被害者が子ともの場合の過失相殺

子どもの飛び出し事故

子どもが道路に飛び出して交通事故の被害に遭ったときでも、「飛び出し」を被害者の過失として過失相殺されることがあります。ただし、小さな子ども(幼児)の場合は、過失相殺が否定されることもあります。

 

被害者が子どもの場合、過失相殺するかしないかの判断の分かれ目は、被害者である子どもに「事理弁識能力(過失相殺能力)」があるかどうかです。

 

つまり、過失相殺が問題となる場合、被害者である子どもに事理弁識能力が備わっていると判断されると過失相殺され、事理弁識能力が備わっていないと判断されたときは過失相殺が否定されます。

 

なお、被害者である子どもに事理弁識能力がないとして過失相殺が否定された場合、親に監督上の過失があったとして過失相殺されることがあります。

 

目次
  1. 被害者に事理弁識能力があれば過失相殺される
  2. 事理弁識能力も不要とする判決もある
  3. 幼児についての道路交通法の規定
  4. まとめ

 

 

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被害者に事理弁識能力があれば過失相殺される

まず「過失相殺とは何か」について、簡単に見ておきましょう。

 

過失(注意義務違反)によって相手に損害を与えたとき、加害者は、被害者が被った損害を賠償する責任を負います。ただし、被害者にも過失(落ち度)があった場合には、被害者の過失割合分については、加害者に損害賠償請求できません。これが過失相殺です。

 

つまり、過失相殺とは、被害者に発生した損害について、加害者と被害者との間で公平に分担するための制度です。

 

加害者の過失と、過失相殺における被害者の過失は概念が異なります。「加害者の過失」と「被害者の過失」の違いについてはこちらをご覧ください。

 

子どもに過失相殺するときの最高裁の判例

被害者が小さな子どもの場合、危険性についての判断能力が十分ではありません。にもかかわらず、大人と同じように過失相殺できるのか、という問題があります。

 

一方で、突然の飛び出しなどは、運転者が通常の注意義務をもって運転していたとしても避けようがない場合もあります。そういった場合にも、被害者の損害を加害者に全額賠償させるのは、損害の公平な分担という過失相殺の理念に照らし、やはり公平性を欠きます。

 

この点について最高裁は、不法行為責任を負わせるまでの責任能力は不要で、事理弁識能力が備わっていれば足りるとする判断を示しています(昭和39年6月24日)

 

  • 不法行為責任とは、民法709条で定めている「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」というものです。
  • 責任能力とは、過失など自分の不法行為の結果、法的責任が発生する(損害賠償責任が生じる)ことを認識できる能力をいいます。「不法行為責任能力」とも呼ばれます。
  • 事理弁識能力とは、物事の良し悪しを判断できる能力のことです。例えば、飛び出しは危険ということを理解できる能力をいいます。法的責任の認識までは必要はありません。過失相殺を可能とする能力なので「過失相殺能力」とも呼ばれます。

 

ですから、過失相殺が問題となる事故では、被害者である子どもに事理弁識能力が備わっていると判断されると過失相殺が肯定され、事理弁識能力が備わっていないと判断されると過失相殺は否定されることになります。

 

事理弁識能力が備わるのは何歳くらい?

最高裁は具体的に年齢の基準を示していませんが、その後の下級審の裁判例によると、事理弁識能力が備わる年齢は、だいたい5~6歳と判断するものが多いようです。

 

家庭や幼稚園などでの交通ルール教育から、事理弁識能力は、幼稚園の年長くらいで備わると考えられています。

 

子どもの過失相殺率は減算修正される

「被害者に事理弁識能力が備わっていれば過失相殺される」といっても、大人と同じ過失相殺率が適用されるわけではありません。

 

「過失相殺率の認定基準」(別冊判例タイムズ38)では、「判断能力や行動能力が低い者については、特に保護する要請が高い」ことから、過失相殺率を減算修正しています。

 

実際の事故態様によって修正率は変わりますが、基本の過失相殺率から、児童5%、幼児10%減算修正するケースや、児童10%、幼児20%減算修正するケースなどがあります。

 

ですから、過失相殺率の認定基準上は、基本の過失相殺率が10%、修正率がマイナス10%の場合は、過失相殺率がゼロというケースもあり得ます。

 

「過失相殺率認定基準」が全ての事故を網羅できるわけではありませんから、基準を参考に個別事情を考慮して判断することが大切です。

 

過失相殺率の判断には専門的な知識が必要ですので、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

子どもの過失が否定されても、親の過失として過失相殺もある

事理弁識能力のない幼児が被害者になった場合、被害者本人の過失による過失相殺は行われませんが、代わりに、親の監督責任が問われ、親の過失として過失相殺されることがあります。

