示談交渉までに用意する必要書類と3つの準備
示談交渉までに被害者の側で準備しておくことは、損害賠償請求に必要な書類をそろえることに加え、賠償請求する損害額の算定、過失割合の把握です。相手が任意保険に未加入の場合は、さらに加害者の賠償資力の調査が必要になることがあります。
なお、弁護士に相談・依頼すれば、すべて弁護士の方でしてくれますから、自分ですべて解決しようと無理をせず、早めに弁護士に相談し、弁護士の指示のもと必要な証拠資料を集めるようにすると楽ですし、損害賠償金額の大幅アップも見込めます。
具体的に見ていきましょう。
示談交渉までに用意する必要書類とは?
示談交渉までに、被害者の側で用意しておく書類は、主に次のものです。
- 交通事故の発生・状況を証明する書類
- 身体に受けた損害を証明する書類
- 損害額を証明する書類
- 身分を証明する書類
交通事故の発生・状況を証明する書類
交通事故の発生・状況を証明する書類には、交通事故証明書と事故発生状況報告書があります。それぞれ役割が異なり、保険会社に保険金・賠償金の支払いを請求する際に必要です。
交通事故証明書
交通事故証明書は、事故の当事者が適正な補償を受けられるように、交通事故の発生を公的に証明するもので、各都道府県の自動車安全運転センターが発行します。
交通事故証明書には、事故の発生日時、場所、当事者の住所・氏名、事故類型や人身事故か物件事故(物損事故)かなどが記載されています。
なお、交通事故証明書は、事故の発生を証明する書類にすぎませんが、当事者欄については、公には加害者・被害者を区別するものではないとされているものの、通常、警察が責任が大きいと判断した者(加害者)を甲欄に、責任の小さい者(被害者)を乙欄に記載するとされています。事故態様を考える上で参考になります。
ただし、交通事故証明書の甲欄・乙欄の記載は、警察の認識を示すものであって、責任の大きさは、後の捜査や、場合によっては裁判で明らかとなります。甲欄に自分の名前が記載されている場合は、示談交渉あるいは裁判において、被害者であることを立証すればよいのです。
交通事故証明書の入手方法
申請できる人 | 事故の当事者(被害者・加害者)のほか、交付を受けることで正当な利益を受ける人(損害賠償請求権のある親族・雇主・保険金受取人など)が申請できます。 |
---|---|
申請方法 |
自動車安全運転センターに交付申請します。各都道府県のセンター窓口での申請、ゆうちょ銀行・郵便局での申請、Webサイトからの申請の方法があります。申請用紙は、自動車安全運転センター、警察署、交番で受け取れます。 |
手数料 | 交付手数料は1通600円です。 |
交付までの期間 |
【センター窓口申請の場合】交通事故資料が警察からセンターに届いていれば、原則として即日交付されます。届いていなければ、後日郵送されます。所轄の警察署が自動車安全運転センターに事故証明の内容を通知する期間が約1週間です。 |
※詳しくは、自動車安全運転センターのWebサイトをご覧ください。
警察への届出がされていない事故については、発行されません。また、人身事故については事故発生から5年、物件事故(物損事故)については事故発生から3年をそれぞれ経過したものについては、原則として交付されませんから、ご注意ください。
事故発生状況報告書
事故発生状況報告書は、事故の当事者が作成し、保険会社に提出する書類で、事故現場の状況や事故態様を図示し、説明したものです。
交通事故証明書は、交通事故が発生した事実を公的に証明するものですが、事故がどのように発生したのか、までは分かりません。事故発生状況報告書は、交通事故証明書を補うものです。
保険会社は、事故発生状況報告書に基づき、過失割合を判断し、支払う保険金額・賠償金額を決めますから、正確に記載することが大切です。
双方の車両の速度や、信号、道路幅など、過失割合の認定に直接影響するような事項もありますから、書き方に不安がある場合は、保険会社に提出する前に、弁護士に相談して見てもらうことをおすすめします。
その他、有力な証拠となるもの
その他に、有力な証拠となり得るものとして、刑事記録とドライブレコーダーの映像があります。
刑事記録
人身事故の場合、実況見分調書などの刑事記録を入手するとよい場合があります。刑事記録の入手について詳しくはこちらをご覧ください。
ドライブレコーダーの映像
最近は、ドライブレコーダーを搭載した車両が多くなっています。ドライブレコーダーに、事故発生の責任の有無、過失割合が判断できる事故の瞬間が映っていたら、その映像データを保管しておきましょう。決定的な証拠となります。
身体に受けた損害を証明する書類
診断書、後遺障害診断書、死亡診断書(死体検案書)があります。
内容 | 申請方法 | |
---|---|---|
診断書 | 受傷した日、治療日数、症状の経過や治療の内容など。 | 担当医もしくは病院の窓口。 |
後遺障害診断書 | 受傷日、症状固定日、医師の所見、部位別の症状や検査結果など。 | 症状固定と診断されたら、担当医と相談し作成を依頼します。 |
死亡診断書 |
死亡日時、死因など。 | 遺族もしくは相続権のある親族などが申請できます。申請先は、死亡を確認した病院など。 |
