交通事故民事裁判の審理期間と費用の目安

Point
  • 交通事故の損害賠償請求訴訟の審理期間は、最高裁の統計資料によれば平均で約1年です。約6割が1年以内に解決しています。
  • 訴訟費用は訴額により決まります。裁判の費用で大きいのは弁護士費用ですが、最近は弁護士保険が普及し、裁判で解決する方も増えています。

 

裁判は、高度の法律知識や訴訟技術が必要です。被害者本人やその家族で起こすのは困難ですから、普通は弁護士を頼みます。費用も時間もかかるため、裁判は敬遠されがちです。

 

おそらく「裁判をすると何年もかかる」「費用が高い」と漠然と思っている方が多いと思います。実際に裁判をするとなると、判決までにどれくらいの期間を要するのか、費用はどれくらいかかるのか、その目安について見てみましょう。

 

最近は、任意保険の弁護士費用特約(弁護士保険)が浸透し、弁護士費用の心配なく弁護士に訴訟を依頼できるようになってきたため、「裁判で公正な判断を求めたい」と民事訴訟を提起する方が増えています。

 

保険会社との示談が難航し、裁判を考えているなら、参考にしてみてください。

 

ここで用いている裁判の審理に関する各種データは、最高裁が公表している「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」の第1回と第7回の交通損害賠償事件のデータを参考にしています。第1回が2004年、第7回が2016年の終局事件に関する統計です。

 

また、交通損害賠償事件の分析については、2015年7月公表の第6回報告書に記載があり、それを参考にしています。

 

「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」はこちら

 ※最高裁のWebサイトにリンクしています。

 

目次
  1. 審理期間の平均は 1年
  2. 訴額500万円以下が半数
  3. 判決 2割・和解 7割
  4. 裁判費用(訴訟費用・弁護士費用)の目安
  5. まとめ

審理期間の平均は 1年

交通損害賠償事件の平均審理期間は約1年です。約6割が1年以内に終局し、94%が2年以内には終局しています(2016年実績)

 

訴訟では、刑事記録(実況見分調書、関係者の供述調書など)を取り寄せたり、証人尋問をしたり、専門家に鑑定をさせるなどして、事実を明確にしていくので時間がかかります。

 

民事訴訟には、「少額訴訟」と「通常訴訟」があります。

 

「少額訴訟」は、60万円以下の金銭の支払いをめぐる紛争について利用できる手続きで、原則として1回の審理で解決します。

 

「通常訴訟」は、当事者の主張・立証や証拠調べによって、損害賠償責任の有無、被害者側の過失の有無や程度などについて、裁判官が認定し、賠償すべき金額について法律的判断を下す手続きです。

 

12年間で訴訟が2.8倍に増加

交通損害賠償事件数は、2004年から2016年の12年間で5,252件から14,692件へと2.8倍に増加しています。ただし、平均審理期間は、ほとんど変わっていません。

 

事件数と平均審理期間
  2004年 2016年 増加

事件数

5,252件

14,692件

2.8倍

平均審理期間

12.2ヵ月

12.3ヵ月

 

交通事故関係の損害賠償請求訴訟が増加している背景について「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第6回)」では、「弁護士保険が浸透し、当時者本人が弁護士費用を負担する必要がなくなったこと」を第一の理由にあげています。

 

もっとも多いのは審理期間「6ヵ月~1年」

審理期間別の事件数を見ると、最も多いのが「6ヵ月超 1年以内」で全体の41%。次が「1年超 2年以内」で32%。その次が「6ヵ月以内」で21%です(2016年実績)

 

12年前と比べて増え方が大きいのは「1年超 2年以内」で3.1倍。次いで「6ヵ月超 1年以内」が3.0倍です。

 

「第6回報告書」では、「質的に困難な事件類型の増加」を指摘しています。このことが、1年前後から2年近くの審理期間を要する事件が増えている背景にあるようです。

 

審理期間別の事件数と割合
審理期間 2004年
(件数)
2016年
(件数)
増加
(倍)
6ヵ月以内

1,346

(25.6%)

3,024

(20.6%)

2.25

6ヵ月超
1年以内

2,010

(38.3%)

6,035

(41.1%)

3.00

1年超
2年以内

1,507

(28.7%)