 

これは「被害者側の過失」という考え方です。被害者と一定の関係にある者の過失を考慮して過失相殺するものです。

 

なお、監督義務違反の過失は、子どもの監督という漠然としたもので、しかも広範囲の責任を課せられているという関係もあり、過失相殺率は最高30%程度といわれています。
(参考:『交通事故の法律知識・第3版』自由国民社)

 

母親が2歳の幼児を連れて買い物をした後、荷物を車に積み込む間、幼児から目を離し、幼児が駐車場で自動車にひかれて死亡した事故について、母親にも幼児の動静に注意しておく義務があったのに、これを怠った過失があるとして、1割の過失相殺を認めた事例。

 

(福岡地裁・平成27年5月19日)

「事理弁識能力も不要」とする判例もある

子どもが被害者の場合の過失相殺については、最高裁判例(昭和39年6月24日)に則り、「過失相殺を適用するには、被害者に事理弁識能力が必要で、それがないときには、被害者側の過失が認められるか否かを考慮する」という考え方が主流です。

 

ただし、被害者に「事理弁識能力すら不要」とする下級審の判決も出ています。

 

東京地裁(昭和44年10月22日)

事理弁識能力のない者の行為であっても、右行為が事故の発生に有因的に作用している場合には、被害者の賠償額を算定するにあたって、それを斟酌しうるものと解釈すべきである。

 

(判例タイムズ№242より)

 

大阪地裁(昭和47年1月27日)

過失相殺は加害者の違法性ないし非難可能性を斟酌する制度で公平な観念に基く賠償額の決定を目的とするものであるから、被害者の責任能力や弁識能力に関係なく、その外観上の行動を損害の公平な負担に反映させることが必要であり、かつこれをもって足り、原告に事理弁識能力があったか否かについて検討するまでもなく過失相殺することができる。

 

(判例タイムズ№275より)

 

これは、「過失相殺は、損害の公平な分担という見地から妥当な損害額を定めるための調節的機能を有する制度」(東京地裁判決・昭和44年10月22日)という面を強調し、事理弁識能力の有無にかかわらず、例えば「飛び出し」という被害者の行為自体を問題として、過失相殺するのが公平か否かを考えるべきとするものです。

 

損害の公平な分担ということからすれば、「事理弁識能力も不要」という考え方もあり得るでしょう。

 

しかし、道路交通法で「幼児の保護」(道路交通法第14条3項)を定めているように、幼児の要保護性を考えると、事理弁識能力すら不要とするのは、行き過ぎに思われます。

 

「事理弁識能力すらない幼児の事情と、十分な判断能力を備えた成人の事情とを、損害賠償減額の理由として全く同一に扱うことは、一般人の公平感に反する」「事理弁識能力程度は被害者に要求すべき」という意見もあります。

 

(改訂版『交通事故実務マニュアル』東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会編集)

 

「事理弁識能力は関係ない」と過失相殺を迫られることもあり得ますから、納得できない場合は、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談しましょう。

幼児についての道路交通法の規定

参考までに、幼児に関する道路交通法の規定を紹介しておきます。これをふまえると、幼児が被害者になった場合の過失相殺の考え方が理解しやすいでしょう。

 

道路交通法における幼児の定義

道路交通法においては、幼児は「6歳未満の者」、児童は「6歳以上13歳未満の者」と定めています(道路交通法14条3項)

 

ちなみに、児童福祉法では、幼児は「満1歳から小学校就学の始期に達するまでの者」と定めています(児童福祉法4条1項2号)。「幼児」といえば、こちらのイメージが一般的でしょう。

 

保護責任者の責任

幼児・児童を保護する責任のある者は、交通の頻繁な道路や踏切、その付近の道路で幼児・児童を遊ばせたり、自ら若しくはこれに代わる監護者が付き添わないで幼児を歩行させてはならない、と定めています(道路交通法14条3項)

 

運転者の責任

車両等の運転者は、監護者が付き添わない幼児・児童が歩行しているときは、一時停止し、または徐行して、その通行や歩行を妨げないようにしなければならない、と定めています(道路交通法71条2号)

まとめ

小さな子ども(幼児)が被害者の場合、過失相殺にあたっては、被害者である幼児の事理弁識能力の有無が問題となります。

 

幼児に事理弁識能力があると判断されると過失相殺されますが、事理弁識能力がないと判断されると過失相殺が否定されます。幼児に事理弁識能力がない場合は、親の監督上の過失が「被害者側の過失」として過失相殺されることがあります。

 

過失相殺は、損害賠償額を決める上で、大きく影響します。過失相殺・過失割合に納得できないときは、交通事故の損害賠償問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

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過失割合に納得できない

 

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