被害者に対する政府保障事業の内容

Point
  • 政府保障事業の被害者への填補金の限度額は、自賠責保険・自賠責共済の支払基準・限度額と同じです。
  • ただし、政府保障事業は、自賠責保険と一部運用が異なる点があるので、注意が必要です。

 

目次
  1. 政府保障事業の基本的な保障内容は自賠責保険と同じ
  2. 政府保障事業と自賠責保険の相違点
  3. 保障事業の填補額(保障額)の算定

政府保障事業の基本的な保障内容は自賠責保険と同じ

政府保障事業による保障は、自賠責保険の補完です。自賠責保険によって救済されない被害者を国が救済するものです。そのため、保障の基本的な内容は、政府保障事業も自賠責保険も同じです。

 

限度額

政府保障事業から被害者に支払われるのは「填補金」と呼ばれます。被害者の損害を填補する意味です。損害賠償ではありません。

 

そのため一部運用は異なりますが、政府保障事業の損害の「填補基準」も、自賠責保険の保険金の「支払基準」も、支払う限度額は同じです。

 

最高限度額
死亡 1人につき 3,000万円
傷害 1人につき 120万円
後遺障害 等級に応じ 75万円~4,000万円

 

過失相殺

自賠責保険が被害者を保護・救済するために過失相殺が制限され、被害者に重過失がある場合のみ一定割合で減額される仕組みになっている点も同じです。

 

2007年(平成19年)3月31日までは、一般の損害賠償と同じ過失相殺基準が適用されていましたが、被害者救済を重視した法改正により、2007年4月1日以降に発生した事故については、自賠責保険と同様の運用がされることになりました。

 

参考

自動車損害賠償保障事業が行う損害のてん補の基準(平成19年 国土交通省 告示第415号)
(国土交通省のWebサイトにリンクしています)

政府保障事業と自賠責保険の相違点

政府保障事業が自賠責保険と異なるのは、次の点です。

 

  1. 被害者しか請求できず、加害者請求はできません。
  2. 健康保険や労災保険など他の法令による給付を受けられる額については、支払われません。
  3. 加害者から損害賠償金の支払いがあった額については、支払われません。
  4. 加害者と被害者が同一生計の親族間事故は、原則として支払われません。
  5. 複数の加害車両が関わる事故の場合、保障されるのは1台分です。
  6. 自賠責保険の仮渡金請求に相当する制度はありません。

 

被害者しか請求できない

自賠責保険は、加害者請求も被害者請求もできますが、政府保障事業は、被害者しか請求できません(自賠法第72条1項)

 

政府保障事業が、加害者不明・無保険などの理由で加害者側から損害賠償を受けられないとき、被害者の損害を直接填補し、救済する制度だからです。

 

他の法令により受けられる給付額は支払わない

政府保障事業は、自賠責保険その他の方法によって救済されない被害者に、必要最小限度の救済を保障する制度です。そのため、健康保険や労災保険など他の法令による給付を受けられるときは、その額は支払われません(自賠法第73条1項)

 

自賠法では、「他の法令による給付との調整等」について、次のように定めています。

 

自賠法第73条1項

被害者が、健康保険法、労働者災害補償保険法その他政令で定める法令に基づいて前条第1項の規定による損害のてん補に相当する給付を受けるべき場合には、政府は、その給付に相当する金額の限度において、同項の規定による損害のてん補をしない。

 

条文中の「前条第1項」とは、簡単にいうと「政府は、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する」という規定です。

 

ここで、健康保険法や労災保険法などから「給付を受けるべき場合」となっていることに注意してください。「給付を受けた場合」ではなく「受けるべき場合」です。

 

政府保障事業は、他に救済の方法がない被害者に最低限の救済を確保しようとするものですから、被害者に健康保険や労災保険などの社会保険に対する給付の請求権がある場合には、必ずこれらの社会保険を使用することが前提となっているのです。

 

つまり政府保障事業は、まず健康保険や労災保険から給付を受けて、それでも損害を填補しきれない場合に、支払限度額の範囲内で損害の填補をする仕組みなのです。

 

国土交通省自動車局保障制度参事官室監修の『新版 逐条解説 自動車損害保障法』では、次のように説明されています。

 

「本項は、…まず社会保険による給付を受けるべきこと、他の給付を受けたときは保障金の支払いをしないことを定めたのである。」

 

加害者から賠償を受けた額は支払わない

本来の賠償責任者から賠償を受けたときは、その金額は支払われません(自賠法第73条2項)。本来の賠償責任者とは、無保険の自動車を運行させていた者などです。

 

見舞金など、名目の如何を問いません。

 

ただし、自賠責は人身損害についての賠償制度であり、政府保障事業も人損に関する制度ですから、物損について支払われた金額は、政府保障事業からの填補額に影響しません。

 

親族間事故については支払われない

自賠責保険は、加害者と被害者が同一生計の家族であっても保険金が支払われますが、政府保障事業では、同一生計の親族間事故については、原則として填補しない運用がされています。

 

政府が保障事業による損害の填補をしたとき、最終的に本来の賠償責任者に求償することになります(自賠法第76条1項)。同一生計の親族間事故の場合、同一生計の家族に対し、損害を填補して、後から求償することになり、実質的に意味がないからです。

