「和解する」か「判決をもらう」か、判断のポイント

Point
  • 交通事故の損害賠償問題を民事訴訟で解決する場合、「裁判上の和解」と「判決」があります。交通事故の民事裁判は、ほとんどが裁判上の和解で解決しています。
  • 双方の主張が真っ向から対立しているのなら判決もやむを得ませんが、判決は時間がかかります。和解できる可能性があるのなら、和解を検討する方が早く解決します。

 

交通事故の損害賠償請求訴訟の約7割は、「判決」まで至らず「裁判上の和解」により解決しています。

 

交通損害賠償事件で和解率が高いのは、過失割合や損害額の算定などの基準化が進んでいることが背景にありますが、総合的に判断して、和解で解決する方が判決をもらうよりメリットが大きい場合が多いからです。

 

目次
  1. 裁判上の和解のメリット・デメリット
  2. 和解するのがよいケース
  3. 判決をもらうのがよいケース
  4. まとめ

 

「裁判上の和解」のメリット・デメリット

裁判上の和解と判決はどう違うのか、判決の場合と比較しながら、裁判上の和解のメリット・デメリットを見てみましょう。

 

  裁判上の和解 判決
時間 和解成立と同時に解決。判決をもらうより早く解決する。 和解決裂後、証人尋問など審理を継続するため一審判決まで時間がかかる。敗訴した側から上訴があり得るので、そうなるとさらに時間がかかる。
効力 和解調書には確定判決と同じ効力がある。 判決が確定すれば、強制執行が可能。
内容 双方の主張・立証をふまえ、裁判官が心証を開示しながら損害項目ごとに金額と根拠を示し和解案を提示するので、当事者の納得が得られやすい。 和解せず審理を継続して判決をもらっても、和解案以上に、原告に有利な判決内容となるとは限らない。判決での損害認容額が、和解案より大幅に減ることもある。
和解案は、あくまでも和解案提示時点での裁判官の暫定的な心証なので、判決と同じ内容となるとは限らない。 和解決裂後、証人尋問や当事者尋問などを行うことにより、公正な判断を求められる。
申立ての範囲を超えた根本的な解決が可能。 判決は、訴訟物に対してのみ。
加算 遅延損害金、弁護士費用は認められないが、人損の場合、調整金(遅延損害金の一部)が認められる。 遅延損害金、被害者の弁護士費用の一部(賠償金額の1割程度)が認められる。

 

和解するか、判決をもらうか、判断する上で特に大切な3つのポイントを解説します。

 

裁判上の和解の方が判決より早く解決する

裁判上の和解は、判決より早く解決します。和解成立と同時に解決するからです。

 

それに対して、判決を求める場合は時間がかかります。和解決裂後に審理を継続しますから、判決が出るまで時間を要します。また、判決が出ても、敗訴した方が上訴(控訴・上告)すると、さらに時間がかかります。

 

和解決裂後から判決まで、どれくらいの時間を要するかは、裁判所が和解案を出す時期にもよります。裁判所は、何度か和解を勧告します。

 

一般的に、証人尋問前の争点整理の段階までに裁判所が和解案を出し、多くは、この段階で和解するようです。

 

ここで和解しない場合は、証人尋問・当事者尋問などを行い、その後、最終的な主張を述べる口頭弁論を経て判決に至ります。こうなると、和解決裂から判決までは、4~6ヵ月程度はかかります。

 

「判決で白黒はっきりと決着を付けたい」「何年かかってもいい」という方もいるでしょう。しかし、もしも感情的な対立から判決にこだわるのなら、得策ではありません。冷静に対応すべきです。

 

とはいえ、訴えの内容によっては、原告の利益はもちろん、他の交通事故被害者の救済にも役立つ判例となる可能性があるなど、訴訟を遂行することが大きな意味を持つ場合もあります。

 

判決をもらうか、裁判上の和解で解決するか、冷静かつ慎重に判断することが大切です。

 

裁判所の和解案は基本的に判決に近い内容

裁判所の和解案は、“ざっくりと全体でいくら” という話ではありません。裁判官が、過失相殺や後遺障害など主な争点について証拠をあげて暫定的な心証を開示した上で、損害費目ごとに具体的な金額を示します。

 

しかも、通常、和解案を示す裁判官と判決を出す裁判官は同じです。裁判官が異動するなど特殊な事情がない限り、判決を行う裁判官が和解に関与します。ですから、裁判官は、基本的に判決を視野に入れて和解案を提示します。

 

特に証人尋問・当事者尋問を行い、証拠調べが終わった段階での和解勧告は、判決に近い内容で、当事者の納得も得やすいものとなっています。この段階で裁判所から和解案が示されたときは、和解できないか慎重に検討すべきでしょう。

 

和解案は判決の最低保証ではない

注意が必要なのは、裁判所の和解案は、判決の「最低保証」ではないということです。判決になった場合、損害認容額が和解案よりも大幅に減ることもあり得る、ということは知っておいてください。

