自賠責は被害者1名あたりの支払限度額が決まっている
Point
- 自賠責保険(自賠責共済を含む)は、傷害、後遺障害、死亡、それぞれの損害に応じて、被害者1名あたりの保険金(共済金)の支払限度額が決められています。
- 被害者が複数いる場合は、被害者ごとに限度額まで保険金(共済金)が支払われます。加害車両が複数ある場合は、その台数に応じて支払限度額が増えます。
- 自賠責保険(自賠責共済)は、一度事故を起こして保険金(共済金)が支払われても、その後の別の事故についても同じように保険金(共済金)が支払われます。
自賠責共済は自賠責保険と同じ制度で、支払基準や支払限度額は自賠責保険と同じです。以下、「自賠責保険」を「自賠責共済」に、「保険金」を「共済金」に、読み替えてください。
支払基準・支払限度額と補償内容
自賠責保険では、保険金支払いの対象となる損害を、傷害・後遺障害・死亡の3つに分類し、それぞれ保険金の支払基準や支払限度額が定められています。支払限度額は、被害者1名あたりの金額で、1事故あたりの限度額ではありません。
なお、自賠責保険は、人身事故のみが対象で、物損事故等には適用されません。
傷害による損害への支払限度額は、被害者1人につき 120万円です。治療費や看護料のほか、休業補償、傷害慰謝料などが認められます。
損害 | 内容・支払基準 |
---|---|
治療費 |
診察料、入院料、投薬料、手術料、処置料など |
通院費等 |
通院、転院、入院、退院に要した交通費 |
看護料 |
入院中の看護料 |
自宅看護料まはた通院看護料 |
|
諸雑費 |
入院中に要した諸雑費 |
柔道整復等の費用 |
柔道整復師、あんま・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師が行う施術費用 |
義肢等の費用 |
義肢、義眼、眼鏡、補聴器、松葉杖などの費用 |
診断書等の費用 |
診断書、診療報酬明細書などの発行手数料 |
文書料 |
交通事故証明書、印鑑証明書、住民票などの発行手数料 |
休業損害 |
事故のため仕事や家事を休業し、その間の収入を得られなかった損害を補償 |
慰謝料 |
交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償 |
※これらを合計して、上限が120万円です。
後遺障害による損害への支払限度額は、後遺障害等級により異なります。被害者1人につき、もっとも重い第1級(常時介護を要する場合=重度後遺障害)で 4,000万円、もっとも軽い第14級では 75万円を限度に支払われます。
逸失利益と慰謝料が認められます。慰謝料は、後遺障害等級に応じて決まりますが、逸失利益は、障害等級のほか被害者の収入などに応じて異なります。逸失利益と慰謝料を合わせた金額の上限が支払限度額です。
なお、症状固定(これ以上治療を続けても回復が望めない状態)と診断されるまで、つまり治療期間中は、傷害による損害に対する保険金が別に支払われます。症状固定と診断され、後遺障害等級が認定されると、後遺障害による損害に対する保険金を請求できます。
損害 | 内容・支払基準 |
---|---|
逸失利益 |
後遺傷害がなければ得られたはずの利益 |
慰謝料 |
交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償 |
重度後遺障害(介護を要する後遺障害)の傷害等級と支払限度額
障害等級 | 支払限度額 | うち慰謝料 |
---|---|---|
第1級 |
4,000万円 |
1,600万円 |
第2級 |
3,000万円 |
1,163万円 |
※神経系統の機能や精神・胸腹部臓器に著しい障害を残し、介護を要する場合が該当します。第1級は常時介護を要する場合、第2級は随時介護を要する場合です。
※被扶養者がいるとき、慰謝料が、第1級は1,800万円、第2級は1,333万円となります。
後遺障害の等級と支払限度額
障害等級 | 支払限度額 | うち慰謝料 |
---|---|---|
第1級 |
3,000万円 |
1,100万円 |
第2級 |
2,590万円 |
958万円 |
第3級 |
2,219万円 |
829万円 |
第4級 |
1,889万円 |
712万円 |
第5級 |
1,574万円 |
599万円 |
第6級 |
1,296万円 |
498万円 |
第7級 |
1,051万円 |
409万円 |
第8級 |
819万円 |
324万円 |
第9級 |
616万円 |
245万円 |
第10級 |
461万円 |
187万円 |
第11級 |
331万円 |
135万円 |
第12級 |
224万円 |
93万円 |
第13級 |
