一括払いのメリット・デメリット

Point
  • 一括払い制度とは、任意保険会社が自賠責保険部分も一括して賠償金(保険金)の支払う仕組みです。自賠責保険と任意保険と別々に請求する必要はありません。
  • ただし、この場合、任意保険会社との示談が成立するまで、自賠責保険金も受け取れません。被害者が自賠責保険に直接請求するときは、一括払いを解除する必要があります。
  • 一括払い制度では、任意保険会社は、対人賠償保険からの支払額を算定する前に、自賠責保険の判断結果を求めます。この手続きを「事前認定」といいます。

 

【メリット】自賠責保険・任意保険の両方に請求しなくてよい

「一括払い」とは、加害者の加入している任意保険会社が窓口となり、自賠責保険と対人賠償保険(任意保険)の保険金を被害者に一括して支払う制度です。

 

一括払いは、自賠責保険と任意保険に対し別々に請求する必要がなく、任意保険会社にのみ賠償額の請求をすればよいので、請求手続きの手間が省け、示談交渉の窓口も任意保険会社に一本化されるメリットがあります。

 

一括払いを行う任意保険会社を「一括社」といいます。

 

自賠責保険の対象は人身事故ですから、物損事故の場合に一括払いはありません。

 

一括払いの仕組み

一括払いの仕組みは、次のようになっています。

 

  1. 任意保険会社が、自賠責保険部分も含めて、被害者に損害賠償額を支払います。
  2. その後、任意保険会社は、自賠責保険部分を自賠責保険会社から回収します。

 

事故の当時者が、自賠責保険と任意保険の両方に請求手続きをするとなると、手間と時間がかかります。一括払いは、請求手続きの簡便化と支払いの迅速化を図るためのものです。

 

また、任意保険は、自賠責保険の「上積み保険」という性格があります。そのため、自賠責保険と任意保険で、損害調査や後遺障害等級の認定を2回行うのは無駄です。損害調査や後遺障害等級の認定は、自賠責が行います。

 

これらの事情から、任意保険会社の一括払い制度が導入されているのです。

 

一括払い制度が導入されたのは、1973年(昭和48年)8月1日以降です。それ以前は、自賠責保険から保険金の支払いを受け、それでも足りない部分を任意保険から補填する仕組みでした。

 

一括払いができないケース

任意保険の免責事由に該当する事故の場合は、一括払いができません。こういう場合は、自賠責保険に請求することになります。

 

【デメリット】示談成立まで自賠責保険の支払を受けられない

一括払いは、賠償金(保険金)の請求にあたり、任意保険会社に窓口が一本化されるメリットがある一方で、任意保険会社との示談が成立するまでは、自賠責保険部分の支払いを受けられないというデメリットもあります。

 

一括払いの解除

示談交渉が難航する場合は、自賠責保険に対して被害者請求(直接請求)し、自賠責保険金を先に受け取り、その後、訴訟を提起するなどして、任意保険会社との間で損害賠償額を決定するというケースがあります。

 

また、当面の治療費や生活費が必要で、自賠責保険金を先に請求したいという場合もあるでしょう。

 

こういうときには、一括払いを解除する手続きが必要になります。

 

一括払いを解除すると、そこから自賠責保険の消滅時効が進行する

自賠責保険に対する被害者請求権は、3年で時効により消滅します。

 

被害者請求権の消滅時効の起算点は、原則として、傷害事故は事故発生時、後遺障害事故は症状固定時、死亡事故は死亡時ですが、一括払いでの対応をしていた場合は、一括払いを解除したときが、時効の起算点となります。

一括払い制度のもとでの「事前認定」とは?

任意保険会社が一括払いを行うためには、自賠責保険金を含めた損害賠償額を支払った後で、自賠責保険部分を自賠責保険から回収できることが前提となります。

 

もし、任意保険会社と自賠責保険の間で損害調査の結果に相違があると、任意保険会社は支払った自賠責保険部分を回収できません。それを避けるために、任意保険会社は、自賠責保険に対して事前に判断結果を求めます。

 

これが「事前認定」です。任意保険会社が対人賠償保険から支払う金額を算定する前に、自賠責保険からいくら回収できるかを事前に照会する手続です。

 

事前認定の内容は、主に次の3つです。

 

  1. 加害者に自賠法の賠償責任が認められるか否か
  2. 被害者に重過失減額の適用があるか否か
  3. 後遺障害の有無・程度(等級)

 

後遺障害の事前認定

事前認定で最も問題となるのが、3つ目の「後遺障害の有無・程度(等級)の認定」です。

 

一括払い制度の下では、後遺障害の有無や等級の認定手続きも、事前認定の一環として相手の任意保険会社が行ってくれます。被害者は、任意保険会社に後遺障害診断書を提出するだけです。あとの必要な書類は保険会社がそろえて手続きを進めてくれます。

 

このように事前認定は、手続的には被害者の負担なく進むのですが、そのことが逆に被害者にとってデメリットにもなります。

 

保険会社には、「被害者のために適正な後遺障害等級の認定を受ける」という姿勢は微塵もありません。特に、むち打ち症など神経症状の場合は、後遺障害等級の認定を受けられないことが多いので気をつけなければいけません。

 

後遺障害の等級認定が微妙なときや積極的に後遺障害等級を取りたいときは、一括払いを解除して、事前認定でなく被害者請求することの検討が必要となります。

 

まとめ

任意保険の一括払い制度は、任意保険会社が窓口となり、自賠責保険金も含めて損害賠償額を支払う制度です。被害者は、自賠責保険と任意保険の両方に請求する必要はなく、任意保険会社に請求すればよいことになります。

 

なお、任意保険を使う必要がない軽症事故のように自賠責保険の範囲内で損害賠償できる場合は、一括払い制度は使えません。自賠責保険に直接請求することになります。

 

任意保険の一括払いを前提に交渉している途中で、自賠責保険に対して被害者請求をする必要が生じた場合は、一括払いを解除することが必用です。

 

一括払い制度では、事前認定が採用されています。事前認定は、被害者にとって手続上の負担は少ないのですが、後遺障害では症状に見合った適正な等級認定がされないことが多いので、一括払いを解除して、被害者請求を検討する必要もあります。

 

一括払いのまま示談交渉を進めるか、一括払いを解除して被害者請求するか、判断に迷うときには、弁護士に相談するとよいでしょう。

 

弁護士法人・響

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