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    損益相殺とは?損益相殺される給付・されない給付、代位との違い
    交通事故の被害者が、損害賠償と別に金銭給付などを受けた場合、二重の利得とならないよう、損害額から給付額を控除(損害と利益を相殺)します。これが損益相殺です。ここでは、損益相殺とは何か、損益相殺と代位との違い、損益相殺の対象となるかどうかの判断基準について見ていきます。また、損益相殺の対象となるもの、損益相殺の対象とならないものについて、具体的にまとめています。損益相殺と代位、損益相殺的な調整まず、そもそも損益相殺とは何か、損益相殺と代位との違い、最近見られる「損益相殺的な調整」について、見ていきましょう。そもそも「損益相殺」とは?損益相殺とは、交通事故によって被害者が損害を被るとともに利益を得た場合、その利益が損害の填補であることが明らかなときは、損害から利益を差し引くことです。「事故によって被った損害」と「事故によって得た利益」を相殺し、実損害を算出することです。交通事故によって被害者の受ける利益とは?交通事故によって被害者の受ける利益には、「支出節約型」と「給付型」があります。支出節約型死亡逸失利益の算定における生活費の控除など、本来なら支出を免れない支出が節約される場合、その利益を損害賠償額から控除。給付型加害者または第三者から損害賠償金とは別の給付がなされる場合、その給付額を損害賠償額から控除。給付型については、あとで詳しく見ます。支出節約型の代表例は、死亡逸失利益の算定における生活費控除です。死亡事故の場合は、事故に遭わなければ将来にわたって得られたはずの利益(収入)を失いますが、反面、死亡した被害者本人の将来の生活費の支出は免れます。したがって、被害者の逸失利益を算定するには、本人の生活費を控除します。損益相殺について民法に規定はありませんが、民法709条にいう損害とは、損益相殺後の実損害を指すものと解されています。「狭義の損益相殺」と「広義の損益相殺」損益相殺には、免責型と代位型の2つのタイプがあります。免責型被害者が経済的利益(金銭給付)を受けているのに、さらに損害賠償金も得て、二重の利得をすることは公平の理念に反するという価値判断にもとづき、損害賠償額から利益を控除します。被害者が得た経済的利益の範囲で、損害が消滅し、加害者は賠償責任を免れます。これが、本来の損益相殺(狭義の損益相殺)です。免責型の代表的なものとしては、自賠責保険に被害者請求して支払われた賠償額の損益相殺があります。代位型法律に代位規定のある金銭給付をすると、給付者は、給付した額を限度に被害者の損害賠償請求権を取得(代位)します。その分、被害者の損害賠償請求権の額が減少します。この場合、被害者の減少した損害賠償請求権は、代位取得した者に移転しただけで、消滅するわけではありません。加害者の立場から見ると、その分の支払先が変わるだけで、免責にはなりません。代位型は厳密な意味では損益相殺にあたりませんが、被害者にとっては、給付を受けた額が損害賠償請求権から減額され、損益相殺と何ら変わらないので、免責型と代位型とを合わせて損益相殺(広義の損益相殺)と呼ぶことがあります。代位型の代表的なものとしては、労災保険や健康保険などの保険給付金の損益相殺があります。免責型と代位型の違い免責型と代位型は、どちらも被害者は損害賠償金と給付を重複して取得できず、給付額を損害賠償額から控除しますが、次の点が違います。免責型給付額の範囲で加害者の損害賠償責任は免責となる。代位型給付額の範囲で損害賠償請求権が移転するだけで、加害者の損害賠償責任は免責とならない。「損益相殺的な調整」とは?最近は、損害賠償額から公的保険給付額を控除する理由について、公的保険代位でなく、「損益相殺的な調整」という表現がされることがあります。最高裁は、「被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要があり…」(最高裁判決・平成5年3月24日)と述べています。当初、最高裁は、公的保険から給付された額を被害者の損害賠償請求権の額から控除するのは、狭義の損益相殺(損益相殺の法理)でなく、代位により損害賠償請求権が移転し、被害者の損害賠償請求権が減額する(代位の法理)という考え方をとっていました。「政府が保険給付をしたときは、右保険給付の原因となつた事由と同一の事由については、受給権者が第三者に対して取得した損害賠償請求権は、右給付の価額の限度において国に移転する結果減縮すると解される」(最高裁判決・平成元年4月11日)保険金を支払った保険者は、商法662条所定の保険者の代位の制度により、その支払った保険金の限度において被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する結果、被保険者たる所有者は保険者から支払を受けた保険金の限度で第三者に対する損害賠償請求権を失い、その第三者に対して請求することのできる賠償額が支払われた保険金の額だけ減少することとなるにすぎない」(最高裁判決・昭和50年1月31日)「損益相殺的な調整」という表現が使われるのは、公的保険代位で説明することが適切でないケースがあるからです。そのため、公的保険給付の場合の損害賠償額からの減額処理を「損益相殺的な調整」と呼ぶ場合があります。損益相殺の対象か否かの判断基準被害者の得た経済的利益(金銭給付)が、損益相殺の対象として損害から控除されるかどうかは、その利益の性質から、実質的に損害の填補といえるかどうか、個別に判断することになります。第三者から被害者に対して損害賠償金とは別途の給付がなされた場合、損益相殺すべきかどうかは、次の点を考慮して判断すべきとされています。当該給付が本来損害の填補を目的とし、非定額かどうか給付原因事由が事故と因果関係を有するかどうか給付の趣旨からみて損害額から控除することが妥当かどうか当該給付が損害賠償制度との調整規定(代位、求償、返還義務など)を設けているかどうか当該給付についての費用負担者は誰か負担した費用との対価性を有するかどうか※青本25訂版よりこれらは相互に連関していますから、総合的に判断することが必要です。ここでは、基本的な考え方について紹介しておきます。給付に代位規定があると基本的に損益相殺の対象となる給付に代位規定がある場合は、基本的に損益相殺されます。代位規定があると、給付した者が、給付額を限度に損害賠償請求権を取得し、加害者側に求償できます。給付を受けた額を被害者の賠償請求権額から控除しないと、加害者は二重払いを強いられてしまいます。したがって、給付額を賠償金額から控除するのは、理論上当然の帰結となります。ただし、代位規定があれば必ず損益相殺されるかというと、そうとも限りません。公的保険が代位し、被害者に損害賠償請求権を失わせることが適切なのか、判断が必要な場合があるからです。問題は、代位規定がない場合です。給付額を損害額から控除する(損益相殺する)ということは、その額を請求せず、加害者を免責することです。逆に、控除しない(損益相殺しない)ということは、被害者が給付も賠償金も二重に受け取るということです。つまり、被害者の重複取得を認めるか、加害者の免責を認めるか、利害が真っ向から対立します。被害者の重複取得を原則とし、給付に関する費用の負担者や負担割合、負担と給付との対価関係などを総合的に考慮して、加害者の免責が妥当と考えられる実質的根拠がある場合に、例外的に控除を認めると考えるとよいでしょう。保険料の対価として定額払いの保険金は損益相殺の対象にならない保険料の対価として定額が支払われる保険金は、損益相殺の対象となりません。保険料の対価かどうか(保険料との対価性を有するかどうか)は、たくさん保険料を払えば、それだけ保険金を多く受け取れる関係にあるのが、保険料の対価ということです。損害の填補が目的でないので、保険金を支払うのに損害の算定は不要です。受け取る保険金は定額で、支払う保険料に応じて保険金が決まっています。「こんな場合には、この金額を支払います」と、あらかじめ受け取る保険金の額が決まっていて、その金額の保険金を受け取るための保険料を支払っているという関係です。保険金が支払われるのは事故が原因だとしても、それは単に保険金支払いのきっかけにすぎません。損害を填補する保険金ではないからです。いくつか具体例を挙げておきましょう。生命保険は、保険料の対価です。だれでも高い保険料を払いさえすれば、高額の死亡保険金を受け取ることができます。所得補償保険は、現在の年収を申告し、損害を填補するための保険です。たくさん保険料を払ったからといって保険金を多く受け取れるわけではありませんから、保険料の対価ではありません。入院1日に1万円の保険金が出る保険は、入院したとき、どんな損害が生じているかに関わらず、日額1万円が支払われる保険です。