自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)とは

Point
  • 交通事故の治療を自由診療で受ける場合にも、一応、診療報酬基準があります。それが自賠責診療費算定基準(自賠責保険診療費算定基準)です。
  • ただし、その基準を採用するかどうかは、それぞれの医療機関の判断です。

 

交通事故の治療は自由診療が基本ですが、一応、診療報酬基準があります。「自賠責診療費算定基準」(自賠責診療報酬基準)です。「日医基準」とか「新基準」とも呼ばれます。

 

ただ、健康保険診療や労災保険診療と異なり法律による縛りがないので、この診療報酬基準を採用するかどうかは、各医療機関の判断に任されています。

 

ここでは、自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)の内容と策定経緯についてまとめています。

 

目次
  1. 自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)の内容
  2. 自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)の策定経緯
  3. 自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)に法的拘束力はない
  4. 実際の交通事故診療費の目安

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)の内容

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)は、交通事故の診療単価について、平成元年6月に自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)・日本損害保険協会・日本医師会の三者が合意した診療報酬基準です。

 

自賠責診療費算定基準は、自賠責保険と同じく労災保険に準拠し、診療費の基準を策定しているのが特徴です。交通災害は、災害医療を扱う労災保険の診療報酬基準に準拠するのが適切との判断からです。

 

自賠責診療費算定基準

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)は、次の通りです。

 

  1. 自動車保険の診療費については現行労災保険診療費算定基準に準拠し、薬剤等「モノ」についてはその単価を12円とし、その他の技術料についてはこれに20%を加算した額を上限とする。
  2. ただし、これは個々の医療機関が現実に請求し支払いを受けている診療費の水準を引き上げる趣旨のものではない。

 

薬剤等「モノ」については、労災保険診療費算定基準どおり単価を12円とします。

 

その他の「技術料」については、労災保険診療費算定基準に20%を加算した額を上限とします。料金表示は「料金×1.2」、点数表示は「点数×12円×1.2」が上限となります。

 

健康保険診療は1点10円、労災保険診療は1点12円ですから、自賠責保険診療基準は、おおむね労災保険診療の1.2倍、健康保険診療の1.44倍ということになります。

 

診療報酬費基準を定めることにも問題点がある

そもそも自賠責診療費算定基準の策定は、交通事故診療費の請求が過大な一部の医療機関への対応、つまり「交通事故診療費の適正化」が主な目的です。

 

しかし、診療報酬基準を定めることで、この基準よりも低い請求・支払いが行われている医療機関では「この水準まで引き上げることになる」という適正化に反する問題が生じます。

 

そのため日本医師会は、平成元年6月28日に自賠責診療費算定基準について都道府県医師会へ通知を出した際、「各地域で医師会、損保協会、自動車保険料率算定会が協議した上で対応をお願いする」と、各地域の実情を勘案して慎重な対応を求めています。

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)の策定経緯

交通事故診療費の適正化問題の議論は、およそ半世紀前まで遡ります。

 

当時から、一部の医療機関の医療費請求額が過大であることが問題視されていました。自賠責保険を運営する損保会社や組合にとって保険金(治療費)支払額が増えるからです。

 

それを防ぐため、昭和44年(1969年)10月に自賠責審議会が、「国民の納得する公正な診療基準と適正な支払方法の確立を図るべき」とし、自賠責保険独自の診療報酬基準を策定を答申しました。

 

これを契機に交通事故診療費の基準策定に向けた議論が行われましたが、このときには基準策定に至りませんでした。

 

その後、交通事故の激増によって自賠責保険の財政が赤字となり、自賠責保険料の値上げが検討された昭和59年(1984年)の自賠責審議会で、再度、自賠責保険の診療報酬基準を策定すべきとする答申が出されました。

 

この「昭和59年答申」は、前の「昭和44年答申」よりも、さらに踏み込みました。

 

自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)と日本損害保険協会が、日本医師会の協力を得て、三者協議による自動車保険診療報酬基準を作成し、全国的に浸透・普及した段階でその制度化を図るというものでした。

 

この答申を受け、自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)・日本損害保険協会・日本医師会の三者が協議を重ね、平成元年6月に合意が成立しました。こうして策定されたのが、自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)です。

自賠責診療費算定基準(自賠責診療報酬基準)に法的拘束力はない

自賠責診療費算定基準は、あくまで三者による申し合わせ(合意)にすぎず、法的な強制力はありません。各都道府県単位で医師会の合意を得て、実施・普及を進めていく仕組みが採られました。

 

また、合意に至った各都道府県内の医療機関で一斉に採用する方式でなく、各医療機関が個々に採用を判断する「手あげ方式」です。

 

平成27年(2015年)11月に、最後に残っていた山梨県も合意し(平成28年1月21日自賠責審議会議事録)、現在は、全ての都道府県で合意に至っています。

 

ただし、医療機関でみると、自賠責診療報酬基準を採用している医療機関は6割にとどまっています(平成23年1月14日自賠責審議会議事録)

 

この6割という数字が自賠責審議会で損保協会から報告された2011年(平成23年)当時、すでに45都道府県で合意に至っていました。その後に合意したのは岡山県と山梨県の2県です。

 

まだまだ自賠責診療費算定基準の採用比率は低く、しかも、地域によってアンバランスがあるのが実情です。

 

なお、昭和59年(1984年)の自賠責審議会答申で、基準が「全国に浸透・普及した段階で制度化を図る」とされていましたから、全国で規準採用の合意がなされた現状において、今後、交通事故診療が1つの基準で行われるための法制化の動きが出てくることが期待されます。

実際の交通事故診療費の目安

自賠責診療費算定基準を採用するかどうかは、各医療機関の判断に任され、自賠責診療報酬基準を採用している医療機関は6割にとどまっています。

 

こうした状況のもとで、損保会社は、自賠責診療費算定基準を基礎とし、医療機関との間で1点15円~20円の範囲で交渉を行うことが多く、医療機関も、任意一括対応により診療費の支払いを止められるリスクを考え、おおよそ20円程度の単価設定に応じているようです。
(交通事故賠償研究会編集『交通事故診療と損害賠償実務の交錯』創耕舎より)

まとめ

交通事故の治療には、自賠責診療費算定基準という診療報酬基準があり、この基準を超える診療費請求は、高額診療として保険会社が治療費の支払いを拒否する場合があります。

 

短期間の通院で完治するような軽傷の場合は問題となることはないでしょうが、むち打ち症でも治療が長期間に及ぶ場合は注意が必要です。治療費の支払い打ち切りのリスクもあります。

 

治療費は加害者側の保険会社が支払ってくれると安心していると、あとで困ったことになりかねません。場合によっては早めに健康保険診療に切り替えることも必要です。

 

交通事故の治療費のことでお困りのときは、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

弁護士法人・響

 

【参考】

・交通事故賠償研究会編集『交通事故診療と損害賠償実務の交錯』創耕舎
・日本医師会 労災・自賠責委員会答申(平成28年2月、平成26年1月)
・金融庁・自賠責審議会議事録

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