交通事故の加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効と起算日

交通事故の加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効と起算日

交通事故の損害賠償請求権には時効があり、人身事故は5年、物損事故は3年です。時効が完成すると、損害賠償金を受け取ることができません。消滅時効の起算日にも注意が必要です。

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交通事故の加害者(相手方保険会社を含む)に対する損害賠償請求権は、時効により消滅します。時効が完成すると損害賠償金を受け取れなくなりますから、注意が必要です。

 

2020年4月1日の改正民法施行により、消滅時効の期間が一部変更になりました。

 

ここでは、改正民法の内容もふまえ、交通事故の加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効、時効の起算日(時効がいつから進行するか)について説明します。

 

加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効

交通事故で被害を被ったときの損害賠償請求権には、「民法による請求権」と「自動車損害賠償保障法(自賠法)による請求権」があります。両者の違いはこちらをご覧ください。

 

損害賠償請求権の時効については、民法の規定にもとづき判断します。自賠法による損害賠償請求権の消滅時効も、民法の規定が適用されます(自賠法4条)

 

それでは、損害賠償請求権の消滅時効について、民法一部改正の内容をふまえて見ていきましょう。

 

人身損害は5年、物件損害は3年

不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、改正前の民法では、人損も物損もどちらも「損害および加害者を知った時から3年」でした(旧・民法724条)

 

改正後の民法では、人身損害については「損害および加害者を知った時から5年」に延びました(民法724条の2)。物件損害については、従来のままです。

 

損害 消滅時効
旧民法 新民法
人損 3年 5年
物損 3年 3年

※人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効が、3年から5年に延びました。

 

損害賠償請求権の消滅時効についての規定が、民法一部改正でどう変わったのか分かるように、改正後の民法とともに、改正前の民法もあわせて抜粋しておきます。

 

民法724条

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。

 

民法724条の2

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは「5年間」とする。

 

改正前の民法724条

(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

 

「不法行為の時から20年」は除斥期間でなく消滅時効

改正後の民法724条2号は、不法行為による損害賠償の請求権は「不法行為の時から20年間行使しないとき」には時効によって消滅する、と規定しました。

 

改正前の民法724条は、「不法行為の時から20年を経過したとき」という期間制限が、消滅時効なのか、除斥期間なのか、条文上明らかでなく疑義が生じていました。

 

判例では、除斥期間と解されてきたのですが(最高裁判決・平成元年12月21日)、民法一部改正により、除斥期間でなく、時効期間であることを明確にしたのです。

 

最高裁第一小法廷判決(平成元年12月21日)

民法724条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当である。

 

けだし、同条がその前段で3年の短期の時効について規定し、更に同条後段で20年の長期の時効を規定していると解することは、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の規定の趣旨に沿わず、むしろ同条前段の3年の時効は損害及び加害者の認識という被害者側の主観的な事情によってその完成が左右されるが、同条後段の20年の期間は被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるからである。

 

除斥期間と解しながらも柔軟な解釈で被害者を救済してきた

除斥期間とは、その期間内に権利を行使しないと権利がなくなる期間のことです。

 

除斥期間は、消滅時効と異なり、中断や停止がありません。被害者の側にいかなる権利行使上の困難な事情があっても、20年を経過すると損害賠償請求権は消滅します。

 

そうなると、被害者にとって酷な結果となる場合があり得ます。

 

そのため、これまでの裁判では、民法724条(改正前)後段の期間制限を除斥期間としながらも、事案ごと柔軟に解釈し、除斥期間の適用を制限し、被害者の救済を図ってきたのです。

 

例えば、次のような裁判例があります。

 

最高裁第二小法廷判決(平成10年6月12日)

不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6ヵ月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から六箇月内に右不法行為による損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。

 

最高裁第三小法廷判決(平成21年4月28日)

被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において、その後相続人が確定した時から6ヵ月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。

この平成21年の最高裁判決には、民法724条後段の規定を時効と解すべきであり、そのように解しても不法行為法の体系に特段の支障を及ぼすとは認められないとの田原睦夫裁判官の意見が付されています。

 

長期期間制限の性質の見直し

民法724条(改正前)後段の20年の期間制限を除斥期間と解しながら、除斥期間の適用を排除して被害者の救済を図るのであれば、20年の期間制限の法的性質を端的に消滅時効とすることにより、具体的事案での適切な解決を図るべきであるとの指摘がありました。

 

また、同条の立法過程に照らし、起草者は20年の期間制限を消滅時効であると考えていたものと理解されています。

 

