示談交渉までに必要な4つの準備
示談交渉の開始までに被害者の側で準備しておくことは、①賠償請求する損害額の算定、②過失割合の把握、③賠償請求に必要な書類をそろえることです。
相手が任意保険に加入していない場合は、この3つに加えて、④加害者の賠償資力の調査が必要になることがあります。
具体的に見ていきましょう。
目次
相手に賠償請求する損害額を算定する
示談交渉までに被害者が必ずしておくことは、損害額の算定です。
交通事故の損害には、「財産的損害」と「精神的損害」があります。「財産的損害」は、積極損害(治療費・入通院費・付添看護費・雑費など)と、消極損害(休業損害・逸失利益)があり、「精神的損害」は、慰謝料です。
このうち、治療費や入通院交通費は、かかった実費ですから、領収書等を残しておく必要があります。付添看護費や雑費、慰謝料は、だいたい定額化されています。
それに対して、休業損害や逸失利益は、被害者の収入額が基準になり、収入額の証明は、被害者側がしなければなりません。
休業損害や逸失利益は、損害額の中でも大きく、この金額をいくらまで認めさせるかにより、賠償額が大きく変わってくるのです。
損害額は裁判所基準で算定するのが鉄則
損害額を算定するとき大事なのは、裁判所基準で計算することです。
裁判所基準は、過去の裁判例をもとに基準化したもので、被害者が本来受け取れる正当な損害賠償額が計算できます。
裁判所基準と保険金支払基準では示談金が大きく違う
保険会社が提示する示談金は、保険金の支払い基準で算定した額です。
実は、裁判所基準で計算した場合と、保険金支払基準で計算した場合とでは、示談金(損害賠償額)に大きな差が出ます。
例えば、むち打ち症で後遺障害14級が認定された場合の後遺障害慰謝料の算定基準は、裁判所基準が110万円に対して、自賠責保険基準は32万円です。
損害額の算定は、裁判所基準で計算することが大事なのです。
慰謝料は定額化していますが、あくまでも目安。実際の損害額の算定にあたっては、個別事情を考慮して判断することが大切です。
裁判所基準で算定した額を請求すれば示談金のアップが可能
相手が任意保険に加入しているときは、被害者の損害額が確定するタイミングを見計らって、保険会社から示談金の提示があります。
保険会社の担当者は、こう言うでしょう。「自賠責保険の基準に上乗せして、この金額にしています」と。いかにも「感謝しろ」と言わんばかりです。
しかし、「自賠責保険の基準に上乗せしている」と言っても、裁判所基準に比べると微々たる額にすぎません。
被害者の多くは保険に関して全くの素人ですから、保険会社から示された金額が「妥当なものかどうか」なんて分かりません。保険会社は、そこに付け込んで、平気で低い賠償金額しか提示しないのです。
逆に言えば、被害者の側が裁判所基準で損害額を算定し、請求することで、示談金の大幅な増額が可能なのです。
考えてみてください。請求する側が損害額の計算をしていないと、「もう少し何とか引き上げを」と言ったところで、「これが精一杯です」と言われたら、それ以上は交渉になりません。示談金の引き上げを求める根拠を示せないのですから…。
裁判所基準で損害額を算定することで、相手に示談金の引き上げを迫る根拠を示すことができるのです。
裁判所基準での損害計算は、単に基準に当てはめればよいものではないので、弁護士に頼むことをおすすめします。示談交渉もあわせて任せられます。
自分の過失割合を正しく把握する
交通事故は、加害者が一方的に悪いケースというのは少なく、たいてい被害者の側にも過失があるものです。その場合、重要なのが被害者の過失割合です。
被害者にも過失があったと認められれば、過失相殺により、被害者の過失割合分を賠償金額から差し引かれます。
過失割合をどれだけ有利に認めさせるかがポイント
損害額がいくら大きくても、被害者の過失割合が大きければ、過失相殺によって、受け取れる賠償額が大幅に減額されてしまいます。
例えば、死亡事故の場合、最近は損害賠償額が2億円を超えることも珍しくありません。仮に、被害者の過失割合が5割だったとすれば、損害額が2億円だったとしても、賠償額は、損害額の半分の1億円になってしまいます。
ですから、被害者にも過失がある場合は、過失割合を正しく把握し、過失割合をどれだけ有利に相手に認めさせるかが、示談交渉の大事なポイントとなるのです。
過失相殺の基準を機械的に当てはめてはいけない
交通事故の過失割合の検討には、「過失相殺率認定基準」を参考にするのが一般的です。保険会社も、この基準を用います。
「過失相殺率認定基準」は、交通事故を類型化し、過失相殺率の基準や修正率が示されていますが、実際の交通事故の態様は千差万別で、全てを網羅するものではありません。
しかも、似たような事故類型があったとしても、修正要素をどう加味するか、難しい問題があります。
「過失相殺率認定基準」を参考にするとしても、示されている基準や修正率の背景、過去の判例などをふまえて、被害者の過失割合を判断する必要があります。特に、過失割合で揉めるようなときは、この点が重要です。
過失割合の判断は、専門知識と経験が必要です。弁護士に相談すれば、あなたの過失割合がどの程度と判断するのが妥当か、詳しく教えてくれます。
示談交渉までに用意する必要書類とは?