損害の填補でなく、保険料の対価です。損害の填補を目的とした給付は損益相殺の対象となる現物給付(療養給付など)でも、金銭給付(休業給付など)でも、給付の目的が被害者の損害の填補であれば控除されます。代位規定があり、代位の結果、加害者がその給付の最終負担者となる場合、その給付は被害者の損害を填補する目的と考えられます。対人対物保険は、損害の填補のために給付されるので、損害額から控除されます。傷害保険は、事故があった場合に定額の保険金の支払いを受けるもので、損害の填補が目的でなく被保険者の生活保障という目的の給付なので、控除されません。給付の費用負担者によって判断給付の費用負担者が加害者側であれば、その給付を損害賠償請求権から控除する根拠となります。例えば、加害者側の自賠責保険からの支払いなどです。給付の費用負担者が被害者側の場合は、損害填補型の保険金給付であれば損益相殺の対象となりますが、そうでなければ損益相殺されません。損益相殺の対象となる給付損益相殺の対象となるものとしては、次のようなものがあります。加害者側(相手方の任意保険会社を含む)からの弁済自賠責保険の損害賠償額政府の自動車損害賠償保障事業の填補金労働者災害補償保険法にもとづく給付(特別支給金等は除く)健康保険法、国民健康保険法等の公的医療保険制度にもとづく給付国民年金法、厚生年金法等にもとづく給付人身傷害補償保険金、無保険車傷害保険金、車両保険金所得補償保険金自賠責保険会社による損害賠償額の支払い被害者が自賠責保険に対し被害者請求(自賠法16条1項にもとづく直接請求)をして、自賠責保険会社から損害賠償額が支払われたときは、「保険会社が、責任保険の契約に基づき被保険者に対して損害を填補したものとみなす」(自賠法16条3項)とされています。ここで被保険者とは、加害者のことです。加害者が被害者に対して損害賠償金を支払い、それによって生じる加害者の損害を填補する(すなわち保険金を支払う)のが自動車保険です。「被保険者に対して損害を填補したものとみなす」とは、加害者は損害賠償義務の負担がなくなった状態として扱われるということです。このような規定から、自賠責保険の損害賠償額の支払いは、損益相殺の対象となると考えられています。政府保障事業による填補金の支払い被害者から政府保障事業に対し填補金請求があり、政府が填補金を支払ったときは、「その支払金額の限度において、被害者が損害賠償の責任を有する者に対して有する権利を取得する」(自賠法76条1項)と、代位規定があります。公的医療保険制度にもとづく給付健康保険法、国民健康保険法等の公的医療保険制度にもとづく給付は、代位規定があり(健康保険法57条、国民健康保険法64条)、給付によって損害賠償請求権が保険者に移転するため、原則として被害者の損害額から控除されます。なお、健康保険や国民健康保険を利用したときの医療費は、自己負担部分を損害とするのが一般的です。国民年金法、厚生年金法等にもとづく給付国民年金法、厚生年金法等の公的年金制度にもとづく給付(障害基礎年金、障害厚生年金、遺族基礎年金、遺族厚生年金)は、代位規定があり(国民年金法22条、厚生年金法40条)、給付によって損害賠償請求権が政府等に移転するため、原則として被害者の損害額から控除されます。被害者が締結していた保険契約にもとづく保険金の支払い人身傷害補償保険金、無保険車傷害保険金、車両保険金、所得補償保険金は、保険代位により損害賠償請求権が保険会社に移転するため、損害額から控除されます。被保険者が第三者の不法行為によつて傷害を受けて就業不能になつたため、保険者が所得補償保険契約に基づき保険金を支払つた場合には、保険金相当額を休業損害の賠償額から控除すべきである。(最高裁判決・平成元年1月19日)損益相殺の対象にならない給付損益相殺の対象にならないものとしては、次のようなものがあります。加害者側が支払った社会儀礼上の範囲内の見舞金や香典労災保険法にもとづく特別支給金搭乗者傷害保険金、自損事故保険金生命保険金、生命保険の傷害・入院給付金社会儀礼上の範囲内の見舞金や香典香典や見舞金として支払われたものは、社交上の儀礼として相当な範囲の金額であれば、損益相殺の対象となりません。例えば、加害者が「お見舞いです」と言って、のし袋に100万円を入れてきたら、儀礼の範囲とはいえず、賠償金の内払いと認定される可能性が高くなります。労災保険法にもとづく特別支給金労災保険法のもとづく給付のうち特別支給金は、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために支給されるものです。特別支給金は、代位規定がなく、損害の填補を目的とするものでないので、損益相殺による控除の対象となりません。労働者災害補償保険特別支給金支給規則による特別支給金は、被災労働者の損害額から控除することができない。(最高裁判決・平成8年2月23日)搭乗者傷害保険金、自損事故保険金これらの保険金は、保険料の対価の性質があり、定額払いであること、被保険者が被った損害を填補する性質を有するものではないこと、約款等に代位規定がないことなどから、控除の対象とはなりません。甲車を被保険自動車として締結された保険契約に適用される保険約款中に、被保険自動車に搭乗中の者がその運行に起因する事故により傷害を受けて死亡したときはその相続人に定額の保険金を支払う旨の定めがあり、甲車に搭乗中交通事故により死亡した者の相続人が右保険金を受領した場合、右保険金は、右相続人の損害額から控除すべきではない。最高裁判決(平成7年1月30日)生命保険金、生命保険の傷害・入院給付金これらは被害者が負担した保険料の対価であり、損害の填補を目的としていないので、控除の対象とはなりません。生命保険金は、不法行為による死亡に基づく損害賠償額から控除すべきでない。(最高裁判決・昭和39年9月25日)「生命保険契約に付加された特約に基づいて被保険者である受傷者に支払われる傷害給付金又は入院給付金は、既に払い込んだ保険料の対価としての性質を有し、たまたまその負傷について第三者が受傷者に対し不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償義務を負う場合においても、右損害賠償額の算定に際し、いわゆる損益相殺として控除されるべき利益にはあたらない」(最高裁判決・昭和55年5月1日)まとめ損益相殺とは、交通事故により損害を被った被害者が、その事故を起因として経済的利益を得る場合、その利益を損害から控除することです。ただし、経済的利益を得たら必ず損益相殺されるわけでなく、損益相殺の対象になるもの、損益相殺の対象にならないものがあります。具体的なケースについて、損益相殺されるかどうかは、弁護士に相談するとよいでしょう。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 247~288ページ・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 194~200ページ・東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編『民事交通事故訴訟の実務-保険実務と損害額の算定-』ぎょうせい 233~234ページ・『要約 交通事故判例140』学陽書房 66ページ・日弁連交通事故相談センター編『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 234ページ
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  • 損益相殺の費目調整
    損益相殺の費目拘束とは?保険給付と損害賠償の同質性・同一の事由