こうしたことから、民法一部改正により、「不法行為の時から20年間」の規定は、除斥期間でなく、消滅時効について定めたものであることが明確にされたのです。

 

改めて、改正前後の民法724条を比べてみてください。

 

改正前の民法724条は、[不法行為による損害賠償請求権の期間の制限]でしたが、改正後の民法724条は、[不法行為による損害賠償請求権の消滅時効]と、消滅時効について定めた条項であることを明記しました。

 

その上で、新民法724条は、第1号で短期消滅時効期間(主観的起算点)、第2号で長期消滅時効期間(客観的起算点)について、区別して定めています。

 

こうして、不法行為から20年が経過して損害賠償請求権が時効消滅する場面で、時効の更新や完成猶予(旧民法における時効の中断や停止)の手続を行い、権利を維持することが可能となったのです。

 

[参考]法制審議会民法(債権関係)部会資料 69A「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(4)」9~11ページ

消滅時効の起算点(起算日)

次に、時効の起算点(起算日)です。いつから時効が進行するか、です。

 

民法724条・724条の2の規定によれば、損害賠償の請求権は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」から3年(人損は5年)、「不法行為の時」から20年で消滅します。

 

「損害を知った時」「加害者を知った時」が、短期消滅時効の起算点で、主観的起算点といわれます。

 

「不法行為の時」が、長期消滅時効の起算点で、客観的起算点といわれます。

 

「加害者を知った時」とは?

「加害者を知った時」とは、加害者に対し損害賠償請求ができる程度に、加害者の住所氏名を知った時を指します。

 

最高裁は、次のように判示しています。

 

最高裁第二小法廷判決(昭和48年11月16日)

加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当であり、…被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者ヲ知リタル時」にあたるものというべきである。

 

賠償義務者が複数の場合

運転者と運行供用者が異なる場合や、相手が会社の車を運転していて使用者責任を問える場合は、相手の運転者だけでなく、運行供用者や雇用主も賠償義務者となります。

 

賠償義務者が複数いる場合、時効は賠償義務者ごとに進行するので、損害賠償請求する相手によって、時効の完成する時期が異なるのです。

 

例えば、事故が発生した日に加害運転者の住所氏名を確認し、後日、運行供用者が別にいたことを知ったとしましょう。

 

この場合、運転者に対する損害賠償請求権の時効は、事故日から進行しますが、運行供用者に対する損害賠償請求権の時効は、運行供用者を知った時から進行します。

 

運転者に対する請求権が時効消滅していても、運行供用者に対する請求権は時効になっていない場合もあるのです。

 

「損害を知った時」とは?

「損害を知った時」について、最高裁は「民法724条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう」(最高裁判決・平成14年1月29日)としています。

 

最高裁第三小法廷判決(平成14年1月29日)

民法724条は、不法行為に基づく法律関係が、未知の当事者間に、予期しない事情に基づいて発生することがあることにかんがみ、被害者による損害賠償請求権の行使を念頭に置いて、消滅時効の起算点に関して特則を設けたのであるから、同条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当である。

 

同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。

 

交通事故で受傷すると、一定期間治療を継続し、治癒もしくは症状固定に至り、損害額の全体が確定します。その過程のどの時点を「損害を知った時」と捉えるかが問題です。

 

従来、交通事故による損害の賠償請求権の消滅時効は、受傷時に予見可能な損害の賠償請求については事故時から進行し、受傷時に予見し得ない後遺障害に関する損害の賠償請求権については、後遺症が顕在化した時や症状が固定した時から進行すると解されていました。

 

しかし、近時の下級審裁判例では、人身損害については治療終了時点(治癒時・症状固定時)を主観的起算点とする見解がほぼ定着しています。

 

すなわち、

  • 後遺障害が残存しない場合には、傷害の治療が終了した時から、傷害に関する全ての損害につき消滅時効が進行する
  • 後遺障害が残存する場合には、その症状が固定した時から、後遺障害にもとづくものを含む傷害に関する全ての損害につき消滅時効が進行する

という解釈運用が、近時の下級審裁判例の傾向です。

 

具体的な消滅時効の起算日は、次の通りです。

 

損害 消滅時効の起算日
傷害 治療終了の翌日が起算日です。
後遺障害

症状固定日の翌日が起算日です。
複数の後遺障害があって症状固定日が異なるときは、直近の症状固定日を起算日とします。

死亡

死亡日の翌日が起算日です。
請求権者が、被害者の死亡を知らなかったことに関し合理的な理由があるときは、請求権者が被害者の死亡を知った日の翌日を起算日とします。

物損

事故発生の翌日が起算日です。
事故発生が午前0時の場合は、事故発生の当日が起算日となります。

 

