会社役員の収入額の算定方法

Point
  • 役員報酬のうち、労務対価部分は賠償の対象となりますが、利益配当部分は原則として除外されます。
  • 報酬のうち、労務対価部分がどの程度を占めているかの証明がポイントです。
  • 事故が原因で役員を解雇されたり、死亡して利益配当部分を遺族に承継されない場合は、利益配当部分も逸失利益となります。

 

会社役員の基礎収入の算定

会社役員の休業損害・逸失利益は、よく揉めます。一つは、収入額が多いからです。もう一つは、確定申告書により収入額の立証ができたとしても、役員報酬には、労務対価部分のほかに利益配当部分が含まれている場合があるからです。

 

休業損害や逸失利益の算定にあたり基礎収入と認められるのは、労務対価部分です。利益配当部分は、原則として除外されます。利益配当部分は、不労所得であり、休業によっても失われないからです。

 

役員報酬 労務対価部分 ⇒ 逸失利益となる
利益配当部分 ⇒ 原則、逸失利益とならない

※広い意味での逸失利益には、休業損害も含まれます。

 

ですから、役員報酬額のうち、労務対価部分が「いくらか」「どの程度占めているか」の立証がポイントとなります。

 

ここでは、所得税確定申告書などにより収入額が立証されていることを前提に、役員報酬のうち「労務対価部分をどのように判断するのか」を中心に見てみましょう。

 

利益配当部分は、原則として逸失利益になりませんが、事故の後遺症が原因で役員を解雇されたり、死亡して利益配当部分が遺族に承継されない場合は、利益配当部分も逸失利益となります。

 

労務対価部分はどのように判断されるか

役員報酬に利益配当部分が含まれているか、利益配当部分が含まれている場合、労務対価部分はどれくらいか、あるいは利益配当部分を逸失利益と算定できるか、については、報酬の実態や様々な要素を考慮して総合的に判断されます。

 

役員報酬のうち「労務対価部分が、どの程度を占めるか」は、次のような要素を個別具体的に検討して判断されます。

 

労務対価部分の判断要素
  1. 会社の規模・利益状況

    (同族会社か否か)

  2. 当該役員の地位・職務内容、年齢

    (名目か否か)

  3. 役員報酬の額、他の役員・従業員の職務内容と報酬・給料の額

    (親族役員と非親族役員の報酬額の差異)

  4. 事故後の当該役員および他の役員の報酬額の推移
  5. 類似法人の役員報酬の支給状況

(※参考:『赤い本2005年版』より)

 

一般に労務対価部分は、役員報酬の何割という方式で認定されます。役員報酬額の60~70%程度を認めた例もあれば、それより少なかったり、逆に報酬の全額を労務対価部分と認めた事例もあります。

 

割合による認定だけでなく、賃金センサスを用いて金額で認定されることもあります。

 

会社が小規模で、役員も従業員と同じように働き、報酬額も従業員給与と大差のないような場合は、役員報酬中に占める労務対価部分は大きくなるといえるでしょう。

 

判断の目安

役員報酬のうち労務対価部分がどの程度かについては、上記「1」~「5」の要素を総合的に判断しますが、ひとくちに役員といっても、個人企業の社長から、中小企業のオーナー社長や役員、大企業の雇われ役員まで様々で、報酬の実態も異なります。

 

そこで、労務対価部分の判断にあたっての大まかな目安や考え方について、役員別にご紹介しておきます。

 

個人企業の社長等の場合

個人企業の社長の場合、実態は個人営業主と変わりません。社長等の役員報酬のうち労務対価部分を基礎収入として逸失利益を算定します。

 

法人の収益が減少したときは、企業損害の問題として別途、賠償請求することになります。

 

例えば、収入100、必要経費60の個人事業主が法人化し、役員報酬を20とした場合、収入と必要経費が変わらないとすれば、法人の必要経費は80(従来の必要経費60+役員報酬20)、法人の収益は20です。

 

経営者が事故に遭った場合、役員報酬20のうち労務対価部分を基礎収入とします。法人の収益20が減少したときは、企業損害の問題となり、法人が原告となって法人利益の減少分を別途賠償請求することになります。

 

中小企業の経営者の場合

中小企業の経営者の報酬には、個人企業の社長の場合と同じように、労務対価部分のほか利益配当部分が含まれます。ですから、逸失利益算定の基礎となる収入は、労務対価部分に限られます。

 

ただし、事故による休業の結果、役員を解任された場合や、事故で死亡し、親族間の争いなどによって相続人が経営権を引き継げなかった場合は、本人や相続人が利益配当部分を失うことになるので、例外的に役員報酬全額を基礎として、逸失利益を算定できます。

 

労務対価部分がどの程度かについては、当該役員の職務内容、法人の収益、従業員給料の支給状況、類似法人の役員報酬の支給状況などを検討し、役員報酬の何割に当たるかを判断します。職務内容などから、報酬全額が労務対価部分と認められる場合は100%とできます。

 

中小企業の親族で現実に業務に従事している場合

経営者の親族の役員報酬額は、従業員から役員になった者より高額であることが多く、報酬に利益配当部分が含まれていると考えられるので、基礎収入額の算定方法は、経営者の場合と同じとされます。

 

名目的役員の場合

中小企業で現実に業務に従事していない名目的役員の場合は、働かないまま報酬を得ているので、労務対価部分はゼロですから、逸失利益算定の基礎収入とはできません。

 

ただし、妻が夫の会社の名目的役員となっているような場合には、主婦としての逸失利益は認められます。

 

従業員から役員になった場合

中小企業に長年勤務してきた従業員が役員になった場合は、経営者やその親族の役員報酬と比べて低額であることが多く、役員報酬に利益配当部分が含まれていることはありません。

 

この場合、役員報酬の全額が、労務対価部分と認められます。

 

大企業のサラリーマン重役の場合

一部上場企業など大企業のサラリーマン重役の場合は、役員報酬は相当高額ですが、報酬全額が労務対価部分と認められます。

 

取締役、常務取締役、専務取締役、代表取締役など、役職ごとに定年制が敷かれている場合、役員報酬の全額が得られる就労可能年数は、定年までの年数とします。

 

また、収入が高額であっても、所得税等については控除しなくてよいとされています。

 

この分類と労務対価の判断については、大工強氏「役員の休業損害及び逸失利益の算定」(判例タイムズ№842)を参考にしました。

まとめ

役員報酬は高額であり、逸失利益(休業損害を含む)の算定にあたって揉めることが少なくありません。役員報酬には、労務対価部分のほか利益配当部分が含まれていることがあるからです。

 

逸失利益の対象となるのは、原則として労務対価部分ですから、利益配当部分は控除しなければなりません。ただし、事故が原因で役員を解任されたり、相続人が会社の経営権を承継できなかった場合は、例外的に利益配当部分も含めて役員報酬全額を逸失利益算定の基礎収入とすることができます。

 

大企業の「雇われ役員」は、サラリーマンですから、報酬が高額であっても全額が労務対価部分と認められますが、中小企業の多くは「取締役=株主」ですから、報酬には株主に対する利益配当が含まれる場合があり、逸失利益算定にあたり、利益配当部分を除外しなければなりません。

 

役員報酬の労務対価部分をどう判断するかは難しい問題がありますから、交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

弁護士法人・響

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