示談書には示談した内容を漏らさず記載する

Point
  • 示談書は、契約書の一種です。示談書がなくても口約束だけでも示談は成立しますが、後日の争いに備え、示談書を作成しておくことが大切です。
  • 示談書には、当事者・事故の特定、示談条項(示談金額・支払方法)、違約条項、留保条項、清算条項、履行確保のための条項を記載します。

 

示談したら必ず示談書を作成する!

示談は、民事上の争いを裁判手続きを経ることなく当事者間で解決する和解契約です。

 

示談書がなくても、口約束だけでも示談は成立しますが、後日、争いや約束不履行が生じたとき、書面が作成されていないと合意内容を立証できません。後日の争いを防ぐために、示談書を作成しておくことが大切です。

 

示談書の様式・書式は、特に制約はなく、法律で定められているわけではありません。標題も、一般的には「示談書」とされますが、「念書」「合意書」「支払約束書」など、何ら制限はありません。

 

ここでは、示談交渉で決めること、示談書に記載すべきことをまとめておきます。

 

被害者にとって特に重要なのは、あとから後遺症が発症したり、悪化したときに備え、留保条項を盛り込むことです。

 

また、相手が任意保険に加入していないときは、履行確保のための条項を定め、履行されない場合に強制執行ができるようにする手続きも必要です。

 

目次
  1. 示談で決めること、示談書に記載すべきこと
  2. 労災保険給付の受給を予定している場合の注意点
  3. まとめ

 

弁護士法人・響

示談交渉で決めること、示談書に記載すべきこと

示談交渉は、示談金額とその支払方法を決めることが中心です。示談がまとまったら、示談書を作成します。

 

示談書を作成する上で、最低限必要な事項は次の6つです。

 

示談書に記載する6項目

弁護士

  1. 当事者の氏名・住所
  2. 事故の発生日時・場所
  3. 加害車両(登録番号など)
  4. 被害の状況(死亡・傷害の別、傷害の部位など)
  5. 示談内容(賠償金額・支払方法など)
  6. 示談書作成年月日

 

示談書は、相手方の保険会社が用意してくれますが、示談した内容に間違いないか、漏れがないか、しっかりチェックすることが大切です。

 

示談書の作成にあたり、重要なポイントを具体的に見ていきましょう。

 

当事者の特定

示談書では、当事者を特定します。「誰が誰に賠償金を支払うのか」ということです。直接示談した者の氏名だけでなく、損害賠償に関わる当事者をすべて記載します。

 

示談金額・支払方法

最終的に加害者が被害者に支払う損害賠償金額を決め、記載します。治療費や仮渡金などの既払金があるときは、それを控除します。

 

支払方法については、一括払いか分割払いとするか、そして、その支払期限を決め、記載します。加害者が任意保険に加入していれば、一括払いとなりますから、示談金の振込先を記載するだけです。

 

違約条項

加害者が、決められた支払期限に支払いをしなかった場合に備え、違約条項を定めます。加害者が任意保険に加入していれば、特に必要ないでしょう。

 

残金の支払い方法と遅延損害金を定めます。分割払いの場合は、支払いを2~3回怠った場合に、残金について直ちに一括で支払うことを定めた「期限の利益喪失条項」を記載しておきます。

 

こうしておけば、加害者に対する「心理的な強制」にもなります。

 

留保条項

後日、後遺症が発症したり、後遺障害が悪化した場合に追加請求できるよう、留保条項を盛り込みます。

 

示談成立後は、原則として追加請求できませんが、「示談当時に予測できなかった後遺症が発生したような場合には、示談の効力は及ばない(最高裁判決・昭和43年3月15日)とされています。

 

つまり、示談したときに予測できなかった損害については、改めて損害賠償請求できるのです。判例によれば、留保条項がなくても、「示談したときに予測できなかった損害」については、追加請求が可能ということになるのですが、必ず相手が「再度の示談交渉」に応じるとは限りません。

 