示談交渉までに被害者の側で用意しておく書類は、主に次のものです。
[1]事故の発生・状況を証明する書類
「交通事故証明書」と「事故発生状況報告書」があります。
交通事故証明書
交通事故証明書は、交通事故の発生を公的に証明するもので、事故の発生日時、場所、当事者の住所・氏名、事故類型などが記載されています。
交通事故証明書がないと、保険会社は損害賠償請求を受け付けてくれません。損害賠償請求に不可欠な証明書の1つです。
申請できる人 | 事故の当事者(被害者・加害者)のほか、交付を受けることで正当な利益を受ける人(損害賠償請求権のある親族・雇主・保険金受取人など)が申請できます。 |
---|---|
申請方法 | 自動車安全運転センターに交付申請します。「窓口での申請」と「郵便振替での申請」があります。申請用紙は、自動車安全運転センター、警察署、交番で受け取れます。 |
手数料・交付までの期間 | 交付手数料は、1通600円。所轄の警察署が自動車安全運転センターに事故証明の内容を通知する期間が約1週間です。事故資料が警察からセンターに届いていれば、窓口申請なら即日交付されます。 |
事故発生状況報告書
事故発生状況報告書は、提出者が自分で事故発生時の状況と事故現場の見取り図を描きます。書式は特に決められていませんが、この書類によって過失割合を判断することもあるので、正確に記述することが大切です。
[2]身体に受けた損害を証明する書類
診断書、後遺障害診断書、死亡診断書(死体検案書)があります。
内容 | 申請方法 | |
---|---|---|
診断書 | 受傷した日、治療日数、症状の経過や治療の内容など。 | 担当医もしくは病院の窓口。 |
後遺障害 診断書 |
受傷日、症状固定日、医師の所見、部位別の症状や検査結果など。 | 症状固定と診断されたら、担当医と相談し作成を依頼します。 |
死亡診断書・死体検案書 | 死亡日時、死因など。 | 遺族もしくは相続権のある親族などが申請できます。申請先は、死亡を確認した病院など。 |
任意保険会社に一括払いの同意書を提出していれば、保険会社が、診断書や後遺障害診断書を病院から取り寄せ、病院への治療費の支払いや、後遺障害の認定申請をします。
なお、自賠責保険に被害者請求する場合や、後遺障害の被害者請求をする場合は、一括払いを解除する必要があります。
[3]損害額を証明する書類
損害額を証明する書類には次のようなものがあります。
診療報酬明細書は、診断書と同様、任意保険会社に同意書を提出していれば、保険会社が病院から取り寄せますが、被害者の事故当時の収入を証明する書類は、被害者でなければ用意できません。
収入を証明する書類(源泉徴収票や確定申告書など)は、休業損害や逸失利益の証明に不可欠です。万が一、公的書類を用意できないときは、それに代わるものを準備する必要があります。
診療報酬 明細書 |
治療を受けた病院で申請します。発行までに時間がかかることもあるので、いつ受け取ることができるか確認しておきましょう。 |
---|---|
領収書 | 付き添い費用や交通費、入院雑費などを支払った場合、必ず取っておきましょう。 |
源泉徴収票・給与明細書 | 被害者が会社員や公務員など給与所得者の場合、収入を証明するために必要です。市区町村役場で発行する納税証明書でも収入を証明することができます。 |
確定申告書・納税証明書 | 被害者が個人事業主や事業所得者の場合、収入を証明するために必要です。 |
休業損害 証明書 |
給与所得者が仕事を休み、収入や勤務評価が下がった場合の休業損害を証明するのに必要です。勤務先に申請して発行してもらいます。 |
[4]身分を証明する書類
交通事故により被害者が死亡したときは、その相続人が損害賠償請求権を相続します。被害者との相続関係を証明するために、戸籍謄本と、被害者が死亡したことを証明する除斥謄本が必要となります。