139万円 |
57万円 |
第14級 |
75万円 |
32万円 |
※被扶養者がいるとき、慰謝料が、第1級は1,300万円、第2級は1,128万円、第3級は973万円となります。
死亡による損害への支払限度額は、被害者1人につき 3,000万円です。葬儀費用、逸失利益、死亡本人と遺族に対する慰謝料が支払われます。遺族慰謝料請求権者は、被害者の父母・配偶者・子です。
葬儀費用と慰謝料は、支払金額が決まっていますが、逸失利益は、死亡本人の収入額や就労可能年数などによって異なります。例えば、収入のない高齢者が事故に遭い死亡した場合には、逸失利益分はほとんどなく、おおむね葬儀費用と慰謝料ということになります。
なお、死亡に至るまでの治療期間中は、傷害による損害に対して別に保険金が支払われます。
損害 | 内容・支払基準 |
---|---|
葬儀費 |
通夜、祭壇、火葬、墓石などの費用(墓地、香典返しなどは除く) |
逸失利益 |
生きていれば得られたはずの利益 |
慰謝料 |
死亡本人⇒ 350万円 |
遺族請求権者1名⇒ 550万円 |
※例えば、一家の大黒柱の夫が、妻と子2人を残して死亡したときの慰謝料は、350万円+750万円+200万円=1,300万円となります。
通常、保険契約の内容は保険約款によって決められ、保険者も被保険者も保険約款に拘束れます。
ただし、自賠責保険は、自賠法によって特別に設けられた保険なので、約款は自賠法の規定を補足するにとどまり、各損害保険会社が勝手に契約内容を決めることはできません。約款に規定のない場合は、自賠法が適用されます。
被害者・加害者が複数いるときの支払限度額
自賠責保険の支払限度額は、被害者1人あたりの金額であって、1事故あたりの限度額ではありません。
ですから、複数の被害者を出した場合や加害者車両が複数ある場合の保険金の支払限度額は、次のようになります。
複数の被害者を出した場合
複数の被害者を出した場合は、被害者ごとに限度額まで保険金が支払われます。
例えば、車の衝突事故で、被害車両に3人が乗車していて負傷した場合、被害者3人に対し、傷害による損害には、それぞれ120万円を限度として、加害車両の自賠責保険から保険金が支払われます。
加害車両が複数の場合
加害車両が複数ある場合は、加害車両それぞれの自賠責保険に保険金を請求できるので、支払限度額は、加害車両の数に応じて増えます。自賠責保険は、車両ごとに付保されるものだからです。
つまり、被害者の損害額を限度に、
[自賠責保険の支払限度額]×[加害車両数]
が、自賠責保険の支払限度額となります。
例えば、2台の車の衝突事故で双方に過失がある場合、いずれかの車に同乗していて負傷した被害者には、両方の車の自賠責保険から保険金が支払われます。この場合、自賠責保険の支払限度額は、同乗者1人につき、120万円×2台=240万円になります。
なお、これは支払限度額が加害車両数に応じて増えるのであって、支払基準は変わりません。加害車両2台による傷害事故の場合、支払限度額は240万円になりますが、例えば入院諸雑費は原則1日1,100円で変動はありません。1日2,200円になるわけではありません。
保険期間中なら何度でも保険金が支払われる
自賠責保険は、一度事故を起こして保険金が支払われても、それ以後に別の事故を起こしたとしても、保険期間内であれば、同じ限度額で保険金が支払われます。
自賠責保険は、保険期間中に何回事故を起こしても契約が失効しない「自動復元制度」が採用されているので、保険期間中なら何回でも支払いを受けることができます。
とはいえ、事故は起こさないのが一番です。
まとめ
自賠責保険・自賠責共済は、傷害、後遺障害、死亡、それぞれの損害に応じて、保険金(共済金)の支払基準が決められています。
- 傷害による損害の場合の支払限度額は、被害者1名につき 120万円
- 後遺障害による損害の場合の支払限度額は、障害等級ごとに異なり、被害者1名につき 4,000万円~75万円
- 死亡による損害の支払限度額は、被害者1名につき 3,000万円
なお、この金額は自賠責保険・自賠責共済から支払われる限度額であって、損害賠償請求では、通常これを上回る金額を請求します。自賠責保険・自賠責共済の保険金・共済金で不足する金額は任意保険から支払われ、それでも足りなければ加害者が支払うことになります。
自賠責保険・自賠責共済の支払基準は、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年 金融庁・国土交通省 告示第1号)で定められています。詳しくは、そちらをご覧ください。
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