 

ただし例外として、賠償責任者が死亡し、相続人である請求権者が相続の放棄または限定承認をしている場合は填補されます。

 

複数の加害車両が関わる事故

加害車両が複数の場合、自賠責保険では、それぞれの自動車の自賠責保険に損害賠償請求でき、支払限度額は合算した額となります。つまり、加害車両数に応じて限度額が増えます。

 

政府保障事業は、無保険車による事故の損害を填補しますが、無保険車が複数の場合、その台数分、填補限度額が増えるかというと、そうはなりません。

 

自賠責保険に加入している自動車と無保険車がある場合、自賠責保険に加入している自動車については、自賠責保険から車両数分を合算した額を限度額として賠償金を受けることができるだけで、無保険車に対する政府保障はありません。保障事業による填補は行われません。

 

加害車両のすべてが無保険車だった場合は、1台分だけ政府保障事業から填補されます。

 

つまり、複数の無保険車が関わる事故であっても、保障事業からの填補金の限度額は、無保険車 1台分です。これは、政府保障事業が、損害賠償でなく、被害者に必要最小限度の救済を保障する制度だからです。

 

仮渡金の制度はない

政府保障事業は、他に救済の方法がない被害者に最低限の救済を確保する制度であり、被害者の損害を填補するものです。政府保障事業への請求は、被害者に損害賠償請求権が存在することが前提です。

 

そのため、加害者の賠償責任の有無を問わない仮渡金請求の制度はありません。

保障事業の填補額(保障額)の算定

政府保障事業は、「填補金限度額」と「損害額」の少ない方の額が支払われます。

 

  • 填補金限度額は、「政令で定める限度額」から、「他の法令による給付額」「賠償責任者からの支払額」を控除した額です。
  • 損害額は、「総損害額」から、「他の法令による給付額」「賠償責任者からの支払額」「重大な過失による減額分」を差し引いた額です。

 

他の法令による給付は「損害の填補に相当する給付」(自賠法第73条1項)です。損害の填補を目的としない給付(出産手当金や退職共済年金など)は該当しません。

 

損害額が填補額より大きいとき

損害額が大きく、政府保障事業から填補金を受けてもなお損害を填補しきれないときは、填補されない額について、被害者が加害者に賠償請求することは差し支えありません。

 

政府保障事業から填補金を被害者に支払うと、その金額の限度で損害賠償請求権が被害者から政府に移るからです。

 

ただし、そもそも加害者に賠償資力がない場合や加害者が不明な場合に政府保障事業に請求するのですから、加害者から填補額を超えて賠償されることは期待できないでしょう。

 

填補金限度額を超える他法令給付金を受けたとき

「政令で定める填補金限度額」を超えて「他の法令による給付金」を受けた場合は、填補金限度額から給付金を控除するとマイナスになります。この場合は、政府保障事業から損害の填補はされないことになります。

 

例えば、労災保険が適用される場合は、治療費の全額のほか療養給付や障害給付などの給付を受けられるので、政府保障事業の填補金限度額を超えて労災保険給付を受けられることがあります。

 

なお、こういうケースは、社会保険給付により、政府保障事業の損害の填補額を超えて「損害が回復される」ということですから、政府保障事業から填補金は受けられないとしても、決して損をするわけではありません。

 

将来にわたって給付される他法令給付分

他の法令による給付額には、支給を受けることが確定したものだけでなく、将来にわたって給付される分も含みます。

 

例えば、労災保険から年金形式で給付される障害年金や遺族年金など含めた額を控除して、填補額が算出されます。

 

「将来にわたって給付される分も含めた額を控除する」とした最高裁判決

最高裁は、「被害者が他法令給付に当たる年金の受給権を有する場合、政府が填補すべき損害額は、支給を受けることが確定した年金の額を控除するのではなく、当該受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分も含めた年金の額を控除して、算定すべきである」とする判断を示しています。

 

最高裁判決(平成21年12月17日)はこちら
※最高裁のWebサイトにリンクしています。

 

なお、この判決には、「労災保険法による障害年金給付の将来分を控除すべきでない」とする反対意見も付されています。

まとめ

政府保障事業は、自賠責保険や社会保険など他の法令で救済されない被害者に最低限の救済を確保しようというものです。

 

政府保障事業から支払われる填補金限度額は、自賠責保険の支払限度額と同じです。

 

ただし、政府保障事業は、自賠責保険と一部異なる運用がされています。特に、政府保障事業に請求する際には、健康保険や労災保険などの使用が前提となっています。他の法令により給付を受けられない損害を填補する仕組みですから、注意してください。

関連ページ

政府保障事業の対象となる事故の種類
政府の自動車損害賠償保障事業は、ひき逃げ事故、無保険車による事故、盗難車両による事故など、自賠責保険(自賠責共済)の救済を受けられない事故が保障の対象です。
政府保障事業の保険会社に対する保障
政府の自動車損害賠償保障事業には、被害者に対する保障のほか、自賠責保険の保険会社会社・自賠責共済の組合に対する保障もあります。本来、保険会社が支払う必要のなかった金額に対する補償です。