これらは、本籍地のある市区町村の窓口で申請します。直接窓口に行けない場合は、郵送での送付も可能です。
加害者の支払い能力を調べる
交通事故の損害賠償では、加害者に賠償金の支払い能力(賠償資力)があるかどうかが決定的に重要です。
たとえ裁判所基準で正当な損害額を算定しても、加害者に賠償資力がなければ、支払ってもらえません。
加害者が任意保険に加入しているか
ポイントは、まず、加害者が任意保険に加入しているか、契約している保険金額はいくらか、という点です。任意保険に加入していれば、近年の損害賠償金額の高額化に備え、だいたい無制限で契約している場合が多いと思います。
この場合は、賠償資力に問題はありません。裁判所基準で損害額を算定して賠償請求し、保険会社の担当者と示談交渉して、正当な賠償額をキッチリ取ることができます。
加害者が任意保険に未加入の場合
加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者側に賠償資力があるのか、事故を起こした運転者以外に損害賠償請求できる相手がいるか、が問題となります。
この場合、保険会社の担当者が示談に出てくることはありません。加害者あるいは損害賠償請求する相手と直接交渉することになります。
加害者側に賠償資力があるとき
加害者が仕事中に会社の車で事故を起こしたのなら、会社や雇用主に損害賠償請求することができます。損害賠償請求できる相手は、運転者だけとは限りません。誰を相手に損害賠償請求するかの判断が大切です。
損害賠償請求には、自動車損害賠償保障法(自賠法)にもとづく賠償請求と、民法にもとづく賠償請求があります。自賠法・民法にもとづく損害賠償請求について詳しくはこちらをご覧ください。
加害者側に賠償資力がないとき
一番困るのは、加害者が任意保険に未加入で、しかも、賠償資力がないときです。
加害者に賠償資力がないときは、自賠責保険から支払われる以上にいくら支払えるかが、示談交渉のポイントです。賠償請求額を引き下げても、確実に取れる賠償金で示談した方がよい場合もありますから、慎重な判断が必要です。
自賠責保険の支払い限度額は、傷害事故で120万円、後遺障害は等級に応じて75万円~4,000万円、死亡事故は最高3,000万円です。
なお、加害者に賠償資力が乏しい場合は、履行確保のための手続きが必要です。これは、示談の内容が履行されない場合に備えて、連帯保証人を求めたり、強制執行できるように示談書を執行承諾文言付公正証書にしておくことです。
中には、賠償資力があるのに隠して、「支払いたいが払えない」などという加害者もいますから、気をつけましょう。いずれにしても、加害者側の資力を調査することが必用になります。
まとめ
示談交渉で主導権を握るためには、示談交渉を始めるまでに損害額を裁判所基準で算定し、必要な書類をそろえるなど準備が必要です。
もし、相手が任意保険に加入していないときは、直接の加害者(運転者)以外に賠償請求できる相手がいるか、賠償資力があるかを調べることも必要になります。
ただし、こうした一連の作業や準備を被害者やその家族で行うのは、相当な困難をともないます。弁護士に相談・依頼することをおすすめします。弁護士なら、こうした準備から示談交渉まで、全て任せることができます。
特に、後遺障害が残る場合や死亡事故の場合のような損害が大きいときは、弁護士に頼むのと頼まないのとでは、賠償金額に大きな差が出ます。
交通事故の相談は 弁護士法人 響 へ
交通事故の被害に遭ってお困りの方は、お気軽に何でもご相談ください。
弁護士法人・響は、月間相談実績1,000件超。当サイトでも最も無料相談の申込みの多い弁護士事務所です。テレビの報道番組で法律問題を解説するなど知名度もあり、安心して任せられます。
相談無料・着手金0円・全国対応
0120-690-048(24時間受付中)
相談をお急ぎの方は、こちらのフリーダイヤルにかけると、優先して対応してもらえます。メールでの無料相談のお申込み、お問合せは、公式ページからどうぞ。