政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効と起算点

政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効と起算点

交通事故の被害者が政府保障事業に対して填補金を請求できる期間は3年です。3年を過ぎると填補金請求権は時効により消滅します。いつから時効が進行するかは、損害ごとに異なります。

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政府保障事業に対する填補金(保障金)の請求権は、行使することができる時から3年間を経過すると、時効により消滅します。

 

行使することができる時(消滅時効の起算点)は、基本的に自賠法の被害者請求権の消滅時効と同じですが、填補金請求権に独自の起算点もあります。

 

政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効と起算点

自動車損害賠償保障法(自賠法)では、政府保障事業に対する填補金請求権の時効について、次のように定めています。

 

自賠法75条

第16条第4項若しくは第17条第4項(これらの規定を第23条の3第1項において準用する場合を含む)又は第72条第1項の規定による請求権は、これらを行使することができる時から3年を経過したときは、時効によって消滅する。

 

条文の中の第16条4項と第17条4項は、自賠責保険を取扱う保険会社の補償請求権で、第23条の3第1項は、自賠責共済の準用規定です。第72条1項が、いま考えている被害者の填補金請求権です。

 

政府保障事業には、被害者に対する損害の填補と、自賠責保険を取扱う保険会社に対する補償があります。消滅時効については、どちらの請求権も同じです。

 

填補金請求権の消滅時効期間

自賠法の規定にあるように、政府保障事業に対して填補金を請求できる期間は3年です。それを過ぎると、請求権は時効により消滅します。

 

政府保障事業に対する請求権が短期消滅時効を定めているのは、この請求権が、被害者を保護するため法律によって特別に定められたもので、事故後すみやかに行使されることが想定されているからです。

 

合理的な期間内に権利を行使しない者には、国による保護の必要はないというわけです。

 

なお、政府保障事業に対する請求権の消滅時効の完成には、時効の援用を要しないとされています(会計法31条1項)

 

填補金請求権の消滅時効の起算点

填補金請求権の消滅時効の起算点は、「行使することができる時から」とされています。これは、改正民法の施行(2020年4月1日)にともない、自賠法75条に明記されました。

 

従来は、消滅時効の起算点について自賠法75条に規定はなく、民法の一般原則である「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」(旧民法166条1項)が適用されると解されてきました。

 

「行使することができる時」とは、原則として、傷害による損害は事故発生日、死亡による損害は死亡日、後遺障害による損害は症状固定日と解され、初日不算入原則(民法140条)により、それぞれの翌日が消滅時効の起算日となります。

 

傷害 事故発生の翌日
後遺障害 症状固定日の翌日
死亡 死亡日の翌日

 

この起算日は、自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効と同じです。

 

ただし、こうした実務上の消滅時効の起算日を適用すると、被害者が自分の権利を行使しながらも、政府保障事業によって救済されないケースが出てきます。そういうときは、「権利を行使することができる時」の解釈の仕方が重要になります。

 

政府保障事業に対する填補金請求権の時効問題は、特に、加害者と疑われる人物を相手取って損害賠償請求訴訟を提起し、被害者が敗訴した場合に生じます。

 

次に、そういう場合の消滅時効の起算点について考えてみましょう。

ひき逃げ事故で民事上の争いがある場合の消滅時効の起算点

ひき逃げ事故に遭った場合、加害者が全く不明な場合は、政府保障事業に填補金を請求するしかありませんが、加害者と見られる人物がいる場合は、その人物を相手取り損害賠償請求訴訟を提起することができます。

 

加害者と疑われる人物を相手に損害賠償請求訴訟を提起し、裁判で負けた場合、政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効が「事故時」から進行するとすれば、裁判が終わった時点で、填補金請求権が時効消滅していることがあります。

 

そうなると、被害者は権利を行使したばかりに、損害賠償も受けられない、政府保障事業の保障も時効で受けられない、最悪の結果を招きます。

 

そこで、ある者が加害自動車の保有者であるか否かをめぐり、自賠法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合は、被害者の敗訴が確定した時から、政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効が進行する、とされています。

 

もちろん初日不算入原則により、厳密には「被害者の敗訴判決が確定した日の翌日から」です。

 

政府保障事業に対する填補金請求の前提

そもそも政府保障事業に対する填補金請求権は、加害自動車の「保有者が明らかでないため、被害者が自賠法3条の規定による損害賠償の請求をすることができないとき」に行使することができます(自賠法72条1項前段)

 

そのため、ある者が加害自動車の保有者であるか否かをめぐって争いがある場合は、自賠法3条による損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から、政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効が進行する、ということです。

 

最高裁判例

最高裁は、次のような判断を示しています。

 

最高裁判決(平成8年3月5日)

自賠法72条1項前段による請求権の消滅時効は、ある者が交通事故の加害自動車の保有者であるか否かをめぐって、右の者と当該交通事故の被害者との間で同法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合においては、右損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から進行する。

 

最高裁は、「権利を行使することができる時」とは、単にその権利を行使するのに「法律上の障害がない」というだけではなく、その権利の行使が「現実に期待のできるものであることも必要」と解するのが相当であるとし、次のように指摘しました。

 

「交通事故の被害者に対して損害賠償責任を負うのは本来は加害者」であり「損害額の全部の賠償義務を負うのも加害者」です。

 

政府保障事業は、「被害者に最終的に最小限度の救済を与える趣旨」の制度ですから、「請求可能な金額に上限があり、損害額の全部をてん補するものではない」という限界があります。

 

そうすると、加害者とみられる者が存在する場合、被害者が、まずその者に対して「自賠法3条により損害賠償の支払を求めて訴えを提起するなどの権利の行使をすることは当然のこと」です。

 

「自賠法3条による請求権と本件規定による請求権は両立しない」ので、「2つの請求権を同時に行使すること」はできません。

 

こうしたことから、「加害者ではないかとみられる者との間で自賠法3条による請求権の存否についての紛争がある場合には、右の者に対する自賠法3条による請求権の不存在が確定するまでは、本件規定による請求権の性質からみて、その権利行使を期待することは、被害者に難きを強いるものであるからである」としています。

※「 」内が判決の引用部分。「本件規定による請求権」とは填補金請求権です。

まとめ

政府保障事業に対する被害者の填補金請求権の消滅時効は、行使することができる時から3年です。

 

時効の起算点は損害ごとに異なり、傷害は事故発生日、死亡は死亡日、後遺障害は症状固定日です。これについては、自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効と同じです。

 

ただし、ある者が交通事故の加害自動車の保有者であるか否かをめぐって、自賠法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合は、損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から、填補金請求権の消滅時効が進行します。

 

政府保障事業に対する填補金請求権には、時効の更新(中断)の取り扱いはありません。

 

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公開日 2020-05-05 更新日 2023/03/16 11:45:59