    公的保険給付を受けたときの損益相殺的な調整は、保険給付の目的・性質に応じて、同一性のある損害の限度で控除されます。これを「費目拘束」といいます。保険給付の種類によって控除対象となる損害費目が決まっていて、保険給付額が、対応する損害費目の損害額を超過しても、他の損害費目から控除することはできません。損益相殺の仕方を間違うと、賠償請求できる額が減り、損します。過失相殺が大きい場合は、特に注意が必要です。公的保険給付との損益相殺的調整の方法・注意点について、見ていきましょう。積極損害・消極損害・慰謝料の枠を超えて控除できない損益相殺的な調整により、損害額から給付額を控除できるのは、保険給付と損害賠償とが「同一の事由」の関係にある場合です。保険給付と損害賠償が「同一の事由」の関係にあるとは?社会保険の法律には、代位(給付額を限度に給付を受ける被害者の損害賠償請求権を取得する)について規定した条文に、次のような条項があります。保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。(労災保険法12条の4第2項)保険給付を受ける権利を有する者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者は、その価額の限度において、保険給付を行う責めを免れる。(健康保険法57条2項)国民健康保険法(第64条2項)、国民年金法(第22条2項)、厚生年金保険法(第40条2項)などにも、同様の規定があります。これは、同一の事由による二重の填補を認めないという趣旨です。したがって、「保険給付により填補される損害」と「損害賠償により填補される損害」が同性質の損害である場合には、保険給付の原因目的と損害賠償の原因目的が同じ(同一の事由)ですから、保険給付を受けていれば、賠償額から給付額を控除するということになります。大事なのは、保険給付と損害賠償が「同一の事由」の関係にある場合に限り、損害賠償額から給付額が控除できるということです。逆に言えば、「同一の事由」の関係にない場合は、控除できません。なお、ここでいう「同一の事由」とは、単に「同一の交通事故を原因とする」ということではありません。「同一の事由」に関して、最高裁は、次のように述べています。保険給付と損害賠償とが「同一の事由」の関係にあるとは、保険給付の趣旨目的と民事上の損害賠償のそれとが一致すること、すなわち、保険給付の対象となる損害と民事上の損害賠償の対象となる損害とが同性質であり、保険給付と損害賠償とが相互補完性を有する関係にある場合をいうものと解すべきであって、単に同一の事故から生じた損害であることをいうものではない。(最高裁判決・昭和62年7月10日)つまり、保険給付と損害賠償とが「同一の事由」の関係にあるとは、次のような場合のことです。「保険給付の対象となる損害」と「損害賠償の対象となる損害」とが、同性質である。「保険給付」と「損害賠償」とが、相互補完性を有する関係にある。続けて、最高裁は、次のように判示しました。労働者災害補償保険法による休業補償給付・傷病補償年金、厚生年金保険法による障害年金が対象とする損害と同性質であり、同一の事由の関係にあると肯定することができるのは、財産的損害のうちの消極損害(いわゆる逸失利益)のみである。したがって、右の保険給付が現に認定された消極損害の額を上回るとしても、超過分を財産的損害のうちの積極損害または精神的損害(慰藉料)から控除することは許されない。労災保険法の休業補償給付・傷病補償年金は、休業損害を填補する給付、厚生年金保険法の障害厚生年金は、逸失利益を填補する給付です。これらの給付は消極損害を填補するものですから、損益相殺的調整により控除が認められるのは、消極損害のみです。保険給付が、消極損害の額を超過していても、超過分を他の積極損害や慰謝料から控除することはできません。この最高裁判決により、公的保険給付と損害賠償額とを損益相殺的調整する場合、積極損害・消極損害・慰謝料の枠を超えて控除できないことが明確になりました。最高裁判例の流れ保険給付額を単純に損害額から差し引くことはできず、損害の種類ごとに区分して、控除しなければならないことは、比較的早くから判例で指摘されています。昭和62年の最高裁判例で、積極損害、消極損害、慰謝料を区分して控除すべきことが、はっきりと示されました。公的保険給付の損害額からの控除について、最高裁判例の流れを見ておきましょう。遺族給付は、慰謝料から控除できない労働者災害補償保険法にもとづき遺族補償費が支給された場合でも、遺族は別に、使用者に対し、不法行為による損害賠償としての慰藉料を請求することができる。⇒最高裁判決(昭和37年4月26日)労災保険給付が慰謝料から控除できないことは、早くから指摘されています。障害補償給付・休業補償給付は、慰謝料から控除できない労働者災害補償保険法による障害補償一時金・休業補償給付は、財産上の損害の填補を目的とし、精神上の損害の填補を目的としないので、慰藉料から控除することは許されない。⇒最高裁判決(昭和58年4月19日)財産的損害と精神的損害の区分して控除すべきことは明確なのですが、財産的損害のうち積極損害と消極損害の区分をどうするのかの問題が残りました。休業補償給付・傷病補償年金・障害年金は、消極損害からのみ控除できる労働者災害補償保険法による休業補償給付・傷病補償年金、厚生年金保険法による障害年金によって填補される損害は、財産的損害のうちの消極損害のみで、これを積極損害や慰謝料から控除することは許されない。⇒最高裁判決(昭和62年7月10日)財産的損害を積極損害と消極損害に分け、積極損害・消極損害・慰謝料を区分して控除することが明らかになりました。それぞれの中で、さらに細分して考えるのかどうかの問題が残っています。遺族年金は、逸失利益のみから控除できる国民年金法・厚生年金保険法にもとづく障害年金の受給者の死亡により、遺族が受給した遺族年金は、逸失利益のみから控除でき、他の財産的損害や慰謝料から控除することはできない。⇒最高裁判決(平成11年10月22日)障害年金の受給者が死んで、遺族が遺族年金をもらう場合、その控除は逸失利益から控除すべきで、他の損害費目から控除してはならないとの判断を示しました。遺族年金は、逸失利益全般から控除できる不法行為により死亡した被害者の相続人が支給を受ける遺族厚生年金は、被害者が支給を受けるべき障害基礎年金等に係る逸失利益だけでなく、給与収入等を含めた逸失利益全般との関係で控除できる。⇒最高裁判決(平成16年12月20日)喪失した利益の性質による細分化をせずに、逸失利益という枠組みで「損害と利益の同質性」を考える姿勢を示した判例です。給付と控除対象の損害費目との対応関係被害者側への支払い・給付と控除対象の損害費目との対応関係(費目拘束)について、個別に見ていきましょう。費目拘束について特に注意が必要なのは、労災保険と公的年金です。加害者の弁済自賠責保険から支払われた損害賠償額加害者側の任意保険会社からの支払い労災保険給付と損害費目との対応関係国民年金・厚生年金と損害費目との対応関係加害者の弁済加害者からの弁済は、弁済の趣旨によりますが、全損害への填補の趣旨の場合は、全損害から控除されます。自賠責保険から支払われた損害賠償額自賠責保険から支払われた損害賠償額は、人的損害に対するものです。物的損害には填補されないので、物損からは控除されません。人損については、いかなる損害名目で支払われたとしても、人損の全損害から控除されます。加害者側の任意保険会社からの支払い任意保険会社からの支払いのうち、対人分は人損全体から、対物分は物損全体から控除されます。労災保険給付と損害費目との対応関係保険給付の種類ごとに、控除できる損害費目との対応関係があります。損害費目労災保険給付( )内は通勤災害の場合治療関係費療養補償給付(療養給付)休業損害休業補償給付(休業給付)傷病補償年金(傷病年金)後遺障害逸失利益障害補償給付(障害給付)※7級以上は年金、8級以下は一時金将来介護費介護補償給付(介護給付)死亡逸失利益遺族補償給付(遺族給付)※扶養家族ありは年金、扶養家族無しは一時金葬儀費用葬祭料(葬祭給付)慰謝料なし注意損害費目の慰謝料に対応する労災保険給付はありません。特別支給金は、労働福祉事業の一環として支給されるため、損害額から控除されません。休業補償給付・休業給付、傷病補償年金・傷病年金、障害補償給付・障害給付は、「休業損害と後遺障害逸失利益の合計」が控除対象の損害費目です(最高裁判決・昭和62年7月10日)。国民年金・厚生年金と損害費目との対応関係年金の種類ごとに、控除できる損害費目の対応関係があります。国民年金損害費目国民年金給付後遺障害逸失利益障害基礎年金死亡逸失利益遺族基礎年金※障害基礎年金は、休業損害と後遺障害逸失利益の合計額から控除します。厚生年金損害費目厚生年金給付後遺障害逸失利益障害厚生年金死亡逸失利益遺族厚生年金※障害厚生年金は、休業損害と後遺障害逸失利益の合計額から控除します。具体的な計算例(労災保険給付との損益相殺的調整)公的保険給付との損益相殺的な調整について、具体的な計算例を見てみましょう。労災保険給付を損益相殺的調整するケースを考えます。損害労災保険給付積極損害治療費  100万円療養補償給付  100万円消極損害休業損害 100万円休業補償給付  60万円休業特別支給金 20万円精神的損害慰謝料  100万円なし被害者の過失割合が40%だったとします。加害者の過失割合は60%です。過失相殺がある場合、労災保険は先に過失相殺して、あとから損益相殺的調整をします。なお、特別支給金は損益相殺的調整の対象とはなりません。次のような計算になります。治療費100万円×0.6-100万円=△40万円(⇒ 損害賠償なし)休業損害100万円×0.6-60万円=0円(⇒ 損害賠償なし)慰謝料100万円×0.6-0=60万円(⇒ 60万円の損害賠償)損害賠償額は 60万円です。