事業所得者の基礎収入額の算定方法

事業所得者(個人事業主、自営業者、自由業者など)の休業損害・逸失利益を算定するときの基礎収入は、原則として事故前年の申告所得額によります。

 

 

基礎収入の基本

受傷による現実の収入減が損害として認められます。原則として、事故前年の申告所得額を基礎とします。青色申告事業者の場合は、青色申告特別控除前の金額となります。

 

青色申告特別控除は、所得税等の計算の基礎となる事業所得額を算出する際に控除されるものです。課税対象金額を算出するうえで控除されているにすぎないので、休業損害や逸失利益の算定の際には考慮しません。

 

給与所得者の休業損害は、事故前3ヵ月の平均収入を基礎としますが、事業所得者の場合は、各月の所得額が必ずしも明らかでないことなどから、休業損害も逸失利益も、事故前年(1年間)の所得を基礎とするのが一般的です。

 

年度や時季による変動が大きい場合は、事故前年数年間の平均値や前年同期の数値によることもあります。

 

個人事業者の場合、家族等が事業を手伝っていることも多いため、損害額の算定にあたっては、事業所得に占める本人の寄与部分(寄与率)が問題となります。

 

なお、従業員給与や地代家賃などの固定経費は、休業損害として認められます。

 

被害者の代わりに他の者を雇用するなどして収入を維持した場合には、それに要した費用が損害として認められます。

 

寄与率

事業所得は、一般的に、①本人の労働によって生み出される部分(本人の寄与部分)のほか、②家族や従業員の労働によって生み出される部分、③土地・建物・設備などの資本から生み出される部分(資本利得)の総体として形成されます。

 

事業所得

本人の労働によって生み出される部分。
(本人の寄与部分)

家族や従業員の労働によって生み出される部分。
(家族・従業員の寄与部分)

土地・建物・設備などの資本から生み出される部分。不動産賃料など。
(物的設備の寄与部分)

 

このうち、事業所得者の休業損害・逸失利益の算定にあたって基礎収入として認められるのは、本人の寄与部分だけです。

 

事業収益中に占める本人の寄与部分は、その割合(寄与率)によって金額を決めます。これについては、次のような最高裁判例があります。

 

最高裁判所第二小法廷判決(昭和43年8月2日)

企業主が生命もしくは身体を侵害されたため、その企業に従事することができなくなったことによって生ずる財産上の損害額は、原則として、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によって算定すべきであり、企業主の死亡により廃業のやむなきに至った場合等特段の事情の存しないかぎり、企業主生存中の従前の収益の全部が企業主の右労務等によってのみ取得されていたと見ることはできない。

 

寄与率は、事故前後の収支状況、事業の業種・業態、本人の特殊な技能・能力や職務の内容、家族・従業員の関与の程度や給与額などが考慮されます。判例では、本人寄与分として60~70%と認定したものが多いようです(『赤い本2006年版』より)

 

同じ事業所得者でも、自由業者(弁護士・開業医・作家など)の収入は、ほとんどが本人の労働によるものです。多少家族の助力があっても、本人の寄与率100%、すなわち収入全体が本人の寄与部分と考えられます。

 

固定経費の加算

事業を継続するうえで休業中も支出を余儀なくされる固定経費も、休業損害として認められます。

 

経費のうち、どれが固定経費に該当するかは、休業中も発生するものか、休業中発生するとして、事業維持のためにやむを得ないものか、という点から判断します。

 

固定経費として一般に認められているのは、従業員給与、損害保険料、地代家賃、リース料、減価償却費、租税公課、利子割引料などです。水道光熱費・通信費については、裁判例は分かれています。

 

ただし、休業が長期間にわたることが明らかな場合は、固定経費の支出には相当性がないとして、基礎収入への加算が認められないことがあります。

 

休業期間が長期にわたることが見込まれる場合には、機械・設備の一部売却、賃貸借契約の一部解約、従業員の休職等の措置を取る必要が出てきます。

 

このことは、逸失利益の算定の場合も同じです。

 

逸失利益については、固定経費も控除した後の所得額を基礎とします。逸失利益は、休業損害と違って、将来の事業継続のために従前どおり固定費の支払いを続けなければならないという事情がないからです。

 

ただし、少数ですが、労働能力喪失率が低く、労働能力喪失期間も短い場合、固定経費を控除しない額が基礎とされる例もあります(東京地裁・平成29年4月10日)

 

申告外所得・無申告所得

過少申告により実際の所得額が申告所得額と異なる場合や、確定申告していない場合でも、立証できれば、実所得額が基礎収入と認められることがあります。

 

過少申告している場合

過少申告している場合、すなわち実所得額が申告所得額よりも多い場合でも、申告額を上回る収入があったことを確実に証明できれば、申告額以上の額を基礎収入とすることが認められます。

 

確定申告していない場合

確定申告をしていない場合でも、立証により相当の収入があったと認められるときは、賃金センサスの平均賃金にもとづき基礎収入が認められることがあります。

 

申告外所得の認定は厳しい

申告外所得の認定については、かなり厳格に行われることを覚悟しなければなりません。

 

自分の都合によって、「所得はこれだけでした」と少なく申告しておきながら、その一方で「本当はもっと多く所得があったんだ」と主張するわけですから、証拠としての信用性は低く評価されてしまうのです。

 

確定申告の額と主張する実収入額との乖離が大きいほど、立証には困難をともないます。

 

修正申告が必要となる場合もあります。ただし、修正申告書の控えだけでは立証としては不十分で、実際の所得を裏付ける預金通帳、請負等の契約書、納品書、請求書、伝票、領収書などの原資料を提出し、その信用性について立証しなければなりません。

 

確定申告を正しくしていなかったことは、税務申告の問題です。損害賠償請求では、確定申告額は有力な証拠ですが、申告額よりも収入があったことを高度の蓋然性をもって立証できれば、訴訟ではその額を認定することになります。

 

具体的な立証方法や裁判での認定事例はこちらをご覧ください。

 

まとめ

事業所得者の逸失利益や休業損害の算定に用いる基礎収入は、原則として、事故前年の確定申告所得額によります。

 

過少申告していた、確定申告していなかった、などの理由で申告外所得がある場合でも、実際の所得を立証できれば、それを基礎収入とすることができます。

 

ただし、申告外所得の認定は厳格に行われ、立証には相当な困難をともないます。交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

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休業損害や逸失利益の計算方法は、次のページをご覧ください。

 

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