不要で、スムーズに損害賠償を受けられる点です。

 

人身傷害補償保険は、保険会社が支払基準にもとづき保険金を被保険者に支払い、あとから相手方(加害者または加害者の保険会社)に求償する仕組みです。ですから、示談交渉がまとまらないようなケースでも、示談成立を待たずに賠償金(保険金)を受け取れます。

 

保険会社が相手方に求償する金額は、被害者に過失がある場合は、過失相殺した額です。被害者側の過失分は、保険会社が補償することになります。

 

上の例で考えてみると、保険会社から損害の全額 5千万円が被保険者(被害者)に支払われます。その後、保険会社は加害者に 3千万円(60%分)を求償し、被害者の過失分 2千万円は、保険会社が補償することになります。

 

どんな事故の場合に保険金が支払われるか

人身傷害補償保険は、被保険自動車の搭乗者(運転者・同乗者)が、事故により死傷した場合に保険金が支払われます。加害者の有無は関係ないので、単独事故でも無保険車との事故でも補償されます。

 

対象は、保険契約している車両に乗っていた運転者・同乗者の全員です。傷害、後遺障害、死亡、いずれの場合も保険金が支払われます。

 

そのほか、記名被保険者、その配偶者・同居の家族、別居の未婚の子などが、被保険自動車でない「他の自動車に搭乗中の事故」や、歩行中に車やバイクにはねられたなどの「車外での自動車事故」により、死傷した場合にも、保険金が支払われます。

 

ただし、他の自動車に搭乗中の自動車事故については、二輪自動車、原動機付自転車などに搭乗中の場合は含まれません。また、被保険自動車以外の自動車で、被保険者が所有または主として使用する自動車に搭乗中に、その本人について生じた損害は補償されません。

 

被保険者

人身傷害補償保険の被保険者は、次のいずれかに該当する者です。

  1. 保険証券記載の被保険者(記名被保険者)
  2. 記名被保険者の配偶者(内縁を含む)
  3. 記名被保険者またはその配偶者の同居の親族
  4. 記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子
  5. 上記以外で被保険自動車の搭乗者

 

支払われる保険金の算定方法

人身傷害保険から支払われる保険金は、保険約款で定める人身傷害補償保険の損害額算定基準(人傷基準)にもとづき算出された損害額の全額が、契約した保険金支払限度額の範囲で支払われます。被害者に重度後遺障害が残った場合は、限度額が2倍になるのが一般的です。

 

例えば、「人傷基準」により算定される総損害額が8千万円だったとしましょう。契約している保険金額(限度額)が5千万円の場合は、5千万円の保険金が支払われ、保険金額を1億円で契約していた場合は、8千万円が支払われます。

 

なお、人身傷害補償保険は実損填補型の保険なので、自賠責保険や対人賠償保険、労災保険などから既に支払いがあった場合は、その額が控除されます。

 

保険金が支払われない主なケース(免責事由)

保険金が支払われない主な免責事由には、次のようなものがあります。

 

  1. 被保険者の故意または重大な過失によって、その本人に生じた損害
  2. 被保険者の無免許運転、酒気帯び運転、麻薬等の影響を受けた運転によって、その本人に生じた損害
  3. 地震、噴火、これらによる津波によって生じた損害
  4. 戦争、核燃料物質、放射能汚染等によって生じた損害
  5. 被保険自動車を競技、曲技または試験のために使用すること

 

【関連】⇒ 任意保険の免責事由

損害額が裁判所基準よりも低く算定される(デメリット)

人身傷害補償保険は、「過失相殺されない」「示談が成立していなくても支払われる」というメリットはあるのですが、その一方で、保険会社が算定する損害額は、裁判で認定される損害額よりも低額になるデメリットがあります。

 

保険会社が独自に設定している人身傷害補償保険の損害額算定基準(人傷基準)が、裁判基準よりも低いからです。

 

人身傷害補償保険で支払われる保険金が、裁判で認定される賠償額よりも低額に抑えられているという実情があることについて、「高額化してきた対人賠償保険金の支払いに代えて、人身傷害保険の支払基準にもとづく、より低額な保険金の支払いで解決できる状況を実現したいという保険会社側の意図が背景にあるのではないか」という指摘があります。
(参考:『改定版 交通事故実務マニュアル』東京弁護士会法友全期会・交通事故実務研究会)

 

人身傷害補償保険が損害賠償請求より有利なケース

裁判基準で算定した損害額の方が高いとしても、過失相殺後の損害賠償額と比べると、「人傷基準」で算定した損害額の方が高くなることがあります。

 

例えば、「人傷基準」により算定された損害額が8千万円とします。裁判基準で損害額が1億円だったとしても、被害者に40%の過失があった場合は過失相殺され、取得できる賠償額は6千万円です。

 

このように、被害者の過失割合が大きい場合は、損害賠償額より人身傷害補償保険金の方が高額になることがあります。

 

ただし、実際には、賠償金か保険金か、いずれか一方を選ぶということはありません。両方とも請求できますから、人身傷害補償保険を受け取った上で損害賠償請求するか、損害賠償金を受け取った上で過失相殺された額を人身傷害補償保険に請求するか、いずれかの方法をとることになります。

まとめ

人身傷害補償保険は、自身に過失があっても過失分も含めて補償され、示談が成立していなくても保険金を受け取れるメリットがあります。

 

また、保険契約者本人だけでなく、その家族も補償の対象とされ、歩行中や自転車に乗っているときに自動車事故に遭っても補償されます。単独事故や無保険車との事故も補償を受けられます。補償範囲が広いことも特徴です。

 

ただし、保険会社が独自に定める損害額の算定基準が裁判基準よりも低いため、損害の全額を補償するといっても、裁判で認定される損害額よりも低額になる実態があります。

 

ここで紹介しているのは一般的な内容です。保険会社や個々の保険によって異なることがありますから、必ず、ご自身の保険契約・保険約款をご確認ください。

 

お困りのことがあったら、今すぐ「保険会社との交渉に強い弁護士」に相談することをおすすめします。早く弁護士に相談するほど、メリットが大きいのです!

 

弁護士法人・響

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