「運行によって」と「所有、使用または管理」の違いとは?

自賠責保険と対人賠償保険の保険事故

 

任意自動車保険の対人賠償責任保険は、自賠責保険の上積み保険ですから、自賠責保険で填補できない損害をカバーします。とはいえ、自賠責保険と対人賠償責任保険では、保険金の支払い要件(保険事故)は全く同じではありません。

 

自賠責保険(自賠責共済を含む)から保険金が支払われるのは、自動車の運行によって他人の生命・身体を害したときです。

 

対人賠償責任保険から保険金が支払われるのは、自動車の所有、使用または管理に起因して他人の生命・身体を害したときです。

 

自動車の「運行によって」と「所有、使用または管理に起因して」の違いと関係を見ていきましょう。

 

 

「自動車の運行によって」とは?

自賠責保険から保険金が支払われるのは、自動車の保有者に、自賠法(自動車損害賠償保障法)3条に規定する損害賠償責任が発生した場合です(自賠法11条)

 

保有者とは、自動車の所有者や使用する権利を有する者のことです。

 

自賠法3条に基づく損害賠償責任が発生するのは、自動車の「運行によって他人の生命・身体を害したとき」です。

 

自賠法3条

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。…(後略)…

 

「運行」については、次のように定義されています。

 

自賠法2条2項

この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。

 

「当該装置」とは、自動車の構造上設備されている装置です。原動機(エンジン)装置のみならず、ハンドル・ブレーキなどの走行装置、ドア、荷台のほか、クレーン車のクレーンなど特殊自動車の特殊装置も含みます。

 

「当該装置の用い方に従い用いる」とは、それぞれの装置を本来の目的に従って使用することです。

 

「人または物を運送するとしないとにかかわらず」とありますから、自動車走行中の事故はもとより、駐停車中であっても、ドアの開閉や積荷の積み下ろし、特殊自動車の特殊装置の操作などに起因する事故も、運行による事故と解される場合があります。

 

駐車中であっても「運行」に当たるケースがあるとはいえ、車両を車庫に格納しているだけの状態は「運行」に当たらないと解されています。

 

「自動車の所有、使用または管理に起因して」とは?

対人賠償責任保険(任意保険)から保険金が支払われるのは、対人事故により、被保険者が法律上の損害賠償責任を負う場合です(普通保険約款 第1章2条2項)

 

対人事故については、普通保険約款において、次のように定義しています。

 

対人事故の定義

被保険自動車の所有、使用または管理に起因して他人の生命または身体を害することをいいます。

(普通保険約款 第1章1条(用語の定義)より)

 

自動車の「所有、使用または管理」は、自賠法の「運行」より広く、自動車の置かれているすべての状態を包含する概念とされています。

 

すなわち、自動車の運転中(使用)における過失による事故だけでなく、車両の管理における過失による事故についても、補償の対象となります。自動車が車庫に格納されている状態において発生した事故も含みます。

 

対人賠償責任保険は、自賠法3条(運行供用者責任)に基づく損害賠償責任に限らず、民法709条(不法行為責任)や民法715条(使用者責任)などに基づく損害賠償責任が発生する場合も、保険金の支払い対象となります。

 

自賠責は無責でも対人賠償保険は有責となる場合がある

自動車の所有者が、自賠法の運行供用者責任を問われず、民法上の不法行為責任のみを問われた場合、自賠責保険は支払われませんが、対人賠償責任保険は保険金の支払い対象となります。

 

例えば、エンジンキーを差したまま駐車していた車が盗まれ、その自動車が人身事故を起こした場合に、自賠法の運行供用者責任は否定し、自動車所有者の管理上の過失に基づく不法行為責任を認めた裁判例があります。このような場合、自賠責保険は支払われませんが、対人賠償保険は支払い対象となります。

 

所有に起因して他人を死傷させるケースとは?

