給与所得者の収入額の算定方法

Point
  • 給与所得者の休業損害・逸失利益算定のための基礎収入には、本給のほか、諸手当、賞与なども含まれます。
  • 昇給や退職金については、規定があるなど「相当の確かさを持って推定できる場合」には考慮されます。
  • 原則として67歳まで就労可能と認められますが、定年後は減額されます。

 

給与所得者の基礎収入の算定

会社員や公務員など給与所得者の収入は、勤務先の事業所から受け取っている事故前の現実の収入(給与)を基礎とします。収入は、税金等を控除する前の税込の額面給与です。

 

収入の証明には、源泉徴収票か納税証明書・課税証明書が必要です。それらがない場合は、会社で収入証明書を書いてもらうことになります。

 

なお、給与以外に家賃等の不動産収入や利子、配当などの不労所得があっても、労働の対価といえないので基礎収入には含まれません。

 

若年労働者の収入算定

事故当時の被害者の現実の収入を基礎とするのが原則ですが、若年労働者は現実の収入が低い場合が多いので、それを基礎として逸失利益を算定すると少なく出てしまいます。

 

そのため、若年被害者(おおむね30歳未満)については、現実の収入額が賃金センサスの平均賃金額を下回る場合、将来、賃金センサスの平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が高ければ、平均賃金を基礎に算定することもできます。

 

非正規労働者の収入算定

契約社員・嘱託社員・派遣社員・パート・アルバイトなどの非正規労働者は、一般に正社員より給与が低く、雇用が不安定ですから、事故当時の収入を基準として逸失利益を算定することは困難です。

 

しかし、事故当時に非正規であったとしても、これから先もずっと非正規のままとは限りません。経済状況が好転したり、一定の条件を満たすときは、正社員になる場合もあります。

 

そういったことから、判例では、賃金センサスの平均賃金またはその一定割合を基礎収入として、逸失利益を算定する事例が多くあります。

 

収入に含まれるもの

収入には、本給のほか、諸手当、賞与など労働の対価として受け取るものが該当します。これら以外にも、昇給や退職金も含めることができます。

 

諸手当

諸手当については、扶養家族手当などは基礎収入に含めることができますが、通勤手当(交通費やガソリン代の支給)のような実費手当は、所得の対象とならないので、損害には含まれません。

 

また、残業手当については、企業の業績や担当する業務内容に左右され、将来も継続するとは限りません。そのため、事故前の残業手当が多かったとしても、そのまま認められるとは限りません。

 

ボーナス(賞与・期末手当)

ボーナスは、給与規定などによって支給基準が決められ、安定・継続して支給されている場合は、それが損害として認められます。

 

しかし、ボーナスの支給基準を定めた給与規定がなく、業績によって年ごとに開きがある場合は、事故前にボーナスの支給を受けていたとしても、そのまま認められるとは限りません。

 

大企業の社員や公務員は、支給基準にもとづいて算出した賞与額が認められやすいのですが、中小企業の場合は、立証が難しい部分があります。

 

昇給

定期昇給については、勤務先に昇給規定などがあり、それに従って昇給する可能性がある場合は、昇給を考慮して基礎収入を算定できます。

 

昇給規定がなくても、将来の昇給が「証拠にもとづいて相当の確かさをもって推定できる場合」は、昇給を考慮して基礎収入を算出することができると最高裁が判断を示しています。

 

ただし、現実は、昇給規定など確実に証明できるものがなければ、昇給分を認められるケースは少ないようです。

 

とはいえ、被害者と同程度の学歴や能力を有する同僚の昇給率による算定を認めたり、年5%の昇給率によって算定することを認めた事例もありますから、請求してみることです。

 

最高裁判決(昭和43年8月27日)

死亡当時安定した収入を得ていた被害者において、生存していたならば将来昇給等による収入の増加を得たであろうことが、証拠に基づいて相当の確かさをもつて推定できる場合には、右昇給等の回数、金額等を予測し得る範囲で控え目に見積つて、これを基礎として将来の得べかりし収入額を算出することも許されるものと解すべきである。

 

最高裁判決(昭和43年8月27日)の詳細はこちら
 ※最高裁のWebサイトにリンクしています。

 

ベースアップ

物価上昇にともなうベースアップ分については、一般的に認められません。

 

和解成立時または口頭弁論終結時までに行われたベースアップ分については考慮されますが、将来のベースアップ分については、不確定で予測しがたいことなどから、認められない傾向にあります。

 

退職金

退職金については、勤務先に退職金規定があり、交通事故に遭わなければ退職金をもらえたと考えられる場合は、退職金を損害に算入できます。

 

死亡時あるいは事故の後遺症が理由で退職したときに勤務先から支給された退職金と、定年まで勤務すれば得られたであろう退職金(中間利息控除後の額)との差額が逸失利益となります。

 

例えば、60歳まで勤務すれば1,000万円の退職金がもらえたのに、55歳で交通事故に遭って死亡し、600万円の死亡退職金の支給を受けたとします。中間利息を控除した現価は、ライプニッツ係数を乗じて計算します。

 

5年(60歳-55歳)のライプニッツ係数は0.7835ライプニッツ式係数表・現価表より)ですから、

 

1,000万円×0.7835-600万円=183万5,000円

 

となります。この差額を逸失利益として損害賠償請求できます。

 

なお、この差額から生活費控除をするかどうかについては判例が分かれています。

 

定年後の収入算定

就労可能年数は67歳まで認められますが、給与所得者の場合、60歳前後で定年退職するのが一般的です。ただし、最近は、定年後に再就職し、何らかの収益を上げて生活するのが普通になっています。

 

定年退職後の収入については、賃金センサスの年齢別平均賃金を基礎とする場合と、退職時の収入の一定割合を基礎とする場合があります。

まとめ

給与所得者の基礎収入は、源泉徴収票があれば比較的簡単に立証できます。ただし、ボーナスや昇給分、退職金を含めて算定する場合は、難しい問題もあります。

 

交通事故問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

弁護士法人・響

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