損害額と給付額をトータルで考えると間違い過失相殺後の損害額全体180万円(300万円×0.6)から、特別支給金を除く保険給付額160万円を控除して、損害賠償額を20万円と計算すると間違いです。社会保険給付には、慰謝料に対応する給付がありません。ですから、過失相殺によって慰謝料が減額することはありますが、公的保険給付との損益相殺的調整によって慰謝料が減額されることはありません。被害者の過失割合が大きい場合、社会保険給付との損益相殺的調整により、財産的損害に対する賠償額がゼロになることはありますが、その場合でも、慰謝料だけは残ります。まとめ公的保険給付との損益相殺的な調整は、損害と利益との間に同質性がある限りにおいて行われます。保険給付と同質性のない損害からは、控除することは認められません。損害と利益の同質性について、積極損害・消極損害・慰謝料を区分するという基本的な枠組みは最高裁で示されましたが、その中での費目間流用、細分化については、議論があります。裁判例をふまえ個別に判断する必要がありますから、具体的な事案については、弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『要約・交通事故判例140』学陽書房 84~87ページ・『民事交通事故訴訟の実務』ぎょうせい 236~239ページ・『交通事故損害賠償法・第2版』弘文堂 253~256ページ・『交通損害関係訴訟・補訂版』青林書院 103~104ページ・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規 285~287ページ・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 223~226ページ・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 205~206ページ
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  • 障害年金
    交通事故が原因の障害年金・遺族年金の損益相殺的調整と支給調整
    交通事故で、労災保険から障害補償給付・遺族補償給付を年金方式で受ける場合や、国民年金や厚生年金など公的年金から障害年金・遺族年金を受ける場合には、年金給付と損害賠償金との調整(損益相殺的調整・支給調整)が行われますここでは、労災保険や公的年金から給付される障害年金・遺族年金と損害賠償金との調整の仕方について、見ていきましょう。大きく分けて、2つのケースがあります。1つは、損害賠償よりも先に年金給付を受け、損益相殺的調整により損害額から年金給付額を控除する場合。もう1つは、損害賠償金が支払われ、年金の支給調整をする場合です。損益相殺的調整により控除される障害年金・遺族年金の範囲交通事故で、損害賠償よりも先に、労災保険や国民年金・厚生年金から障害年金や遺族年金の給付を受けたときは、損益相殺的な調整により、損害賠償額から年金給付額が控除されます。その際に、将来給付される年金を損害賠償金から控除するかどうかをめぐって争いになることがありましたが、いまは最高裁の判決(平成5年3月24日)により一応決着しています。最高裁判決によれば、障害年金や遺族年金のうち、すでに受給した分は、損害賠償額から控除されます。将来支給される年金(未支給の年金)については、支給が確定した分に限り、控除されます。「支給が確定した分」とは?「支給が確定した分」というのは、具体的に支給額が決定され、支払手続が行われる場合を指します。年金の受給権を取得していれば、将来分も支給が確定しているという考え方ではありません。現行制度では2ヵ月分ずつ支給されますから、支給が確定した分とは、その2ヵ月分です。口頭弁論終結時に支給が確定している金額とされています。なお、障害年金や遺族年金と損益相殺的調整がなされるのは、年金給付により填補される損害と同性質の損害に対する賠償額に限られます。つまり、損益相殺的調整の対象になるのは、損害賠償額のうち逸失利益や休業損害に相当する賠償額です。年金の将来給付分との損益相殺的調整についての最高裁判決最高裁判決(平成5年3月24日)について、詳しく見てみましょう。障害年金や遺族年金との損益相殺的調整について、最高裁は、次のような判断を示しています。最高裁大法廷判決(平成5年3月24日)不法行為と同一の原因によって、被害者またはその相続人が、第三者に対して損害と同質性を有する利益を内容とする債権を取得した場合は、当該債権が現実に履行されたとき、または、これと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるときに限り、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。退職年金の受給者が不法行為によって死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として遺族年金の受給権を取得したときは、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。この最高裁判決には、2つの重要なポイントがあります。利益が債権の場合の損益相殺的調整の一般的な基準1つは、損益相殺的調整の対象となる利益が、債権の場合の損益相殺的調整の仕方について、一般的な基準を示したことです。債権の場合は、「債権を取得した」というだけで、損益相殺的な調整をすることはできません。履行されない場合があり得るからです。最高裁は、被害者や相続人が取得した債権について損益相殺的調整ができるのは、「当該債権が現実に履行された場合、または、これと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということができる場合に限られる」との基準を示しました。最高裁は、次のように指摘しています。要旨をまとめておきます。損益相殺的調整は、被害者またはその相続人の受ける利益によって被害者に生じた損害が現実に補填されたということができる範囲に限られる。債権は、履行の不確実性を伴い、現実に履行されることが常に確実とはいえない。特に債権が将来にわたって継続的に履行されることを内容とし、その存続自体についても不確実性を伴う場合には、債権を取得しただけでは、被害者に生じた損害が現実に補填されたといえない。したがって、被害者またはその相続人が取得した債権につき、損益相殺的な調整が許されるのは、当該債権が現実に履行された場合、または、これと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということができる場合に限られる。控除される年金は、既支給分と支給確定分もう1つのポイントは、それまで2つに分かれていた判例を統一したことです。この判決が出るまでは、既支給分控除説を採る判例と、将来分控除説を採る判例に分かれていました。既支給分控除説既に支給を受けた分だけを控除すれば足り、将来分の控除は要しない。将来分控除説将来分も、現在の価額に換算して控除することを要する。※現在の価額に換算するとは、中間利息を控除することです。本判決は、すでに受領した分に加え、支給が確定している分までを控除する(確定分控除説)という第三の道が採られ、本判決と異なる従前の判例は変更となりました。一見すると、既支給分控除説より控除される額が多くなるので、被害者側にとって不利に見えますが、確定分というのは、せいぜい2ヵ月分です。本判決は、むしろ、将来支給される分まで控除できるとした将来分控除説を明確に否定した点で、大きな意義があります。判決は、遺族年金について、「支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で控除すべきものであるが、いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についてまで損害額から控除することを要しない」としました。実務における取扱い本判決は、地方公務員等共済組合法による遺族年金についてですが、他の公的年金でも、この考え方が踏襲されています。実務上は、国民年金・厚生年金や労災保険の遺族年金はもちろん、障害年金も、未確定の将来分については損害額から控除しない取扱いとなっています。損害賠償を受けると支給調整により一定期間は年金が支給されない損害賠償金が支払われたときは、その価額の限度で年金が控除(支給停止)されます。損害が二重に填補されるのを防ぐためです。逸失利益に相当する額の年金は支給されない年金給付の控除対象となるのは、取得した損害賠償金の全体でなく、逸失利益に相当する額だけです。医療費や葬儀費用など積極損害に対する賠償額、精神的損害に対する慰謝料額は、年金給付の控除対象ではありません。