健康保険を使うと医師は自賠責様式の書類作成義務がなくなる!

Point
  • 交通事故の治療に健康保険を使うと、医師は健康保険法等の規程に従うことになり、逆に、損保会社所定の書類を作成する義務はなくなります。
  • そのため、後遺障害診断書を書いてもらうには、医師の協力が必要不可欠です。

 

交通事故の治療に健康保険を使うメリットについては、保険会社が被害者に健康保険の使用を勧めることもあり、知っている人も多いのですが、その一方で、健康保険を使うデメリットについては、あまり知られていません。

 

健康保険を使うデメリットの1つが、「健康保険を使うと医師が後遺障害診断書を書いてくれないことがある」ということです。後遺障害の申請を被害者請求する場合に問題となります。

 

それでは、医師が後遺障害診断書を書いてくれないとき、どうすればいいのでしょうか?

 

ここでは、

 

 

について、まとめています。

健康保険を使うと医師が後遺障害診断書を書いてくれない理由

健康保険を使うと後遺障害診断書を医師が書いてくれないのは、たんに「自由診療でなく健康保険診療にしたことに対する対抗措置!」というわけではありません。

 

医療機関は交通事故の治療に健康保険を使用することを嫌うので、そう思う人もいるかもしれませんが、実は、そんな感情的な問題ではありません。まあ、そういう面が全くないわけでもありませんが…。

 

健康保険診療の場合、医師には自賠責様式の診断書を作成する義務がない

健康保険を使うと医師が後遺障害診断書を書いてくれない理由は、ズバリこれです。

 

交通事故の治療は自由診療が基本ですが、健康保険診療にすると、医療機関は健康保険法等の規程に従うことになり、逆に後遺障害診断書など自賠責様式の書類を作成する義務がなくなるからです。

 

その結果、後遺障害の申請や損害賠償を受けるときに必要な書類が、手に入らなくなる事態が起きるのです。

 

交通事故による治療を自由診療で行う場合は、通常、任意一括払いにより、病院が任意保険会社に治療費を請求し、保険会社から支払いを受けることを前提とした医療契約となります。

 

それに対して健康保険診療の場合は、患者と医療機関だけの契約になり、第三者(保険会社)は介入できなくなります。医療機関は健康保険法などの規程に則って治療を行い、保険会社からの要請による書類記載義務がなくなるのです。

 

ただし、医療契約上、損保会社所定の書類を記入する義務がなくなるということであって、健康保険法などの法令で健保様式の書類以外の記入・作成を禁止されるわけではありません。

 

つまり、自賠責様式の後遺障害診断書を作成するかどうかは、医師の判断次第です。医師が協力してくれるかどうかにかかっているのです。

 

多くは医師の協力で後遺障害診断書の交付を受けている

実際、多くは医師の協力により、損保会社所定の様式で診断書等を作成してもらっているのが現状です。

 

そのことは、日本医師会の「交通事故診療に係る健保使用問題に関するアンケート調査」の結果にも表れています(日本医師会「労災・自賠責委員会答申」平成24年2月2日)

 

アンケート調査では、「健保を使用しているにもかかわらず、損保会社所定の書類作成を求められるケースがあるか」との問いに対して「ある」と回答した医療機関が70%、そのうち「患者の請求・支払い等を考え、損保会社所定の様式で作成し、患者に交付している」とした医療機関が64%という結果になっています。

 

健康保険を使用した場合、医師には損保会社所定の書類の作成義務はないものの、患者から要請があれば、損害賠償請求に必要な書類の作成に協力している医療機関が6割以上あるということです。

 

ただし、それ以外の36%の医療機関では、損害保険会社所定の書類の作成を拒否しているということになります。そのうち24%は「損保会社所定の書類の作成義務はない」として、健保の様式や医療機関所定の様式で作成して患者に交付しています。

 

損保会社所定の書類(明細書・診断書)の作成依頼への対応状況

健康保険診療での診断書作成

 

日本医師会 労災・自賠責委員会『「地域医療再生における労災保険、自賠責保険の役割」に対する答申』より
(平成24年2月2日)

 

治療により治癒した場合は、健保の様式や医療機関所定の様式でもよいかもしれませんが、後遺障害診断書は、健保様式の診断書では代用できません。

 

そもそも健康保険診療には、後遺障害や症状固定という概念がありません。後遺障害とは、労災補償や交通事故損害賠償で作られた法律上の概念だからです。

 

そのため、診断書といっても内容が全く異なります。

 