4,719

(32.1%)

3.13

2年超
3年以内

277

(5.3%)

775

(5.3%)

2.80

3年超
5年以内

107

(2.0%)

128

(0.9%)

1.20

5年超

5

(0.1%)

11

(0.1%)

2.20

 

審理期間別の事件数

審理期間別件数

 

審理期間別の事件数割合

審理期間別件数割合

訴額500万円以下が半数

交通損害賠償事件のうち、およそ半分(51%)が訴額500万円までの事案です(2016年実績)

 

訴額別の事件数と平均審理期間

訴額が大きいほど、審理期間が長くなる傾向があります。

 

訴額別の事件数・平均審理期間
訴額 事件数
(件)
割合
(%)
平均審理期間
(月)

500万円まで

7,437

50.62%

10.4

1,000万円まで

2,151

14.64%

12.4

5,000万円まで

3,739

25.45%

14.5

1億円まで

905

6.16%

15.6

5億円まで

388

2.64%

20.5

10億円まで

5

0.03%

26.4

50億円まで

1

0.01%

30.0

50億円超

1

0.01%

1.5

算定不能・非財産

65

0.44%

10.4

 

訴額別の事件数と平均審理期間

 

訴額別の事件数増加
訴額 2004年
(件数)
2016年
(件数)
増加
(倍)
500万円
まで

1,958

(37.3%)

7,437

(50.6%)

3.8

1,000万円
まで

731

(13.9%)

2,151

(14.6%)

2.9

5,000万円
まで

1,711

(32.6%)

3,739

(25.5%)

2.2

1億円まで

590

(11.2%)

905

(6.2%)

1.5

5億円まで

249

(4.7%)

388

(2.6%)

1.6

10億円
まで

2

(0.04%)

5

(0.03%)

2.5

 

訴額別の事件数

訴額別の事件数

 

訴額別の事件数割合

訴額別の事件数(率)

判決2割・和解7割

損害賠償請求訴訟を提起したとしても、必ずしも判決に至るとは限りません。交通損害賠償事件は、約7割(72%)が「裁判上の和解」によって解決しています。判決は約2割(23%)です(2016年実績)

 

和解で終結するケースが多いのは、判決まで進むと時間がかかる上、さらに上訴もあり得るので、そうなるといっそう時間と費用がかかるからです。和解の場合は、比較的短期間で結論が確定します。

 

判決・和解の件数と率

判決率・和解率を12年前と比べると、判決率が下がり和解率が上がっています。

 

ただし、「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第6回)」では、「質的に解決が困難な事件」を中心として、「当時者本人が、金額の問題ではなく公正な判断を得たいなどといった意向を優先し、和解による解決に消極的な傾向がある」とも指摘されています。

 

一方で、従来なら弁護士に頼んで訴訟を起こすと費用倒れになる事案(物損事故など少額のケース)でも、弁護士保険の浸透で訴訟を起こしやすくなっています。そういうケースが、訴訟件数と和解率の増加に寄与していると考えられます。

 

終局事由別の事件数と割合
  2004年 2016年
判決

1,897件

(36.1%)

3,425件

(23.3%)

和解

3,075件

(58.5%)

10,506件

(71.5%)

取下げ

190件

(3.6%)

501件

(3.4%)

その他

90件

(1.7%)

260件

(1.8%)

 

終局事由別の事件数

終局事由別の事件数

 

終局事由(率)

終局事由(率)

裁判費用

裁判費用の主なものは、①裁判所に納める「訴訟費用」と、②弁護士に支払う「弁護士費用」です。

 

訴訟費用は訴額(訴えを起こした請求額)により決まり、弁護士費用は依頼者の得る経済的利益により決まります。

 

訴訟費用

訴訟費用として必要なのは、訴えの提起の際に訴状に貼る収入印紙代と、訴状等を当事者に郵送するための予納郵便切手代です。

 

訴訟の申立て手数料(印紙代)は、「民事訴訟費用等に関する法律」で決められています。訴額に応じて、算出方法が定められています。

 

予納郵便切手代は、裁判所によって異なります。東京地裁では、当事者(原告・被告)がそれぞれ1名の場合は6,000円、当事者が1名増すごとに2,144円が加算されます。

 