年金給付が填補する損害と同性質の損害は、逸失利益だからです。年金の支給停止期間には上限がある支給停止の期間には上限があります。支給停止期間の上限は、労災保険が7年、国民年金・厚生年金が3年です。取得した損害賠償額(逸失利益)の控除が完了したとき、または支給停止の上限期間を過ぎたときは、年金の支給が開始・再開されます。控除(支給停止)は、二重の填補を防ぐという趣旨からすると、支給停止限度期限を設けずに、二重の填補となる額の全額を控除するのが本来です。しかし、そもそも、労災保険は被災労働者の保護を目的とし、公的年金給付は被保険者等の生活保障を目的としています。二重の填補の全額が調整されるまで多年にわたり控除を行うことは、それぞれの制度趣旨に反することになるため、支給停止限度期限を設けているのです。支給停止期間は、従来、労災保険が3年(平成25年3月31日以前に発生した事故)、国民年金・厚生年金が2年(平成27年9月30日以前に発生した事故)を限度としていました。人身事故に対する民事損害賠償額が高額化しているため、年金支給停止解除後の二重補填額が多額に上ることを避けるための方策を検討するよう、会計検査院から指摘を受け、支給停止限度期間の見直しが行われました。労災保険給付と損害賠償金との調整被害者が、加害者側から損害賠償を受けたときは、その価額の限度で労災保険給付が控除されます(労災保険法12条の4第2項)。支給調整の具体的な方法は、「第三者行為災害事務取扱手引」で定められています。控除は、災害発生後7年以内に支給事由の生じた労災保険給付であって、災害発生後7年以内に支払うべきものを限度として行う、とされています。つまり、年金給付の控除(支給停止)は、災害発生後7年以内に支給事由の生じた年金給付が対象で、支給停止期間は、災害発生後7年が限度です。支給停止開始の時期年金の支給決定前に損害賠償金を受領した場合は、年金の支給事由発生日の属する月の翌月から支給停止となります。年金の支給開始後に損害賠償金を受領した場合は、損害賠償金を受領した日の属する支払期に支給すべき年金から停止となります。例えば、11月に損害賠償金を受領したとすると、12月支払期、すなわち10月分年金から支給停止となります。支給停止解除の時期支給停止が解除される月は、支給すべき年金額が受領した損害賠償金に達した日の属する月です。その期間は、災害発生後、満7年経過の日が限度です。障害補償年金(傷害年金)の支給調整障害等級が第1級から第7級に該当する場合には、後遺障害に係る損害賠償金額(逸失利益相当額)に達するまでの間、障害補償年金・障害年金の支給が停止されます。遺族補償年金(遺族年金)の支給調整遺族補償年金(遺族年金)の場合には、被害者の死亡に係る損害賠償金等の額(逸失利益相当額)に達するまでの間、遺族補償年金・遺族年金の支給が停止されます。国民年金・厚生年金による給付と損害賠償額との調整交通事故により国民年金法・厚生年金保険法にもとづく給付の受給権が発生した被害者やその遺族が、加害者側から損害賠償を受けたときは、その価額の限度で年金給付が控除されます(国民年金法22条2項、厚生年金保険法40条2項)。支給調整の具体的な方法は、「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いに関する事務処理要領」で定められています。損害賠償金の全額が支給調整の対象となるのでなく、受け取った損害賠償金のうち、年金と同性質の生活補償費相当額(逸失利益・休業損害)だけです。慰謝料、葬祭料、医療費、緊急経費、雑損失は除きます。すなわち、受けた損害賠償額のうち、生活補償費相当額の限度で、障害年金(障害厚生年金・障害基礎年金)や遺族年金(遺族厚生年金・遺族基礎年金・寡婦年金)の支給が停止されます。支給が停止される期間は、事故が発生した日の属する月の翌月より最大36ヵ月とされています。なお、障害年金は、基本的に事故発生日から1年6ヵ月後が障害認定日になるので、実質的な支給停止期間は、3年から1年6ヵ月を差し引き、最長1年6ヵ月となります。まとめ交通事故で、労災保険や国民年金・厚生年金などから障害年金・遺族年金の給付を受ける場合、損害賠償額との間で損益相殺的調整や支給調整が行われます。損害賠償を受けたときは、その価額を限度に、年金の支給が停止されます。ただし、支給停止期間には上限があり、労災保険は事故発生から7年、国民年金・厚生年金は3年が限度です。期限を過ぎて受給権があれば、年金給付を受けられます。損益相殺的調整の対象となる年金は、すでに給付された分と給付が確定した分です。障害年金や遺族年金の受給権を取得したことで、未確定の将来給付分まで控除されることはありません。具体事案によって、損益相殺的調整や支給調整の方法も金額も異なります。お困りのときは、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『交通損害関係訴訟・補訂版』青林書院 104~105ページ、214ページ・『要約 交通事故判例140』学陽書房 91~92ページ・『民事交通事故訴訟の実務』ぎょうせい 239~240ページ・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規 285ページ・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 199~200ページ・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 258~259ページ・『交通事故判例解説』第一法規 138~139ページ・『交通事故と保険の基礎知識』自由国民社 187ページ・「交通事故における社会保障制度をめぐる諸問題』神奈川県弁護士会 専門実務研究12号 84~91ページ・厚生労働省労働基準局「第三者行為災害事務取扱手引」平成30年4月 70~81ページ・厚生労働省年金局事業管理課長通知「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いについて」平成27年9月30日
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  • 遺族年金の損益相殺
    遺族年金の損益相殺的調整は受給権者の損害賠償額からのみ控除する
    遺族年金など遺族給付の損益相殺的調整は、遺族給付の法律上の受給権者の損害賠償債権額が対象です。ポイントは、遺族給付の法律上の受給権者であるかどうかです。受給権者でない遺族は、たとえ生計を同じくし遺族給付による利益を享受するとしても、相続した損害賠償債権額から遺族給付額を控除されません。最高裁判例をもとに、遺族年金など遺族給付を受けたときの損益相殺的調整について、誰の損害賠償債権額から遺族給付額を控除するのか、詳しく見ていきましょう。遺族年金の損益相殺的調整は、遺族年金の受給権者のみ対象交通事故で死亡した被害者の損害賠償債権を相続する人と、遺族年金の給付を受ける人(法律上の受給権者)が一致しない場合があります。例えば、被害者の損害賠償請求権の相続人が配偶者と子で、遺族年金の給付を受けるのが配偶者である場合です。損害賠償債権の相続人と遺族給付の受給権者が一致しない場合があるのは、「損害賠償債権の相続人の法定順位」と「遺族給付の受給権者の法定順位」が異なるからです。「損害賠償債権の相続人の法定順位」と「遺族給付の受給権者の法定順位」損害賠償債権の相続人の法定順位は、第1順位が子(子がいないときは孫)、第2順位は父母(父母がいないときは祖父母)、第3順位は兄弟姉妹(兄弟姉妹がいないときは甥・姪)で、配偶者は常に相続人となります。死亡した被害者の損害賠償債権を相続する「相続人の法定順位」の詳細はこちら一方、遺族給付の受給権者の法定順位は、例えば労災保険の遺族補償年金であれば、配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹の順序です(労災保険法16条の2第3項)。法定順位をまとめて比較すると、次のようになります。法定順位損害賠償債権の相続人遺族補償年金の受給権者第1順位配偶者と子(子がいないときは孫)配偶者第2順位配偶者と父母(父母がいないときは祖父母)子第3順位配偶者と兄弟姉妹(兄弟姉妹がいないときは甥・姪)父母第4順位孫第5順位祖父母第6順位兄弟姉妹※上位の順位者がいなければ、次順位者となります。例えば、第1順位の者がいなければ、第2順位の者となります。※配偶者は相続人の順位に関係なく、常に相続人となります。遺族給付額は、誰の損害賠償額から控除するのか遺族給付の損益相殺では、法定受給権者の損害賠償債権額の範囲で控除するのか、それとも、遺族給付により利益を受ける遺族各人について、それぞれ損害賠償債権額から享受する利益に応じて控除するのか、が問題になります。