示談交渉で決めること、示談書に書くべきこと

示談書

 

示談交渉は、示談金額(損害賠償額)とその支払方法を決めることが中心です。示談がまとまったら、示談書を作成します。

 

示談書は、契約書の一種です。示談書がなくても、口約束だけで示談は成立しますが、もしも後日、約束不履行などで争いになった場合に、書面が作成されていないと、合意内容を立証することは困難です。無用な争いを防ぐため、示談書を作成しておくことが大切です。

 

ここでは、示談交渉で決めること、示談書に記載すべきことをまとめています。

 

 

示談書の様式と内容

示談書には、特に決まった様式・書式はありません。標題も、示談書が一般的ですが、念書、合意書、支払約束書など様々です。

 

示談書の内容

示談書には、事故の事実とその解決内容(示談内容)を記載します。最低限、次の7項目が記載されます。

 

示談書に記載される7項目
当事者 当事者の住所・氏名
事故の特定 事故発生の日時・場所、何と何の事故だったか(自動車・バイク・歩行者など)
関係車両の特定 加害車両や関係車両の登録番号、保険契約番号
被害の状況 死亡・傷害の別、傷害の部位・程度、治療に要した日数など
示談内容 賠償金額・支払方法など
清算条項 示談の成立により紛争の一切が解決したことを明記
示談書作成年月日 示談が成立した年月日

 

このほか、違約条項、留保条項、履行確保条項なども記載されます。

 

被害者が気をつけたいのは、あとから後遺症が発症したり、後遺障害が悪化したときに備え、留保条項を盛り込むことです。

 

また、相手が任意保険に加入していないなど、賠償資力に不安がある場合は、履行確保条項を定め、履行されない場合に強制執行ができるようにする手続きも必要です。

 

示談書の種類

示談書には、私製示談書と公正証書の2種類があり、次のような特徴と違いがあります。

 

私製示談書 公正証書
  • 当事者間だけで作成
  • 強制執行の効力まではなく、支払い遅延時には裁判を起こす必要あり
  • 公証役場で作成
  • 強制執行認諾文言を付ければ、支払い遅延時に裁判を経ず強制執行が可能

 

私製示談書にも契約書としての効力はありますが、強制執行の効力まではありません。示談どおりに支払われなかったとしても、ただちに財産の差押えはできず、裁判を経てからとなります。

 

示談どおりに支払われるか不安が残る場合は、示談書を公正証書にしておくとよいでしょう。「強制執行を受けても異議はない」という内容を入れた公正証書にすることで、示談書が強制執行の効力を持ち、裁判を起こさなくても財産の差押えが可能です。

 

示談書に記載する内容と注意すべきポイント

示談書に記載する内容と注意すべきポイントについて、詳しく見ていきましょう。

 

示談書は、相手方の保険会社が用意するのが一般的です。示談した内容と間違いないか、漏れがないか、しっかりチェックすることが大切です。

 

当事者の特定

当事者の特定とは、「誰が、誰に、賠償金を支払うのか」ということです。直接示談した者の氏名だけでなく、損害賠償に関わる当事者をすべて記載します。

 

被害者が複数いる場合には、全員を表記しないと、示談の効力が及ばない者が出てしまいますから、注意してください。

 

示談金額・支払方法

加害者が被害者に支払う損害賠償金額を決めます。治療費や仮渡金などの既払金があるときは、それを控除します。

 

支払方法については、一括払いか、分割払いか、と共に、その支払期限を決めます。加害者が任意保険に加入していれば、通常は一括払いですから、示談金の振込先を記載するだけです。

 

違約条項

支払期限までに支払われない場合に備え、違約条項を定めます。

 

合意した内容を履行しなかった場合の残金の支払い方法と遅延損害金を定めます。分割払いの場合は、支払いを2~3回怠った場合に、残金について直ちに一括で支払うことを定めた「期限の利益喪失条項」を記載しておきます。