任意保険会社に一括払いの同意書を提出していれば、保険会社が、診断書や後遺障害診断書を病院から取得します。
損害額を証明する書類
損害額を証明する書類には次のようなものがあります。
診療報酬明細書 | 治療を受けた病院で申請します。発行までに時間がかかることもあるので、いつ受け取ることができるか確認しておきましょう。 |
---|---|
領収書 | 付き添い費用や交通費、入院雑費などを支払った場合、必ず取っておきましょう。 |
源泉徴収票 |
被害者が会社員や公務員など給与所得者の場合、収入を証明するために必要です。市区町村役場で発行する納税証明書でも収入を証明することができます。 |
確定申告書 |
被害者が個人事業主や事業所得者の場合、収入を証明するために必要です。 |
休業損害証明書 | 給与所得者が仕事を休み、収入や勤務評価が下がった場合の休業損害を証明するのに必要です。勤務先に申請して発行してもらいます。 |
診療報酬明細書は、診断書と同様、任意保険会社に一括払いの同意書を提出していれば、保険会社が病院から取得しますが、その他のものは、被害者でなければ用意できません。
収入を証明する書類(源泉徴収票や確定申告書など)は、休業損害や逸失利益の証明に不可欠です。万が一、公的書類を用意できないときは、それに代わるものを準備する必要があります。
身分を証明する書類
交通事故により被害者が死亡したときは、その相続人が損害賠償請求権を相続します。被害者との相続関係を証明するために、戸籍謄本が必要となります。
示談交渉の開始までに被害者がやっておくべきことは、必要な証拠書類を揃えることだけではありません。大きくは3つあります。
- 相手方に賠償請求する損害額を算定する
- 過失割合を正しく把握し、過失相殺の影響を減らす
- 相手が任意保険に加入していないときは、支払い能力を調査する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相手方に賠償請求する損害額を算定する
証拠書類を用意することのほか、示談交渉開始までに被害者がすべきことは、損害の算定です。
もっとも、事故の相手が任意自動車保険に加入していれば、通常は示談代行制度により、相手方任意保険会社が、損害額を計算して賠償金額を提示してきます。なので、保険会社の提示額でよければ、わざわざ自分で損害額を算定する必要はありません。
では、なぜ被害者の側で損害額を算定する必要があるのか? というと、保険会社の提示額では、被害者が本来受け取ることができる損害賠償金額よりも少ないからです。
ほとんどの方が、保険会社から提示される金額で示談しています。被害者の側は、その金額が妥当な金額かどうか判断しようがありませんから、やむを得ないのですが、本当はもっと多くの賠償金額を受領できるのに、みすみす逃してしまっているのです。
損害額は裁判所基準で算定するのが鉄則
損害額を算定するとき大事なのは、裁判所基準で計算することです。裁判所基準は、過去の裁判例をもとに基準化したものなので、被害者が本来受け取れる正当な損害賠償額を算定することができます。
それに対し、保険会社が提示する金額は、保険金の支払い基準で算定した額です。平たく言えば、保険会社が、これくらいに抑えたいとする金額です。
例えば、むち打ち症で後遺障害14級が認定された場合の後遺障害慰謝料の基準は、裁判所基準が110万円であるのに対して、自賠責保険基準は32万円です。任意保険の支払基準は、それより少し高い程度で、裁判所基準には遠く及びません。
損害賠償額は、1つ1つの損害を積み重ねて算定しますから、算定基準が違えば、損害の総額は大きく違ってきます。正当な損害賠償を受けるためには、裁判所基準で計算することが大切なのです。
裁判所基準で算定した額を請求すれば示談金アップ
そもそも、賠償請求する側が損害額を計算していないと、保険会社の提示額に対し、具体的な請求額も、増額を求める根拠も示すことができないので、交渉になりません。
被害者の側が、裁判所基準に基づいて損害額を算定できていれば、それが適正金額ですから、保険会社に増額をもとめて交渉ができるのです。
裁判所基準で損害額を算定し、保険会社と交渉するのは、弁護士に依頼する必要があります。その理由は「示談交渉で被害者にありがちな2つの間違いとは?」で詳しく解説していますから、ご覧ください。
こちらもご覧ください
過失割合を正しく把握し、過失相殺の影響を減らす
被害者にも過失があり、しかも過失割合が大きい場合は、たとえ裁判所基準で正しく損害額を算定しても、過失相殺により大幅に賠償額が減額してしまいます。
例えば、損害額が5,000万円だとしても、被害者の過失割合を6割とされたら、受領できる損害賠償金額は2,000万円となってしまいます。
ですから、被害者にも過失がある場合は、過失割合を正しく把握し、①いかに適正な過失割合で示談できるか、②過失相殺の影響をいかに少なくできるか、がポイントです。
正しい過失割合の判断に必要なこと
過失割合の判断には、「過失相殺率認定基準」を参考にするのが一般的です。保険会社も、この基準を用います。