すなわち、損害賠償債権額から遺族給付を控除するのは、法律上の受給権者だけなのか、遺族給付により利益を受ける遺族全員か、ということです。これについて最高裁判決は、遺族給付の受給権を有する遺族の損害賠償債権額からだけ控除すべきであり、他の遺族の損害賠償債権額から控除することはできないとする判断を示しています(昭和50年10月24日)。和解の場合は異なることもある判決の場合は、最高裁判例にもとづき、遺族給付は受給権者の損害からだけ控除することで実務上は決着済みです。ただし、和解の場合は、総損害額から遺族給付額を控除した額を加害者側が遺族側に支払うことで和解を成立させ、遺族側の配分は遺族内部で処理してもらうとするケースもあるようです。(『実務精選100 交通事故判例解説』第一法規 137ページ)遺族給付控除の人的範囲についての最高裁判決控除の人的範囲(主観的範囲ともいわれます)について判示した最高裁判決(昭和50年10月24日)について、詳しく見てみましょう。国家公務員が、職務中に交通事故で死亡した事案です。死亡した被害者の損害賠償債権を相続したのは妻と子で、遺族には遺族給付(退職手当、遺族年金、遺族補償金)が支給されました。遺族給付の受給権者は妻です。裁判では、死亡した公務員の損害賠償債権を相続した妻や子の賠償請求額から遺族給付金を控除すべきか否か、遺族給付の受給権のない者の損害賠償債権額から給付相当額を控除できるか否か、が争われました。最高裁は、次のような判断を示しました。遺族給付は、死亡した被害者の逸失利益と同一同質といえるので、損害賠償債権額の算定にあたり、遺族給付相当額を控除すべきである。控除は、法定順位による受給権者の分からのみ行い、他の遺族からは控除できない。理由を含めて、判決内容を見ていきましょう。遺族給付は死亡逸失利益と同一同質なので損益相殺により控除する遺族に支給される各給付金は、公務員の生存中に給与等の収入によって生計を維持していた遺族が、公務員が死亡したことによって、受けることができた利益を失うに至ったことに対する損失補償・生活保障を目的とし、その機能を果たしています。つまり、遺族給付を受けることによる利益は、公務員の生存中に給与等の収入によって受ける利益(死亡した被害者の逸失利益)と「実質的に同一同質のもの」です。したがって、損害賠償債権額の算定にあたり、遺族給付金相当額を控除しなければならないというわけです。受給権者でない遺族の受ける利益は法律で保障された利益でない各遺族給付金の受給権者は、それぞれの法律で、受給資格がある遺族のうちの所定の順位にある者と定められています。本事案では、死亡した国家公務員の妻と子が遺族なので、各給付の受給権者は、法律上、妻のみです。したがって、損害賠償債権額の算定をするにあたって、遺族給付相当額は、妻の損害賠償債権からだけ控除すべきであり、子の損害賠償債権額から控除することはできない、との判断を示しました。受給権者でない遺族(子)は、受給権者(妻)から各給付の利益を享受するとしても、それは法律上保障された利益ではないため、受給権者でない遺族の損害賠償債権額から享受する利益を控除することはできない、というのが最高裁の判断です。(最高裁判決・昭和50年10月24日)まとめ遺族年金など遺族給付の損益相殺的調整は、支給が確定している金額の範囲で、現実に支給を受ける人(法律上の受給権者)との関係でのみ、損益相殺的調整がなされます。遺族給付の受給権者以外は、給付による利益を享受しているとしても、法律により保障された利益ではないので、受給権者でない遺族の損害賠償請求権の金額から遺族給付額を控除することはできません。具体的には、個別事情を考慮して対応が必要ですから、交通事故の損害賠償問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『実務精選100 交通事故判例解説』第一法規 136~137ページ・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 206ページ・『交通事故の法律知識 第3版』自由国民社 341~342ページ・『要約 交通事故判例140』学陽書房 89~90ページ・『民事交通事故訴訟の実務』ぎょうせい 239ページ・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規 285ページ・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 105ページ・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 261ページ
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  • 過失相殺と損益相殺の順序
    損益相殺・過失相殺どっちが先か?順序で交通事故の損害賠償額が違う
    損益相殺による控除と過失相殺による減額の両方が適用されるときは、どちらを先に行うかによって、取得できる損害賠償金額が変わります。損益相殺が先か、過失相殺が先かは、損益相殺の対象となる給付金の性質によって決まります。損益相殺と過失相殺の順序について、基本的な考え方、各給付ごとの実務上の取扱いについて見ていきましょう。損益相殺と過失相殺のどちらを先にするのが被害者に有利か?「損益相殺と過失相殺の順序がどう決まるか」の前に、被害者にとっては、どちらを先に行うのが有利か、見ておきましょう。結論から言えば、被害者にとっては、先に損益相殺(給付額を控除)した後で、過失相殺する方が、受領できる損害賠償額が多くなるので有利です。逆に、加害者にとっては、過失相殺後に控除する方が、賠償額が少なくなるので有利です。被害者にとっては、過失相殺前控除(損益相殺を先行)が有利。加害者にとっては、過失相殺後控除(過失相殺を先行)が有利。損益相殺と過失相殺の順序が違うだけで、損害賠償額に差が出ます。損害額の算定にあたって、損益相殺と過失相殺のどちらを先に行うか、被害者と加害者とで利害が真っ向から対立するのです。具体的な事例で計算してみると…例えば、次のようなケースを考えてみください。【事例】総損害額1,000万円、被害者の過失割合が30%。加害者からの損害賠償と別に、200万円の金銭給付を受けた。過失相殺の前に控除すると…先に給付額を控除(損益相殺)し、後から過失相殺すると、損益相殺後の損害額1,000万円 - 200万円 = 800万円過失相殺後の損害額800万円 ×(1-30%)= 560万円被害者が損害賠償請求できる額は560万円です。すでに受領している200万円を合わせると、1,000万円の損害のうち760万円の損害が填補されることになります。過失相殺の後で控除すると…先に過失相殺し、後から給付額を控除(損益相殺)すると、過失相殺後の損害額1,000万円 ×(1-30%)= 700万円損益相殺後の損害額700万円 - 200万円 = 500万円被害者が損害賠償請求できる額は500万円です。すでに受領している200万円を合わせると、1,000万円の損害のうち、ちょうど被害者の過失30%分を除いた700万円の損害が填補されることになります。被害者の過失割合が大きいほど差が大きくなる被害者の過失割合が大きいほど、損益相殺と過失相殺の順序の違いによる損害賠償額の差が大きくなります。被害者の過失割合が70%(過失相殺率70%)の場合で考えてみましょう。過失相殺前控除だと、(1,000万円-200万円)×(1-70%)= 240万円過失相殺後控除だと、1,000万円 ×(1-70%)- 200万円 = 100万円過失相殺率が30%の場合は60万円の差ですが、過失相殺率が70%だと140万円の差となります。「過失相殺後控除」と「過失相殺前控除」の違い過失相殺後に控除すると、被害者が受領できる額(給付額と賠償金手取額の合計)は、結果的に、加害者が賠償すべき損害額(過失相殺後の額)と一致します。当然の結果なのですが、計算式で確認しておきましょう。(過失相殺後の額)-(給付額)=(賠償金手取額)給付額を移行すると、(過失相殺後の額)=(給付額)+(賠償金手取額)相手方自賠責保険からの支払いが、このタイプです。一方、過失相殺前に控除すると、被害者は、本来の損害賠償額(過失相殺後の賠償金額)を上回る額を取得することができます。つまり、損害賠償だけ受けるより、別途給付を受けた方が、受領した給付額を差し引いたとしても、最終的に取得できる損害賠償額が多くなるのです。これは、給付者が、被害者の過失割合部分の損害を一部填補していることを意味します。健康保険からの給付が、このタイプです。被害者の過失割合が大きい場合には健康保険を利用した方が有利といわれるのは、こういった事情があるからなのです。