 

こうしておけば、加害者に対する心理的圧力にもなります。

 

留保条項

後日、後遺症が発症したり、後遺障害が悪化した場合に、改めて損害賠償請求できるよう、留保条項を盛り込みます。

 

示談が成立すると、原則として、追加で損害賠償請求はできませんが、示談したときに予測できなかった損害が後日発生した場合は、その損害の賠償を請求できます。これは、最高裁判例があります。

 

示談当時予想できなかった損害が発生した場合、その損害に示談の効力は及ばない

示談によって被害者が放棄した損害賠償請求は、示談当時予想していた損害についてのみと解すべきであって、その当時予想できなかった後遺症等については、被害者は、後日その損害の賠償を請求することができる。
(最高裁判決・昭和43年3月15日)

 

判例によれば、示談書に権利放棄条項が入っていても、示談したときに予測できなかった損害が発生した場合、その損害については示談の効力が及ばない、ということですから、追加で損害賠償請求が可能ということになります。

 

ただし、相手が再度の示談交渉に応じるとは限りません。示談の当時に損害の発生を予測できたかどうかが争いになることもあります。なので、示談書に留保条項を入れておくことが大切です。

 

留保条項は、例えば次のような文言となります。

 

  • 示談するときに後遺障害が認定されていない場合

    将来、乙(被害者)に後遺障害が発生し、自賠責保険において等級認定された場合には、別途協議する。

  • 示談するときに後遺障害14級に認定されている場合

    将来、乙(被害者)の後遺障害が自賠責保険において14級を超える等級に認定された場合には、別途協議する。

 

この留保条項は、公益財団法人・交通事故紛争処理センターの様式です。将来の後遺障害について、示談のときに予想できたかどうかは問題にせず、自賠責保険における等級認定を条件としているので、客観的に明確に判断できます。

 

清算条項(権利放棄条項)

清算条項(権利放棄条項ともいいます)は、示談の成立によって、その交通事故に関する民事上の争いが最終的に解決したことを確認するための条項です。

 

保険会社の示談書の様式にも、「今後本件に関しては、双方とも、裁判上または裁判外において、一切異議、請求の申し立てをしないことを誓約いたします。」などという記載があります。

 

この条項により、当事者双方とも示談書に記載された以外の請求権の一切を放棄することになります。

 

つまり、後から、もっと損害があったことが判明しても、逆に実際の損害が少なかったことが判明しても、双方とも示談のやり直しを求めることはできません

 

履行確保条項

加害者が任意保険に加入していない場合は、示談した内容で確実に賠償金を受け取れるよう、履行確保のための条項を定めておく必要があります。

 

加害者が「未成年者の場合」や「賠償資力に問題がある場合」は、未成年者の両親や資力のある人に、加害者の債務を連帯保証してもらいます。

 

不履行があった場合に強制執行できるようにするには?

示談は当事者間で締結された契約にすぎないので、不履行があっても、示談書にもとづいて加害者の財産に対して強制執行できません。

 

不履行があった場合に強制執行できるようにするには、債務名義を取得する必要があります。

 

債務名義を取得するには、次の3つ方法があります。

 

  • 示談書を執行承諾文言付公正証書として作成しておく。
  • 即決和解や調停手続により、示談内容を和解調書・調停調書の形にしておく。
  • 支払督促・訴訟手続により確定判決を取得する。

 

債務名義とは、強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者を表示した公の文書のことです。
(最高裁Webサイト「裁判手続 民事事件Q&A」より)

 

示談後に労災保険給付の受給を予定している場合の注意点

示談した後で労災保険給付を受ける予定の場合は、示談書の書き方に注意が必要です。全損害の填補を目的とする示談が成立すると、労災保険からの給付を受けられなくなるからです。

 