起算日を「翌日」とするのは、初日不算入原則によります。民法では「期間の起算」について、次のように定めています。

 

民法140条(期間の起算)
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効は3年

自賠法(自動車損害賠償保障法)は、自賠責保険に対する被害者請求権(自賠法16条1項)仮渡金請求権(自賠法17条1項)、すなわち、被害者が相手方自賠責保険に損害賠償額の支払いを直接請求できる権利は、「損害および保有者を知つた時から3年を経過したときは、時効によって消滅する」と定めています(自賠法19条)

 

人身損害について、加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効は5年ですが、自賠責保険に被害者が直接請求する場合の消滅時効は3年であることに注意してください。物損は、自賠責保険の対象外です。

 

自賠責保険は、そもそも、人身事故を起こして損害賠償責任を負うことになった加害車両の保有者が、被害者に損害賠償金を支払ったことにより発生する損害を填補する保険です。

 

加害者が、自身の加入する自賠責保険に保険金の支払いを請求(加害者請求)する場合は、保険法95条が適用され、保険金の請求は、加害者が被害者に損害賠償金を支払った日から3年で時効となります。

 

自賠法は、保険法の特別法ですから、被保険者である加害者からの自賠責保険に対する請求は、保険法の消滅時効の規定が適用されます。保険法では、保険会社に保険給付を請求する権利は、「行使することができる時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する」と定めています(保険法95条1項)。

 

政府保障事業に対する請求権も、3年で時効消滅します(自賠法75条)

 

自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効、政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効について、詳しくは次のページをご覧ください。

改正民法施行前に発生した事故の消滅時効は?

改正民法の施行日(2020年4月1日)よりも前に発生した交通事故については、新民法の規定が適用となるかどうかは、被害者にとっては重大な問題です。

 

新民法の消滅時効の規定が適用となる区分について、経過措置がどのように定められているのか、見ておきましょう。

 

長期消滅時効の経過措置

上で見たように、旧民法724条後段の「不法行為の時から20年」は、除斥期間と解されてきましたが、新民法724条2号では、長期消滅時効期間と位置づけられました。

 

新法が適用されるか、旧法が適用されるかにより、損害賠償請求権を維持できるか否か大きな違いがあります。どちらが適用されるかは、旧民法724条後段の「不法行為の時から20年」の期間が、改正民法の施行日(2020年4月1日)までに満了しているか否で決まります。

 

2020年4月1日に、不法行為の時から20年が経過していなければ、新民法の規定が適用され、時効の更新や時効の完成猶予の手続きが可能となります。

 

経過措置について、新民法の附則で、次のように定めています。

 

附則35条1項

旧法第724条後段に規定する期間がこの法律の施行の際既に経過していた場合におけるその期間の制限については、なお従前の例による。

 

短期消滅時効の経過措置

人身損害(人の生命または身体を害する不法行為)による損害賠償請求権の短期消滅時効は、旧民法724条前段では3年でしたが、新民法724条の2では5年に延びました。

 

改正民法施行のとき(2020年4月1日)に、旧民法724条前段の3年の時効が完成していれば、新民法の規定は適用となりませんが、3年の時効が完成していなければ、短期消滅時効の期間は5年となります。

 

経過措置について、新民法の附則で、次のように定めています。

 

附則35条2項

新法第724条の2の規定は、不法行為による損害賠償請求権の旧法第724条前段に規定する時効がこの法律の施行の際既に完成していた場合については、適用しない。

まとめ

交通事故の加害者に対する損害賠償請求権には時効があり、それを過ぎると損害賠償請求できなくなりますから、注意が必要です。

 

損害ごとの賠償請求権の消滅時効と起算日をまとめておきます。

 

損害 短期消滅時効
傷害 治療終了の翌日から5年
後遺障害 症状固定の翌日から5年
死亡 死亡日の翌日から5年
物損 事故日の翌日から3年

 

時効にかかり、損害賠償請求権を失うことのないよう、早めに弁護士に相談して、時効の更新(時効の中断)の手続きをとるなど、適切な対応をすることが必要です。

 

 

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※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。

 

 

【参考文献】
・『交通事故損害賠償保障法 第2版』弘文堂 369~374ページ
・『交通関係訴訟の実務』商事法務 447~454ページ
・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 435~441ページ
・『交通事故判例解説』第一法規 192~195ページ
・『別冊Jurist交通事故判例百選 第5版』有斐閣 180~181ページ

公開日 2021-11-20 更新日 2023/03/16 11:45:59