損益相殺と過失相殺の順序が確定していない給付の場合社会保険給付によっては、過失相殺後に控除するか、過失相殺の前に控除するか、裁判例でも見解が分かれているものがあります。例えば、公的年金給付です。そういう給付については、被害者に有利な「過失相殺前控除」を主張することが大切です。交通事故の損害賠償問題に詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。ここに挙げているのは、損害額の算定にあたって控除(損益相殺)する給付です。金銭給付を受けても、損害賠償請求額から控除しない給付もあります。損益相殺する給付・損益相殺しない給付の区別はこちらをご覧ください。損益相殺と過失相殺の順序についての基本的な考え方損益相殺による控除が先か、過失相殺による減額が先か、損益相殺と過失相殺の順序は、給付の目的や給付金の性質により判断します。一般的には、加害者からの弁済や自賠責保険からの損害賠償額の支払いなど、損害の填補として行われる給付は過失相殺後控除とされます。社会保険給付については、その給付の性質(損害填補か社会保障か)を考慮して判断し、社会保障的性格の強い給付は過失相殺前控除とされます。ですが、次のように考えると判断しやすくなります。損害の填補を目的とする制度には、①損害の補償(損害自体の填補)を主目的とする制度と、②損害の賠償を主目的とする制度の2種類があることに着目し、この2つを区別して考えるのです。損害の補償を目的とする制度被害者側の過失の有無を基本的に問題とせず、被害者に損害が発生したことを要件として損害を補償する制度です。損害の補償を目的とした制度なので、給付により損害自体が填補されたと解され、「過失相殺する前の損害」が控除の対象となります。過失相殺前控除(控除が先行)です。社会保障制度や損害保険が該当します。損害の賠償を目的とする制度賠償者の責任を前提とし、被害者側に過失があれば過失相殺した上で賠償する制度です。損害の賠償を目的とした制度なので、本来賠償されるべき「過失相殺後の損害」が控除の対象となります。過失相殺後控除(過失相殺が先行)です。責任保険やそれに関連する制度が該当します。損害の填補の2つに分類する考え方については、大阪地方裁判所判事補・水野有子「損害賠償における第三者からの給付を原因とする控除-特に損益相殺と代位との関係-」判例タイムズ№865(1995・3・1)14ページを参考にしました。以下、主な金銭給付について、個別に見ていきましょう。トラブルになりやすく、注意が必要なのは、社会保険給付の取扱いです。加害者側からの弁済は、過失相殺後に控除加害者からの弁済や、自賠責保険からの損害賠償額の支払い(自賠法16条にもとづく被害者請求)は、損害の填補(損害の賠償)です。したがって、まず過失相殺をして、加害者が賠償すべき損害額を確定した後で、受領した額を控除します。労災保険からの給付は、過失相殺後に控除労災保険給付は、最高裁判決(平成元年4月11日)により、過失相殺後控除の取扱いが確定しています。つまり、労災保険給付は、まず過失相殺をして加害者が賠償すべき損害額を確定し、過失相殺後の額から労災保険給付額を控除します。最高裁判決(平成元年4月11日)労働者がいわゆる第三者行為災害により被害を受け、第三者がその損害につき賠償責任を負う場合において、賠償額の算定に当たり労働者の過失を斟酌すべきときは、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から労働者災害補償保険法に基づく保険給付の価額を控除するのが相当である。過失相殺後に控除する理由について、最高裁判決では次のように述べています。労災保険法12条の4は、第1項で、政府が先に保険給付したときは、損害賠償請求権が給付の価額の限度で国に移転し、第2項で、第三者が先に損害賠償したときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができると定め、被害者に対する「第三者の損害賠償義務」と「政府の保険給付義務」とが相互補完の関係にあり、同一の事由による損害の二重填補を認めない趣旨を明らかにしている。政府が保険給付をしたとき、被害者の損害賠償請求権は、給付の価額の限度において国に移転し減縮する。損害賠償額を定めるにあたり被害者の過失を斟酌すべき場合には、被害者は過失相殺した額の損害賠償請求権を有するに過ぎない。労災保険法12条の4第1項により国に移転する損害賠償請求権も、過失相殺後の額を意味すると解するのが文理上自然である。そもそも被害者が損害賠償請求できるのは過失相殺後の残額の部分ですから、政府が代位する損害賠償請求権も、過失相殺後の残額部分しかありえないという論理です。したがって、被害者には、過失相殺後の損害賠償請求権額から、代位額(給付額)を控除した損害賠償請求権額のみが残るというわけです。労災保険法12条の41.政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。2.前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。同様の趣旨から、国家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法にもとづく給付についても、過失相殺が先行するとされています。最高裁判決には、過失相殺前控除の立場からの反対意見も付されています。その根拠として、労災保険給付が使用者の故意・過失を要件とせず、事故が労働者の過失によるときであっても保険給付が行われ、労働者の損害を補償する社会保障的性格をも有していることを挙げています。健康保険・国民健康保険からの給付は、控除後に過失相殺健康保険や国民健康保険からの給付と過失相殺がある場合、健康保険給付額を控除した後で過失相殺をするのが実務上の取扱いです。過失相殺前に控除するということは、健康保険から支払われた診療費(保険給付額)は、被害者の損害として考慮しないというのと同じです。保険者(健康保険組合や市町村など)による求償実務においても、過失相殺後の金額を求償する取扱いです。これは、「過失相殺前控除という実務上の取扱いを行政側が是認したもの」と解されています。厚生省(当時)と社会保険庁の通知で、「代位取得した損害賠償請求額を被害者の過失割合に応じて減額し算定して差し支えない」としています。昭和49年1月28日 厚生省保険発10号・社会保険庁保険発1号昭和54年4月2日 厚生省保険発24号・社会保険庁保険発6号※厚生労働省のWebサイトにリンクしています。ちなみに、労災保険は、加害者へ求償する際、被害者の過失相殺を考慮しません。「代位取得するのは、過失相殺後の請求額しかあり得ない」という論理からです。具体的に考えると…具体的に考えてみましょう。計算を簡単にするため、被害者の損害を治療費のみとし、逸失利益や慰謝料は考慮しません。【事例】健康保険を使って治療費は総額100万円。本人負担は3割の30万円で、あとの70万円は健康保険からの給付です。被害者の過失割合が50%だったとします。健康保険給付は「過失相殺前控除」が実務上の取扱いです。まず、健康保険給付の70万円を損害から控除します。残り30万円について50%の過失相殺をすると、加害者に賠償請求する損害額は、15万円となります。「保険給付額を控除した後で過失相殺する」ということは、最初から保険給付額を損害として考慮しないのと同じことです。ちなみに「過失相殺後控除」で計算すると、100万円の損害に対して50%過失相殺し、残額50万円から保険給付額70万円を控除するので、マイナス20万円です。つまり、加害者に賠償請求できる損害はない、ということになります。被害者に発生した総損害額100万円は、次のように填補されます。保険者(健康保険組合)が、7割の70万円を給付します。保険者は、給付額を限度に加害者に対する求償権を代位取得しますが、被害者(被保険者)に50%の過失相殺があるため、保険者が加害者に求償できる額は35万円です。求償できない35万円は、保険者の負担となります。加害者の支払う額は、被害者への15万円と保険者への35万円を合わせて50万円です。これは、そもそも加害者が被害者に対して賠償責任を負う過失相殺後の損害額の50万円と一致します。被害者は、実質的な損害30万円については、50%過失相殺をした15万円が加害者からの賠償により填補され、健康保険給付により70万円が填補されます。すなわち、100万円の損害のうち、85万円が填補されることになります。これを最終的な負担で見ると、加害者が50万円(被害者に15万円、保険者に35万円)を損害賠償によって填補し、保険者が35万円を填補したことになります。なぜ、健康保険と労災保険とで順序が違うのか?