自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)の内容と策定経緯

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)の内容と策定経緯

自賠責診療費算定基準(自賠責保険診療費算定基準)は、1989年(平成元年)に、交通事故の診療単価について、自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)・日本損害保険協会・日本医師会の3者が合意した基準です。自賠責診療報酬基準、日医基準、新基準とも呼ばれます。

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自賠責診療報酬基準

 

交通事故の治療は自由診療が原則ですが、損保会社側と医師会が合意した診療費単価があり、これを「自賠責保険診療費算定基準」(自賠責診療費算定基準)といいます。「自賠責診療報酬基準」「日医基準」「新基準」とも呼ばれます。

 

自賠責診療費算定基準には法律による縛りはなく、交通事故患者の診療費の算定に自賠責診療費算定基準を採用するかどうかは、各医療機関の判断に任されています。

 

ここでは、自賠責診療費算定基準がどんなものか、その内容、策定経緯、課題についてまとめています。

 

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)の内容

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)は、1989年6月、交通事故の診療単価について自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)・日本損害保険協会・日本医師会の3者が合意した診療報酬基準です。

 

「保険金を支払う保険会社サイド」と「請求する医療機関サイド」との申し合わせで、法的な強制力はありません。

 

この自賠責保険診療費算定基準を大きく上回る診療基準で算定した治療費を請求すると、高額診療として、損保会社が支払いを拒否する場合があります。

 

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)は、労災保険に準拠して診療費の基準を設定しています。交通事故は「交通災害」であり、災害医療を扱う労災保険の診療報酬基準に準拠するのが適切との判断からです。

 

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)は、次の通りです。

 

自動車保険の診療費については、現行労災保険診療費算定基準に準拠し、薬剤等「モノ」についてはその単価を12円とし、その他の技術料についてはこれに20%を加算した額を上限とする。

 

ただし、これは個々の医療機関が現実に請求し、支払いを受けている診療費の水準を引き上げる趣旨のものではない。

 

薬剤等「モノ」は、労災保険の診療費算定基準と同じ1点12円です。「モノ」とは、薬剤(内服薬・外用薬・注射薬・試薬)、酸素・窒素、血液、フィルム代、衛生材料、特定保健医療材料です。

 

「モノ」以外の「その他の技術料」は、労災保険の診療費算定基準に20%を加算した額が上限です。つまり、労災保険の診療費算定基準の20%増しを基準としています。

 

この基準は上限を定めるもので、ただし書は、この基準より低い基準で診療費を請求していた場合に、この水準まで引き上げるものではないことを明確にしたものです。

 

そもそも、自賠責保険診療費算定基準の設定は、一部の医療機関等の過大な医療費請求に対し、交通事故診療費の適正化を図ることが主な目的です。

 

実際の交通事故診療単価

自賠責診療費算定基準をベースにすると、1点単価は、外来が20~28円、入院が15円前後となります。
(参考:日本臨床整形外科学会編集『Q&Aハンドブック交通事故診療 全訂新版』創耕舎 66ページ)

 

裁判では1点単価25円まで認められていますが、最近は1点20円が主流です。

 

自賠責診療費算定基準にもとづき、損保会社は、医療機関との間で1点15円~20円の範囲で交渉を行うことが多いようです。
(参考:交通事故賠償研究会編集『交通事故診療と損害賠償実務の交錯』創耕舎 58ページ)

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)の策定経緯

交通事故診療費の適正化問題の議論は、およそ半世紀前まで遡ります。

 

交通事故診療にかかる医療費の請求額が過大であることが問題となっていて、1969年10月に自賠責審議会が、「国民の納得する公正な診療基準と適正な支払方法の確立を図るべき」とし、自賠責保険独自の診療報酬基準を策定する必要があると答申しました。

 

これを契機に交通事故診療費の基準策定に向けた議論が行われましたが、このときには基準策定に至りませんでした。

 

その後、交通事故の激増によって自賠責保険の財政が赤字となり、自賠責保険料の値上げが検討された1984年の自賠責審議会で、再度、自賠責保険の診療報酬基準を策定すべきとする答申が出されました。

 

この答申には、自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)と日本損害保険協会が、日本医師会の協力を得て、三者協議による自動車保険診療報酬基準を作成し、全国的に浸透・普及した段階でその制度化を図るという内容が盛り込まれました。

 

この答申を受け、自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)・日本損害保険協会・日本医師会の3者が協議を重ね、1989年6月に合意が成立しました。

 

こうして策定されたのが、自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)です。

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)に強制力はない

自賠責診療費算定基準は、あくまでも損害保険料率算出機構・日本損害保険協会・日本医師会の3者の申し合わせ(合意)にすぎず、法的な強制力はありません。

 

そのため、各都道府県単位で、3者が協議し合意を得て進めていく方式が採られました。また、都道府県単位で3者が合意に至った場合も、都道府県内の医療機関で一斉に採用する方式でなく、各医療機関が個々に採用を判断する「手あげ方式」としています。

 

2015年11月に、最後に残っていた山梨県が合意し(2016年1月21日自賠責審議会議事録)現在は、全ての都道府県で合意に至っています。

 

ただし、医療機関の数では、自賠責診療報酬基準を採用している医療機関は6割にとどまっています(2011年1月14日自賠責審議会議事録)

 

日本医師会の労災・自賠責委員会答申(2016年2月)でも、「新基準の医療機関単位の採用率については、全国平均で6割を超えているとの報告もあるが、都道府県により大きな差異があるのが現実である」と指摘しています。

 

まだまだ自賠責診療費算定基準の採用比率は高いとはいえず、しかも、地域によってアンバランスがあるのが実情です。

 

1984年の自賠責審議会答申で、自賠責診療費算定基準が「全国に浸透・普及した段階で制度化を図る」とされていました。全国すべての都道府県で基準採用の合意がなされたのですから、今後、法制化の動きが出てくることが期待されます。

まとめ

交通事故診療は、全くの自由診療というわけではなく、自賠責保険診療費算定基準(日医基準)という診療報酬基準があります。これは、損保会社側と医師会との間で合意した基準です。

 

強制力はなく、医療機関は、患者である被害者との間で診療単価を自由に設定し、診療契約をすることができますが、自賠責診療費算定基準を大きく上回る診療単価で診療契約すると、高額診療として保険会社が治療費の支払いを拒否する場合があります。

 

保険会社から支払いを受けられない治療費は、被害者の自己負担となりますから、診療契約をするときには注意が必要です。

 

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【参考】
・交通事故賠償研究会編集『交通事故診療と損害賠償実務の交錯』創耕舎 13~18ページ、30~40ページ、58ページ
・日本臨床整形外科学会編集『Q&Aハンドブック交通事故診療・全訂新版』創耕舎 63~87ページ
・日本医師会 労災・自賠責委員会答申(平成28年2月、平成26年1月)
・金融庁・第128回自賠責審議会議事録(平成23年1月14日)、第135回自賠責審議会議事録(平成28年1月21日)

公開日 2020-06-26 更新日 2023/03/13 12:46:48