 

和解案が判決に近い内容といっても、あくまでも和解案を示した時点での裁判官の暫定的心証にもとづき、「和解案として相当性がある」ということで提案している金額です。

 

損害項目によっては、被害者側が不十分な立証しかできない場合でも「和解に限り認定する」ということがあります。和解なら認めるが、判決となれば厳格にせざるを得ず、認容額が和解案より減ることがあり得るのです。

 

訴訟は、必ずしも自分が思った通りの判決をもらえるとは限りません。こうした訴訟リスクを回避するためにも、裁判所が和解を勧告したときには、裁判官の心証や裁判の見通しなど、弁護士とよく相談し、和解に応じるか判決をもらうか、慎重に検討することが大切なのです。

和解するのがよいケース

次のようなケースでは、和解を選択することをおすすめします。

 

加害者に賠償資力がない場合

加害者が任意保険未加入など賠償資力がない場合は、たとえ高額の損害賠償を認める判決をもらっても、現実的に支払いは望めません。

 

譲歩しても、加害者の支払い能力に応じた賠償額で和解する方が実効性があります。

 

ただし、相手方に本当に賠償資力がないのか、事前に調査の上で訴訟を提起することが大切です。実際には資産があるのに、無いという加害者がいるからです。

 

また、賠償請求できる相手は加害者の運転者だけとは限りません。だれを相手に損害賠償請求するかは重要なポイントです。

 

損害の立証が難しい場合

被害者側で損害の立証が難しい場合、和解で解決する方が有利になることがあります。立証が十分できない場合、グレーゾーンであっても裁判所が「和解に限り認定する」というケースがあるからです。

 

こういう場合は、判決になると不利になることがありますから、和解により解決することをおすすめします。

 

1日も早い解決を望む場合

当事者同士の話し合いで譲歩するのはイヤだけど、裁判所の判断ならその線で1日も早く解決したいという方もいるでしょう。

 

1審の和解案と判決は、裁判官が異動などで替わるなど特殊な事情がない限り同じ裁判官が判断しますから、損害認定額が大きく変わることはほとんどありません。

 

しかし、控訴審に審理が移ると、どうなるか分かりません。1審では被害者側に好意的な判断が示されたとしても、2審では逆転することもあります。

 

和解は、お互いに控訴権を放棄し、紛争を終結させることです。審理が高裁に持ち込まれることはありません。訴訟を提起はしたものの、1日も早い解決を望むなら、和解の可能性を探るのがよいでしょう。

判決をもらうのがよいケース

双方が徹底的に争う場合は、もちろん判決を求めることになります。

 

それ以外で判決をもらう方がよいのは、解決までの期間が和解の場合とあまり違わず、和解より損害賠償額が多くなる場合です。それは、死亡事故の場合です。

 

死亡事故の損害は、治療費、葬儀費、逸失利益、死亡慰謝料の4つです。これらは、たいてい書面だけで立証が尽くされるため、証人尋問は行いません。

 

当事者尋問も行いません。被害者本人は死亡していますから当然、被害者尋問はありません。加害者の主張も刑事記録に載っているので、加害者尋問も行われません。

 

ですから、死亡事故の場合は、和解が決裂した場合でも、直ちに審理を終結し、次回に判決という流れになるのが一般的です。

 

そのため、和解でも判決でも認容額は基本的に同じです。通常は和解決裂後に尋問が行われるため、和解案と判決で認容額が異なることがありますが、死亡事故の場合は、和解が決裂したとき尋問なしで審理を終結し判決を出すからです。

 

ただし、判決の場合には弁護士費用と遅延損害金が認められるのに対して、和解の場合は調整金が認められるだけという点に違いがあります。つまり、弁護士費用と遅延損害金が加算される分、賠償金額は、判決をもらう方が多くなります。

 

このように、死亡事故の場合は、和解より判決をもらう方が賠償額が多くなり、和解も判決も審理期間に大きな差はないので、判決をもらう方がよいということになります。

まとめ

裁判上の和解は、判決を行う裁判官が和解に関与します。証拠調べが終わった段階での和解案は、概ね判決に近い内容となります。

 

判決の方が、和解より有利な結果になるとは限りません。和解案より認容額が大幅に減るケースもあります。

 

裁判所から和解の勧告があった場合は、裁判官の心証も開示されますから、訴訟の見通し、勝敗の予測、どの程度の額が示されたら和解で解決するのがよいか、弁護士と相談し、慎重に判断することが大切です。

 

ここでご紹介したことは、あくまで一般論です。交通事故の損害賠償は、個別事情をふまえて判断することが大切です。あなたの場合、和解するのがよいのか、判決をもらうのがよいのか、弁護士とよく相談の上で判断してください。

 

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弁護士法人・響

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