労災保険実務では、①示談が真正に(錯誤や強迫でなく当事者の真意によって)成立し、②示談の内容が、受給権者(被害者)の第三者(加害者)に対して有する損害賠償請求権の全部の填補を目的としている場合には、保険給付を行わないとされています。
(参考:労働省昭和38年6月17日基発第687号「第三者行為災害に係る示談により保険給付を行わない場合の要件について」)

 

逆に言えば、示談が形式的に成立していても、①示談が無効・取消の要件に該当する場合、②示談が損害の全部の填補を目的としているとは認められない場合は、労災保険給付が行われます。

 

示談後に労災保険給付の受給を予定している場合は、示談が、損害の一部に関する示談であり、労災保険給付を受給することが前提であることを、示談書に明記しておくことが大切です。

 

例えば、次のような一文を示談書に記載しておくとよいでしょう。

  • 【文例①】労災保険給付により填補される損害を除く損害について、以下の通り示談する。
  • 【文例②】甲と乙は、甲が乙に支払う賠償金が乙の将来の労災保険からの給付金に何らの影響を及ぼさないことを確認する。

 

示談が成立すると、なぜ労災保険給付されないのか?

示談が成立すると、なぜ労災保険給付されないのかというと、示談の性格と労災保険の支給調整の規定に根拠があります。

 

そもそも示談とは、示談した以上の損害賠償請求権を放棄することです。示談した金額を超える賠償請求権が存在していたとしても、示談すれば、それを超える相手方の債務を免除することになります。

 

労災保険は、交通事故のような第三者行為災害の場合には、労災保険給付について支給調整があります(労災保険法12条の4)。第三者とは、労災保険関係にある当事者(政府・事業主・労災保険の受給権者)以外の者です。

 

すなわち、①政府が労災保険給付をしたときは、その給付額の限度で、被災者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得し、②被災者が第三者より同一の事由につき損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができます。

 

②は、被災者が、労災保険給付よりも先に第三者から損害賠償を受けた場合の規定です。労災保険制度は被災労働者の被った損害を補償することを目的としていますから、示談によって被災者が第三者の損害賠償債務を免除した部分については、損害の填補が不要とみなされます。

 

したがって、示談が成立すると、労災保険給付が行われなくなるのです。

 

これについては最高裁判例があり、その判例にもとづき、上で紹介した昭和38年の労働省通知が出されています。

 

最高裁判決(昭和38年6月4日)

「労災保険制度は、もともと、被災労働者らのこうむった損害を補償することを目的とするものであることにかんがみれば、被災労働者ら自らが、第三者の自己に対する損害賠償債務の全部又は一部を免除し、その限度において損害賠償請求権を喪失した場合においても、政府は、その限度において保険給付をする義務を免れる」

 

示談した後でも、特別支給金の支給は受けることができます。ただし、特別支給金の請求権にも時効がありますから、ご注意ください。

 

まとめ

示談したら、必ず示談書を作成することが大事です。口約束だけでは、あとからトラブルになる可能性があります。

 

示談のときには何ともなくても、あとで後遺障害が発生したり、悪化したりすることがありますから、それに備えて留保条項を記載しておくことが大切です。

 

相手が任意保険に加入していれば特に問題となることはありませんが、任意保険に加入していない場合は、示談金の支払い方法、支払いが履行されなかった場合の違約条項、履行確保のための条項を記載することが必用です。

 

また、示談後に労災保険給付の受給を予定している場合は、それを前提とした示談書を作成しないと、労災保険給付を受け取れなくなることがありますから、注意してください。

 

示談書の内容に疑問のある方は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

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※「加害者の方」や「物損のみの方」からの相談は受けていませんので、ご了承ください。

 

【参考文献】
・東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会編集『改定版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 291~292ページ
・北河隆之『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 380~384ページ
・『交通事故が労災だったときに知っておきたい保険の仕組みと対応』日本法令 70~73ページ
・高野真人「労災保険給付の実務と交通事故損害賠償」判例タイムズ№943

 

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