「過失相殺率認定基準」は、交通事故を類型化し、それぞれについて基本の過失相殺率とともに修正要素・修正率を示していますが、実際の事故態様は千差万別ですから、全てを網羅するものではありません。
「過失相殺率認定基準」を参考にするとしても、機械的に当てはめるのでなく、その基準や修正率とされた背景や最新の判例をふまえて、過失割合を判断する必要があります。
正しい過失割合の判断には、専門知識と経験が必要です。過失割合で揉めそうなときは、詳しい弁護士に早めに相談することが大事です。
損害賠償以外で過失相殺の影響を補填する
被害者の過失割合が大きい場合は、相手方からの損害賠償だけで解決するよりも、先に自賠責保険に被害者請求したり、自分の人身傷害保険に請求したりする方が、結果的に有利になることがあります。過失相殺により、相手から補填されない損害を、別の方法で回復させることができます。
そういった手法を、示談交渉よりも前に検討する必要があります。そういう点からも、早めに弁護士に相談することが大切なのです。
相手方の支払い能力を調査する
交通事故の損害賠償では、加害者の側に損害賠償金の支払い能力(賠償資力)があるかどうか、が重要です。
苦労して裁判で賠償請求が満額認められても、加害者に賠償資力がなければ、たとえ強制執行したとしても回収できません。
ポイントは、まず、加害者が任意保険に加入しているか、契約している保険金額はいくらか、という点です。任意保険に加入していない場合には、加害者側(本人以外も含めて)の賠償資力が問題となります。
相手が任意保険に加入している場合
任意保険に加入していれば、近年の損害賠償金額の高額化に備え、無制限で契約している場合が多いと思います。この場合は、賠償資力に問題はありません。
裁判所基準で損害額を算定して賠償請求し、保険会社の担当者と示談交渉して、正当な賠償金額をキッチリ取ることができます。
ただし、保険金額に上限がある場合には、加害者の側に保険金以外の賠償資力がなければ、その金額を超えて回収することは難しくなります。
相手が任意保険に未加入の場合
加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者に賠償資力があるのか、事故を起こした運転者以外に損害賠償請求できる相手がいるか、が問題となります。
この場合、保険会社の担当者が示談交渉に出てくることはありません。自賠責保険には、示談代行制度がありませんから。加害者あるいは損害賠償請求する相手と直接交渉することになります。
加害者側に賠償資力があるとき
加害者が仕事中に会社の車で事故を起こしたのなら、会社や雇用主に損害賠償請求することができます。この場合、会社や雇用主の賠償資力の調査も必要となります。
損害賠償請求できる相手は、運転者だけとは限りません。だれを相手に損害賠償請求するかが重要です。
損害賠償請求には、自動車損害賠償保障法(自賠法)にもとづく賠償請求と、民法にもとづく賠償請求があります。自賠法・民法それぞれの損害賠償請求の違いについて詳しくはこちらをご覧ください。
加害者側に賠償資力がないとき
一番困るのは、加害者が任意保険に未加入で、しかも、加害者の側に賠償資力がないときです。このケースでは、ほとんどの場合、自賠責保険以上の賠償金額を取得することは困難です。
この場合、健康保険または労災保険をつかって治療したうえで、相手方の自賠責保険から支払われる賠償額を最大限受領するとともに、自分の任意保険(人身傷害保険など)を使うのが賢明です。
自賠責保険の支払い限度額は、傷害事故で120万円、後遺障害は等級に応じて75万円~4,000万円、死亡事故は最高3,000万円です。
加害者に賠償資力がないときは、自賠責保険から支払われる金額の上にいくら支払えるか、が示談交渉のポイントです。賠償請求額を引き下げても、確実に取れる賠償金で示談した方がよい場合もありますから、慎重な判断が必要です。
なお、加害者に賠償資力が乏しい場合は、履行確保のための手続きが必要です。示談した事項が履行されない場合に備えて、連帯保証人を求めたり、強制執行できるように示談書を執行承諾文言付公正証書にしておくことです。
中には、賠償資力があるのに隠して、「支払いたいが、払えない」などという加害者もいますから、気をつけましょう。
いずれにしても、加害者側の賠償資力(賠償金の支払い能力)を調査することが必用です。
まとめ
示談交渉までに、被害者の側でやっておくべきことを見てきました。
いまは、任意自動車保険に示談代行制度がありますから、自動車保険のプロである保険会社の担当者に任せておけば、手続きは進めてくれます。あなたは、保険会社からいわれる書類を用意すればよいだけです。
しかし、その場合、保険会社の低い基準でしか、賠償金が支払われません。
本来受け取れるはずの正当な賠償金額を取得するに、ここに挙げたような、裁判所基準での損害算定や正しい過失割合の判断が必要です。ただし、それを被害者やその家族が行うのは簡単ではありません。無理をしても十分な結果を得ることは難しいでしょう。
弁護士に相談・依頼すれば、全て任せることができ、適正な損害賠償金額を取得することができます。
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