ところで、「自動車の所有、使用または管理に起因して他人の生命または身体を害すること」とありますが、「所有」に起因する事故は存在しません。事故の発生原因となるのは「使用または管理」です。

 

ここで「所有」は、法律上の損害賠償責任の負担原因として理解されます。例えば、自分が所有する自動車を友人に貸与中の事故に関して、所有者としての責任を問われたような場合を想定しています。
(参考:『自動車保険の解説2017』保険毎日新聞社26ページ)

 

対人賠償責任保険による支払額

対人賠償責任保険は自賠責保険の上積み保険で、自賠責保険(強制保険)では填補しきれない損害を、対人賠償責任保険(任意保険)でカバーする仕組みです。

 

対人賠償責任保険から支払われる額は?

対人賠償責任保険が支払う保険金の額は、被保険者が支払う損害賠償額のうち、自賠責保険によって支払われる額を超過する金額です。すなわち、損害賠償額と自賠責保険金額との差額です。

 

普通保険約款において、次のように規定しています。

 

普通保険約款 第1章2条(保険金を支払う場合-対人賠償)

(1)当会社は、対人事故により、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して、この賠償責任条項および基本条項に従い、保険金を支払います。

 

(2)当会社は、1回の対人事故による(1)の損害の額が自賠責保険等によって支払われる金額(注)を超過する場合に限り、その超過額に対してのみ保険金を支払います。

 

(注)被保険自動車に自賠責保険等の契約が締結されていない場合は、自賠責保険等によって支払われる金額に相当する金額をいいます。

※条文中の「自賠責保険等」とは、自賠責保険と自賠責共済です(普通保険約款 第1章1条)。

 

対人賠償責任保険を引き受けている任意保険会社が、自賠責保険分を含めて一括払いしますから、自賠責保険と対人賠償保険を別々に請求する必要はありません。

 

自賠責保険が付保されていない場合

被保険自動車に自賠責保険が付保されていない場合には、「自賠責保険が付保されていたら支払われたであろう額」の超過額に対してのみ支払われます。

 

自賠責保険が付保されていない場合としては、2つのケースがあり得ます。

 

自賠責無保険車 自賠責保険の付保を怠っている場合
自賠責適用除外車 自賠責保険の付保を免除されている車両の場合

 

自賠責無保険車による被害者は、政府の自動車損害賠償保障事業に対し、損害に対する補償を請求することができます。

 

政府保障事業の支払限度額は、自賠責保険の支払限度額と同じですが、健康保険労災保険等の使用を前提とし、他の法令による給付との調整が必ず行われるため、政府保証事業から支払われる金額は、「自賠責保険によって支払われたであろう額」を下回ることがあります。

 

その場合でも、対人賠償責任保険は、「自賠責保険によって支払われたであろう金額」の超過額についてのみ、保険金を支払うことにしています。

 

自賠法の「運行」に当たらない事故の場合

自賠法の「運行」に当たらない事故の場合は、保有者に自賠法3条の運行供用者責任が発生しませんから、自賠責保険が付保されていても、自賠責保険金は支払われません。

 

ただし、自賠法の「運行」に当たらなくても、保険約款の「所有、使用または管理」に当たり、被保険者が、民法709条等に基づく損害賠償責任を負う場合は、その損害の全額が、対人賠償責任保険から支払われます。

 

対人賠償責任保険では、自賠責保険によって支払われる金額の超過額が保険金として支払われます。この場合は、損害の全額が、自賠責保険によって支払われる金額(0円)の超過額となるのです。

 

まとめ

交通事故による人身損害に対する損害賠償は、強制保険である自賠責保険と、任意保険である対人賠償責任保険の2階建て構造となっています。

 

対人賠償責任保険は、損害賠償額のうち自賠責保険によって支払われる金額を超過する金額に対して保険金を支払う、上積み保険です。

 

自賠責保険は、自動車の「運行」によって他人を死傷させた場合に保険金が支払われ、対人賠償責任保険は、自動車の「所有、使用または管理」に起因して他人を死傷させた場合に保険金が支払われます。

 

対人賠償責任保険は、自賠責保険よりも広い保険事故をカバーします。

 

 

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【参考文献】
・『自賠責保険のすべて 13訂版』保険毎日新聞社 88~92ページ
・『自動車保険の解説2017』保険毎日新聞社 24~30ページ
・『交通事故事件対応のための保険の基本と実務』学陽書房 77~79ページ、122~125ページ
・『新版逐条解説自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 50~59ページ
・「逐条解説自動車損害賠償保障法第2版』弘文堂 6~19ページ

 

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