民法改正で法定利率が5%から3%へ

民法が改正され(2017年5月26日)、民事法定利率が、年5%から年3%に引き下げられました。しかも、3年ごとに1%刻みで見直す変動制を導入しました。2020年4月1日に施行されます。

 

「民法改正で法定利率が引き下げられたから、損害賠償額が増えますよ」――こんなふうに、相談した弁護士から言われる日がやってきます。

 

法定利率の引き下げが損害賠償額にどう影響するのか

交通事故の損害賠償額のうち、法定利率の引き下げが影響するのは、逸失利益と遅延損害金です。死亡事故や重い後遺障害が残るなど重大事故で損害賠償額が大きいほど、影響は大きくなります。

 

逸失利益が増える

逸失利益とは、交通事故が原因で失われる将来の利益(給料などの収入)です。

 

将来にわたって得られる収入を一括で支払うため、逸失利益の計算では、現在の価額に換算するため中間利息を控除します。この中間利息控除が、クセモノです。

 

中間利息控除とは、受け取った賠償金を運用すれば利息(中間利息)が付くので、その利息分を、あらかじめ差し引いて支払うというものです。

 

中間利息控除とは

例えば、交通事故で死亡した被害者の年収が500万円だったとします。今後20年間働けたとすれば、将来にわたって得られる収入額は1億円です。簡単にいえば、これが名目上の逸失利益です。話を簡単にするため、生活費控除などは無視します。

 

損害額が1億円に達するのは20年後ですが、損害賠償では、その1億円が一括で支払われます。

 

1億円を銀行に預けるなど運用すれば利息が付くので、あらかじめ、その利息分を差し引いて支払わなければ、被害者が実際の損害額より多くの賠償金を受け取ることになり公平でない、というのが、中間利息を控除する理由です。

 

中間利息控除率が高すぎる

問題は、中間利息の利率です。最高裁が「中間利息の利率は、法定利率による」と判断を示しているため、現在は、法定利率の年5%が中間利息控除率として適用されます

 

しかし、預貯金の金利は、ほとんど「ゼロ金利」です。年5%での運用ができるはずがありません。超低金利の実態と、あまりにも乖離しています。

 

その結果、控除される金額が多くなりすぎ、受け取れる賠償額が過少になる問題点が、長らく指摘されてきました。

 

法定利率が下がることで逸失利益が増える

民法改正により、少しは実態に近づくことになります。

 

法定利率の引き下げにともない中間利息控除率も下がり、中間利息として控除される金額が少なくなり、その分、受け取れる逸失利益が多くなるのです。

 

中間利息控除と逸失利益の計算について詳しくはこちらをご覧ください。

 

ライプニッツ係数が変わる

中間利息を控除して逸失利益を計算するには、ライプニッツ係数を中間利息控除係数として用いるのが一般的です。

 

「年間の減収額」に「就労可能年数(または労働能力喪失期間)に対応したライプニッツ係数」を掛けると、中間利息を控除した逸失利益が計算できます。

 

法定利率の引き下げで、ライプニッツ係数が変わります。現在は、年5%のライプニッツ係数が使用されますが、改正民法が施行されると、年3%のライプニッツ係数を使用することになります。

 

年5%のライプニッツ係数表、年3%のライプニッツ係数表はこちらに掲載しています。参考にご覧ください。

 

遅延損害金が減る

遅延損害金とは、賠償金の支払いが遅れたことによる利息です。

 

損害賠償請求訴訟を提起した場合に関係します。示談交渉で解決する場合は、もともと遅延損害金が付かないので関係ありません。

 

裁判で判決が出れば、裁判所が正当だと認定した賠償金額に対し、事故発生日を起算点として、年5%の遅延損害金が加算されます。この利率も、法定利率にもとづいています。

 

ですから、裁判の場合には、遅延損害金が年3%で計算されることになりますから、その限りにおいては遅延損害金が減ります。しかし、遅延損害金を計算する前提の損害賠償額そのものは増えます。逸失利益が増えるからです。

具体的にどれくらいの違いが生じるか

中間利息控除率が年5%と年3%とで、逸失利益にどれくらいの金額の違いが生じるか、後遺障害事故と死亡事故の場合について、それぞれ見てみましょう。

 

なお、逸失利益の詳しい計算方法については、次のページをご覧ください。

 

後遺障害逸失利益の計算方法
死亡逸失利益の計算方法

 

ここでは逸失利益のみ計算しています。損害賠償額には、逸失利益のほか、治療に対する損害賠償や慰謝料なども含まれます。どんな損害を賠償請求できるかはこちらをご覧ください。

 

後遺障害逸失利益

被害者は、40歳の男性会社員で年収500万円。後遺障害5級、労働能力喪失期間は就労終期の67歳まで認められたとします。

 

後遺障害逸失利益は、次の計算式で求めます。

 

年収 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

 

労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて決まり79/100、労働能力喪失期間は、27年(67歳-40歳)です。

 

年利5%の場合

年利5%、27年(67歳-40歳)に対応するライプニッツ係数は14.6430ですから、

 

500万円×79/100×14.6430=5,783万9,850円

 

年利3%の場合

年利3%、27年(67歳-40歳)に対応するライプニッツ係数は18.3270

 

500万円×79/100×18.3270=7,239万1,650円

 

死亡逸失利益

死亡した被害者は、同じように40歳の男性会社員で年収500万円、扶養家族2人(妻と子)だったとします。

 

死亡逸失利益は、次の計算式で求めます。

 

年収 ×(1-生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

 

生活費控除率は、男性で扶養家族2人ですから30%、就労可能年数は、就労終期(67歳)までの27年です。

 

年利5%の場合

年利5%、27年に対応するライプニッツ係数は14.6430ですから、

 

500万円×(1-0.3)×14.6430=5,125万500円

 

年利3%の場合

年利3%、27年に対応するライプニッツ係数は18.3270ですから、

 

500万円×(1-0.3)×18.3270=6,414万4,500円

まとめ

民法改正により、法定利率が年5%から3%に引き下げられたことで、損害賠償額が、従来の計算と比べ増えるケースが出てくるでしょう。

 

ただし、改正民法の施行は2020年4月1日ですから、まだ先の話ですが…。

 

 

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