後遺障害診断書は、治療を施したものの改善の見込みがなく残ってしまった症状について、自覚症状、他覚症状、検査結果、機能低下の程度、原因となる他覚的所見などについて、後遺障害として認定を受けるために細かく記入し、作成するものです。

 

ですから、自賠責様式で後遺障害診断書を作成してもらわないと、後遺障害の認定申請すらできず、損害賠償を受けるための手続きが止まってしまうことになるのです。

 

後遺障害診断書を書いてもらうには、医師の協力が決定的に重要なのです。

医師が後遺障害診断書を書いてくれないときの対処法

医師が後遺障害診断書を書いてくれないときは、その理由により対処方法が異なります。

 

健康保険診療であることを理由に医師が後遺障害診断書を書いてくれないケースに加え、それ以外の理由で医師が後遺障害診断書を書いてくれない場合の対処方法についても、まとめておきます。

 

健康保険診療が理由のとき

健康保険診療を理由に、医師が後遺障害診断書を書いてくれないときは、後遺障害の申請に必要なこと、適正な損害賠償を受けるために必要なこと、を話して医師を説得するしかありません。なにか特別の秘策があるわけではありません。

 

後遺障害診断書を書けるのは、あなたの主治医だけです。主治医の協力をお願いするしかないのです。

 

「書いてくれないなら、書いてくれる病院に転院すればいい」と言われることもありますが、そんな簡単な話ではありません。当初の症状や治療経過を把握していないと、後遺障害等級の認定を受けられるだけの十分な記載が難しいからです。

 

ただ、被害者やその家族が医師を説得するのは、現実問題として難しいでしょう。医師の気分を害して話をこじらせてしまうと、医師の協力を得ることは、ますます難しくなります。

 

また、医師があなたの説得を聞き入れて後遺障害診断書を書いてくれたとしても、適正な後遺障害等級が認定されるよう適切な内容になっているかをチェックし、もし修正や追加が必要なら、その旨を再度、医師に要請しなければいけません。

 

医師から「後遺障害診断書は書けない」と断られているのなら、交通事故の損害賠償問題で実績豊富な弁護士に相談してみることをおすすめします。適切なアドバイスを受けられるでしょうし、あなたに代わって弁護士が医師に話しをすることもできます。

 

その他の理由のとき

医師が後遺障害診断書を書いてくれない理由は、「健康保険診療だから」ということ以外にもあります。

 

まだ症状改善の見込みがあると医師が判断しているとき

主治医が「治療を続ければ、まだ症状改善の見込みがある」との見通しを持っているなら、症状固定と判断する段階ではありませんから、医師は後遺障害診断書を書いてくれません。

 

こういう場合は、基本的には医師の指示に従って治療を継続すべきです。

 

ただし、保険会社から治療費の支払い打ち切りの話が出ていたり、すでに治療費の支払いを打ち切られた場合は、治療費を自己負担しながら治療を継続するか、速やかに症状固定として後遺障害の申請を行うか、対応を考える必要があります。

 

転院したばかりのとき

転院したばかりのときは、医師が治療の経過を把握していないので、後遺障害診断書を書くことはできません。

 

新しい病院で一定の期間治療を継続したうえで改めて要請するか、前の病院を再度受診して頼めば書いてくれることもあります。

 

医師に協力を要請するときの心構え

「医者なんだから、患者から求めがあれば書いてくれて当然」などという気持ちで臨むと上手くいきません。

 

そもそも健康保険診療で治療を受けているなら、後遺障害診断を書くことは医師の義務ではありません。医師にとっては、本来、する必要のない余分な仕事です。しかも、記入する内容はかなり面倒です。

 

多くの医師は、できれば書きたくないと思っているのが実情です。自分の書いた診断書が被害者の損害賠償額に直接かかわります。後々トラブルに巻き込まれたり、裁判で証言を求められたりすることを避けたいからです。

 

そういう点をふまえて、医師に協力を要請することが大切です。

まとめ

健康保険を使って治療を受けると、医師は損保会社所定の書類を作成する義務がなくなり、損害賠償を受けるのに必要な書類を手に入れられなくなってしまうことがあります。

 

健康保険を使うと医師が後遺障害診断書を書いてくれないことがあるのも、根本的には後遺障害診断書を作成する義務がないからです。

 

ただし、健康保険診療の場合に、医師が後遺障害診断書を作成することが禁止されるわけではなく、作成する義務がないということです。要するに、医師が協力してくれるかどうかにかかっています。

 

被害者が医師を説得することは難しいでしょうから、交通事故の損害賠償請求で実績のある弁護士に相談することをおすすめします。

 

弁護士法人・響

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