高校生・大学生の逸失利益の算定方法

Point
  • 若年者の逸失利益の算定は、原則として、賃金センサスの全産業計・学歴計・男女別全年齢平均賃金を使用しますが、大学生の場合や大学進学が確実視される場合は、学歴別・職種別の平均賃金を使用することもできます。
  • 大卒の平均賃金を使用する場合は、就業開始年齢が18歳でなく大学卒業時の年齢となり、就労可能年数が若干短くなります。

 

高校生や大学生など就学期間中の若年者の逸失利益は、東京地裁・大阪地裁・名古屋地裁の民事交通部が1999年に発表した「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」にもとづいて算定されるのが一般的です。

 

「共同提言」は、幼児・生徒・学生の場合の逸失利益の算定について、原則として、賃金センサスの学歴計・男女別全年齢平均賃金を採用するとしていますが、「大学生及びこれに準ずるような場合には、学歴別平均賃金の採用も考慮する」とされています。

 

すなわち、大学生や大学進学が確実視される場合は、学歴計でなく、学歴別の全年齢平均賃金(大卒の全年齢平均賃金)を基礎収入とすることができます。また、大学の学部によっては、職種別の全年齢平均賃金を基礎収入とすることができます。

 

どの平均賃金を採用するかによって、基礎収入にどれだけの差があるか見てみましょう。下記はその一例です。

 

平成28年の平均賃金
  全年齢平均賃金(年収)
学歴計 産業計・企業規模計・男女計

489万8,600円

産業計・企業規模計・男

549万4,300円

産業計・企業規模計・女

376万2,300円

大卒 産業計・企業規模計・男女計

610万8,700円

産業計・企業規模計・男

662万6,100円

産業計・企業規模計・女

457万2,300円

職種別 企業規模計・男・医師

1,300万7,400円

企業規模計・女・医師

1,081万5,400円

企業規模計・男・システムエンジニア

560万2,100円

企業規模計・女・システムエンジニア

482万4,400円

※平成28年賃金構造基本統計調査(賃金センサス)より。
※[年収]=[きまって支給する現金給与額]× 12 +[年間賞与その他特別給与額]

 

高校生の逸失利益の算定

高校生の逸失利益の算定では、原則として、賃金センサスの全産業計・企業規模計・学歴計・男女別平均賃金を基礎収入とします。高卒の平均賃金を採用することもできます。

 

事故時に就職先が決まっていた場合は、その「就職先から受けるはずだった給与」を基礎収入として計算できます。ただし、昇給規定等のない中小企業などの場合は、賃金センサスの平均賃金を採用する方が、昇給分を加味して算出できるので有利になります。

 

工業高校などで専門職の教育を受けている高校生の場合には、技術系の平均賃金を基礎収入として採用することもできます。

 

大学進学が確実視される場合は、大卒の平均賃金を採用するのが一般的です。この場合、就労始期が22歳となり、就労可能年数は就労終期の67歳までの45年となります。

 

例えば、音楽大学附属高校でバイオリンを専攻していた高校生(15歳・女子)について、音楽大学に進学して音楽関係の仕事に就いた蓋然性が高いこと、バイオリン演奏に関わる職種は男女間格差が認められないこと等から、「男性大卒・全年齢平均賃金の9割」を基礎収入とした事例(名古屋地裁・平成15年4月28日)などがあります。

 

大学生の逸失利益の算定

大学生の場合は、高校生までと比べ、職業選択の可能性が、より明確になっています。

 

例えば、医学部の学生なら、医者になる可能性が高いと考えられます。工学部の学生なら、建築・機械・電気など各専門知識を活用できる職業に就く蓋然性が高いと考えられます。

 

ですから、賃金センサスの平均賃金を用いる場合でも、大卒の平均賃金一般でなく、職種別の平均賃金を採用して基礎収入を計算することもできます。

 

例えば、医学生(男22歳)について、職業別・医師(男)企業規模計・全年齢平均賃金を基礎収入とした事例(仙台地裁・平成10年3月26日)などがあります。

 

大企業等に就職が内定していた場合には、賃金センサスの平均賃金を用いるより、就職予定先の給与を基準とした方が有利な場合があり、そういった計算方法も可能です。

 

なお、大学生の場合、就労始期は大学卒業時の年齢で、就労可能年数は一般に22歳から67歳までの45年となります。卒業時の年齢が上になると、就労可能年数はさらに短くなります。

高校生・大学生の逸失利益の計算例

高校生・大学生の逸失利益の具体的な計算例をご紹介しておきます。

 

交通事故による逸失利益には、後遺障害逸失利益死亡逸失利益があり、それぞれ次の計算式で求めます。

 

後遺障害逸失利益

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

 

死亡逸失利益

基礎収入 ×(1-生活費控除率)× 就労可能年数に対するライプニッツ係数

 

ライプニッツ係数の求め方

ライプニッツ係数は、「就労終期(67歳)までの年数に対応する係数」から「就労始期までの年数に対応する係数」を差し引いた数値となります。就労始期は、高卒なら18歳、大卒なら22歳以降の卒業時年齢となります。

 

起点は、どちらも、死亡事故の場合は死亡日、傷害事故の場合は症状固定日です。

 

考え方は、被害者が18歳未満の場合のライプニッツ係数の求め方と同じです。

 

「就労可能年数とライプニッツ係数表」はこちら
 ※国土交通省のWebサイトにリンクしています。

 

18歳の女子高校生が死亡した場合の逸失利益の計算例

事故日 平成28年3月(死亡事故)
被害者 高校3年に在学中で大学進学を希望、客観的にもその蓋然性が認められる18歳の女子
労働能力喪失率 100%(死亡)

 

基礎収入を平成28年の大卒女子の全年齢平均賃金457万2,300円とし、生活費控除率30%、ライプニッツ係数14.6228を乗じて算定します。

 

ライプニッツ係数の計算
18歳から67歳まで49年に対応するライプニッツ係数は18.1687
18歳から22歳まで4年のライプニッツ係数は3.5459
よって、18.1687-3.5459=14.6228

 

計算式

457万2,300円 ×(1-0.3)× 14.6228 = 4,680万1,879円

 

24歳の男子学生が死亡した場合の逸失利益の計算例

事故日 平成28年3月(死亡事故)
被害者 大学4年に在学中の24歳の男子
労働能力喪失率 100%(死亡)

 

基礎収入を平成28年の大卒男子の全年齢平均賃金662万6,100円とし、生活費控除率50%、24歳から67歳までの43年の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数17.5459を乗じて算定します。

 

計算式

662万6,100円 ×(1-0.5)× 17.5459 = 5,813万443円

まとめ

高校生・大学生の逸失利益の算定方式は、ほぼ定型化されています。ポイントは、基礎収入の算定です。

 

基礎収入には、原則として、賃金センサスの平均賃金を用いますが、就職先が内定し、統計上の平均賃金より高い賃金を得られる見込みだった場合は、就職予定先の会社の給与を基礎収入とすることもできます。

 

また、卒業後の職業・職種がある程度絞り込まれ、その職種の平均賃金が、全産業平均賃金より高い場合は、職種別の平均賃金を採用することもできます。

 

基礎収入に「何を用いるか」「どの平均賃金を採用するか」によって逸失利益に差が出ます。

 

いずれにしても逸失利益は高額となりますから、賠償請求額の算定にあたっては、相手方保険会社と揉めやすいところです。きちんと損害額の立証ができるよう、交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

弁護士法人・響

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