交通事故の場合、示談したときには何ともなくても、将来、後遺障害に該当するような後遺症が発症しないとは言い切れません。後遺障害が悪化することもあり得ます。念のために留保条項を入れておくべきです。

 

留保条項は、例えば次のような文言となります。

 

示談するときに後遺障害がない場合

将来、甲(被害者)に後遺障害が発生し、自賠責保険において等級認定された場合には、別途協議する。

 

示談するときに後遺障害14級に認定されている場合

将来、甲(被害者)の後遺障害が自賠責保険において14級を超える等級に認定された場合には、別途協議する。

 

清算条項(権利放棄条項)

清算条項(権利放棄条項ともいいます)は、示談の成立によって、その交通事故に関する民事上の争いが最終的に解決したことを確認するための条項です。

 

保険会社の示談書の様式にも、「今後本件に関しては、双方とも、裁判上または裁判外において、一切異議、請求の申し立てをしないことを誓約いたします。」などという記載があります。

 

この条項により、当事者双方とも示談書に記載された金額以外の請求権の一切を放棄することになります。

 

つまり、後から、もっと損害があったことが判明しても、逆に実際の損害が少なかったことが判明しても、双方とも示談のやり直しを求めることはできません。

 

履行確保条項

加害者が任意保険に加入していない場合は、示談した内容で確実に賠償金を受け取れるよう、履行確保のための条項を定めておく必要があります。

 

加害者が「未成年者の場合」や「賠償資力に問題がある場合」は、未成年者の両親や資力のある人に、加害者の債務を連帯保証してもらいます。

 

不履行があった場合に強制執行できるようにするには?

示談は当事者間で締結された契約にすぎないので、不履行があったとしても、示談書にもとづいて加害者の財産に対して強制執行できません。

 

不履行があった場合に強制執行できるようにするには、債務名義を取得する必要があります。

 

債務名義を取得するには、次の3つ方法があります。

 

  1. 示談書を執行承諾文言付公正証書として作成しておく。
  2. 即決和解や調停手続により、示談内容を和解調書・調停調書の形にしておく。
  3. 支払督促・訴訟手続により確定判決を取得する。

 

債務名義とは、強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者を表示した公の文書のことです。
(最高裁Webサイト「裁判手続 民事事件Q&A」より)

労災保険給付の受給を予定している場合の注意点

労災保険給付の受給を予定している場合、示談の内容によっては、労災保険からの給付を受けられなくなることがあるので注意が必要です。

 

労災保険受給権者の損害賠償請求権の全部を填補する目的の示談が成立すると、労災保険の保険給付は行われません。労災保険実務上の運用についてはこちらをご覧ください。

 

示談成立後に労災保険給付の受給を予定している場合は、そのことが示談書から読み取れるようにしておくか、その旨が分かるような条項を記載しておくことが必用です。

 

例えば、次のような一文を示談書に記載しておくとよいでしょう。

 

労災保険給付により填補される損害を除く損害について、以下の通り示談する。

甲(被害者)と乙(加害者)は、乙が甲に支払う賠償金が甲の将来の労災保険からの給付金に何らの影響を及ぼさないことを確認する。

まとめ

示談したら、必ず示談書を作成することが大事です。口約束だけでは、あとからトラブルになる可能性があります。

 

示談のときには何ともなくても、あとで後遺障害が発生したり、悪化したりすることがありますから、それに備えて留保条項を記載しておくことが大切です。

 

相手が任意保険に加入していれば特に問題となることはありませんが、任意保険に加入していない場合は、示談金の支払い方法、支払いが履行されなかった場合の違約条項、履行確保のための条項を記載することが必用です。

 

また、示談後に労災保険給付の受給を予定している場合は、それを前提とした示談書を作成しないと、労災保険給付を受け取れなくなることがありますから、注意してください。

 

交通事故の示談交渉は弁護士に頼むと、示談金を増額でき、示談書の作成を含め、面倒なことは全て任せることができます。

 

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