保険会社に交通事故発生を連絡するタイミングは?
交通事故が発生したときは、直ちに保険会社に連絡することが、保険契約者や被保険者に義務づけられています。
この場合の「直ちに」とは、どのタイミングなのか? もしも保険会社への連絡が遅れて後日になった場合は、保険金の支払額に影響があるのか? 保険会社へ何を連絡すればいいのか? 詳しく見ていきましょう。
「直ちに」とは、どのタイミング?
道路交通法(第72条1項)では、交通事故が発生したとき、直ちに負傷者の救護と危険防止措置を行い、警察へ連絡することが、自動車の運転者に義務づけられています。
自動車保険約款(普通保険約款第20条)では、事故の日時、場所、概要を直ちに保険会社に連絡することが、保険契約者・被保険者・保険金請求者に義務づけられています。
どちらも同じく「直ちに」です。保険会社への連絡は、いつ、どのタイミングで行えばよいのでしょうか?
保険会社への連絡は、警察の実況見分終了後、速やかに行う
基本的には、次のように考えるとよいでしょう。
交通事故が起きたとき、最優先は、負傷者の救護と被害の拡大防止です。
したがって、負傷者の救護や危険防止など緊急措置の「直ちに」は、まさに「事故発生後すぐ」の意味です。緊急措置を行ったら、警察へ事故の発生を報告します。
なお、警察への報告は、速やかに交通事故の発生を警察に知らせ、警察官が被害者の救護や交通秩序の回復に適切な措置をとれるようにするためです。ですから、近くに人がいれば、事故発生後すぐ110番通報を頼んで、被害者の救護や危険防止の措置にあたってもよいでしょう。
保険会社への事故発生の連絡は、警察による実況見分が終わったら速やかに行うと考えればよいでしょう。
保険会社への事故通知のタイミングは、状況によって異なる
実際、保険会社への事故通知のタイミングは、状況により異なり、幅があります。
加害者も含め当事者が救急搬送されたような場合は、保険会社への連絡が後日になることもあるでしょう。あるいは、警察が到着するまでの間に保険会社に連絡して、対応を相談するケースもあるでしょう。
最近は、ドライブレコーダーが強い衝撃を検知すると、保険会社と提携した事故受付センターに自動で事故映像が送信され、ドライブレコーダーを通じて通話できるサービスもあります。事故が発生したら、瞬時に保険会社へ連絡が行く仕組みになっています。
つまり、保険会社への事故の連絡は、「直ちに」しなければいけませんが、ある程度の幅が認められ、そのタイミングは状況によって判断することになります。いずれにせよ、保険会社へ連絡できる状況になったら、速やかに連絡することが大切です。
普通保険約款は、事故発生時の義務をどう規定しているか
自動車保険の普通保険約款では、交通事故が発生したときの保険契約者や被保険者の義務について、次のように規定しています。
第20条(事故発生時の義務)
保険契約者、被保険者または保険金を受け取るべき者は、事故が発生したことを知ったときは、次のことを履行しなければなりません。
1.損害の発生および拡大の防止に努め、または運転者その他の者に対しても損害の発生および拡大の防止に努めさせること。
2.事故発生の日時、場所および事故の概要を直ちに当会社に通知すること。
3.次の事項を遅滞なく、書面で当会社に通知すること。
ア.事故の状況、被害者の住所および氏名または名称。
イ.事故発生の日時、場所または事故の状況について証人となる者がある場合は、その者の住所および氏名または名称。
ウ.損害賠償の請求を受けた場合は、その内容。
(以下略)
※『自動車保険の解説2017』保険毎日新聞社より
普通保険約款では、交通事故が発生したとき、まず「損害の発生および拡大の防止に努めること」が、保険契約者・被保険者・保険金請求者に義務づけられています。
正当な理由なく、この義務に違反した場合は、「発生または拡大を防止できたと認められる損害の額」を差し引いて保険金を支払うことも明記されています(普通保険約款21条1項1号)。
つまり、保険会社としても、事故が発生したときには「まずは、損害が拡大しないような措置をとってください」「その後すぐに、事故が発生したことを連絡してください」ということなのです。
保険会社の「契約のしおり」などに、図入りで説明している場合もあります。まずは、事故現場での緊急措置と警察への報告。その後、保険会社へ事故通知をするように図解されています。確認しておくとよいでしょう。
保険会社へ直ちに事故の発生を連絡しなかったらどうなる?
保険契約者・被保険者・保険金を受け取る者が、保険会社へ直ちに事故通知しなかったら、どんなペナルティーがあるのでしょうか?
