ADRのメリットと限界
Point
- ADR(裁判外紛争解決)機関は、裁判と比べて手軽に利用できるメリットがありますが、対応できる事案が制限されるので、その点を理解したうえで利用することが大切です。
ADR(裁判外紛争解決手続)は、中立・公正な専門的知識を有する第三者が、被害者と加害者の双方の意見を聞いた上で、示談案を提示したりして、紛争を解決する手続きです。
専門的な知識を有する第三者の判断を聞くことで、双方が自分の主張が正しいのか、裁判で認められる可能性があるのか、を判断することができることもあり、紛争を解決できる可能性が高くなります。
ADRのメリット
ADR(裁判外紛争解決手続)は、裁判に比べて手続きが簡便で解決までの期間が短い、被害者本人でも申立て可能、多くは無料で利用できる、といったメリットがあります。
なかでも「交通事故紛争処理センター」と「日弁連交通事故相談センター」は、交通事故事件に精通した弁護士が相談を受け、示談の斡旋を行うため、適切な解決が期待できます。
しかも、示談の斡旋が不調の場合でも、次の段階の審査を申し立てることができます。損保や共済は審査結果(裁定)に従う義務があり、被害者側が裁定に同意すれば、その内容で示談が成立します。
この点が、「交通事故紛争処理センター」や「日弁連交通事故相談センター」の強みです。
もちろん、被害者側は裁定に拘束されませんから、その裁定に不服であれば、訴訟を提起することができます。
「交通事故紛争処理センター」は主に損保会社に対して、「日弁連交通事故相談センター」は共済に対して、それぞれ片面的拘束力を有します。
片面的拘束力とは、一方のみに拘束力を有すること、つまり紛争処理結果は、被害者に対する拘束力はありませんが、損保や共済に対しては拘束力を持つということです。
自賠責保険普通保険約款19条2項
当会社は、指定紛争処理機関による紛争処理が行われた場合、その調停を遵守します。
加害者が任意保険・任意共済に加入している場合は、実効性が確保されますから、利用するメリットは大きいと言えるでしょう。
ADRの限界
デメリットというものではありませんが、ADR機関を利用する際には、限界があることも知っておく必要があります。
それは、対象となる紛争が限定されていることです。ADRは、基本的に数回程度の期日で紛争解決することを予定しているため、事案が解決に熟していない段階では利用できません。賠償責任など事実関係に争いがある紛争には適しません。
また、訴訟の提起と異なり、ADR機関への申立てに時効中断効力はありません。
ADRは対象となる紛争が限定されている
よく利用される「交通事故紛争処理センター」と「日弁連交通事故相談センター」を例に見てみましょう。
これらのADR機関は、相手の賠償責任の有無や過失割合、後遺障害等級について争いがなく、示談金額をいくらとするかで話がまとまらないケースが対象となります。
逆にいうと、賠償責任や過失割合、後遺障害等級などについて争いがある場合は、利用に適さないということです。紛争処理を持ち込んでも解決できないので、そもそも受け付けてもらえません。
賠償責任の有無や過失割合、後遺障害等級の争いは、自賠責の判断に関わることなので、「自賠責保険・共済紛争処理機構」に持ち込んで、解決する必要があります。そういった紛争をクリアした上で、なお示談金額で争いがある場合に、「交通事故紛争処理センター」や「日弁連交通事故相談センター」へ持ち込むことになります。
また、審査手続に移行した場合に片面的拘束力により実効性を確保するため、原則的に、相手が各ADR機関と協定している損保や共済であること、示談代行付き自動車保険・共済に加入していることが必要です。
加害者が示談代行付き任意保険・任意共済に加入していない場合でも、相手がADRの利用に同意すれば示談斡旋は可能ですが、審査を申し立てることはできず、実効性は確保されません。示談斡旋が不調に終われば、訴訟を提起することになります。
ADRへの申立てに時効中断効力はない
裁判所へ損害賠償請求訴訟を提起すると時効中断効果が発生するのと違い、ADR機関に紛争処理を申し立てても、時効中断効果はありません。
ただし、ADR促進法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)にもとづき、法務大臣の認証を取得したADR機関の場合は、特例があります。
当事者間に和解の見込みがなく、手続実施者が手続を終了した場合、その旨の通知を受けた日から1ヵ月以内に訴えを提起したときは、時効の中断に関して、ADR機関に紛争解決手続の請求の時に、訴えの提起があったものとみなす(ADR促進法第25条1項)という制度です。
ADR促進法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)第25条1項
認証紛争解決手続によっては紛争の当事者間に和解が成立する見込みがないことを理由に手続実施者が当該認証紛争解決手続を終了した場合において、当該認証紛争解決手続の実施の依頼をした当該紛争の当事者がその旨の通知を受けた日から一月以内に当該認証紛争解決手続の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、当該認証紛争解決手続における請求の時に、訴えの提起があったものとみなす。
なお、この時効中断効の特例は、損害賠償請求権に関するものです。認証ADR機関に紛争処理を申し立てた場合でも、自賠責保険に対する被害者請求権の時効中断手続きは事前に行っておく必要があります。
認証ADR機関以外は、紛争処理手続き中に損害賠償請求権が時効にかかる恐れがある場合、時効中断の手続きをとる必要があります。自賠責保険に対する被害者請求権の時効中断手続きも同様です。
⇒ 損害賠償請求権・被害者請求権の時効中断手続きについて詳しくはこちら
交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターは、ADR促進法にもとづく法務大臣の認証を受けていません。ですから、時効中断効に関する特例はありません。
このサイトで紹介しているADR機関のうち、ADR促進法にもとづく法務大臣の認証を取得しているのは、「共済相談所」くらいです。
まとめ
ADRのメリットと限界をまとめておきます。
ADRのメリット
- 裁判に比べて、手続きが簡便で解決までの期間が短い。
- 被害者本人でも申立て可能。
- 多くは無料で利用できる。
- 保険会社や共済組合を拘束する裁定を出せる。
ADRの限界
- 紛争解決の実効性を確保するため、対象となる紛争が限定されている。
- 数回程度の期日で紛争解決することが予定されているため、事案が解決に熟していない段階では利用できない。
- 賠償責任や後遺障害等級など事実関係に争いがある場合は利用に適さない。
- 申立てに時効中断効果はない。
交通事故に関するADRで最も多く利用されるのは、「交通事故紛争処理センター」と「日弁連交通事故相談センター」です。これらのADR機関では、交通事故事件に精通した弁護士が相談を受け、示談の斡旋を行います。
交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に、第三者の立場からの判断を仰ぎ、示談の斡旋を頼みたい場合、利用するメリットは大きいでしょう。
ADRの弁護士は、中立の立場で示談斡旋を行います。あなたの代理人ではありませんから、この点は注意してください。
あなたの代理人として弁護士に示談交渉を頼みたい場合は、弁護士事務所に相談して委任手続きを行う必要があります。
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