労災保険給付について「過失相殺後控除」とした最高裁判決では、その根拠に労災保険法の代位規定(労災保険法12条の4)を挙げています。健康保険法や国民健康保険法にも同様の代位規定(健康保険法57条、国民健康保険法64条)があり、最高裁判決の論理に従えば、健康保険や国民健康保険からの給付も、労災保険給付と同じように、過失相殺後控除の取扱いとなります。ところが、この最高裁判決後も、健康保険や国民健康保険からの療養給付については、従前と変わらず過失相殺前控除(控除が先)で運用されています。療養給付だけでなく、高額療養費や傷病手当金なども、たいてい、過失相殺前控除で実務上は処理されています。その理由は、健康保険や国民健康保険など公的医療保険は、社会保障的な性格が強く、制度自体が補償を目的とし、被害者みずから保険料を負担しているから、とされています。健康保険給付は過失相殺前控除が相当とする理由について、名古屋地裁判決では、次のように説明しています。名古屋地裁判決(平成15年3月24日)健康保険法による健康保険給付は、被害者の過失を重視することなく、社会保障の一環として支払われるべきものであることに鑑みれば、過失相殺の負担は保険者等に帰せしめるのが妥当であるから、健康保険法による傷病手当金及び高額療養費の各給付は、過失相殺前にこれを損害から控除すべきである。国民健康保険からの葬祭費と政府保障事業の填補金との調整国民健康保険からの給付額について、過失相殺後控除が相当とした最高裁判例があります。国民健康保険法(第58条1項)にもとづく葬祭費の給付額について、政府保障事業による填補金の算定にあたり、「葬祭費の支給額を控除すべきときは、損害の額から過失割合による減額をし、その残額からこれを控除する」としました。(⇒最高裁判決・平成17年6月2日)ただし、この最高裁判例は、政府保障事業による損害の填補と他法令にもとづく給付との調整に限ったもので、その判断の射程は、損害賠償請求一般には及ばないと考えられています。そもそも政府保障事業は、自賠責保険からの損害賠償すら受けられない被害者に対し、他法令にもとづく給付を受けてもなお損害を回復できないときに、国が損害を填補する制度で、「給付の最終性・最小性」を特徴としています。自賠法(自動車損害賠償保障法)では、被害者が、他法令にもとづいて損害の填補に相当する給付を受けるべき場合には、その給付に相当する金額の限度において、損害の填補をしない(第73条1項)と規定しており、判決では、この条項を根拠に挙げて、過失相殺後控除が相当としているのです。【参考】・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 107ページ・『実務精選100 交通事故判例解説』第一法規 144~145ページ国民年金・厚生年金・共済年金は、統一されていない過失相殺後に控除するという見解と、過失相殺前に控除するという見解に分かれていて、裁判例も統一されていません。遺族年金との損益相殺的調整について判示した最高裁判決(平成5年3月24日)が、特段の理由を付さず、遺族年金について過失相殺後控除とした原審の判断を維持したこともあり、障害年金・遺族年金について過失相殺後に控除する裁判例が多く見られます。他方で、公的年金は、障害を負ったとか死亡したという事実があれば、受給資格がある限り、その原因を問わず給付を受けられます。自らの過失が原因であったとしても、減額されることなく支払われ、損害が補償されます。しかも、被保険者が保険料を拠出したことにもとづく給付としての性格を有していることから、その性質は健康保険に近いものと考えられ、過失相殺前に控除するのが相当とする裁判例も少なくありません。「赤い本」(日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準』)では、過失相殺前控除としています。被害者側としては、受領できる金額が大きくなる過失相殺前控除を主張すべきです。人身傷害補償保険金は、まず被害者の過失割合部分に充当被害者が人身傷害補償保険金を受領した後で、過失相殺のある損害賠償請求をする場合、人身傷害補償保険金を控除する計算方法は、最高裁判例(平成24年2月20日)により確定しています。控除の方法は、他の金銭給付の損益相殺や損益相殺的調整と異なりますから、注意が必要です。人身傷害補償保険金は、損害額のうち、①まず被害者の過失割合に相当する部分に充当し、②残額を加害者の過失割合に相当する部分に充当します。つまり、過失相殺後の額から②の額を控除した額が、加害者に対して賠償請求できる損害額です。このとき、人身傷害補償保険金を支払った保険会社は、②の額を被害者に代わって加害者に求償できる額として代位します(⇒裁判基準差額説)。人身傷害補償保険は、被害者の過失割合に関係なく損害を全額補償する保険ですが、損害算定基準(人傷基準)が裁判所基準より低いため、受領できる保険金は、民事上認められる損害額よりも低くなります。具体例で考えてみましょう。損害額が1,000万円。被害者の過失割合が30%、800万円の人身傷害補償保険金を受領したとします。損害額1,000万円のうち、被害者の過失割合に相当する部分が300万円、過失相殺後の損害額が700万円です。人身傷害補償保険金800万円のうち、300万円を被害者の過失部分に充当し、残り500万円を過失相殺後の損害額700万円に充当すると、加害者に賠償請求できる損害額は200万円です。このとき、保険会社は500万円の求償権を代位取得するため、過失相殺後の損害額700万円から、保険会社が代位する500万円を控除して、加害者に200万円の損害賠償請求ができるということです。過失相殺があるとき、人傷保険金と損害賠償金のどちらを先に請求すると有利か?まとめ損害賠償額を決定するにあたって、損益相殺と過失相殺がされる場合、どちらを先に行うかによって、受け取れる賠償金額が違ってきます。加害者からの弁済や自賠責保険からの損害賠償額の支払いについては、過失相殺後の金額から弁済額を控除することで問題ありません。しかし、社会保険給付に関しては、過失相殺後控除か過失相殺前控除か、見解が分かれる場合があります。被害者にとっては、過失相殺前に控除する方が賠償額が多くなるので有利です。労災保険給付については過失相殺後控除とする最高裁判例がありますが、その他の健康保険給付や公的年金給付などについては、過失相殺後控除か過失相殺前控除か、最高裁は判断を示していません。ここで紹介したのは、あくまでも基本的な考え方と一般的な傾向です。具体的な事案には、個別の判断と対応が必要ですから、交通事故の損害賠償問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・裁判実務シリーズ9『交通関係訴訟の実務』商事法務 356~357ページ・リーガル・プログレッシブ・シリーズ5『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 105~108ページ・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 262~266ページ・弁護士研修講座『民事交通事故訴訟の実務』ぎょうせい 234~236ページ・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規 287~288ページ・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 203~204ページ・『要約 交通事故判例140』学陽書房 82~83ページ・『実務精選100 交通事故判例解説』第一法規 142~145ページ・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 233~238ページ・別冊Jurist№233『交通事故判例百選 第5版』有意閣 166~167ページ・別冊ジュリスト№152『交通事故判例百選 第4版』有意閣 158~159ページ・大阪地方裁判所判事補・水野有子「損害賠償における第三者からの給付を原因とする控除」判例タイムズ№865・東京地方裁判所判事・高取真理子「公的年金による損益相殺」判例タイムズ№1183・「交通事故における社会保障制度をめぐる諸問題」神奈川県弁護士会・専門実務研究12号・新版『逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 221~231ページ・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 230~234ページ・『交通事故損害賠償の手引』企業開発センター 77~80ページ
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