保険会社が被った損害額が保険金から差し引かれる
保険契約者等に、保険会社への事故通知を義務づけているのは、保険会社が、事故原因の調査や事故による損害調査を迅速に行えるようにするためです。
事故から日が経つと、保険会社が、事故に関する事実関係や妥当な損害額の調査をできなくなる恐れがあります。
したがって、正当な理由なく事故発生の通知を怠った場合、それにより保険会社が被った損害が保険金から差し引かれます(普通保険約款21条1項2号)。
かつては60日以内ルールがあったが…
昔の普通保険約款は、対人事故については通知期間の特則を設け、事故から60日以内に事故通知をしないと、保険金を支払わない、としていました。
しかし、現在の普通保険約款には、こういう規定はありません。先に見たように、今の普通保険約款は、事故通知義務に違反し、保険会社に損害が発生した場合、その損害額を控除して保険金を支払うことになっています。
保険会社への事故通知が遅れて後日になったとしても、そのことだけで保険金が支払われないということはありません。ただし、事故通知が遅れて、保険会社が事故調査や損害調査ができず損害を被った場合は、その限度において保険金が差し引かれます。
ですから、保険会社への連絡は、可能な限り速やかに行うことが大切です。
保険約款の規定が変更となった背景には、次の最高裁判決があります。
最高裁は、60日以内とした事故通知期間の規定について、60日以内に事故通知がないとき、保険会社が損害の填補責任を免れるというものでなく、保険会社が被った損害の賠償請求権の限度で免責されることを定めた規定と解するのが相当、と判示しました(最高裁判決・昭和62年2月20日)。
保険会社に事故の発生について通知する内容
保険会社への事故通知する内容は、事故発生の日時、場所、事故の概要です。
いまは、24時間フリーダイヤルで事故相談を受け付けている保険会社が多くなっています。これは電話連絡でよいので、直ちに保険会社に報告することが大切です。
その後、書面で次の内容を通知しなければなりません。後日、保険会社から書類が送られてきますから、記入して返送することになります。
契約内容 | 保険証券番号、契約者・被保険者の氏名・住所・電話番号など |
---|---|
事故の状況 |
事故発生の日時・場所 |
負傷・損害 | 負傷者の有無と傷害の程度、車両損害の程度 |
事故後の措置 | 届出警察署、相手側との交渉状況など |
被害者が相手の保険会社へ連絡するケースもある
通常は加害者が、自分の加入する保険会社に事故通知して、対人・対物賠償保険金が支払われるよう手続します。それによって、自賠責保険も支払が可能となります。
しかし、加害者がそれをしない場合は、被害者が、相手の保険会社に事故通知することが必要になってきます。例えば、加害者が誠実に対応しない場合や、加害者と連絡が取れなくなった場合などです。
なぜ、被害者が相手の保険会社に事故通知するのかというと、あとから相手の保険会社に対して直接損害賠償額の支払いを請求できるようにしておくためです。
相手の任意保険(対人・対物賠償保険)だけでなく、自賠責保険に対し、被害者が直接請求や仮渡金請求することが必要なケースもあります。
そのために、加害者が自身の保険会社に事故通知しないときは、被害者が相手の保険会社に事故通知することが必要なのです。
こういうケースもありますから、事故に遭ったとき、相手の加入している自動車保険について確認しておくことが大切なのです。
自身の保険会社に事故通知を忘れてはいけない
交通事故が起きたときは、加害者が自分の自動車保険を使って損害賠償するのが原則ですが、被害者が自分の任意保険を使った方がよい場合があります。
例えば、相手が任意保険に加入していない場合、被害者の過失が大きい場合、示談交渉が難航する場合などです。
任意自動車保険には、自身の損害を補償する特約が付帯しています。中には、保険料を安くするため、自分の補償はカットしている方もいるかもしれませんが、ほとんどの方が特約を付けているでしょう。
自分の任意保険の特約(自身の損害を補償する保険)に保険金を請求するために、被害者も自分の加入する保険会社に事故の連絡をすることが必要なのです。
この事故通知も、事故後ただちに保険会社に連絡しないと保険金がカットされる、ということになりかねませんから、事故に遭ったら速やかに自身の保険会社に連絡することが大切です。
被害者にとって、特にメリットの大きい特約(保険)を2つ紹介しておきます。
人身傷害保険
自身の損害に対する補償のなかで、特に被害者にとってメリットが大きいのが、人身傷害保険です。
被害者にも過失がある場合、対人賠償保険では過失相殺により賠償金が減額されますが、人身傷害保険は、過失相殺されることなく損害を全額補償されます。
しかも、示談成立前でも保険金を受け取ることができます。
弁護士費用特約(弁護士保険)
もう1つは、弁護士保険です。弁護士費用特約を付けていれば、弁護士費用が300万円まで保険から支払われるので、弁護士費用を気にすることなく、相手方保険会社との交渉や各種手続きを弁護士に依頼することができます。
弁護士に頼むと、裁判所基準で損害を計算し、相手の保険会社と交渉するので、自分で保険会社とこうしょうするより、ずっと多くの賠償金を得ることができます。
まとめ
交通事故発生後、事故現場での対応が終わったら、加害者も被害者も、直ちに自身の加入する保険会社へ事故の発生を連絡します。
加害者は、対人・対物賠償保険の保険金の支払いを請求するためです。被害者は、人身傷害保険や弁護士保険などの特約の保険金を請求するためです。
被害者が、加害者の加入する保険会社に事故の連絡をしなければならない場合もあります。
保険会社への事故の連絡というと、加害者の話と思うかもしれませんが、被害者にとっても正当な賠償金を受け取れるかどうかに関わる大事な問題です。それに、被害者も、自分の加入する任意保険会社に、事故発生の連絡を忘れてはいけません。
ここでご紹介しているのは、普通保険約款にもとづく一般的なルールです。個別の保険契約によっては異なることがありますから、それぞれの約款等をご確認ください。
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【参考文献】
・東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会編集『改定版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 4ページ
・『自動車保険の解説2017』保険毎日新聞社 224~228ページ