訴訟費用の算定方法
訴額 申立て手数料
100万円までの部分 その価額10万円までごとに1,000円
100万円を超え500万円までの部分 その価額20万円までごとに1,000円
500万円を超え1,000万円までの部分 その価額50万円までごとに2,000円
1,000万円を超え10億円までの部分 その価額100万円までごとに3,000円
10億円を超え50億円までの部分 その価額500万円までごとに1万円
50億円を超える部分 その価額1,000万円までごとに1万円

 

訴訟費用の例
訴額 申立て手数料

100万円

10,000円

500万円

30,000円

1,000万円

50,000円

5,000万円

170,000円

1億円

320,000円

 

【参考】⇒ 裁判の申立て手数料(訴訟費用)早見表
 ※最高裁のWebサイトにリンクしています。

 

訴訟費用が支払えないときは「訴訟救助」の制度がある

訴訟費用を支払う資力がないときは、支払いを猶予する「訴訟上の救助」(民事訴訟法82条・83条)の制度があります。猶予された訴訟費用は、負担することとされた相手方が支払います。

 

ただし、明らかに勝訴の見込みがない場合は、認められないことがあります。

 

弁護士費用

裁判費用の中で最も大きいのが弁護士費用です。弁護士費用は、統一された基準はなく、それぞれの弁護士事務所で報酬基準を定め、依頼者と協議の上で費用を決めるのが原則です。

 

なお、日弁連の旧・報酬基準を採用している弁護士事務所も多く、弁護士保険の弁護士費用支払基準(LAC基準)も、旧・報酬基準に準じています。

 

 

旧・報酬基準
経済的利益の額 着手金 報酬金

300万円以下の部分

8%

16%

300万円を超え3,000万円以下の部分

5%

10%

3,000万円を超え3億円以下の部分

3%

6%

3億円を超える部分

2%

4%

※事件の内容により30%の範囲内で増減額できます。
※着手金の最低額は10万円。
※経済的離籍の額は、着手金は請求額、報酬金は取得できた賠償額を基礎とします。

 

例えば、訴額500万円、賠償金を300万円得たとしましょう。

 

この場合、着手金は34万円(300万円×8%+200万円×5%)、報酬金は48万円(300万円×16%)、合わせて82万円です。これに事件の難易性や依頼者の資産を加味して修正し、実際の報酬額を決めます。このほか、法律相談料や実費、事務手数料なども必用です。

 

一方、裁判所に納付する訴訟費用は3万円ですから、弁護士費用が、いかに大きいかお分かりでしょう。

 

弁護士保険があれば弁護士費用の負担なし

最近は、弁護士保険が浸透してきましたから、任意自動車保険に弁護士費用特約(弁護士保険)を付けている方も多いでしょう。弁護士費用特約を利用できれば、最大300万円まで弁護士費用が補償されます。

 

弁護士費用の心配なく、弁護士を頼めるようになっています。

 

以前は、物損事故など低額の損害賠償請求訴訟は、弁護士に頼むと費用倒れになってしまうので、裁判に持ち込むことは少なかったのですが、弁護士保険の普及にともない、低額訴訟も増えています。

 

訴額500万円までの交通損害賠償事件が増えているのは、こうした背景もあるのです。

 

弁護士費用を支払えないときは「民事法律扶助」制度がある

弁護士保険にも加入していなくて、弁護士費用を支払うことができないとき、法テラスに相談してみましょう。

 

条件を満たせば、弁護士費用の立替をしてもらえる「民事法律扶助」制度を利用できる場合があります。

まとめ

裁判は、費用も時間もかかることから敬遠されがちですが、今は弁護士保険の普及もあり、裁判が利用しやすくなっています。

 

また、「高次脳機能障害」や「低髄液圧症候群」など新型後遺障害が問題となることもあり、民事訴訟を提起し、裁判手続による公正な判断を求める方が増えています。

 

裁判をすべきかどうか迷っている方、自賠責の後遺障害非該当の判断に納得いかない方は、まずは弁護士に相談だけでもしてみるとよいでしょう。

 

このサイトでは、相談無料・着手金0円、交通事故の損害賠償請求に強い弁護士事務所をご紹介していますから、弁護士保険に加入していない方でも安心です。弁護士選びの参考にしてみてください。

 

弁護士法人・響

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